個人再生のメリット・デメリットとは?弁護士に依頼する際のポイントも解説
【この記事の法律監修】
森本禎弁護士(大阪弁護士会)
瀧井総合法律事務所
個人再生とは、借金を大幅に減らして、経済的な再建を目指す手続きです。
しかし、「個人再生をするか迷っている」「家は手放さなくてはならないのだろうか」などと悩む方も多いのではないでしょうか。
本記事では、個人再生の具体的なメリットとデメリットを詳しく解説します。また、弁護士に依頼する際のポイントについても説明しています。
この記事を読むことで、個人再生にかかるメリット・デメリットを詳しく理解できます。個人再生について弁護士に相談したい方は、弁護士に依頼するメリット、依頼しないデメリットを知ることができます。司法書士と弁護士の業務範囲についても回答しています。債務整理するための適切な方法を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
個人再生とは?
個人再生は、借金の返済が困難なときに借金を大幅に減額し、残りの借金を再生計画に基づいて分割返済することにより経済再建を目指す法的手続きです。
個人再生を利用することで、借金が5分の1から10分の1まで減額できる可能性があります。残りの借金を3年から5年程度かけて分割払いしていきます。
また、借金の理由に制限がないため、さまざまな状況下での利用が可能です。
個人再生の種類と手続きの要件は?
個人再生手続には、次の2つがあります。
①小規模個人再生手続
②給与所得者等再生手続
それぞれの手続きの違いは手続開始要件です。
以下で詳しく解説します。
①小規模個人再生手続
手続開始要件は「将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがある」ことです。
利用するためには、次の条件がそろっていることが必要です。
- 借金などの総額(住宅ローンを除く)が5,000万円以下であること
- 将来にわたり継続的に収入を得る見込みがあること
- 再生計画に債権者の数および債権額で、2分の1以上の不同意がないこと
小規模個人再生手続は給与所得者等再生手続と比べると、借金の減額幅が大きくなる傾向があります。そのため、令和5年司法統計によると、個人再生を申立てる人の92%が小規模個人再生を選択しています。
②給与所得者等再生手続
手続き開始要件は、①の条件にプラスして次の条件が必要となります。
- 給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込がある個人債務者で、かつその変動の幅が小さいと見込まれること
再生計画案に債権者の同意がなくても手続きが進められるので、債権者の同意が得られそうにないときに利用するといいでしょう。
個人再生のメリット
- 借金の原本を5分の1や10分の1程度にまで減額できる
- 借金の理由に制限がない
- 資格・職業の制限がない
- マイホームを残せる
- 車を残せる場合がある
借金を5分の1~10分の1にまで減額できる
個人再生の最大のメリットは、借金が大幅に減額できることです。借金を5分の1~10分の1にまで減額できます。たとえば、500万円の借金が100万円になる可能性があるということです。
これにより、借金が無理なく返済できるようになるでしょう。
債権者に最低限返済しなければならない金額は以下のとおりです。
①小規模個人再生手続の場合
借金の総額 |
最低限返済しなければならない金額 |
100万円未満 |
総額全部 |
100万円~500万円以下 |
100万円 |
500万円を超え1500万円未満 |
総額の5分の1 |
1500万円を超え3000万円未満 |
300万円 |
3000万円を超え5000万円以下 |
総額の10分の1 |
②給与所得者等再生手続きの場合
①で算出した金額と下記の金額を比較して、多い方の金額
自分の可処分所得額(収入の合計額から税金、最低生活費を除いた金額)の2年分の金額
借金の理由に制限がない
個人再生の場合、借金の理由に制限なく利用できる手続きです。
自己破産手続では、借金の使途が浪費やギャンブルの場合、免責が認められないことがあります。
しかし、個人再生では毎月決まった金額を安定して支払える能力が重視されるため、浪費やギャンブルの問題があっても手続きが進められます。
これにより、自己破産ではなく個人再生を選択することで、債務整理の可能性が広がる利点があります。
そのため、個人再生は、幅広い理由で債務を抱えている人が利用できる手続きになっています。
資格や職業の制限がない
個人再生は、資格や職業に関する制限を受けることがありません。
自己破産では、各法律により一定の資格や職業に制約がかかることがありますが、個人再生ではそのような制限を受けません。
自己破産した際には、弁護士・司法書士・税理士などの士業、生命保険募集人、警備員、旅行業務取扱登録者などが一時的に資格が制限されます。
