不法侵入とは?【被害者側、加害者側】罰則や有効な証拠、刑事と民事の違いとは?
【この記事の法律監修】
中山 明智弁護士(東京弁護士会)
名川・岡村法律事務所
住宅などに不法侵入されたというようなニュースを見たことがある人も多いかもしれませんが、どこからが不法侵入になるのか詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。
不法侵入といっても民事と刑事で違いがありますし、実際に不法侵入された場合の対処法についても知っておくと役立つでしょう。
また、不法侵入と建造物侵入では何が違うのか、被害届や告訴状、告発状の違いなど、事前に知ることで混乱せずに対処できます。
それでは、不法侵入とは何か、詳しい法律や裁判例などをご説明しましょう。
不法侵入とは?
前提として覚えておきたいのが、不法侵入という罪はないということです。
分かりやすく不法侵入と言っているだけで、実際は住居侵入罪や建造物侵入罪といった罪状に問われます。
不法侵入の一般的な定義は、『他人の敷地に無断で入る』といった行為が不法侵入にあたりますが、明確に犯罪行為として成立するのは刑法によって定められた罪名に該当していなければなりません。
なお、住居侵入罪、建造物侵入罪のの公訴時効は3年です。
関連法規について
不法侵入が犯罪として成立するのは、刑法第130条における以下の住居侵入罪に該当するかどうかです。
【刑法第130条(住居侵入等)】
『正当な理由がないのに、人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入し、または要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処する。』
以上の『人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入し、』の部分に該当する場合は不法侵入にあたるものとして処罰を受けます。
また、『要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者』の部分に該当する場合は不退去罪に該当するため、不法侵入と同様の処罰を受けます。
どこに侵入したかによって罪状が変わりますが、どちらに該当する場合でも罰則は変わりません。
単に他人の家にうっかり入っただけの人もいるかもしれませんが、懲役刑が用意されている以上、悪質なものだと判断されてしまうと実刑を受けてしまう可能性があります。
特に不法侵入によって逮捕されたとしても、その後も反省の色が見えないようであれば実刑を受ける可能性が高まるので注意しましょう。
不法侵入における民事と刑事の違いとは?
不法侵入における民事と刑事の違いは、対象、当事者、捜査の有無、裁判の内容の違いが挙げられます。
- 対象
不法侵入における民事事件の場合、対象は権利義務関係になります。
たとえば、不法侵入された建物を所有している権利は誰にあるのかという点などが挙げられます。
不法侵入における刑事事件の場合、不法侵入をした目的が悪質なものだと判断された場合、刑罰を科すかどうか、刑罰を科すならどんな刑罰になるのかを判断します。
- 当事者
不法侵入における民事事件の場合、原告と被告が民事裁判における当事者になります。
不法侵入の民事裁判における原告は不法侵入されて訴えを起こした人で、被告は不法侵入をして訴えを起こされた人です。
不法侵入における刑事事件の場合、被疑者、捜査機関が当事者になります。
刑事裁判になった場合、被告人と検察官が当事者になります。
- 捜査の有無
不法侵入における民事事件の場合、原告と被告が自分で証拠を集めることになります。
不法侵入における刑事事件の場合、警察官や検察官が捜査を行うため、自分で捜査を行う必要性はありません。
- 裁判の内容
不法侵入における民事事件の場合、訴訟提起がなされると民事裁判で権利義務の有無が判断されます。
侵入された建物の権利義務が原告にあると判断された場合、被告の占有権原の有無、侵入への正当理由の有無などについて審理されることとなります。
被告は民事裁判で負けたとしても前科が付くことはありません。
不法侵入における刑事事件の場合、検察官によって起訴されると刑事裁判で無罪か有罪かが判断されることとなります。
有罪判決が出た場合にはしかるべき刑罰を受け、前科が付きます。
民事になるとどのくらいの示談金が通例になるのか
もしも不法侵入による民事事件で示談になった場合、住居侵入罪のみが問題になるケースでの示談金の相場は、10万円~50万円となります。
ただし、あくまで相場なので内容によってはもっと高くなる可能性があるでしょう。
不法侵入の可能性がある場合の対処法
もしも不法侵入された可能性がある場合、後日逮捕するためにも証拠を集める必要性があります。
不法侵入の証拠として一般的に挙げられるものは、以下の通りです。
- 防犯カメラの影像
- 目撃者の証言
- 遺留物(財布、スマホ、名刺、指紋、DNA、足跡など)
以上の証拠によって該当する犯人と思しき人が不法侵入をしたことが判明すれば、後日逮捕の要件として適用される可能性があります。
逆に「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」を証明できる証拠が一切なければ、後日逮捕されることはありません。
ただ、実際は現場に証拠が残っていることも少なくないので、慎重に調査を進めることで証拠を集めることは十分にできるでしょう。
近年では防犯意識の急速な高まりから、自宅に防犯カメラを設置している世帯が増加している傾向にあります。
このことから、過去に不法侵入された自宅に再度不法侵入されたとしても、そのときの様子が防犯カメラに収められていれば、その映像が決め手となって犯人逮捕に至る可能性がグッと高くなります。
今や街中にも防犯カメラが複数台設置されていることも珍しくないため、場所によっては不法侵入の証拠を獲得できるかもしれません。
警察は必ず動いてくれる?
