任意整理すると住宅ローンはどうなるのか?持ち家はどうなる?いつから組める?
【この記事の執筆者】
幸谷 泰造弁護士(東京弁護士会)
市ヶ谷東法律事務所
任意整理を検討する際、特に住宅ローンを抱えている人にとっては、自宅を手放す必要があるのかという点が大きな不安材料となります。任意整理は、借金の返済条件を見直す手続きですが、他の債務整理と異なり、住宅ローンの扱いには独自のルールがあります。
この記事では、任意整理を行った場合に住宅ローンがどのように扱われるのか、家を守るために考慮すべきポイントについて詳しく解説します。
任意整理とは?
任意整理とは、債務整理方法の一つです。債務整理の方法は主に任意整理、個人再生、自己破産の3種類があり、このうち任意整理は最も利用されている債務整理方法です。
具体的には、借金の返済が難しい状況になった際に、債務者が弁護士や司法書士などの専門家を通じて債権者と直接交渉し、返済条件の見直しを行う手続きです。裁判所を介さないため、比較的スムーズに進められます。
任意整理は、利息や遅延損害金のカットや毎月の返済額の減額を主な目的としており、債権者との合意により通常、3~5年をかけて無理のない範囲で借金を返済していきます。
任意整理にかかる費用は?
任意整理を行う際にかかる費用は、依頼する専門家の種類(弁護士か司法書士か)、借金の総額、債権者の数によって異なります。以下では、任意整理に必要な費用の詳細を解説します。
弁護士や司法書士への報酬
任意整理は、基本的に弁護士や司法書士に依頼して進めるのが一般的です。費用の種類と相場は以下のとおりです。
着手金
着手金とは、任意整理の手続きを開始する際に支払う費用です。依頼時に支払うため、案件の結果にかかわらず発生します。着手金の相場は、債権者1社につき2万円~5万円程度です。債権者の数が多いほど着手金の額も増加します。
成功報酬
成功報酬は、任意整理が成功して借金の減額や返済計画がまとまった際に支払う報酬です。通常、借金がどれだけ減額されたかに応じて設定されます。相場は減額分の10%~20%程度です。
例えば借金総額が100万円減額された場合、減額された100万円の10%~20%である10万~20万円程度が成功報酬となります。
成功報酬は任意整理が成功した後に支払います。成功しなかった場合には支払う必要はありません。
過払い金報酬
過払い金が発生している場合、過払い金の回収が成功した際にかかる費用です。過払い金が戻ってきた場合、回収額の20%~25%が報酬として設定されることが一般的です。
手数料や実費
任意整理を行う際には、実際の手続きにかかる実費も発生します。例えば以下のようなものが実費としてかかります。
- 郵送費
債権者との書類のやり取りなどで必要な郵便切手やレターパックの代金です。
- 交通費
弁護士や司法書士が債権者と面談が必要な場合にかかります。もっとも、任意整理では裁判所に出頭する必要はなく、債権者とは郵送や電話での話し合いとなることが通常であるため、多額の交通費がかかることはありません。
- コピー代や手数料
書類のコピー代や役所での書類を取得する際の手数料です。これらの費用は通常、それほど高額にはなりません。
費用の一例
任意整理の費用は、債権者の数や借金の減額幅によって異なりますが、一例としては以下の通りです。
- 債権者が3~5社の場合
15万~30万円程度
- 債権者が10社以上の場合
30万~50万円程度
費用を用意するのが困難なとき
借金の返済が困難な状態であることから、上記の費用を用意するのは難しい場合もあるでしょう。その場合、法テラスという公的機関を利用することで、弁護士や司法書士の費用を立て替えてもらえる制度を利用できます。
法テラスを利用するために一定の条件を満たす必要がありますが、費用を分割払いで少額ずつ返済できるため、資金に余裕がない方でも利用しやすいです。
住宅ローンを組んでいても任意整理することはできるのか?