一方、個人再生の場合は、職業や資格を維持しながら債務整理ができるので、専門職や特定の資格を必要とする職業の方にとっては安心できる手続きです。
マイホームを残せる
個人再生の大きなメリットの一つは、住宅を残せることです。
個人再生では、「住宅資金貸付債権に関する特則」(住宅ローン特則)を利用することで、マイホームを手放さずに債務整理ができます。この特則を利用すると、住宅ローンの返済を続けながら他の債務を減額することが可能です。
他の債権を減額できることで、住宅ローンの返済に余裕が生まれます。
自己破産の場合は、一定の金額を超える資産・財産を処分しなければなりません。個人再生では、マイホームを維持できる点は、大きな安心材料となります。
車を残せる場合がある
また、車も自動車ローンを完済していれば、手元に残せます。
ローンの返済中でも、所有権留保(ローン返済中の所有権をディーラーやローン会社に留保すること)が付けられていなければ、車を引き上げられません。
車の所有権や所有権留保が付されているかどうかは「車検証」に記載があります。
個人再生のデメリット
個人再生には次のようなデメリットがあります。
- 借金がゼロにならないので返済を継続しなければならない
- 手続きが複雑で手間と時間と費用がかかる
- すべての債務が対象
- 官報に氏名・住所が掲載される
- 個人再生ができない場合もある
- 税金や養育費、罰金などは減額されない
- 保証人や連帯債務者に請求が行く
- 返済額が上がる場合がある
借金がゼロにならないので返済を継続しなければならない
個人再生の大きなデメリットは、借金が完全にゼロにならないので返済を継続しなければならないことです。
個人再生を利用すると、元本の一部が減額され、再生計画に基づいて残りの借金を3年から5年の期間で分割返済することになります。
これは、借金を完全に免除される自己破産とは異なりますが、借金の大幅な減額により返済が現実的なものとなり、生活の再建が可能となります。
手続きが複雑で手間と時間と費用がかかる
個人再生は、その手続きが非常に複雑で、再生計画の認可が下りるまで1年~1年半程度の時間がかかります。
裁判所への申立てには、再生手続開始申立書や財産目録、債権者一覧、陳述書など多くの書類を準備する必要があります。
さらに、持ち家を残す場合、住宅ローンの契約書や登記事項証明書も必須です。また、債権者の同意が必要な場合もあり、交渉が複雑になることがあります。
個人再生手続には費用もかかります。
裁判所でかかる費用は基本的に次のものがあります。(裁判所により異なる)
- 申立費用 1万円
- 郵便切手代 数千円
- 官報広告費 1万4,000円ほど
東京地裁で申立する場合は、原則として全件で再生委員の選任が必要となり予納金として20万円前後が必要です。
他の地域では、弁護士が代理人を務める場合、再生委員が選任されないことがほとんどです。地域によって取り扱いが異なる点に注意が必要です。
弁護士費用もかかるので、全体として高額な費用になります。それでも借金が大幅に減額できるため、手続きをするメリットが大きいでしょう。
すべての債務が対象
個人再生では、すべての債務が対象になります。
これは、住宅ローンや自動車ローン、消費者金融、友人・家族からの借入れなど、あらゆる債務が手続きに含まれるということです。ただし、住宅ローン資金特別条件で対象外になることもあります。
債権者平等の原則があるので、一部の債権者のみを優遇することができないからです。
家族・友人に優先的に弁済すると、再生計画案が認められなかったり返済額が増えてしまったりするリスクがあります。
官報に氏名・住所が掲載される
官報に個人再生の内容や債務者の名前、住所などの情報が掲載されるので、第三者に知られるリスクがあります。
個人再生手続で、裁判所が債務者の情報や手続きの結果を官報に掲載するのは、すべての債権者が手続きに参加できるようにするためです。
しかし、一般の人が官報を目にする機会はほとんどありません。勤務先や周囲に個人再生を知られる可能性はほぼないでしょう。
一定期間ブラックリストに登録される
個人再生などの債務整理手続きをすると、一定期間ブラックリスト(信用情報期間への事故情報の登録)に載ります。
ブラックリストでの掲載期間は一般的には5年から10年とされており、その期間はローンを新たに組んだりクレジットカードを作ることはできません。
しかし、一定期間を経るとブラックリストに掲載された事故情報は削除され、クレジットカードも作れるようになります。
個人再生ができない場合もある
ケースによっては、個人再生手続ができない場合があります。
たとえば、債務が5,000万円を超える場合は、個人再生の対象外になります。また、安定した収入が見込めないケースで、再生計画が現実的ではないと判断された場合も個人再生できません。
まずは弁護士に相談することが不可欠です。
自己破産や任意整理など他の債務整理方法の検討が必要だからです。
