相続人調査とは?重要性や手続き、必要な戸籍の種類や取得方法は?
【この記事の法律監修】
森江 悠斗弁護士(東京弁護士会)
森江法律事務所
相続人調査は、相続に関する一連の手続の中でも特に重要なステップといえます。相続人調査を適切に実施して、誰が相続人に該当するのかを明確にしておかないと、後から思わぬトラブルが発生する可能性があります。
本記事では、相続人調査がなぜ重要なのかについて、具体的な例を交えながら詳しく解説します。
この記事を読むことで、相続手続きを円滑に進めたい方は、必要となる戸籍の書類や戸籍の取得方法、取得する際のポイントや注意点を理解できます。また、相続人調査について特に弁護士に依頼した方がよい理由についても詳しく知ることができます。
1.相続人調査はなぜ必要?
相続人調査とは、亡くなってしまった人(被相続人)の財産や権利を引き継ぐ人(相続人)を、戸籍謄本などを使って全て明らかにする手続をいいます。
民法の規定によれば、相続人となれるのは以下の人物です。
- 配偶者
- 子ども、又は孫
- 直系尊属(親など)
- 兄弟姉妹
このうち、配偶者は常に相続人となりますが、子ども・直系尊属・兄弟姉妹は相続順位に従って権利が発生します。具体的には、相続順位は以下のとおりです。
→ 被相続人に子どもがいる場合、直系尊属や兄弟姉妹は相続人にはなりません。
→ 被相続人に子どもがいない場合、相続できる権利を得ます。ただし、子どもがいたものの既に亡くなっている場合は、代襲相続により孫が相続人となることがあります。
→ 子どもや直系尊属がいないときに相続人になります。 |
なお、「元配偶者との間に子どもがいる」、「隠し子がいる」などの状況があり得ます。その場合も、子どもであることには全く変わりはありませんので、子どもに相続権が優先的に認められ、直系尊属に相続権が回ることはありません。
相続を進めるに当たっては、相続人を正確に特定する必要があります。したがって、被相続人の死亡から出生までの全ての戸籍を集め、その内容を丁寧に確認する必要があります。
2.相続人調査の重要性は?
相続人調査が面倒だからといって、安易に相続人調査をせずに遺産分割協議をするのは避けましょう。
なぜなら、相続人調査はその後の手続きを進める上で重要になるからです。以下、詳細を解説します。
2-1.遺産分割協議の参加者を確定するため
遺産分割協議を実施する前には、まず相続財産を調査する必要がありますが、協議に参加すべき相続人を正確に特定することも欠かせません。
たとえ財産の内容が明確であっても、全ての相続人が参加しなければ協議は無効となります。もし、協議を行った後に相続人が新たに発覚した場合には、再度協議する必要が生じてしまいます。
よって、協議の有効性を保つためにも、相続人の調査を確実に行うことが重要です。
2-2.限定承認の手続きを行うため
相続には、次の3つの方法があります。
- 単純承認:プラス財産もマイナス財産も引き継ぐ方法
- 相続放棄:相続財産を全て相続しない方法
- 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナス財産を引き継ぐ方法
このうち、財産と負債の額を調査の上、単純承認か相続放棄かを選ぶことが多いといえます。
限定承認は手続が複雑なため、採用するかどうかについて悩む場合には基本的に常に弁護士に相談することをお勧めします。
2-3.預金口座の相続手続きを進めるため
被相続人の預金口座は、銀行が死亡を確認すると凍結されます。
凍結を解除し、手続を完了するには、銀行所定の手続を踏む必要があります。多くの銀行では、相続人全員が特定できる戸籍謄本などの書類提出を求めるほか、相続人全員の署名・押印が必要な場合もあります。
したがって、預金口座の相続手続きを円滑に進めるためにも、相続人調査は欠かせません。
3.相続人調査の手続きの流れは?
相続人調査に関してよくある流れの一例は、以下のとおりです。
- 被相続人の最新の戸籍を取得する
- 生まれた時からの戸籍等も取得する
- 相関図を作成する
3-1.被相続人の戸籍を取得する
まず、被相続人の戸籍を、本籍地の市役所で取得する必要があります。取得が必要な戸籍の種類については後述します。
3-2.戸籍を遡って取得する
次に、取得した戸籍の情報をもとに、被相続人の前本籍地の戸籍や関係者の戸籍を順次集めます。この作業を繰り返していくことで、被相続人の家族構成が明らかになり、誰が相続人に該当するかを確認することができます。
3-3.相関図を作成する
相続人が確定したら、戸籍情報をもとに相続人の相関図を作成します。
相続関係図の作成は義務ではありません。
ただし、以下の理由から作成することが望ましいです。
- 相続関係が一目で分かり、相続人を見落とすことなく把握できる
- 相続登記の申請時に相続関係図を提出することで、戸籍謄本などの原本を返却してもらえる
- 金融機関での名義変更や解約手続の際、相続関係図を求められた場合にも活用できる
4.相続人調査に必要な戸籍の種類は?
