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誹謗中傷とは犯罪?【加害者・被害者】~批判との違いや実際の対処法を紹介~

【この記事の法律監修】  
名波 大樹弁護士(大阪弁護士会) 
名波法律事務所

中傷や誹謗が社会問題になっています。他人の名誉を毀損したり侮辱したりする行為はインターネットが普及する前から存在しましたが、SNSや掲示板の登場によって誰でも簡単に公に意見表明できるようになり、誹謗中傷する人・される人が増えているのです。

誹謗中傷は名誉毀損罪や侮辱罪という犯罪になりえ、政府や警察が注意喚起する事態になっています。

誹謗中傷がどのようなものであり、自分や家族が当事者になったらどうすればよいのかを、被害者と加害者の視点から解説します。

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【誹謗中傷の基礎知識】1.中傷、誹謗、批判、意見の違い

誹謗中傷は一つの用語として使われることが多いのですが、それぞれ意味が異なります。誹謗は相手の悪口をいうことであり、中傷は嘘で他人の名誉を傷つけることです。ただ、どちらの言葉も法律の条文の中には出てきません。

誹謗中傷と似た言葉に批判があります。批判とは良いところと悪いところを区別して評価、判定することであり、そこには悪口、嘘、他人を傷つけるといった要素がありません。また、意見とは自分の考えを述べることなので、やはりネガティブな意味はありません。

したがって中傷と誹謗は悪い行為、批判や意見は悪くない行為と区別することができます。ここでいう「悪い」とは法律に抵触する可能性がある、つまり犯罪になりえるという意味になります。

【誹謗中傷の基礎知識】2.名誉毀損罪と侮辱罪、損害賠償請求

「誹謗中傷したくらいで法律に違反するのか」と感じる人がいるかもしれません。その感情は「悪口をいったくらいで犯罪になるのか」という気持ちからくるのではないでしょうか。

誹謗中傷は法律違反や犯罪になりえます。さらにいえば、犯罪になる可能性があるような悪口、嘘、他人を傷つける物言いが誹謗中傷であるともいえます。

誹謗中傷に関連する法律は次のとおりです。

刑法

  • 名誉毀損罪(刑法第二百三十条)
  • 侮辱罪(刑法第二百三十一条)

民法

  • 不法行為による損害賠償(民法第七百九条)

2-1.名誉毀損罪と誹謗中傷

刑法は名誉毀損罪を次のように規定しています。

刑法 第二百三十条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
引用:e-Gov法令検索 刑法(明治四十年法律第四十五号)

この条文の第1のポイントは次の4点です。

  • 公然
  • 事実の摘示
  • 名誉の毀損
  • 事実の有無に関わらない

公然とは不特定多数の人に伝えることなので、例えばインターネットの掲示板に書き込むことは公然に該当します。

事実の摘示とは、ある事実の存在を断定して表示することです。例えばSNSに「A(人物名)は放火魔だ」と書けば、事実の摘示に該当します。相手の人格をおとしめることは名誉毀損に該当するので、「Aは放火魔だ」との書き込みは名誉毀損になるでしょう。

そして、事実の有無に関わらないとは、事実であっても事実でなくても名誉毀損が成立する可能性がある、という意味です。SNSに「Aは放火魔だ」と書いただけで名誉毀損になります。もし実際にAが逮捕されて放火したことが事実だったとしても、SNSに書いた者がAの名誉を毀損したことには変わりありません。

第2のポイントは、名誉毀損罪の刑が三年以下の懲役、禁錮、五十万円以下の罰金であることです。この罪は相当重いと認識しておいてください。

2-2.侮辱罪と誹謗中傷

刑法は侮辱罪を次のように規定しています。

刑法 第二百三十一条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用:e-Gov法令検索 刑法(明治四十年法律第四十五号)

「事実を摘示しなくても」とあるので、侮辱罪は、具体的な事実を述べなくても罪に問われるわけです。例えばSNSで「Bは変質者だ」と書いた場合、具体的な事実は書かれていませんが、人格を傷つける侮辱といえます。

なお犯罪の成立要件に事実の摘示がない分だけ、侮辱罪の刑は名誉毀損罪の刑より軽くなっています。

侮辱罪の刑は2022年に引き上げられました(厳しくなりました)。以前は拘留か科料しかありませんでしたが、現在は上記のとおり、一年以下の懲役、禁錮、三十万円以下の罰金が加わっています。厳罰化の背景には、インターネット上の誹謗中傷が社会問題化したことがあり、自殺者も出ています。

