自己破産の条件とは?できない場合の対応や、弁護士に依頼するメリットも紹介
【この記事の法律監修】
森本禎弁護士(大阪弁護士会)
瀧井総合法律事務所
自己破産は、多くの人にとって借金問題を解決するための選択肢の一つです。ただし、その背後には多くの条件やリスクが伴います。「借金を免除してほしい」「生活が困難で支払いが続けられない」といった思いを持つ方々が自己破産を検討する中で、必ず知っておくべき点があります。
本記事では、自己破産の条件や手続き、そのメリット・デメリットについて詳しく解説します。また、自己破産ができない場合の対応策や、弁護士に依頼するメリットについても触れています。借金問題でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
1.自己破産とは
自己破産とは、借金を抱えた個人が裁判所に申し立てを行い、法的にその債務を免除してもらう手続きのことを指します。一般に「支払不能」であると判断され、経済的に立ち行かない状態にあることを示しています。
自己破産により、借金の返済が免除される一方で、自己の財産を失うことがあります。また、自己破産の手続きには厳密な条件が存在し、すべての債務が消えるわけではないことも理解しておく必要があります。
自己破産の手続きは、債務者が新たなスタートを切るための一つの手段であり、その後の生活を立て直すための出発点でもあります。しかし、免責されない債務や職業制限、生活面での影響など、慎重に考慮しなければならない要素が多くあります。自己破産に踏み切る前に、条件やデメリットを十分に把握することが重要です。
1-1.自己破産のメリット
自己破産のメリットは、主に負債の整理と再スタートの機会を提供することです。借金が免除されることで、生活の負担が軽減され新たな生活を始めるための環境が整います。また、法的に借金から解放されることで、精神的なストレスも軽減され、心の余裕を取り戻すことができるでしょう。
さらに、一定の財産は保護されるため、最低限の生活基盤は維持することが可能です。以下のような、基本的な生活を維持するために必要な財産は保護されます。
- 日常生活に必要な衣類や日用品
- 99万円までの現金
- 公的年金や給付金の受給権
- 生活保護の受給権
1-2.自己破産のデメリット
自己破産には、借金が免除されるというメリットがある一方で、さまざまなデメリットも存在します。まず、破産手続きが終わった後も、ローンを組むことやクレジットカードを作ることが難しくなるため、日常生活において経済的な制約が生じます。
また、破産の事実は官報に公告されるため、個人の信用が著しく低下し、今後の金銭的な取引において不利になることも否めません。
さらに、破産手続きの進行中は、居住地を離れる際に裁判所の許可が必要となるため、生活の自由が制限されることがあります。また、破産管財人が破産者宛の郵便物を監視する権限を持ち、その内容を見ることもできるため、プライバシーの侵害を感じることもあるでしょう。
加えて、破産中は特定の職業に就くことが制約されます。弁護士や公認会計士、また貸金業などの業種には、資格制限が設けられています。これにより、再就職が難しくなったり、キャリアに影響を及ぼすことがあることを念頭に置きましょう。
2.自己破産が認められる条件
自己破産が認められるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 支払不能であること
- 借金が非免責債権だけではないこと
- 免責不許可事由に該当しないこと
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1.支払不能であること
自己破産の最も基本的な条件は「支払不能」であることです。これは、債務者が負っている借金に対して、現在の収入や資産では返済が不可能な状況を指します。
破産法第2条の定義では、支払不能について、以下のように述べられています。
第二条(前略)
11この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(信託財産の破産にあっては、受託者が、信託財産による支払能力を欠くために、信託財産責任負担債務(信託法(平成十八年法律第百八号)第二条第九項に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)をいう。(後略)
引用:e-Gov法令検索 破産法(平成十六年法律第七十五号)
2-2.借金が非免責債権だけではないこと
非免責債権とは、自己破産手続きにおいて、債務者が免責を受けることができず、返済が義務付けられる債権のことです。自己破産を申請する際、借金が非免責債権だけではないことが重要です。非免責債権は破産後も支払い義務が残ります。
破産法第253条では、以下のように定められています。
第二百五十三条
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四次に掲げる義務に係る請求権
イ民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
ホイからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七罰金等の請求権(後略)
引用:e-Gov法令検索 破産法(平成十六年法律第七十五号)