結論から言えば、不法侵入されたので通報したとしても、警察はすぐに動いてくれない可能性があります。
というのも、警察が通報を受けてもすぐに動かないのは、以下の理由があります。
- 警察の限られた人員と資源を割くのが難しい
- 緊急性の高い事件や危険な状況に優先的に対応する必要がある
- 民事不介入の原則がある
これらの理由により、警察は緊急性がなければ動かないということになります。
ただ、被害者が未成年者や高齢者、障害がある人だった場合は自分で対処するのが難しいため、警察が介入する可能性が高くなります。
もしも警察に通報しても動いてくれない場合は、以下の方法を実践してみましょう。
- 再度警察に連絡する
- 弁護士に相談する
- 証拠を集める
- 被害届を出す
被害届・告訴状・告発状の違いを解説します
不法侵入されたときに警察に届け出るのは一般的に被害届ですが、他にも告訴状や告発状といった書類もあります。
それぞれの違いを知ることで、適切に届け出ることができます。
それでは、被害届、告訴状、告発状の違いについてご説明しましょう。
被害届とは
被害届とは、不法侵入をはじめとする犯罪の被害にあった場合に、どんな被害にあったかを警察に申告するための書類です。
警察は被害届が提出されたら、犯罪捜査規範61条により、管轄区域に関係なく受理して対応しなければなりません。
告訴状とは
告訴状とは、不法侵入をはじめとする犯罪被害者などの告訴権者が捜査機関に対し、犯罪の被害に遭った事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示を書面化したものです。
告発状とは
告発状とは、不法侵入をはじめとする犯罪被害者以外の第三者が捜査機関に対し、犯罪の被害に遭った事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示を書面化したものです。
告訴状・告発状の作成方法
告訴状・告発状を作成する方法は、以下の項目を記載しましょう。
- 日付
- 宛名
- 告訴人の氏名・住所・電話番号
- 被告訴人の氏名・住所・電話番号(判明している場合)
- 告訴の趣旨
- 告訴の事実
- 証拠(方法)
異常を記載したうえで証拠を添付し、以下の方法で提出します。
- 検察、警察に告訴状・告発状を持参して提出
- 郵送による提出
- 代理人による提出
弁護士に告訴状作成を依頼する場合、どのように依頼すればいい?
基本的に告訴状は自分でも作成することができますが、行政書士や司法書士、弁護士に相談して作成してもらうこともできます。
特に弁護士に相談することで告訴状作成だけでなく、捜査や告訴に関連する相談やアドバイス、捜査官との告訴相談への同席もできるのがポイントです。
上記は弁護士のみに許された業務であり、経済的被害がある場合は並行して損害賠償を求める民事訴訟も起こせます。
基本的に告訴状の作成を受け付けている弁護士を探して依頼するのが一般的です。
不法侵入と建造物侵入の違いとは?