2-3.警察が捜査する

名誉毀損罪と侮辱罪は刑法で定められているので、刑事事件になりえます。いわゆる警察沙汰です。

名誉を毀損されたり侮辱を受けたりした被害者が、加害者への処罰を望む場合、告訴すれば警察官が調査や捜査をします。告訴とは、被害者が警察に告訴状を提出して処罰を求めることです。

なお名誉毀損は告訴することが訴訟条件になるので、告訴がない場合や、告訴したあとに取り消した場合は、検察官は公訴を提起する(裁判を起こす)ことができません。

なお告訴しなくても警察に相談することはできます。

2-4.不法行為による損害賠償と誹謗中傷

ここまでの解説は刑事事件の話であり、ここからは民事事件の解説となります。民法は不法行為による損害賠償について次のように規定しています。

民法 第七百九条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)

誹謗中傷は故意によって他人の利益を侵害しているので、加害者は損害を賠償する責任を負います。損害賠償は金銭で行い、これを損害賠償請求といいます。

ただ民事事件なので警察や検察は関与しません。損害賠償請求は、被害者が加害者に対して実施する行為です。加害者が損害賠償請求に応じない場合は、被害者は裁判を起こすことができます。

【誹謗中傷の基礎知識】3.ネット社会における問題

政府は、インターネット上の誹謗中傷が社会問題になっているという認識を持っています。先ほど侮辱罪の刑が2022年に厳罰化されたことを紹介しましたが、この背景にはインターネット上での誹謗中傷への非難が高まり、国民に「抑止すべき」という意識が高まったことがあります。

ネット上の誹謗中傷の例

インターネット上の誹謗中傷には次のようなものがあります。

  • SNSに個人の悪口を書き込んだり、広めたりする
  • 悪口のメッセージを送りつける
  • 掲示板に個人の名前、住所、写真を掲載して悪口を書く
  • 出会い系サイトに卑猥な文章とともに、個人の名前、電話番号、メールアドレスを掲載する
  • 他人が行った誹謗中傷投稿を、自分のSNSアカウントで再投稿(リツイート、リグラム、リポストなど)する

これらのすべてが犯罪になるわけではありませんが、このような行動がエスカレートすることで名誉毀損罪や侮辱罪に該当する犯罪に進んでしまうことがあります。したがって上記の行為は「犯罪の芽」と認識して行わないようにしなければなりません。

侮辱罪で有罪判決が出た例

以下に紹介するのは、侮辱罪で有罪判決が下された、インターネット上の誹謗中傷の例です。

●SNSに「この子○○(地名)一番安い子!!お客様すぐホテル行ける!!最低!!」などと投稿するとともに、当該SNSにおける被害者のプロフィール画面を撮影した画像を掲載した

●インターネット上の掲示板に「とうとうYouTubeのコメントは頭おかしくなった 本人がアカウント何個も作って自作自演乙w アホ丸出しで長文タラタラ。読んでも気持ち悪さが勝って なんちゃ理解出来んわw 親子共々、精神が幼すぎ。子供が可哀想や」などと掲載した

●インターネット上の掲示板に「母親が金の亡者だから、稼げ稼げ言ってるらしいよ!育ててやってんだから稼いで金よこせ!って言われてんじゃないかしら?」などと掲載した

引用:侮辱罪の事例集|法制審議会刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会 第1回会議配布資料

被害者としての誹謗中傷問題

インターネット上の誹謗中傷は、恐ろしいほど簡単に実行できてしまいます。そのため自身や家族が、いつ何時被害に遭うかわかりません。

しかもその被害は甚大で、誹謗中傷の言葉が広まってしまうと人の目が気になって学校や職場に行けなくなったり、近所付き合いがしづらくなったりします。いじめの手段としてSNSを使った誹謗中傷も存在します。誹謗中傷によって自殺に追い込まれた人もいるのです。

誹謗中傷から自分や家族などを守る方法を紹介します。

インターネット上で誹謗中傷されたときに相談するところ

インターネット上で誹謗中傷されたとき、次の7つの組織が被害者の助けになってくれます。

  • 誹謗中傷された被害者を助ける7つの組織
  • 法テラス
  • 弁護士
  • 地域の警察
  • インターネット・ホットラインセンター(警察庁)
  • 違法・有害情報相談センター(総務省)
  • 人権相談(法務省)
  • セーファーインターネット協会

