任意整理するとき弁護士に依頼すべき?メリットや重要性は?
【この記事の法律監修】
熊本 健人弁護士(大阪弁護士会)
磯野・熊本法律事務所
長引く不況の影響で、借金が返せなくて悩んでいる人が増えています。借金が返済できなくなったら、任意整理を行うのも1つの方法です。では、任意整理をする際は、弁護士に依頼したほうがいいのでしょうか。ここでは、弁護士に依頼する方法や、依頼するメリットなどについて解説します。
任意整理とは
「任意整理」とは、現在の返済負担を軽減するために、貸金業者やクレジットカード会社と利息の減額や分割回数について交渉し、今後の返済計画に関する合意を結ぶ手続きです。この合意に基づいて返済を続け、最終的に借金の完済を目指します。また、過去の取引を利息制限法に基づく上限金利(15〜20%)で再計算することによって、借金を減らせる場合もあります。
ただし、取引が短期間であったり、返済が滞っていたり、最初から利息制限法の範囲内での取引であった場合などは、あまりメリットがない場合もあります。
任意整理で全ての借金が減るわけではない
任意整理によって減額できるのは、利息制限法で定められた利率を超える利息の借金です。ショッピングや自動車のクレジット、住宅ローンなど、利息制限法よりも低い金利の借金は減額対象にはなりません。しかし、今後の返済に関しては、利息をカットしたり分割回数を増やすことで、月々の返済額を軽減することができます。
任意整理で借金がゼロになる可能性も
任意整理は、弁護士が貸金業者やクレジットカード会社と交渉し、借金の減額や返済回数の増加を図る手続きです。取引状況によっては、任意整理によって借金がゼロになることもあり、さらに過払い金が発生している場合もあります。
一般的に、利息が高い業者との取引が長いほど、借金の減少幅が大きくなる傾向があります。どの程度減額できるかは、借入期間や取引の経過、取引履歴の開示状況などによって異なります。
ちなみに、任意整理を行うための条件は、以下の通りです。
- 安定した収入があること
- 原則として3~5年以内に返済できる見込みがあること
- 今後も返済を続ける意志があること
任意整理を希望するなら、まずは安定した収入が必要です。また、生活費を差し引いた可処分所得を、十分に確保する必要があります。ちなみに、過去の契約書が手元になくても、任意整理は可能です。ほとんどの業者は法律に基づいて過去の取引記録を提供してくれるため、いつどこから、どのくらい借りたのかを把握できれば、任意整理は行えます。
任意整理するとき弁護士に相談した方がいいのか?
任意整理を行うには専門的な知識が必要なため、信頼できる弁護士に相談することが大切です。任意整理を円滑に実施するためには、複雑な法律の理解と実務経験が不可欠だからです。
特に弁護士に相談した方が良いケース
任意整理について、弁護士に相談することが推奨される状況は以下の5つです。
- .借金の返済が困難な場合
借金の返済が厳しくなっている場合は、任意整理などの解決策を検討する必要があります。
- 自宅を失いたくない
自宅を所有している場合、そのままにしていると、借金によって自宅を失う可能性があります。
- 無理なく借金を完済したい
借金が返済できない場合、弁護士が介入することで利息を減らしたり、返済期間を延ばしたりすることが可能です。
- 家族に知られずに解決したい
家族に心配をかけたくないという理由から、家族に知られずに任意整理を行いたい方もいます。弁護士が介入することによって、家族に知られることなく任意整理ができます。
- 過払い金の有無を確認したい
過去に借金やクレジットカードを利用していた場合は、過払い金を取り戻せる可能性があります。弁護士が介入することによって、過払い金の有無を調査することができます。
弁護士以外に相談する方法はあるのか?
任意整理など借金問題について相談できる場所は、法律事務所だけではありません。士業には弁護士のほかに、司法書士、行政書士、税理士などがいます。また、士業以外にも「相談所」を名乗る無資格者が借金問題に関する法律相談を行っていることもあるため、どこに相談すればよいか迷う人も多いでしょう。
しかし、任意整理をするなら、弁護士に相談することをお勧めします。法律上、債務整理(自己破産、個人再生、任意整理、過払い金請求や訴訟対応)のサポートができるのは、基本的に弁護士に限られているからです。
なお、司法書士が法務大臣の認定を受けた場合、例外的に140万円以下の任意整理や過払い金請求を行うことができますが、140万円を超える場合は対応できません。借金の総額が140万円以下であるかどうかは、正確な調査を行わなければ判断できないことが多いので、司法書士に依頼するのは不安が残ります。
任意整理で弁護士は何をしてくれるのか?