たとえば、税金や養育費などは非免責債権に該当します。これらの債務が債務者が負う債務の全てを占める場合、免責許可決定を受けても、免責される債務がなく、破産を申し立てた意味がないことになります。
2-3.免責不許可事由に該当しないこと
免責不許可事由とは、自己破産を申請することによって借金を免除されることが認められない特定の理由を指します。
- 破産手続きや免責手続きにおいて、虚偽の説明や内容を述べた場合
- 浪費やギャンブルによって借金を増やした場合
- クレジットカードで購入した商品をすぐに現金化して、負債を増加させた場合
- 財産を隠したり、その価値を減少させるような行為を行った場合
- 支払い能力について債権者を誤解させた場合
- 過去7年以内に確定した免責許可の決定を受けたことがある場合
このような事由に該当している場合、自己破産は認められません。ただし、免責不許可事由に該当する行為があった場合でも、その程度が軽微であれば、事案によっては裁量により免責が認められることもあります。具体的な状況については弁護士に相談することをおすすめします。
3.自己破産に注意が必要な場合
次に、破産申立をしても、破産開始決定が認められない場合や、破産開始が認められても、免責されない借金や、そもそも免責許可決定が認められない場合などについて説明します。
3-1.債務が支払える
最も明白な条件は、債務者が実際には支払いが可能な状態であることです。たとえば、収入が安定しており、十分な所得で生活できている場合には、自己破産は認められません。また、経済的な援助を受けられる状況もこれに該当します。
3-2.借金が非免責債権だけ
非免責債権のみの場合でも破産開始決定は受けられます。ただ、その後免責許可決定されても免責される債権がなく、破産するメリットを享受することができません。
3-3.免責不許可事由に該当する
前述した免責不許可事由に該当する方は、免責は許可されません。。具体的には、意図的に債務を偽ったり、自己破産を利用して不当な利益を得ようとする行為が含まれます。
3-4.職業制限に対応できない
自己破産申立自体は可能ですが、特定の職業は自己破産をすると資格制限がされます。法律や規則によって、破産者に対する職業制限が設けられています。
以下に、主な職業制限の例を紹介します。
・弁護士(弁護士法第7条)
参考:e-Gov法令検索 弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)
・公認会計士(公認会計士法第4条)
参考:e-Gov法令検索 公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)
・税理士(税理士法第4条)
参考:e-Gov法令検索 税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)
・司法書士(司法書士法第5条)
参考:e-Gov法令検索 司法書士法(昭和二十五年法律第百九十七号)
・行政書士(行政書士法第2条の2)
参考:e-Gov法令検索 行政書士法(昭和二十六年法律第四号)
・不動産鑑定士(不動産の鑑定評価に関する法律第16条)
参考:e-Gov法令検索 不動産の鑑定評価に関する法律(昭和三十八年法律第百五十二号)
・社会保険労務士(社会保険労務士法第5条)
参考:e-Gov法令検索 社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)
3-5.予納金が払えない
自己破産の手続きを行う際、申立人が予納金を支払う必要があります。予納金とは、破産手続きを進める上で必要となる諸経費を事前に確保するために納付する金銭のことです。この資金は、財産の管理や保全にかかる費用、破産管財人への報酬、官報での公告費用など、破産処理に関連する様々な支出に充てられます。
予納金の金額は、以下のとおりです。
- 管財事件の場合はおおよそ20万円以上
- 予納金の額は裁判所によって異なります。
また、郵便切手も必要ですが、その額は債権者の数によって異なります。
この費用を支払えない場合、手続きは開始されず、自己破産は認められません。
4.自己破産できない場合の対応について
自己破産できない場合でも、他の手段を検討することが可能です。
- 任意整理
- 個人再生
2つの対処方法を解説します。
4-1.任意整理
任意整理は、債権者と交渉して借金の減額や返済条件の見直しを行う方法です。自己破産とは異なり、財産が保護されるため、手続き後に生活基盤を維持しやすいという利点があります。また、任意整理によって借金の総額を減らすことができる場合もあります。
任意整理にはデメリットもあります。まず、話し合いが必要で、貸金業者が応じない場合には強制力がないため、交渉が進まないことがあります。また、任意整理を行うと自己破産や個人再生の場合と同様に、事故情報がが登録され、信用情報に悪影響を及ぼします。これにより、将来的な借入やクレジットカードの利用が難しくなる可能性があります。
4-2.個人再生
個人再生は、債務者が裁判所に申し立てを行い、一定の条件に基づいて借金を大幅に減額できる手続きです。自己破産よりも多くの財産を保持でき、今後の生活を支える基盤を残せるという点でメリットがあります。債務者の状況によりますが、個人再生も有効な手段となり得ます。
個人再生手続きは、主に「小規模個人再生手続」と「給与所得者等再生手続」の2種類があります。
