離婚の財産分与とは?対象や割合、弁護士に依頼するメリットは?
【この記事の法律監修】
渡邊 律弁護士(栃木県弁護士会)
渡邊律法律事務所
本記事では、離婚における財産分与の基本的な考え方から、その種類(清算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与)、具体的な手続の流れ、そして財産分与の対象となる財産の範囲や評価方法について詳しく解説します。また、財産分与を行わない場合の注意点や、家庭裁判所での手続、税金に関する問題、そして弁護士に依頼するメリットについても取り上げています。
本記事を読むことで、離婚の財産分与に関する全体像を把握し、手続や注意すべきポイントを理解できます。離婚の財産分与を進めるにあたって、適切な判断と行動のための指針ができ、不利な条件で合意してしまうリスクを避けられるでしょう。
1.離婚の財産分与とは?
離婚の財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配することが主な目的です。
ここでは、離婚の財産分与の種類、財産分与をしない離婚について解説します。
1-1.財産分与の種類
離婚の財産分与はその性質により清算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与の3種類があります。
1-1-1.清算的財産分与
清算的財産分与は、婚姻中に築いた夫婦共有財産を離婚時に清算して分ける財産分与です。一方が会社に勤めていて、もう一方が専業主婦(夫)だとしても、基本的には2分の1ずつで財産分与します。これは、家庭内の家事は労働として判断され、会社に勤めていて給与を得ていることと何ら変わらないからです。
1-1-2.扶養的財産分与
離婚後、一方が病気がちで働けない、高齢で再就職が難しいなど経済的な不安が残る場合に、経済的に余裕があるもう一方が今後の生活を援助するための財産分与です。清算的財産分与で生活に必要なだけの十分な分与があれば、扶養的財産分与は認められないこともあり、必ず生じるものとは限りません。
1-1-3.慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与は、夫婦の一方が精神的苦痛を受けた場合の損害賠償としての性質を持つ財産分与です。慰謝料請求は財産分与とは本来別に請求すべきものですが、同時に解決することが双方にメリットがある場合などに行われます。
1-2.財産分与をしない離婚
お互いに合意できれば財産分与をしない離婚も可能です。このように財産分与しないと決めることを財産分与権の放棄と言います。
一旦、財産分与権の放棄をする合意書を作成してしまうと、後で撤回することができにくくなる場合がありますので、放棄するかどうかは感情に任せず、慎重に選択する必要があります。また、相手方が財産分与権を放棄した場合は、公正証書に合意内容を残しておくと、後日の証拠となるため安心です。
2.離婚の財産分与の流れと家庭裁判所での手続
離婚の財産分与は、基本的に夫婦の話し合いで行われます。しかし、合意ができない場合、DVなどでそもそも話し合いができない場合は、家庭裁判所での手続を行います。
2-1.夫婦での話し合いについて
離婚と財産分与についての話し合いは、下記の手順で行います。
2-1-1.財産目録の作成
お互いの財産をすべてリストアップし、財産目録を作成します。夫婦の共有財産にならない婚姻前からの財産、親からの相続や贈与により取得した財産も一旦提示した上で除外します。不動産、株式などの有価証券は時価に換算しますが、時価評価の方法については、後述します。
すべての共有財産が把握できれば、総額を算出します。
2-1-2.財産分与の分配割合を話し合う
共有財産の総額から分配割合を話し合います。原則は2分の1ずつですが、お互いに協議して自由な割合で分配する取り決めを行うこともできます。
また、調停や裁判になった場合で下記のように平等・公平とは言えない状況であれば、2分の1以外での分配割合が認められることもありますが、例外的な扱いとなります。
- 一方が特別な才能・才覚により多額の収入を得ていた場合
- 一方が特別の特別な努力などで多額の財産が形成された場合
- 一方が財産を極端に浪費していた場合
- 長期間にわたり婚姻費用が未払いだった場合
2-1-3.分割方法について話し合う
分配割合が決まれば、それぞれの財産を分配する方法について話し合います。現金であればお互いの口座間への振込が可能ですが、不動産や株式など現物の財産は、下記の3つの分割方法で分割します。