相続人調査を行う際には、さまざまな戸籍を取得しなければなりません。以下、取得が必要な戸籍の種類と特徴を解説します。
4-1.①戸籍謄本
戸籍謄本は、戸籍原本に記載されている内容全てを写したものです。戸籍謄本には、主に以下の内容が記載されています。
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以上のように、被相続人だけでなく、その戸籍に入っている家族全員の名前や身分関係などが記載されています。相続人調査では、家族構成全体を把握する必要があるため、戸籍謄本を取得するのが一般的です。
なお、戸籍謄本の一部だけを取り出した「戸籍抄本」もありますが、相続人調査では相続人全員の情報が必要になるので、戸籍抄本ではなく戸籍謄本を集めるようにしましょう。
4-2.②除籍謄本
除籍謄本とは、その戸籍に記載されていた人が婚姻や死亡などの理由で抜けてしまい、閉鎖された戸籍の情報を記載したものです。
除籍謄本に記載されている情報は、戸籍謄本とほぼ同様ですが、主に以下の内容の記載があります。
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相続手続では、除籍謄本が必要な場合がありますが、被相続人が死亡したことを証明する意味合いを持つことも多いです。被相続人が死亡した際の戸籍を指す場合と、完全に空の除籍謄本を指す場合があるので注意しましょう。
4-3.③改製原戸籍
改製原戸籍は、戸籍法の改正によって新様式に移行される前の戸籍です。
戸籍法が改正されると、新しいフォーマットで戸籍が作られます。ただ、改正前の内容は反映されないことがあります。過去の婚姻歴や認知などが隠れてしまうのを防ぐために、相続人調査では改製原戸籍の情報も確認が必要です。
4-4.相続人調査のためには複数の戸籍が必要になる
最新の戸籍だけで、被相続人の出生から死亡までの情報が全て網羅されているわけではありません。
被相続人が生存していた間に、相続人が新たに増えた場合や減った場合もあります。したがって、被相続人の出生までさかのぼり、すべての戸籍を取り寄せる必要があります。
相続人調査をもれなく調査するためには、以下の手順を踏むのがおすすめです。
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以下、具体例を挙げて検討してみましょう。
たとえば、被相続人に子どもがいる場合、法定相続人は「子ども」と「配偶者」になります。そこで、「子ども」の戸籍謄本を確認し、生存しているか、相続人としての資格があるかどうかを調べます。
もし子どもが被相続人よりも先に死亡していた場合は、子どもの子ども、つまり被相続人の「孫」が相続人(代襲相続人)となります。この場合、代襲相続人である孫の身分を証明する戸籍を取得する必要があります。
なお、現在、戸籍証明書の広域交付制度があり、これの活用により、戸籍収集の手間がかなり省略される場合があります。詳細については、最寄りの自治体窓口で確認しましょう。
5.相続人調査を自分で行う場合にかかる費用は?
相続人調査を自分で進める際に必要なのは、戸籍謄本などの取得費用と、郵送で取り寄せる場合の往復郵送料です。具体的な費用の一例は次のとおりですが、詳細は自治体に確認しましょう。
- 戸籍謄本: 1通450円
- 除籍謄本・改製原戸籍謄本:各1通750円
- 郵送料:定形郵便物の場合、往復で最低220円(110円×2)
被相続人の戸籍謄本などは、生まれてから亡くなるまでの全てを揃える必要があるので、合計4通程度になるケースが一般的です。しかし、次のような特殊な事情がある場合、取得すべき戸籍謄本は10通以上になることがあります。
- 結婚や転籍を繰り返していた場合
- 養子縁組をしていた場合
この場合、被相続人の戸籍に加えて、相続人の戸籍謄本なども逐一取得する必要があります。トータルの費用は3,000円程度以上となることが多く、ケースによっては1万円を超えることもあります。
6.相続人調査を自分で行うメリット・デメリットは?