1つずつ紹介します。

弁護士

誹謗中傷に遭って解決策を相談したいときや、加害者に損害賠償を求めたいときには、弁護士に相談するとよいでしょう。
解決に役立つ法制度などの有益な情報を提供します。早期に弁護士を雇うことで訴訟に進んだときにスムーズに準備することができます。

法テラス

法テラスの正式名称は日本司法支援センターといい、国が設立した法的トラブル解決のための総合案内所です。
経済的に余裕がない方に対して、弁護士に無料で法律相談ができたり、弁護士費用を立て替えてもらったりすることができます。

地域の警察

誹謗中傷の被害が甚大で処罰を求めたい場合や、身の危険を感じているとき、または誹謗中傷がエスカレートして脅迫されている場合は、地域の警察に相談してください。
告訴をすることで警察が調査や捜査に動きます。

インターネット・ホットラインセンター(警察庁)

警察庁は国の警察組織で、都道府県の警察とは別に存在します。その警察庁にはインターネット・ホットラインセンターがあり、インターネット関連犯罪の情報を集めたり、都道府県の警察に情報提供したりしています。

警察庁は同センターに寄せられた情報を元に、インターネット上の誹謗中傷について、プロバイダや、SNSや掲示板、Webサイトの運営者など(以下、プロバイダなど)に削除依頼を出すことがあります。

ここは相談機関ではないため相談に乗ってくれるわけではなく、一方的に情報提供をして、あとはどのように対処するかどうかは同センターの判断にゆだねることになります。

違法・有害情報相談センター(総務省)

自分を誹謗中傷する内容が書かれてある掲示板やSNSを偶然、発見したら、どうしたらよいかわからなくなるかもしれません。そのようなときに相談できるのが、総務省の違法・有害情報相談センターです。プロバイダなどへの削除依頼は被害者自身でもできるのですが、同センターはその方法を教えてくれます。同センター自体が削除依頼をしてくれるわけではありません。

インターネット技術やインターネット関連制度に精通した相談員がいるので、人権侵害などの事案に幅広くアドバイスしてもらえます。

人権相談(法務省)

「書き込みを削除してもらいたい」と思ったら、法務省の「人権相談」に相談するとよいでしょう。インターネット上に限らない人権全般の相談を受け付けている窓口です。相談者(被害者)にプロバイダなどへの削除依頼の方法を教えるほか、法務局からプロバイダなどに削除要請を行うことも可能です。

ただ法務省は削除要請について「法務局が違法性を判断したうえで行うものなので、判断に時間を要する場合がある」と述べています。したがって「早急に書き込みを削除してもらいたい」と考えている人は「人権相談」に相談しつつも、弁護士に相談したほうがよいでしょう。

セーファーインターネット協会

一般社団法人セーファーインターネット協会は、インターネットの悪用を阻止するための対策を立案、実行する団体で、LINEヤフー株式会社やNECなどが会員となっています。

同協会に相談できる内容は次のとおりです。

  • セーファーインターネット協会に相談できるインターネット上の誹謗中傷問題
  • ネット上の書き込みを削除したい
  • インターネット上に違法・有害情報をみつけた
  • 迅速に削除要請を行いたい
  • プロバイダなどに削除を促して欲しい

セーファーインターネット協会は誹謗中傷ホットラインを設置しているので、被害者はここに連絡したほうがよいでしょう。

自分の誹謗中傷をみつけたらすべきこと

インターネット上に自分や家族の誹謗中傷の文章や画像をみつけたら、次の4つのステップで対処していってください。

  • 証拠集め
  • 加害者の推測、特定
  • 被害額を見積もる
  • 相談
    (相談のあとは告訴や損害賠償請求となる)

まずは証拠を集めましょう。証拠がないと警察官や相談担当者は動きようがありません。ただ証拠集めはとても簡単です。誹謗中傷の文章や画像が載っているパソコン画面やスマホ画面をスクリーンショットして、その画像を保存しておきます。さらに、みつけた日時や、どのようにそれをみつけたのか、みたときの気持ちや感情といった情報もメモ書きしておきます。

その次にすべきことは、加害者の推測、または特定です。誹謗中傷の投稿は匿名でなされることが多いのですが、投稿内容から人物を特定できることがあります。その人しか知りえない情報が投稿のなかに隠れていないか調べます。