- 現物分割:不動産や株式をそのままどちらかが取得する方法
- 換価分割:第三者に売却して現金化(換価)して分割する方法
- 代償分割:一方が特定の財産を取得する代わりに、対価として現金等を支払う方法
上場株式の場合には証券会社に相談し、手続きを取り、名義変更を行いますが、非上場株式は上場株式のような株価が無いため、非上場株式の価格は会社の経営状況等の様々な方法によって時価評価します。さらに、ほとんどの非上場株式は株式譲渡制限が有るため、名義変更には株主総会の承認等が必要です。
夫婦の共有財産に非上場株式が含まれる場合は、弁護士や税理士などの専門家への相談が必要でしょう。
2-1-4.公正証書で協議離婚合意書を作成する
財産分与の分配割合、分割方法と離婚条件について合意できれば、公証人役場で協議離婚合意書を作成します。
支払いがされない場合に備えて、強制執行認諾付の公正証書の作成をおすすめします。強制執行認諾とは、合意した金銭の支払いが滞った場合に強制執行されてもかまわないとの受諾した旨の定めを記載することです。
強制執行認諾があれば、万が一支払いが履行されない場合でも、裁判手続を経ることなく強制執行が可能となります。
2-2.家庭裁判所での財産分与
離婚の財産分与について、夫婦の話し合いで合意できない場合は家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てます。
離婚の財産分与は離婚前、離婚後でも請求できますが流れが少し変わります。また、離婚後に財産分与が請求できる期限は離婚成立後2年以内である点に注意が必要です。
(財産分与)
民法 第七百六十八条協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
引用:e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)
2-2-1.離婚と同時に財産分与を行う場合
離婚と同時に財産分与を行う場合には、家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚)を申し立てます。離婚などの家事事件は、いきなり訴訟することができず、原則として訴訟を提起する前に家事調停を経ることになっています。これを「調停前置主義」と言います。
家事調停は裁判官または家事調停官(弁護士で5年以上その職にあり、最高裁判所から任命された人)と国民の中から選ばれた家事調停委員2人以上によって構成される調停員会が、当事者や関係人から、それぞれの言い分を十分に聴きながら、話し合いを行います。その上で、中立の立場から、双方の利益を公平に考慮し、適切で妥当な解決が得られるようにあっせんをします。
引用:家庭裁判所の取り扱う事件と手続2頁|裁判所
離婚調停では離婚条件、財産分与について協議し、合意が得られれば調停成立となり、調停内容に従って財産分与を行います。調停で定められたとおりに財産分与が行われない場合は、支払うように勧告することを家庭裁判所に申し出ることもできます。
また、離婚も成立しているため、調停成立日を含めて10日以内に夫婦の本籍地または申立人の所在地(住所地又は居所)にある市区町村役場へ調停調書謄本をそえて離婚の届出をする必要があります。
離婚調停で合意が得られず不成立となった場合は、別途訴訟を提示し、最終的に家庭裁判所の判断を求める方法を選択することもあります。
2-2-2.離婚後に財産分与を行う場合
離婚後に財産分与を行う場合は、離婚成立後2年以内に家庭裁判所へ財産分与請求調停事件として申し立てます。既に離婚は成立しているため、財産分与について解決に向けた協議のみを行います。
話し合いがまとまらず調停が不成立になった場合、離婚調停と違い、自動的に審判手続が開始されます。審判手続では裁判官が必要な審理を行った上で、一切の事情を考慮して審判をします。
また、離婚後の財産分与については調停前置主義が適用されず、調停を経ずに審判や裁判を申し立てることも可能です。しかし、実際には、調停を行える状況であれば裁判所が当事者の意見を聞いた上で調停手続に付されることが多いです。
2-3.財産分与の請求期限
財産分与の請求期限は前述のとおり、離婚成立後2年です。離婚成立後2年以内に財産分与請求調停を申し立てていれば、調停中に離婚成立後2年を迎えてしまっても、財産分与は受けられます。
ただし、調停を取り下げてしまうと「財産分与について話し合う必要はありません」という意思表示になってしまいます。そうなると調停がなかったこととなり、財産分与を請求する権利を失うため、取り下げは慎重に行う必要があります。
2-4.財産分与の基準時は?