相続人調査は、その内容や難易度によっては自分自身で進めることが可能な場合もあります。もっとも、自分で対応する場合には、メリットとデメリットの両面を理解しておくことが重要になります。
以下、詳しく確認しておきましょう。
6-1.メリット(費用を抑えられる)
後述しますが、調査を専門家に依頼すると、場合によっては数十万円もの費用がかかることがあります。特に費用を最小限に抑えたい方にとっては、大きなメリットといえるでしょう。
6-2.デメリット
一方、相続人調査を自分で行う場合には多くのデメリットが生じます。以下、代表的なデメリットを3つ紹介します。
6-2-1.多大な時間と労力を要する
相続人調査を進めるためには、複数の金融機関や役所を訪問し、相続人や相続財産に関する情報を丹念に収集・確認する必要があります。手続も複雑で、収集・確認には膨大な時間と労力を要する場合があります。
6-2-2.必要な書類を正確に集められないリスクがある
相続手続きにおいては、被相続人が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本を漏れなく取得する必要があります。ただ、自分で調査を進める場合、取り寄せるべき戸籍が不足したり、他に必要な書類が揃わなかったりするリスクがあります。
書類の取得にミスがあると、手続きが滞ってしまい、結果的に時間のロスにつながってしまいかねません。
6-2-3.期限に間に合わないリスクがある
相続手続には、期限が設けられています。
たとえば、相続を単純承認、限定承認、または相続放棄するかを決める熟慮期間は、相続が発生したことを知った日から3か月以内です。この限られた期間内に自分一人で相続人調査を進めるには、スピード感が求められます。
また、相続税の申告は被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。
期限を守れない場合、法的トラブルや税負担が生じることもあるため、注意が必要です。
7.相続人調査を専門家に依頼すべきケースは?
具体的には、次のような状況の場合には、専門家に依頼するのが望ましいでしょう。
- 取得すべき戸籍の数が多く、又は古い年代や様式の戸籍が含まれている場合
- 相続人が「配偶者と子ども」や「配偶者と親」以外のケースの場合
- 相続人が外国人である、又は海外に住んでいるなど特殊なケースの場合
- 相続人と連絡が取れない場合
7-1.取得すべき戸籍の数が多く、古い年代や様式のものがある
相続人調査で必要な戸籍が多く、法改正の前の古い年代や難解な様式の戸籍が含まれている場合には、戸籍を取得するのに手間がかかります。
専門家に依頼することで、手続きをスムーズに進めることができるでしょう。
7-2.相続人が「配偶者と子ども」や「配偶者と親」以外の場合
相続人が「配偶者と子ども」又は「配偶者と親」の場合であれば、必要な戸籍は少ないので、比較的簡単に手続を進めることができます。
しかし、両親不在の孫がいる場合や、兄弟姉妹が相続人であったりする場合、集めなければならない戸籍の数が増えるので、専門家に依頼するのが無難です。
7-3.相続人が外国人である、または海外に在住している場合
相続人が外国籍である場合や、海外に住んでいる場合には、通常の手続とは異なる処理が必要です。
たとえば、外国籍の相続人がいる場合、相続関係を証明するために在外公館で必要書類を発行してもらう必要のある場合があります。
専門的な知識が必要になるので、専門家に依頼する方が安心です。
7-4.相続人と連絡が取れない場合
たとえば、相続人が現住所に住んでいないなどの理由で連絡が取れない場合、不在者財産管理人を申し立てる必要があるなど、特別な手続が必要です。
専門家に依頼することで、適切かつ迅速に対応してもらえます。
8.専門家に依頼する場合の費用は?
相続人調査を依頼できる、国家資格を有する専門家は、以下の4名です。
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
- 税理士
相続に関しては、遺産分割協議の代理は弁護士に依頼し、登記は司法書士に依頼し、相続税申告は税理士に依頼するというように、これらの全部又は一部の専門家に同時に依頼をするという場合も少なくありません。
相続人調査については、他の業務とセットで調査を依頼がされる場合も多いといえ、他の依頼の必要性等も考慮し、どの専門家に依頼するかを検討しましょう。また、類似する話として、相続人調査込みで他の業務の依頼を受け付ける専門家も多く、相続人調査単体の費用については明確に比較できない場合もありますのでその点は注意が必要です。
専門家 |
対応範囲 |
弁護士 |
紛争があったり交渉が必要な場合に対応 |
司法書士 |
登記が関係する場合などに対応 |
行政書士 |
相続不動産がないなど、不動産登記を含まない場合などに対応 |
税理士 |
相続税の申告が必要な場合などに対応 |
9.専門家の中でも「弁護士」への相談がおすすめ
相続に関連する業務に関して、専門家ごとに対応できる範囲は異なります。以下、主な違いを表にまとめましたが、業務内容がもっとも広いのは「弁護士」です。