住宅ローンを組んでいる場合でも、任意整理を行うことは可能です。ただし、任意整理の際に住宅ローンをどう扱うかについては、いくつか注意しなければならない点があります。
住宅ローンは通常、他の借金と異なる取り扱いをされるため、特に注意が必要です。
以下では、住宅ローンを組んでいる場合に任意整理をする際の注意点を解説します。
住宅ローンは任意整理の対象外にする
任意整理では、債務整理の対象とする借金を選ぶことができます。そのため、住宅ローンを任意整理の対象から除外することが可能です。これにより、クレジットカードや消費者金融など他の借金だけを整理し、住宅ローンは従来通り返済を続けることができます。
住宅ローンは、債務の担保として住宅に抵当権が設定されているため、もし任意整理で住宅ローンを対象に含めてしまうと、抵当権が実行されて住宅が競売にかけられるリスクが高くなります。これを避けるため、住宅ローンをそのまま返済しながら、他の借金を整理することが一般的です。
住宅ローンを維持したまま他の借金を任意整理することで、家を守りながら、無理のない返済計画を立てることができます。たとえば、クレジットカードや消費者金融の利息や遅延損害金がカットされることで、返済総額が減り、住宅ローンの支払いに専念しやすくなります。
収入が安定していることが重要
任意整理後も住宅ローンの返済を続けるには、安定した収入があることが前提です。住宅ローンを対象外にするため、住宅ローンは通常通り返済を続けなければならず、また、任意整理をした債務の返済も長期にわたって行う必要があるため、しっかりとした返済計画が求められます。
住宅ローンが任意整理できない理由
住宅ローンは基本的に任意整理の対象に含めることができません。これは、住宅ローンが他の無担保債務とは異なり、住宅を担保とした担保付きの債務であるためです。
通常、任意整理の対象となるのは主にクレジットカード、消費者金融など無担保の借金です。任意整理は、債権者との交渉を通じて利息のカットや返済期間の延長を目指す手続きですが、担保がある住宅ローンの場合は、その対象とすることができません。
もし住宅ローンを任意整理の対象に含めた場合、債権者は抵当権を実行して競売にかける権利を持っています。つまり、住宅ローンの支払いを止めたり、条件を変更することを交渉しようとすると、家を失うリスクが高くなります。
住宅ローンがペアローンの場合
ペアローンは、主に夫婦や家族などが共同で住宅ローンを組む際に使われるローン形態で、それぞれが独立したローン契約を締結します。
ペアローンについて任意整理を検討する際には、各自のローンがどのように扱われるか、住宅をどう守るか、相手への影響を慎重に考慮する必要があります。
以下では、ペアローンで任意整理を行う場合のポイントを解説します。
ペアローンの特徴を理解する
ペアローンは、夫婦や親子などが共同で住宅を購入する際、それぞれが住宅ローン契約を締結するため、各自が独立したローン契約の債務者であることが通常です。
つまり、どちらか一方が任意整理を行うと、ペアローンの片方のみが影響を受けるのが原則です。
ただし、ペアローンではお互いが相手の債務の連帯保証人となっているケースが多いため、片方が任意整理を行うと、もう一方に影響が及ぶ可能性があります。連帯保証人は、債務者が返済できない場合に代わりに支払う義務があるため、ペアローンの一方が任意整理を行うと、もう一方が連帯保証人として一括請求を受けるリスクがあります。
そもそも住宅ローンは任意整理の対象外
ペアローンも住宅ローンの一つであり、担保付きの債務であることは変わりないため、一般的な住宅ローンと同様、任意整理の対象には含められません。
したがって、任意整理を行う際は、クレジットカードや消費者金融など住宅ローン以外の借金を整理することになります。
任意整理以外で債務整理した場合の住宅ローンの扱い
任意整理以外の方法で債務整理する場合、主に個人再生と自己破産の2つの手続きが考えられます。これらの手続きを利用する際、手続きの中での住宅ローンの取り扱いが大きなポイントになります。それぞれについて詳しく解説します。
個人再生
個人再生は、裁判所を通じて借金を大幅に減額する手続きです。借金が大きくても、一定の収入がある場合に、裁判所に再生計画を認めてもらうことにより債務の一部を3年(最長5年)かけて分割返済し、残りを免除してもらうことができます。
個人再生では、住宅資金特別条項(住宅ローン特例)を利用することで、住宅ローンを整理の対象から外すことができ、持ち家を維持することが可能です。
ただし、住宅ローンの返済を継続できない場合は家を失う可能性があります。
自己破産
自己破産は、裁判所に申し立てることにより一定の債務を除く全ての借金の返済義務を免除してもらう手続きですが、原則として住宅などの財産は手放さなければなりません。
住宅ローンも含めたすべての債務が対象となり、債務者が保有する財産は売却され、債権者に分配されます。
任意売却やリスケジュール
住宅ローン自体が支払えない場合、任意売却という選択肢もあります。これは、競売にかけられる前に、金融機関の同意を得て市場価格で家を売却する手続きです。競売よりも高値で売れることが多く、ローン残債が少ない場合は、売却後の残債務が大幅に減るかもしれません。
また、住宅ローンの条件を金融機関と再交渉する「リスケジュール」を行うことで、毎月の返済額を軽減し、延長した期間で返済を続ける方法もあります。この手続きでは、金融機関の承諾が必要ですが、持ち家を維持できる可能性があります。
任意整理中にやってはいけないことは?