投稿した日時も加害者の特定に役立ちます。例えば昼の12時から13時の間にしか投稿していなければ、昼休憩がある職場に勤めている人かもしれませんし、夜中も昼も夕方も投稿するなら不規則な勤務で働いている人かもしれません。

またプロバイダなどに加害者の情報を開示するよう求めることもできます。こちらは次の章で紹介します。

誹謗中傷は被害者の仕事や事業に風評被害をもたらすことがあります。例えば被害者が顧客から「事実かどうかはともかく、このような噂がインターネット上で流れること自体問題だ」と言われ、取引を停止されたら金銭的な損害が発生するわけです。

また被害者が経営者であれば、自社の採用選考の応募者が、経営者への誹謗中傷をみて「こんな会社は嫌だ」と思って応募を取りやめるかもしれません。

こうした風評被害について被害額を見積もっておきましょう。加害者を特定できれば損害賠償を請求できるので、被害額の見積額は請求金額のベースになります。

証拠集めと加害者の推測・特定が済んだら、先ほど紹介した組織に相談しましょう。被害額の見積もりは相談と同時並行で問題ありません。

そして相談のあとは、先ほど紹介したとおり告訴や損害賠償請求に進んでいきます。

インターネット上で誹謗中傷されたときに相談するところ

インターネット上での誹謗中傷は匿名で行われることが多く、被害者が加害者を特定することは困難を極めます。しかも被害者がプロバイダなどに「あなたの会社が運営・管理するSNSや掲示板に私を誹謗中傷する文章が載っているので、その加害者の正体を教えて欲しい」と要請しても簡単には応じないでしょう。また、プロバイダなどのなかには、自社の連絡先を公にしていないところも多く、したがってプロバイダなどを突き止めることも容易ではありません。

加害者を特定できないと、告訴や損害賠償請求は事実上不可能です。この状態を救済するのが、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、プロバイダ責任制限法)です。プロバイダ、サーバーの管理者、SNS・掲示板・Webサイトの運営者などのことを特定電気通信役務提供者といいます。

プロバイダ責任制限法を根拠に、被害者はプロバイダなどに対して、加害者の情報(発信者情報)の開示を請求することができます。

発信者情報の開示請求をできる要件は、プロバイダ責任制限法第五条で規定されていて、以下のとおりです。

参考:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)

  • 発信者情報の開示請求をできる要件
  • 侵害情報の流通によって、請求者(被害者)の権利が侵害されたことが明らかなとき
  • 損害賠償請求の行使その他開示を受けるべき正当な理由があるとき

そして開示請求できる発信者情報は以下のとおりです(プロバイダ責任制限法第二条六号、プロバイダ責任制限法施行規則第2条)。

参考:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)
プロバイダ責任制限法逐条解説|2023年3月 総務省総合通信基盤局消費者行政第二課

  • 開示請求できる発信者情報の具体的な内容
  • 氏名、名称
  • 住所
  • 電話番号
  • メールアドレス
  • IPアドレス
  • 移動端末設備からのインターネット接続サービス利用者識別符号
  • SIM識別番号
  • 侵害情報が送信された年月日・時刻
  • IPアドレスと組み合わされたポート番号
  • SMS電話番号
  • その他

被害者が発信者情報開示請求を行うときは、裁判所に対して申し立てを行います。裁判所は、権利侵害が認められると判断したときは、プロバイダなどに発信者情報開示の仮処分命令を発します。これにより被害者は、加害者(発信者)の情報を得ることができ、告訴や損害賠償請求が可能になります。

損害賠償請求の流れ

誹謗中傷被害を刑事事件化することは、警察に告訴をすることで可能になります。しかし損害賠償請求については民事事件になるので、被害者自身が行うことになります。

損害賠償請求は一般的に次のように段階を踏んで行われます。

  • 損害賠償請求の流れ
  • 示談交渉
  • 訴訟の提起(提訴、裁判所に訴える)
  • 強制執行

もし相手(加害者)に謝罪の気持ちがあり、損害賠償に応じるようであれば、裁判所を介さず示談交渉することができます。ただ示談交渉でも、将来のトラブルを予防するため、被害者は弁護士に依頼したほうがよいでしょう。

示談交渉では、精神的苦痛に対する慰謝料や弁護士費用などを勘案して、被害者と加害者で損害賠償金の額を決定します。さらに誹謗中傷情報の削除や謝罪文の掲載なども求めることができます。示談内容を書面にして、当事者が署名捺印してから、損害賠償金の支払いが行われ、交渉は完了します。