業務内容 |
弁護士 |
司法書士 |
行政書士 |
税理士 |
遺言書の作成 |
○ |
○ |
○ |
○ |
遺言書の検認 |
○ |
△ ※申請の代行はできない |
× |
× |
相続人調査 |
○ |
○ |
○ |
○ |
相続財産調査 |
○ |
○ |
○ |
○ |
遺産分割協議書の作成 |
○ |
○ |
○ |
△ ※相続税の申告がある場合 |
遺産分割協議の代理人 |
○ |
× |
× |
× |
調停・審判・訴訟の代理人 |
○ |
× |
× |
× |
遺留分侵害額請求 |
○ |
△ ※認定司法書士の場合で、140万円以下の場合のみ |
× |
× |
相続放棄 |
○ |
△ ※申請の代行はできない |
× |
× |
不動産の名義変更(相続登記) |
○ |
○ |
× |
× |
金融機関の相続手続き |
○ |
○ |
○ |
○ |
車や株式の名義変更 |
○ |
× |
○ |
× |
相続税申告 |
○ ※一定の条件を満たす場合 |
× |
× |
○ |
遺言執行者としての選任 |
○ |
○ |
○ |
○ |
成年後見・任意後見 |
○ |
△ ※制限がある |
△ ※制限がある |
△ ※制限がある |
たとえば、弁護士以外の専門家は、遺産分割協議を進める際、相続人の代理人として他の相続人と交渉することができません。交渉業務を代行できるのは弁護士のみです。なお、認定司法書士であっても、家裁代理権はないため、家裁管轄である遺産分割に関する代理人活動ができません。
また、相続人調査の結果として予期せぬ相続人が見つかったり、面識のない相続人が関与したことが発覚すると、協議が複雑化する可能性があります。当事者間での話し合いが困難になることもあり、紛争が発生してしまうかもしれません。弁護士以外の専門家は、このような場合に紛争解決の対応を行うことはできず、調整や交渉に関するサポートも限られます。
一方で、弁護士に相続人調査を依頼すれば、相続人間でトラブルが生じた際にもスムーズに対応できます。弁護士は法的な交渉の代理人として活動できるため、安心して全ての手続きを任せられるという大きなメリットがあります。
よって、相続手続が複雑な場合やトラブルが想定される場合は、弁護士へ依頼するのがおすすめです。
10.弁護士の役割・依頼するメリットは?
以下、弁護士に依頼することの具体的なメリットを、3つ紹介します。
10-1.職務上請求を活用して調査手続を代行できる
被相続人の戸籍謄本類を収集する手続は、自力で行うと非常に手間がかかります。
また2007年の戸籍法改正以降、戸籍謄本類の取得要件は厳しくなり、本人確認のために顔写真付きの身分証明書が必要であったり、代理人による請求には委任状が求められたりします。要件を満たすための手続きは少々複雑になります。
しかし、弁護士などの専門家であれば、「職務上請求」を利用できます。職務上請求とは、専門家が業務を適切に遂行するために必要な場合、戸籍謄本類を請求できる制度のことをいいます。
職務上請求制度により、弁護士は依頼者に代わってスムーズに戸籍謄本類を取得することができるので、複数の役所に何度も足を運ぶ手間が省けます。
10-2.抜け漏れなく相続人を把握できる
相続人を正確に特定することは、相続手続を進める上で極めて重要です。
相続人や相続分は民法に規定されており、簡単に判断できるケースが多いです。ただ、「結婚や離婚を繰り返して連絡の取れない子どもがいる」「養子縁組をしている」「隠し子がいる」といった複雑な状況では、自分で相続人を特定するのが難しいこともあります。
弁護士に依頼すれば、誰が相続人になるのか正確に判断してくれるため、漏れなく手続きを進められます。
10-3.相続問題が解決するまでの全面サポートする
相続人や相続財産が確定した後には、遺産分割協議を行う必要があります。しかし、相続問題は感情的になりやすく、親族間で争いが生じることも決して珍しくありません。遺産分割協議が行き詰まった場合には、弁護士が代理人として相手方との交渉を行うことで、依頼者の負担を大幅に軽減することが可能です。
さらに、弁護士は他の相続人との交渉代理だけでなく、遺言書の有効性の確認や検認手続き、さらには相続放棄のサポートまで、幅広く対応してくれます。こうした包括的なサポートにより、さまざまな相続問題の解決に尽力してもらえるため、相続トラブルを抱えている方にとっては大きな安心材料となるでしょう。
11.まとめ|相続人調査は、弁護士に相談しよう
相続人調査に必要な書類は多く、また手続きも非常に複雑です。自分で対応すると負担が大きいですが、弁護士に相談すると手続きを一任できるとともに、相続全般に関する相談もできます。
相続人調査が必要な場合には、早いうちから弁護士に相談しておくのがおすすめです。
特に、遺産相続に関する実績が豊富な弁護士を見つけることがとても重要になります。カケコムでは、ネットで簡単に遺産相続分野が得意な弁護士を即時予約でき、最短2時間半後には相談可能です。
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