任意整理を行う際に住宅ローンを抱えている場合、手続き中は慎重な行動が求められます。住宅ローンがある場合、間違った行動をすると家を失うリスクがあるため、以下の点に注意してください。
住宅ローンの滞納
任意整理手続き中でも、住宅ローンの返済は必ず続けることが重要です。住宅ローンは任意整理の対象から外れることが一般的であり、任意整理にかかわらず通常どおり返済を続けなければなりません。
滞納するとローン契約に基づいて抵当権を実行され、最悪の場合競売にかけられる可能性があります。住宅を守りたい場合、滞納だけは避けるべきです。
新たな借金の契約
任意整理手続き中に新たな借金をすることは避けるべきです。クレジットカードや消費者金融などで借り入れを行うと、信用情報に悪影響を与えるだけでなく、債権者との交渉も不利になる可能性があります。
特に、任意整理の交渉中に借金が増えると、債権者があなたの返済能力に疑問を抱き、交渉が難航する場合もあります。
任意整理の対象にする借金の選択を誤る
住宅ローン以外の借金については、どの債務を任意整理に含めるかを慎重に検討しましょう。例えば、高金利の借金を優先的に整理することが一般的ですが、特定の債権者だけを任意整理に含め、他の借金をそのままにしておくと、返済が困難になりかねません。
特に多重債務を抱えている場合は、全体的な返済計画を見直す必要があります。
弁護士や司法書士への報告義務を怠る
任意整理手続き中に、収入の減少や突然の出費など重要な経済状況の変化があれば、すぐに弁護士や司法書士に相談することが必要です。
任意整理手続きは債権者との直接交渉であり、状況の変化によっては、交渉内容を調整する必要が出てきます。
生活費や緊急費用の見通しが甘い
任意整理後は借金返済の負担が軽減されるものの、生活費や緊急費用をしっかり確保しておくことが大切です。特に住宅ローンを抱えている場合、予期せぬ支出や住宅修繕のための緊急費用を計画しておく必要があります。これがないと、返済が再び難しくなるリスクがあります。
任意整理後の家計管理を怠る
任意整理を行った後は、家計の管理がより重要になります。家計を見直し、毎月の支出をしっかり管理することで、無駄な支出を避け、安定した返済を維持することが求められます。
特に、住宅ローンは長期にわたる返済計画が必要ですので、手続き後の支出管理は重要です。
債務整理後に住宅ローンを組みたい場合に留意することは?