加害者が示談に応じなければ訴訟を起こすことができます。損害賠償請求の訴訟は被害者自身でも起こすことができますが、弁護士に依頼するのが一般的です。

訴訟は、裁判所に訴状を提出して始まります。訴状が受理されると口頭弁論が開かれ、判決が下ります。

原告(被害者)が勝訴し、被告(加害者)が控訴しない場合、判決が確定し、被告には損害賠償金の支払い義務が発生します。しかし、加害者に悪意があれば支払いが滞ることもあります。その場合は、強制執行の手続きを行います。

被害者が裁判所に強制執行を申し立てると、加害者の財産を換金して損害賠償金を得ることができます。このゴールに到達するには、弁護士のサポートが不可欠でしょう。

自己防衛するときの注意点

加害者を特定でき、なおかつ連絡先がわかれば、被害者はその者に警告することができます。「これ以上書き込んだら警察に通報する」「すぐに削除しなければ法的手段に出る」「弁護士に相談した」このようなことを伝えるだけで加害者が誹謗中傷をやめるかもしれません。

また被害者が自分のSNSや自社のホームページなどで、インターネット上に事実無根の悪意ある情報が流れて風評被害を受けている、と訴えることも有効になることがあります。

しかし加害者のなかには、被害者が苦しむ様子をみることを愉快に思う者もいて、その場合、自己防衛がかえって加害者を刺激してしまいます。

自己防衛をするときは、相談できる機関のアドバイスを受けたり、弁護士に相談したりしたあとのほうがよいでしょう。

加害者としての誹謗中傷問題

ここからは、自分や家族が誰かを誹謗中傷してしまったときのことを考えていきます。本章では主に、誹謗中傷してしまうと「どうなるのか」と、加害者が「どうすべきか」について解説していきます。

やってしまったことを認めて謝罪する

SNSや掲示板で誰かについて書いた経験がある人は、誹謗中傷が簡単にできてしまうことを理解しておくべきです。この「誰か」は知り合いだけでなく、芸能人や有名人も含まれます。加害者の立場でいうと、手軽にできるからこそ誹謗中傷は危険なのです。

例えば、友人に冗談で「うざい、死ね」と言っても誹謗中傷にはなりません。しかし、インターネット上に「Aってうざい、死ね」と書いたり、そう言っている動画を公開したりすると、犯罪になる可能性があります。

罪を犯すつもりがなくてもインターネット上では誹謗中傷が犯罪になりえます。被害者から指摘されたときに「SNSにちょっと書いただけだろ」と反論したくなるかもしれませんが、それは事態を悪化させるだけです。「もしかしたら自分の言動は名誉毀損や侮辱に当たるかもしれない」と自問して、誹謗中傷に該当すると判断したら謝罪することが大切です。

逮捕されることもある

警察庁によると、2024年上半期にインターネット上での名誉毀損罪と侮辱罪での検挙件数は217件で、増加傾向にあります。

検挙とは逮捕や在宅での取り調べなどのことなので、インターネット上で誹謗中傷して逮捕される可能性はある、といえます。

告訴され、逮捕、起訴され、裁判で有罪が確定すると、名誉毀損罪であれば3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金、侮辱罪であれば1年以下の懲役もしくは禁錮、もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料が科されます。

参考:令和6年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について|警察庁

損害賠償を請求されることもある

検挙されるなど警察が動かなくても、加害者は被害者から損害賠償を請求されることがあります。

被害者が加害者に「あなたのしていることは誹謗中傷である。中止と削除と謝罪を求める」と警告しているのにそれを無視すると、次は内容証明郵便で損害賠償請求の通知が届くかもしれません。これも無視すると訴訟に進んでしまうかもしれません。

この「警告→内容証明郵便→訴訟」という流れこそ「事態の悪化」であり、悪化するほど穏便な解決が困難になると考えておいてください。

示談する:弁護士をつけて謝罪し、損害を賠償する

被害者から誹謗中傷を指摘されたら、まず弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は被害者に示談を提案し、同意が得られるように被害者との示談交渉を進めます。示談が成立し示談金の額が決定すれば、加害者がその金額を支払うことで示談書といった正式な書類が作成され、事態は解決へと向かいます。