小規模個人再生手続は、住宅ローン等を除いた借金総額が5000万円以下で、継続的または反復的な収入見込みがある人が利用できます。3年間(最長5年間)で3ヶ月に1回以上の返済を含む再生計画を作成し、計画弁済総額が一定額以上である必要があります。債権者の同意については、反対が半数未満かつ債権総額の2分の1以下であれば可決となります。
給与所得者等再生手続は、小規模個人再生の対象者のうち、給与またはこれに類する定期収入を得る見込みがあり、その変動の幅が小さい人向けです。可処分所得の2年分以上を返済に充てることを条件に、再生計画案の決議を省略するなど、手続きがより簡素化されています。
5.自己破産をしない方が良いケース
自己破産は、借金問題を解決する一つの方法ですが、必ずしもすべての人に適しているわけではありません。以下のようなケースでは、自己破産以外の方法を検討した方が良い場合があります。
5-1.税金などの非免責債権が多い
自己破産を行った場合でも、税金などの非免責債権は減免されません。このため、非免責債権が多い場合、自己破産を選択することはあまり賢明でないといえるでしょう。
5-2.職業制限に対応できない
自己破産による職業制限が自身のキャリアに大きな影響を与える場合、別の方法を考慮することが重要です。自己破産は新しいスタートを切るための手段である一方、特定の職業に就けなくなるリスクも伴います。
5-3.財産を手放したくない
自己破産の手続きでは、破産者の財産が債権者への返済に充てられます。破産者は裁判所に全ての資産を申告する義務があります。自宅や貴重品など、手放したくない資産がある場合、自分にとって不利になる可能性がありますので、慎重に検討しましょう。
6.自己破産を弁護士に依頼するメリット
自己破産は個人でも行うことが可能ですが、専門家に頼ることでさまざまなメリットがあります。
6-1.催促・取り立てをストップできる
自己破産を弁護士に依頼すると、債権者との交渉を代理してもらうことができます。これにより、催促や取り立てが停止され、精神的な負担が軽減されるでしょう。弁護士が介入することで、債権者とのトラブルを避けやすくなります。
受任通知が送られると、債権者は直接債務者に連絡することができなくなります。そのため、債務者は精神的な負担から解放され、落ち着いて今後の対応を考えることができます。
貸金業法では、取立て行為の規制について、以下のように定められています。
第二十一条(中略)
九債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士、弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。(後略)
引用:e-Gov法令検索 貸金業法(昭和五十八年法律第三十二号)
また、違法な取り立てや嫌がらせなどがあった場合も、弁護士が適切に対応してくれます。
6-2.複雑な手続きを一任できる
自己破産は個人でも可能ですが、手続きが難しかったり債権者との交渉が発生する場合があります。弁護士に相談をすれば手続きから交渉まで一任できます。
自己破産の手続きは非常に複雑で、特に法的な手続きに慣れていない人には難しいものです。そのため、弁護士に依頼することで手続きをスムーズに進められるだけでなく、適切なアドバイスを受けることができます。
弁護士に相談することで、自身の状況を理解し、適切な手続きを踏むことができるでしょう。心の負担が軽減され、再出発のための道筋が見えることで、将来に希望を持てるようになります。新しい生活設計ができ、経済的にも精神的にも安定した未来を迎えられます。
6-3.最適な解決方法を提案してくれる
専門家は、ケースに応じた最適な解決方法を提示することが可能です。自己破産だけでなく、任意整理や個人再生など、他の選択肢についても提案してくれるため、状況に応じた柔軟な対応が期待できます。また、自己破産を選択する場合でも、そのタイミングや準備すべきことなどを具体的に指導してくれます。
弁護士に依頼することで、自分の状況に最も適した解決方法を選択することができるでしょう。
7.弁護士に依頼しない場合のデメリット
弁護士に依頼しない場合、そのデメリットも理解しておくことが重要です。
7-1.手続きが上手くいかない場合がある
専門知識がないまま自己破産の手続きを進めると、申立てが却下されるリスクも存在します。手続きの不備や必要書類の不備が原因で、面倒な問題が発生することも考えられます。
自己破産を未解決のまま放置することは、将来的に信用の失墜や心身の健康に影響を及ぼします。生活が不安定になれば、職場にも影響が出て、孤独感や無力感が増すことになってしまうでしょう。
7-2.時間がかかる
自己破産の手続きを独自に進める場合、必要な知識やスキルが不足していると時間がかかることがあります。弁護士に依頼することで、業務が効率的に進み、早期に問題解決へと導ける可能性が高まります。
8.まとめ
自己破産は、経済的な問題を解決するための一つの手段ですが、その条件や手続きの複雑さを理解することが大切です。また、自己破産を選択する際には、専門家に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼することにより、手続きのスムーズさや、適切なアドバイスを得られるメリットがあります。法的な知識をもとにあなたの不安に寄り添ってくれるので、心の平安が得られるでしょう。適切なアドバイスを受け、手続きがスムーズに進むことで、再出発の準備が整います。
もし自己破産を検討している方は、まずは弁護士に相談することを考えてはいかがでしょうか。