弁護士は、依頼を受けるとまず債権者にその旨を通知し、依頼者に対する取り立てを中止させます。その後、債権者から提供された取引履歴を基に、正確な残債務額を算出し、分割払いの交渉を行い、和解を目指します。もし交渉の結果、任意整理が難しいと判断された場合には、自己破産などの他の解決策を提案することもあります。
本当に弁護士に依頼する必要があるのか
借金に悩む多くの人が、将来への不安から任意整理をしようとしています。しかし、自分1人では解決策を見つけられず、考え込むうちに時間が経過してしまい、精神的なストレスが増すばかりです。弁護士に依頼することによって問題を整理し、客観的な見通しを立てることができるため、精神的な安定を得られるだけでなく、現実的な未来像が見えてきます。
そのため、積極的に弁護士の相談サービスを利用し、まずは話をすることが大切です。そして、依頼するかどうかを慎重に検討すればよいのです。相談の結果、依頼することが決まったら、弁護士は債権者に対して、依頼者が任意整理を希望していることと、弁護士が代理人として活動する旨を通知します。
この手続きは「受任通知」と呼ばれ、さらに金融機関に対しては過去の取引履歴の開示を求めることも含まれます。弁護士に任意整理を依頼することで、先の見えない不安から解放され、将来に向けた具体的なビジョンが見えてきます。そのため、弁護士に相談し依頼を検討することは、非常に重要であると言えるでしょう。
任意整理の手続きの流れ
弁護士に任意整理を依頼すると、それ以降の手続きは弁護士が代理人として金融機関との交渉を行い、必要な書類の準備も任せることができるため、依頼者の負担が大幅に軽減されます。
- 受任通知の送付
弁護士が任意整理の依頼を受けると、基本的にはその日のうちに金融機関に受任通知が送付されます。これにより、金融機関からの返済請求が停止し、依頼者は和解が成立するまで、返済に追われることがなくなります。弁護士は金融機関から取引履歴を取得し、利息制限法に基づいて利息の再計算を行いますが、この際に借金の減額や過払い金の可能性についても確認します。
- 分割返済計画の提案
弁護士は次に、依頼者が無理なく返済できる金額を算出し、金融機関に対して残債の分割払いを提案し、交渉を行います。和解が成立するまでの間、依頼者は返済が猶予されている分の金額を、できるだけ積み立てておくことで、返済再開や弁護士費用に対して余裕を持つことができます。
- 和解合意書の作成と返済再開
双方が返済計画に合意すると、和解内容を記載した合意書が作成されます。この和解合意書に基づき、依頼者はその後の返済を確実に行っていくことになります。
- 返済完了
和解合意書に従い、すべての債務の返済が完了した時点で、任意整理手続きも終了します。これらの手続きは、順調に進めば約3ヶ月、多少時間がかかる場合でも、約6ヶ月程度で完了するのが通常です。もし交渉に難色を示す金融機関があった場合は、その業者を除いた債権者との和解を先にまとめ、残る金融機関との交渉をじっくり進めるやり方もあります。
任意整理に関連する法律は?
債務整理は、民法に基づく手続きであり、法律的な枠組みが作られています。また、債務整理に関する法律は、債権者と債務者の権利を保護するために設けられています。ただし、任意整理は債務整理の中に含まれますが、法律による規定がなく裁判所を通さずに行われます。
弁護士に依頼するメリット
任意整理について弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。
- 消費者金融からの取り立てが停止する
弁護士が介入することにより、債務者に対する直接的な取り立ては法律によって禁止されます。弁護士は依頼を受けるとすぐに介入通知を送付し、迅速に取り立てを止めることができます。
- 借金の返済を一時的に中断できる
弁護士に依頼して任意整理が進行している間は、返済を一時的に停止することが可能です。この期間を利用して手続きの準備を進めたり、返済に充てるお金を用意することができます。
- 借金の免除や減額の可能性がある
任意整理の手続きを依頼すると、弁護士は利息制限法に基づいて利息の再計算を行います。これにより、貸金業者が主張する利率ではなく、法律に基づいた利率を適用できるため、借金を減額できる可能性があります。
交渉の代行は弁護士がしてくれるのか?