もちろん、弁護士を介さずに加害者自身が被害者と直接交渉することも可能です。しかし、被害者に悪意があれば、法外な金額を要求されるリスクがあります。また、示談金を支払ったあとでも、被害者がさらなる請求や訴訟を起こすといった二重請求などの問題が発生する可能性も考えられます。

そのため「謝罪して示談金を支払い、円満に解決したい」と考えるのであれば、弁護士の力を借りることが賢明です。

事を穏便に済ませるメリット

悪いことをしてしまったら反省をして、被害者に謝罪をしたうえで許しを乞い償いをすることは、人として当然にすべきことです。ただここではあえて、加害者にとっての、事を穏便に済ませるメリットを考えてみます。

もし加害者が「SNSにちょっと書いただけじゃないか」と思って反省も謝罪もせず、示談金を支払いたくないから示談交渉もせず、検挙や損害賠償訴訟に進んでしまったら、事が公になります。加害者が社会人であれば勤務先に知られ、厳重注意、降格、解雇といったことになるかもしれません。

この事実を誰かがインターネットで広めるかもしれません。検挙の事実を事実のままSNSや掲示板に書かれただけなら誹謗中傷にならないので、誰も守ってくれません。

示談を含めて事を穏便に済ませるメリットとは、事態が悪化したことで被る「より厳しい罰」を受けなくて済むことです。

「匿名だからバレない」と思うのは浅はか

加害者が匿名でSNSのアカウントを取得し、そのSNSに誰かの悪口を書いたとします。被害者がSNSのダイレクトメールを通じて「誹謗中傷に該当する。中止、削除、謝罪しないと法的手段を取る」と警告しても、加害者は「匿名アカウントだから自分を特定することは不可能だ」と軽視するかもしれません。しかし、その考えは非常に浅はかです。

被害者は誹謗中傷された場合、プロバイダ責任制限法に基づき、プロバイダやSNS運営者などに対して加害者の情報開示を求めることができます。裁判所が情報開示請求を認めると、プロバイダなどは加害者の氏名や住所などの個人情報を被害者に提供します。

さらに、加害者が匿名アカウントを使用していても、IPアドレスやログイン時の情報などから個人を特定することは可能です。このため匿名でも法的手続きに基づき個人を追跡、特定され、告訴や損害賠償請求につながるでしょう。

未成年者が誹謗中傷したときの保護者の責任と対応

未成年者が誹謗中傷の加害者となったら、親などの保護者に責任が及ぶこともあります。保護者がすべきことは、自分が加害者になったときにすべきことと同じで、以下のとおりです。

  • 未成年者が加害者になったときに保護者がすべきこと
  • 事実を確認する
  • 誹謗中傷の事実があればそれを認める
  • 誹謗中傷を中止して、削除が可能なら削除する
  • 未成年者と保護者の双方が反省する
  • 未成年者と保護者が被害者に謝罪する
  • 事を穏便に済ませる方法を探る
  • 示談が可能なら、弁護士を雇って示談交渉をする(示談する)

保護者は自分の子供を守るため、告訴や検挙に至らないように努めたいはずです。それには子供に反省させ二度と誹謗中傷をしないことを誓わせて、被害者に謝罪をして賠償などで誠意を尽くさなければなりません。

そのためには弁護士の力は不可欠で、保護者は事態が発覚したらすぐに相談したほうがよいでしょう。

まとめに代えて~被害者も加害者も弁護士を頼ることをおすすめする理由

誹謗中傷の事案では、被害者も加害者も弁護士を頼ったほうがよいでしょう。

まず被害者についてですが、誹謗中傷による被害が広がりそうな場合や精神的な苦痛を感じている場合は、法的手続きで早期に解決できる可能性があるため、弁護士に早急に相談することが重要です。

匿名の相手から誹謗中傷されている場合は、相手の特定や投稿削除を迅速に行うため、弁護士に相談して適切な対策を取るべきです。

誹謗中傷で名誉や信用が損なわれ、損害が発生している場合は、損害回復や賠償請求ができます。このときも弁護士が頼りになります。

加害者は、自分が誹謗中傷をしたと自覚したり、告訴や訴訟の可能性があったりする場合は、リスクを最小限に抑えるため、弁護士に相談して適切な対応を取ったほうがよいでしょう。

開示請求や訴訟の通告を受けた場合は、個人情報の保護や示談の可能性などを弁護士に相談することで、スムーズな解決が期待できます。

自分の言動が誹謗中傷かどうか判断できないときも、今後の対応を適切に進めるために弁護士に相談することはおすすめできます。

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