清算的財産分与の対象となる夫婦共同財産を確定する基準時は、離婚成立時まで同居していれば、原則として離婚成立時が一般的です。しかし、離婚前に別居している場合、原則としては別居時が一般的とされています。
財産分与の基準時は、夫婦共同財産がいつからいつまでの財産か確定させる、不動産や株式など価値が変動する財産の評価時期を決めるために重要です。ここでは、別居時が財産分与の基準時となる理由、財産評価の時期について解説します。
2-4-1.別居時が財産分与の基準となる理由
夫婦共同財産は婚姻中に夫婦で築いた財産とされており、夫婦が離婚を前提に別居しているのであれば、経済的にも協力関係が破綻していると判断されます。ただし、単身赴任での別居、育児で一時的に実家住んでいるなど、別居に正当な理由があれば、夫婦による協働関係が継続しているとみなされ、基準時が離婚時など別の時点と判断される可能性があります。
2-4-2.不動産や株式の財産評価のタイミングは?
不動産や株式の価値は常に変動しているため、公平な評価時期の設定が必要です。離婚前の財産分与であれば、離婚が成立した財産分与時で評価することが多いです。
離婚後の財産分与については、協議成立時や別居時にしてしまうとその後の価格変動に合わせて、わざと協議を長引かせる恐れがあることや、その価格変動が夫婦の協働によるものよりも外的要因に基づくことが多いことから、協議完了時(財産分与時)の時価を基準とされることが多いところです。
2-5.財産分与はどちらから請求できる?
離婚の財産分与は夫婦のどちらからでも請求できます。財産分与は清算的財産分与の面から考えると、離婚に向けた夫婦共同財産の清算のための請求であり、不倫などで離婚原因を作った有責者側からでも財産分与の請求は可能です。
不倫などの慰謝料については、慰謝料として請求するか、他の財産分与と併せ、慰謝料的財産分与として請求したりします。
3.財産分与の対象は?
夫婦の財産は、夫婦が婚姻中に協同して築いた共有財産と、夫婦の一方が単独で築いた特有財産に分けられ、共有財産のみが財産分与の対象となります。共有財産と特有財産の違いは次のとおりです。
3-1.共有財産
共有財産となる主なものは次のとおりです。
3-1-1.不動産
婚姻後に購入した自宅の土地建物、マンションなどは共有財産です。一方が引き続き住む場合は、不動産をそのまま取得する現物分割、もう一方に対価を支払って不動産を取得する代償分割の2通りがあります。どちらも住まない場合は、売却して売却代金を分割します(換価分割)。
3-1-2.現金・預貯金
婚姻中に貯めた現金・預貯金は共有財産です。生活費を節約して貯めたへそくりも共有財産となる点に注意しましょう。
3-1-3.車
婚姻中に購入した車は共有財産です。婚姻前の貯金で買った車、婚姻前から所有している車は特有財産ですが、車検代など維持費を共有財産から支払っていた場合は共有財産と判断される場合もあります。
3-1-4.家財道具
婚姻中に購入した家財道具も共有財産となり、婚姻前から所有している家財道具は特有財産です。
3-1-5.退職金
退職金は「給与の後払い」と考えられているため、預貯金と同様に、退職金も共有財産となります。
ただし、婚姻期間中に働いた期間に対する退職金のみが共有財産となり、婚姻前に働いていた期間に対する退職金は特定財産とされます。また、退職金がまだ支払われていない場合は、勤務している方の年齢や勤務状況、会社の状況等により、財産分与の対象とならない場合もあります。
3-1-6.年金
婚姻中に厚生年金に加入し、一定の条件を満たしていれば、厚生年金は共有財産として財産分与が可能です。厚生年金の財産分与には合意分割制度と3号分割制度の2種類があり、それぞれの内容と条件は次のとおりです。