債務整理後に住宅ローンを組みたい場合、いくつかの点に留意する必要があります。債務整理を行った場合、信用情報に大きな影響を与え、一定期間ローンを組むのが難しくなります。
住宅ローンを組むためには、計画的な対策が必要です。以下では、債務整理後に住宅ローンを組む場合に留意すべき点を解説します。
信用情報機関にブラックリストとして登録される期間を考慮
債務整理を行うと、信用情報機関にその事実が事故情報として記録されます。いわゆる「ブラックリスト」に載った状態となり、ローン審査が通りにくくなります。各債務整理方法における信用情報への影響期間は以下の通りです。
- 任意整理
約5年間、信用情報機関に登録されます。
- 個人再生
約5~7年間、信用情報機関に登録されます。
- 自己破産
約7~10年間、信用情報機関に登録されます。
この期間中は、住宅ローンを組むことが非常に難しいです。したがって、債務整理後すぐに住宅ローンを組むことは現実的ではなく、信用情報から事故情報が削除されるまで待つ必要があります。
信用情報の回復
債務整理後の信用情報が回復するまでの期間を待ち、その後は徐々に信用を積み上げることが重要です。以下の対策が考えられます。
- クレジットカードやローンを利用して信用を回復する
信用情報が回復した後に、少額のクレジットカードやローンを利用して、毎月の支払いを遅滞なく行うことで、信用を再構築することが可能です。
- 安定した収入と支出の管理
収入を安定させ、支出を管理することで、ローン審査時に信用力をアピールできます。
金融機関はローン審査の際に過去の債務整理の状況を考慮しますが、信用情報が回復した後は、安定した収入や支払い実績があれば審査に通る可能性があります。
頭金の準備
信用情報が回復したとしても、金融機関は過去に債務整理が行われた履歴を気にすることがあります。そのため、審査に通りやすくするために、多めの頭金を用意することが重要です。一般的には、住宅価格の20%以上の頭金が理想的です。
頭金を多く準備することで、金融機関はリスクを軽減できるため、審査に通る可能性が高まります。
安定した収入
住宅ローン審査で最も重要な要素の一つは、安定した収入です。債務整理後に住宅ローンを組みたい場合、金融機関はあなたの返済能力を厳しくチェックします。安定した収入をアピールするためのポイントとしては、例えば以下の点が挙げられます。
- 正社員や長期の雇用契約
収入が安定している職業に就いていることが重要です。正社員であることや、雇用期間が長いことがプラスに働きます。
- 年収の一定基準を満たしている
借りたい住宅ローンの金額に対して、年収が適切であるかも審査で見られます。無理のない返済計画を立てることが求められます。
債務整理の履歴を説明できる
金融機関の審査では、過去に債務整理を行ったことがわかる可能性があります。その際、債務整理を行った理由とその後の改善状況を説明できることが大切です。
病気や失業など、やむを得ない理由がある場合、その事情をしっかり説明することで金融機関の理解を得られることがあります。
また、債務整理後に家計管理が改善し、現在の収入が安定していることを示す資料を用意しましょう。
ローンを組む金融機関の選定
債務整理後に住宅ローンを組む場合、すべての金融機関が審査に厳しいわけではありません。金融機関によっては、過去に債務整理をした人でも柔軟に対応するところがあります。
中小の地方銀行や信用金庫、住宅ローンに特化したローン会社など、選択肢を広げて探すことがポイントです。
特に中小の金融機関では、個々の事情に応じた審査を行う場合があります。
保証会社の審査に注意
住宅ローンを組む際、多くの場合保証会社を利用する必要があります。金融機関が債務者の代わりにローンを支払うため、保証会社の審査も通過する必要があります。
過去に債務整理を行っている場合、保証会社の審査基準に抵触する可能性があるため、注意が必要です。
弁護士に依頼する方法は?
今回は、任意整理が住宅ローンに与える影響や、任意整理後に住宅ローンを組むことができるのかについて解説しました。
住宅ローンを組んでいる場合、任意整理をするとマイホームを手放さなければならないのではないか不安になるかもしれません。
しかし、適切な方法で任意整理を行えば、マイホームを手放すことなく任意整理が可能です。場合によっては個人再生を申し立てて住宅ローン特則を利用する手もあります。
ただし、住宅ローンを抱えている人が任意整理を行う場合、より慎重に行動することが求められます。住宅ローンに悪影響が出ないよう、任意整理を利用するにあたってはまず弁護士に相談することをおすすめします。
10分から弁護士相談ができるので、自分の状況を簡単に箇条書きなどでまとめて相談してみましょう。
債務整理に関する相談は無料です。※相談カテゴリで「債務整理」を選択して下さい。