税金や養育費、罰金などは減額されない
個人再生手続で、税金や養育費、罰金などは減額されません。
共益債権・一般優先債権(税金、社会保険料、国民年金保険料、罰金など)や非減免債権(養育費、損害賠償請求権など)は、個人再生しても減額されない債権です。
手続きが開始された後も、これらの債務は継続して支払う必要があります。支払いを怠ると、給与や財産が差し押さえられる可能性があります。
保証人や連帯債務者が請求される
個人再生を行うと、債権者から保証人や連帯債務者が請求されることになります。
保証人や連帯債務者を付けている債務がある場合は、その人たちに事情を説明し、相談しながら再生計画を進める必要があります。
保証人や連帯債務者が付いている借金がある場合は、整理する債権を選択できる任意整理も検討しましょう。
返済額が上がる場合がある
個人再生手続きで、返済額が上がる場合があります。
個人再生には「清算価値保障の原則」があり、個人再生後の返済額は、清算価値(保有する財産をすべて処分した場合の金額)を下回ることができません。
この清算価値が高い場合は、支払金額が増える可能性があります。たとえば借金が300万円であれば、法律で定められた最低弁済額は100万円ですが、債務者が100万円以上の現金等を所有している場合は、その財産総額以上の金額を債権者に払う必要があります。
この清算価値の計算はとても複雑なので、詳しくは弁護士に相談しましょう。
個人再生を弁護士に依頼するメリット
個人再生を弁護士に依頼すると、マイホームや車を残したままの債務整理が可能です。
また、個人再生に該当しない場合でも適切な債務整理の方法を相談できます。
債務整理を弁護士に依頼すると、取り立て・催促がストップします。債務整理の依頼を受けた弁護士が、債務者に受任通知を送ると、それ以降債務者に対して直接取り立て・催促ができないためです。
次に詳しく説明します。
- 催促・取り立てをストップできる
- 複雑な手続きを一任できる
- 個人再生の可能性が高まる
- 最適な解決方法を提案してくれる
催促・取り立てをストップできる
弁護士に個人再生を依頼すると、債権者などからの催促や取り立てが止まります。
弁護士が債権者に対して「受任通知」を送付することで、貸金業者・債権回収業者は法律上、債務者への直接の連絡や取り立て行為を停止しなければなりません。
銀行も、受任通知を受領後は、ほとんどの場合、債務者保護の観点から債務者への直接の催促を控えます。
これにより、債務者は精神的なプレッシャーから解放され、冷静に返済計画を立てることができるのです。
さらに、弁護士が債権者と交渉することになり、債務者自身が債権者と対面することなく手続きを進めることができるでしょう。
複雑な手続きを一任できる
個人再生の手続きは非常に複雑で、多くの書類作成や手続きが伴います。弁護士に依頼することで、これらの煩雑な手続きをすべて任せることができます。
個人再生を裁判所に申し立てる際、再生手続開始申立書や陳述書、財産目録、債権者一覧表などさまざまな書類を正確に作成し、期限内に提出することが求められます。
弁護士は豊富な経験と専門知識を持っているため、手続きのミスを防ぎ、効率的に進めることができます。また、債権者との交渉も弁護士が代理するため、ストレスなく手続きに臨むことができるでしょう。
個人再生の可能性が高まる
弁護士に依頼することで、個人再生が成功する可能性が高まります。
弁護士は再生計画の作成にあたり、債務者の経済状況を詳しく分析し、現実的かつ実現可能な返済計画を立てます。これにより、裁判所からの個人再生の認可を得やすくなります。
さらに、弁護士は債権者との調整を行い、合意を得るための交渉をサポートします。こうして債務者は効率的に再生手続きを進めることができ、経済的な再建が実現しやすくなります。
最適な解決方法を提案してくれる
弁護士に依頼することで、依頼者にとっての最適な解決方法を提案してもらえます。
弁護士は依頼者の状況を総合的に判断し、個人再生だけでなく場合によっては自己破産や任意整理など他の債務整理方法を勧めることもあります。また、個人再生にも小規模個人再生と給与所得再生の2種類があり、依頼者の状況に適した再生方法を提示できます。
これにより、依頼者にとって最も効果的で負担の少ない解決策を見つけることができるでしょう。
弁護士に依頼しないデメリット
弁護士に依頼せず個人再生を進めるデメリットには次のことがあります。
- 手続きがうまくいかない場合がある
- 時間がかかる
手続きがうまくいかない場合がある
弁護士に依頼せずに個人再生を行う場合、手続きがうまくいかないリスクがあります。
個人再生の手続きは非常に複雑で、多くの専門知識と経験が必要です。申請書類の記入ミスや提出期限を守れなかった場合、手続きが途中でストップしたり、再生計画が認可されない可能性があります。
また、債権者との交渉も自分で行う必要があり、これも大きな負担となります。本人の日常の仕事に従事しながら個人再生の手続きを進めることは困難だと言わざるを得ません。