合意分割制度は、婚姻期間中の厚生年金記録を当事者間で分割する制度で、離婚後に2人で年金事務所に赴き、請求手続を行います。合意分割制度の条件は下記の2つです。
- 双方の合意や裁判手続により年金分割の割合を定めている
- 請求期限(離婚をした日の翌日から起算して2年)を経過していない
3号分割制度は、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度です。第3号被保険者であった方が年金事務所にて、単独で手続ができます。3号分割制度の条件は下記の2つです。
- 平成20年4月1日以後に、夫婦のどちらか一方に国民年金の第3号被保険者期間がある
- 請求期限(離婚をした日の翌日から起算して2年)を経過していない
なお、国民年金など他の年金にはこの制度はありません。
3-1-7.株などの有価証券
株などの有価証券は、前述したとおり財産分与時の時価に応じて分割します。とくに、非上場株式の分割は専門的な知識が必要な点にも注意してください。
3-1-8.保険
婚姻中に加入していた保険についても共有財産として、財産分与の対象になります。学資保険など契約を継続したいものについては、保険を受け取る側が相手に代償金を支払う代償分割で財産分与する場合もあります。それとは異なり、保険契約を解約して解約返戻金を分割する方法もあり得ます。
保険についても、婚姻前と婚姻後に支払っていた期間を明確にした上で案分します。
3-1-9.住宅ローン
住宅ローンについても、婚姻期間中に住宅ローンを支払った期間に応じてマイナスの財産として共有財産に含まれます。しかし、他の財産と違い、住宅ローンの債権者(銀行などの金融機関)が存在し、夫婦だけで勝手に分割することはできません。
離婚後にどちらが住むか、住宅ローンはどちらが支払うか、支払い能力はあるか、を含めて金融機関との調整が必要です。名義変更は、抵当権等を有している債権者が認めないと、移転しないことが原則です。
自宅不動産の住宅ローンも名義も金額が大きく、財産分与で重要な要素になるため、できるだけ早い段階で銀行に報告した上で、分割方法について相談しましょう。
3-2.特有財産
婚姻前から持っていた預貯金、実家の親から相続や贈与で取得した財産は特有財産として、財産分与の対象外となります。
3-2-1.一方が婚姻前に取得した財産
婚姻前から貯めていた預貯金、婚姻前から所有していた衣類、家財道具、パソコンなども特有財産です。
3-2-2.一方が親などから相続した財産
亡くなった親などから相続した財産は代表的な特有財産です。ただし、相続した不動産を夫婦が協力して維持管理に努めた場合などは、共有財産とみなされる可能性があります。
共有財産と特有財産を一緒に管理してしまうと分からなくなり、夫婦共有財産とみなされる場合もありますので、相続した財産などは個人の口座で管理し、夫婦の口座と分けておくと良いでしょう。
4.離婚の財産分与についてのQ&A
離婚の財産分与について、よくある質問と回答は次のとおりです。
4-1.財産分与の割合は?
財産分与の割合は、基本的に2分の1ずつです。一方が働いていて、もう一方が専業主婦(夫)だったとしても、夫婦がそれぞれの役割を果たした結果、共有財産が築けたと考えるためです。
ただし、一方が特別な才能や才覚により多額の収入を得た、逆に一方がギャンブルによる浪費があった、など2分の1ずつの分配が不公平と考えられるケースでは、分配割合が調整される場合がありますが、例外的です。
4-2.財産分与をしなくていいケースとは?