弁護士に依頼することにより、任意整理全般を代行してもらうことができます。任意整理を進める中で、自分が思っていた以上に借金が多いことに、気づくことも少なくありません。調査の結果、債務額が140万円を超えている場合、司法書士に依頼していたとしても、その司法書士に辞任してもらい、新たに弁護士に依頼し直す必要があります。
また、債務が予想以上に多かったために任意整理ができず、自己破産や個人再生を選択せざるを得ないこともあります。このように債務額が不明確な場合は、どの債務整理を選ぶべきか判断が難しいことがありますが、弁護士に相談しておけば、手続きの変更にもスムーズに対応してもらえます。
さらに、すべての手続きにおいて弁護士が代理を務めるため、債権者との交渉や裁判所などとのやりとりを任せることができ、債務者自身はストレスから解放されるという大きなメリットがあります。
弁護士に依頼する際にかかる費用
任意整理を弁護士に依頼する場合、着手金、報酬金、過払い金返還報酬金、手数料などの費用が発生します。これらの費用は債務の総額、債権者の数によって異なります。
それぞれの費用の目安は、以下の通りです。
- 法律相談料
任意整理を弁護士に依頼する際に、まず必要となるのが法律相談料です。これは、借金問題について弁護士に相談する際にかかる費用です。任意整理を行う場合は、いきなり手続きを依頼するのではなく、まず法律相談を受ける必要があります。
法律相談料は一般的に30分あたり5,500円(税込)が相場ですが、最近では多くの弁護士事務所が、借金問題に関する無料相談を実施しています。
- 着手金
任意整理にかかる費用の1つに、着手金があります。着手金とは、弁護士に任意整理の手続きを依頼した際に、最初に支払う費用です。着手金の金額は、依頼する弁護士事務所によって異なりますが、債権者1件につき2万円~4万円程度が相場です。
報酬金について
任意整理に関連する弁護士費用には、報酬金も含まれています。報酬金とは、案件が解決した際に、その解決内容に基づいて発生する費用のことです。金額は依頼する事務所によって異なりますが、債権者1件につき2万円程度が相場です。基本報酬金は、任意整理で相手方と合意に達した際に発生します。
この費用は事務所によって異なる場合があり、発生しないこともあります。減額報酬金は、債権者との交渉によって借金が減額された場合に発生する費用です。減額の程度によって金額が変動しますが、減額できた金額の5%~10%程度が相場です。
実費について
実費とは、任意整理を行う際に実際にかかる費用のことです。具体的には、交通費や裁判所に支払う手数料、郵便切手代などが含まれます。任意整理にかかる実費は、主に債権者とのやり取りに必要な郵便切手代などであり、金額は5,000円前後で済む場合がほとんどです。
弁護士に依頼すると期間は短くなるのか?
弁護士に依頼した場合にかかる期間は、下記の通りです。弁護士に依頼すると、交渉がスムーズに進められますが、それでもこれだけの期間がかかります。
和解契約締結までの期間
司法書士や弁護士に相談し、任意整理の費用や手続き内容に納得できれば、相談当日に委任契約を結ぶことが可能です。相談者の代理人となった弁護士が、受任通知と取引履歴の開示請求書を貸金業者に送付してから、過払い金の金額を算出するまでには約1ヶ月を要します。
過払い金の金額が算出された後、和解案の作成、和解交渉、和解契約書の締結にはさらに約2ヶ月ほどかかります。任意整理は、各貸金業者との交渉が必要なため、複数の貸金業者の借金を整理する場合には、全体で約3ヶ月程度かかることがあります。
和解契約を結ぶまでの期間は、任意整理を行う貸金業者や借金の金額によって異なるため、具体的な期間についてはケースバイケースです。
借金完済までの期間
一般的には、和解契約を結ぶ際の返済期間は3年(36回払い)から5年(60回払い)が多いのですが、貸金業者によっては、返済期間を5年(60回払い)以上延長できる場合もあります。
ただし、任意整理を行う前に借金を返済していた期間が1年未満の場合、貸金業者に対する返済実績が少ないため、返済期間を2年程度にしか延ばせない場合もあります。また、任意整理を行うと、新たな借り入れやローンの審査が通りにくくなる期間があるため、注意が必要です。
弁護士に依頼する方法は?