弁護士に依頼することで、これらのリスクを回避し確実に手続きを進めることができます。
司法書士に依頼する場合は、書類作成やサポートまでが主な業務です。
弁護士へ依頼すると、法律の専門家として個人再生の申立ての代理、訴訟などの裁判も可能です。
また、弁護士が代理人となり受任通知を債権者に送付することで、催促・取り立てをストップできます。
実際に、個人再生の申立て事件のうち、弁護士に依頼している場合は小規模個人再生は85.52%、給与所得者再生は82.35%に上っています。
参考:日本弁護士連合会|2020年破産事件及び個人再生事件記録調査
時間がかかる
弁護士に依頼しないと、個人再生の手続きにかかる時間が大幅に増える可能性があります。
個人再生手続は手続きが複雑で、弁護士に依頼しても約1年程度の期間が掛かります。
すべてを自分で行うと、手続き終了までさらに時間がかかり、1年以上の期間を要する可能性が大きいでしょう。特に、専門知識がないまま進めると、何度も確認や修正を行うことになり、手続きが長引く原因となります。
弁護士に依頼することで、時間を節約し効率的に手続きを完了させられるでしょう。
個人再生を弁護士に依頼する際のポイント
個人再生は、複雑な手続きが必要なため、債務整理の経験豊富な弁護士に依頼することが成功のカギです。
また、個人再生を行う上で、今後の生活再建の計画をしっかり立てることが重要です。弁護士に相談する際は、手続き自体の見通しやメリットデメリットを分かりやすく説明してくれる弁護士を選びましょう。
弁護士に個人再生を相談する際は、依頼人の借金の総額・借りている社数・債権者から法的手段をとられているかどうかを伝えましょう。これらの情報があれば、弁護士は状況を正確に判断し、最適なアドバイスができます。
これらのポイントを踏まえて最適な弁護士を選ぶことで、個人再生の手続きを円滑に進められるでしょう。
よくある質問
司法書士と弁護士の業務範囲の違いは?
司法書士と弁護士は業務範囲が異なります。
司法書士 |
弁護士 |
|
業務範囲 |
登記や供託に関する手続きの代理 |
訴訟事件や家庭裁判所事件における代理人業務 |
制限 |
法務大臣の認定を受けた司法書士に限り、簡易裁判所での訴額140万円以下の訴訟のみ対応できる |
取り扱える事件の範囲について制限がない |
個人再生と自己破産、任意整理の違いは?
債務整理の主な種類として、個人再生や自己破産、任意整理があります。
次は個人再生と自己破産、任意整理の違いを表にまとめたものです。
債務者の状況によって、メリットデメリットを踏まえた上での選択が重要でしょう。
項目 |
個人再生 |
自己破産 |
任意整理 |
手続きの目的 |
借金の一部を減額し、再生計画に基づいて返済 |
全ての借金を免責し、再出発する |
債権者と交渉し、返済条件を緩和する |
利用条件 |
借金総額(住宅ローン以外)が5,000万円以下 |
支払不能 |
借金額が比較的少ない |
借金の減額幅 |
借金の元本を5分の1~10分の1に減額可能 |
借金の全額免責が可能 |
利息のカットや返済期間の延長が主 |
対象債務 |
ほぼ全ての債務 |
ほぼ全ての債務 |
ほぼ全ての債務だが、事情によっては一部の債務を除外できる可能性あり。 |
公的債務(税金等)の取り扱い |
減額されない |
減額されない |
減額されない |
官報への掲載 |
掲載あり |
掲載あり |
掲載なし |
手続きの複雑さ |
高い |
高い |
比較的低い |
保有資産 |
一部資産(住宅等)を残せる場合がある |
ほぼ全ての資産を清算 |
資産に影響なし |
ブラックリスト(信用情報機関の事故情報)への登録 |
あり |
あり |
あり |
メリット |
借金の大幅な減額が可能 |
借金全額の免責が可能 |
返済計画の柔軟性、選択した債務のみに影響 |
デメリット |
手続きが複雑で長期間かかる、官報に掲載される |
資産の清算、官報に掲載される |
利息や遅延損害金の全額カットが難しいことがある |
まとめ
個人再生とは、借金を5分の1〜10分の1程度に減額し、一定の条件を満たせばマイホームや車を手放さずに生活を立て直せる手続きです。
ただし、個人再生は自己破産とは異なり借金がゼロにならず、返済を継続しなければなりません。
この記事では、個人再生のメリット・デメリットについて詳しく解説しました。また、弁護士に個人再生を依頼するメリット、依頼する際のポイントも説明しています。
弁護士に個人再生を依頼すると、依頼者の状況を総合的に判断し、個人再生だけでなく自己破産や任意整理など他の債務整理方法も検討できます。
債務整理の実績豊富な弁護士に依頼することで、個人再生をスムーズに進めてください。カケコムでは、債務整理の経験・実績豊富な弁護士が多数在籍しています。借金問題に関するお悩みをお持ちの方は、下記ボタンからお気軽にご相談ください。