上述しておりますが、「離婚の財産分与をしない」という財産分与請求権の放棄をしていた場合は、財産分与をしなくても大丈夫です。財産分与権の放棄は口頭でも可能ですが、離婚時または離婚後に気が変わって財産分与が請求された時に証拠として提示できるよう、公正証書を作成しておきましょう。
4-3.離婚の財産分与で財産をもらった人の税金は?
離婚の財産分与で財産をもらった人に関係する税金は次のとおりです。
4-3-1.贈与税
離婚の財産分与でもらった財産については、原則として贈与税は非課税で、申告も不要です。これは、相手方からの贈与ではなく元々夫婦共有であった財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき取得したものとされているからです。
ただし、婚姻中に夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多すぎる場合や、贈与税や相続税を逃れるために離婚が行われたと認められる場合は、財産分与で受け取った財産全てに贈与税が課税されます。
4-3-2.登録免許税
財産分与による不動産の名義変更は、ご自身でも行えますが、代理人として司法書士に所有権移転登記を依頼して行うことも可能です。登録免許税は所有権移転登記を申請する際に法務局に納める印紙代で、不動産の固定資産税評価額の1,000分の20(2%)です。
一般的には、登記申請時或いは司法書士に依頼した時等に、登録免許税を支払います。
4-3-3.不動産取得税
売買等で不動産を取得した場合は、不動産取得税が課税されます。しかし、離婚の財産分与が以下の2要件を満たす場合は、形式的に財産権の移転が行われることはあっても、当然の所有権の帰属を確認する趣旨にすぎず、これによって実質的に財産権の移転が生じるものではないとされ、不動産取得税は課税されません。
- その財産分与が、実質的に夫婦の共有財産の分割と認められるものであること
- その財産分与が、婚姻中の財産関係を清算する趣旨のものであること(清算的財産分与)
ただし、この不動産の財産分与が慰謝料的財産分与または扶養的財産分与に該当する場合は、実質的な不動産所有権の移転とみなされ、不動産取得税が課税されます。
4-4.離婚の財産分与で財産をあげた人の税金は?
離婚の財産分与で不動産や株式などの価値が変動する財産をあげた人は、譲渡所得税が課税される可能性があります。不動産や株式は財産分与時の時価で評価され、購入した時の取得費から高くなっていれば、その差額だけ利益が出ていたとみなされて、差額分(利益)に対する譲渡所得税が課税されます。
不動産を譲渡する場合には譲渡所得税についても考慮して、財産分与の金額を決めることも一つです。
4-5.財産分与にかかる税金についての判例は?
離婚の財産分与に課税される譲渡所得税の錯誤を理由として、錯誤無効の余地が認められた判例があります。この判例の要旨は次のとおりです。
協議離婚に伴い夫が自己の不動産全部を妻に譲渡する旨の財産分与契約をし、後日夫に二億円余の譲渡所得税が課されることが判明した場合において、右契約の当時、妻のみに課税されるものと誤解した夫が心配してこれを気遣う発言をし、妻も自己に課税されるものと理解していたなど判示の事実関係の下においては、他に特段の事情がない限り、夫の右課税負担の錯誤に係る動機は、妻に黙示的に表示されて意思表示の内容をなしたものというべきである。
引用:協議離婚に伴う財産分与契約をした分与者の課税負担の錯誤に係る動機が意思表示の内容をなしたとされた事例|最高裁判所 裁判例結果詳細
夫は妻に財産分与として不動産をすべて譲渡し、夫は妻に譲渡所得税が課税されることを心配して気遣う発言までしていました。しかし、実際には夫自身(譲渡者)に2億円を超える譲渡所得税が課税され、夫は「こんなに譲渡所得税がかかるなら財産分与しなかった。税金についての錯誤があったため、財産分与は無効だ。」と主張しました。
最高裁判所は夫が妻に譲渡所得税がかかる心配をして声をかけていたことなどから、夫の錯誤による財産分与の無効を認める余地があると判断し、原審(東京高裁)へ差し戻し、最終的には錯誤無効が認められました。
この判決に対しては反対意見もあり、現代では譲渡所得税の課税に対する不知は重過失と判断される可能性もあります。しかし、財産分与の過程で勘違いや合意の漏れがあると、錯誤取消(※現行民法では、無効でなく取消)が認められるケースがあるということを知っておき、財産分与成立までの過程も慎重に行うことが大切です。
4-6.財産分与を弁護士に依頼するメリットは?