弁護士に依頼する場合はネットで検索して、任意整理を請け負ってくれる弁護士を探すのが通常です。
弁護士に依頼する際は、以下の点に注意しましょう。
親身な対応と丁寧な相談が受けられるか
任意整理を依頼する場合、「弁護士の質」は非常に重要な要素です。弁護士にもさまざまなスタイルがあり、迅速に業務を進めるタイプや、相談者の話にじっくり耳を傾けるタイプもいます。借金は非常にデリケートな問題であり、任意整理を行う際には、「生活に影響が出るのではないか」「本当に解決できるのか」、といった不安がつきまといます。
しかし、担当の弁護士が、親身になって対応してくれれば安心できるでしょう。また、任意整理は弁護士と密に連携して進めるため、相性も重要な要素となります。
弁護士費用が明確で適正か
任意整理を依頼する際に必要な弁護士費用も、弁護士選びにおいて重要なポイントです。特に、以下の点を確認しておくことが大切です。
- 費用が明確か
任意整理にかかる弁護士費用が、明確になっているか確認しましょう。弁護士事務所によっては、費用が不明瞭な場合もあります。費用がはっきりしないと、後から追加費用が発生し、支払いが困難になるおそれもあります。また、費用の支払い方法について、事前に確認することも大切です。具体的には、以下の点をチェックしておきましょう。
- 分割払いの選択肢があるか
分割払いと同時に、積立金制度を利用できるかどうかも確認しましょう。これらのオプションが利用可能であれば、すぐに全額を用意できなくても、任意整理を依頼できる可能性があります。
ちなみに積立金制度とは、任意整理の和解交渉や申立てを行うまでの期間に、毎月一定額を積み立てる制度です。
受任通知が送付された後、返済が停止している間に積み立てることが可能です。この積立金は、弁護士費用に充てたり、返済が難しい月の一時金として利用することができます。
- 金額は適正か
任意整理にかかる弁護士費用が、適正かどうかも重要なポイントです。任意整理の場合、弁護士費用は5~15万円程度が相場です。具体的な費用は、見積もりを受けるまでわかりませんが、だいたいの費用は弁護士事務所のWebサイトで確認できます。もし費用が相場よりも高ければ、他の事務所を検討することも考えましょう。
弁護士事務所によって、得意とする案件の分野は異なります。任意整理の相談や解決実績が豊富な事務所であれば、依頼者の状況に応じた適切な解決策を提案してもらえる可能性が高まります。また、経験豊富な弁護士が在籍していれば、債権者との和解交渉をより有利に進めることができるでしょう。
事務所へのアクセスの重要性
弁護士事務所は、問題が発生した際にすぐに相談できるよう、通いやすい場所を選ぶことが大切です。任意整理を依頼する場合は、事務所に訪れる回数が1回で済むとは限りません。状況によっては、3〜4回通う必要があることもあります。もし事務所が自宅や職場から遠いと、時間や交通費がかかり、訪問が面倒に感じるかもしれません。
このような通いづらさが原因で手続きが遅れると、問題解決にも時間がかかってしまいます。全国に拠点を持つ事務所であれば、住んでいる地域からアクセスしやすいので便利です。近くに事務所がない場合は、以下の選択肢を検討すると良いでしょう。
- 出張相談に対応している事務所
- 契約に関する面談をオンラインや電話で行える事務所
ただし、弁護士に任意整理を依頼する際には、対面での面談が必要です。
デメリットやリスクを明確に説明してくれるか
債務整理には、デメリットやリスクが伴います。それを理解せずに手続きを進めると、後悔することになりかねません。そのため、メリットだけを強調する弁護士は避けた方が良いでしょう。
任意整理のデメリット・リスクは以下の通りです。
- 和解(合意)が必ずしも成立するとは限らない
- 信用情報に事故情報が登録される
- 減額の割合が少ない場合もある
弁護士に依頼しても、このようなデメリットやリスクがあり得ることを、知っておく必要があります。
まとめ
任意整理は、借金問題を解決する有効な方法です。弁護士に任意整理を依頼すると、ある程度の費用がかかりますが、それを上回るメリットがあるのも事実です。借金を返済できなくなったら、1人で思い悩んでいるより弁護士に相談するほうが、よりよい解決へとつながります。