財産分与を弁護士に依頼する代表的なメリットは3つあります。
4-6-1.正確な共有財産を知ることができる
弁護士は夫婦の共有財産と個人の特有財産の仕分け、隠し財産の有無の検討等(網羅的一般的に金融機関に財産開示を求め、調査する権限があるわけではなく、現在ある資料を精査し、隠し財産の存在の端緒を発見することが主となります。)、不動産や非上場株式の時価評価等の検討してくれるため、正確な共有財産を知ることができます。正確な共有財産を知ることができれば、分与額の交渉を有利に進められるでしょう。
4-6-2.代理人として交渉してくれる
弁護士は代理人として法律の専門知識を駆使して財産分与が優位になるよう交渉してくれるでしょう。また、関係が悪くなった相手と顔を合わせずに財産分与の交渉が進められることも大きなメリットです。また、財産分与だけではなく離婚問題も含めてすべてについて依頼できます。
4-6-3.調停、裁判にも対応してもらえる
話し合いが合意に至らず、離婚調停や裁判に発展した場合でも、弁護士ならば対応してもらえるため、とても安心です。
4-7.弁護士に依頼した方がいい財産分与のケースは?
弁護士に依頼した方がいい財産分与のケースは次のとおりです。
- 借金や住宅ローンがある:金融機関との交渉が必要な場合、法律知識が必要となる場合があります
- 不動産や有価証券がある:時価評価となる不動産や有価証券(株式など)は、正確な評価が必要です
- 離婚成立後の財産分与:離婚成立後の財産分与は相手方が簡単に認めないことが多いため、交渉力のある弁護士を立てた方が良いでしょう
4-8.財産分与にかかる弁護士費用は?
一般的な財産分与にかかる弁護士の相談料の相場は次のとおりです。また、着手金・報酬金については弁護士によって差があることもありますので、依頼前に見積もりをもらうことも一つです。
4-8-1.相談料
相談料は30分5,500円が相場です。事前に事実関係と聞きたいことをまとめておくと、相談時間・相談料の節約につながるでしょう。
4-8-2.着手金
着手金は、弁護士に正式に依頼する際にかかる費用で、原則依頼時に一括で支払います。
事情によっては後払いや分割払いに対応してくれる場合があります。
4-8-3.報酬金
報酬金とは、弁護士による案件の処理が成功した場合にのみ、依頼人が実際に得た経済的利益に応じて事後に請求される料金のことです。
希望額には達しなかったが、一定の財産分与や慰謝料等を得た場合など、部分的な成功した場合も含まれ、その度合いに応じて支払いが生じますが、全くの不成功(裁判でいえば全面敗訴)の場合は発生しません。
5.まとめ
離婚の財産分与は、夫婦で話し合って財産を2等分するだけでなく、共有財産の特定、不動産や有価証券の時価評価、扶養的財産分与・慰謝料的財産分与の要否、合意書の作成など、細かい手続や正確な判断が必要です。もちろん、お互いに合意すれば離婚も財産分与も成立しますが、財産分与成立までの経緯や合意書に漏れや不明瞭な部分、錯誤等があれば、財産分与の」取り決めの合意が無効或いは内容が認められない場合もあります。
後日のトラブルを防止し、適切な財産分与を行うためにはできるだけ早いタイミングから、法律の専門家である弁護士へ相談することをおすすめします。