不法侵入は大きく分けて基本的に住居侵入と建造物侵入の2種類に分かれます。
住居侵入は住居権者の許諾を得ていないにもかかわらず住居に違法に立ち入った場合に不法侵入が成立する可能性があります。
ここでいう住居とは「人が起臥寝食する場所」ということから、屋内に限らず屋根や庭も住居に含まれるので無断で立ち入るのは不法侵入に該当するかもしれません。
ただ、人が住んでいない空き家は住居に当てはまらないと言えますが、管理人等が管理しているような家は「看守する邸宅」に該当することから、住居侵入罪が成立する可能性があるでしょう。
一方の建造物侵入は管理権者の許諾を得ていないにもかかわらず、住居以外の一定の建物に違法に立ち入った場合に不法侵入が成立する可能性があります。
住居ではないので人は住んでいませんが、事実上管理人等が管理している住居以外の建物に無断で侵入した場合に建造物侵入罪になる可能性があるでしょう。
ただし、ここで問題になりやすいのが、『敷地内には侵入したけど建物内には侵入していないから建造物侵入罪にはあたらない』というものです。
確かに敷地内には侵入していても建物内部には侵入していなければ建造物侵入罪は適用されないと思うかもしれませんが、ここで争点となるのが『囲繞地』の存在です。
囲繞地とは塀で囲まれた場所のことで、たとえ建物内部に侵入していなくても囲繞地に侵入していれば建造物侵入罪にあたる可能性があります。
余談ではありますが、艦船に無断で侵入した場合も建造物侵入罪にあたる恐れがあります。
実際に不法侵入されたときの裁判例
実際に不法侵入されたときの裁判例は、以下の通りです。
- 駐車場への侵入の裁判例
- 空き家への侵入の裁判例
- 不倫・浮気相手を侵入とした裁判例
- 侵入に対しての過剰防衛の裁判例
ただし、一部の裁判例がないこともあるので注意が必要です。
それでは、実際に不法侵入されたときの裁判例についてご説明しましょう。
駐車場への侵入の裁判例はない
結論から言えば、自分や他人の駐車場に無断で侵入して勝手に駐車によって引き起こされた裁判例はありません。
というのも、基本的に駐車場への不法侵入は私有地への無断駐車という態様で行われるところ、民事事件(民法第709条)の問題として解決することが多いからです。
民法第709条の詳細は、以下の通りです。
『第709条 不法行為による損害賠償
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。』
ただ、駐車場に勝手に車を停められたからといって、その行為を不法侵入として警察に通報したとしても住居侵入罪に問われるわけではありません。
基本的に私有地に勝手に駐車されるケースは駐車場と住宅が離れた場所にあることが多く、厳密には住居に侵入していません。
私有地で駐車トラブルが起きたとしても、警察は民事不介入として取り合ってくれない可能性が高いので注意が必要です。
空き家への侵入の裁判例
2024年7月4日、長崎地裁で空き家に無断で住んでいたとして住居侵入罪および不動産侵奪罪に問われている20代の男の裁判が始まりました。
この男性は2024年3月28日~4月25日までの間に長崎県大村市の空き家に侵入して家具を搬入したり電気・ガス・水道を契約したり、さらに4台ものエアコンを設置して済み始めました。
しかし、電気自動車を充電していたところを管理する不動産業者に見つかって逮捕されました。
7月4日に行われた初公判では、男性は起訴内容について全面的に認めています。
男性は元々2023年8月あたりから一人暮らしを始めていましたが、夏の暑さや冬の寒さが厳しいという理由から1年も経たないうちに引っ越ししようと考えていました。
入居して1年経っていないということで引っ越ししたくても違約金が発生してしまうため、違約金を支払いたくなかった男性は、2024年2月からネットで空き家を探すようになります。
そして男性は駅の近くで電気自動車の充電施設を備える大村市内の空き物件を発見し、こともあろうに無断で住むことを決めたのです。
3月28日、男は鍵を取り扱う業者に鍵が開かないと連絡して勝手口ドアの鍵を交換してもらいました。このとき、男性は無断で住むことがバレないように不動産業者が取り付けていた【売り物件】の看板を外し、自分の苗字の表札をかけたのです。
4月から自分名義で電気・ガス・水道の契約を行い、エアコンを4台も設置するなど、着々と快適な暮らしの準備を進めていきましたが、4月25日に不動産会社の社員が空き家を訪れ、充電中の電気自動車を発見したことで、男性の犯行が発覚しました。
家族が不法侵入で逮捕された場合、どのような対処が適切か?
もしも家族が不法侵入をしてしまったことによって逮捕されてしまった場合、どんな対応をすればいいのか分からない人も多いのではないでしょうか。
このケースの場合、弁護士に相談して被害者との示談を目指すのがおすすめです。
被害者が示談に応じるようであれば示談を成立させる形で話を進めていきます。
示談が成立する場合、被害者の宥恕によって不起訴となる可能性が十分にあるでしょう。
とはいえ、示談が成立したからといって必ずしも不起訴になるわけではありません。
被害者が起訴するとなると驚くかもしれませんが、起訴されたとしても既に示談が成立しているため、量刑を決定する際にこちらに有利になるのがポイントです。
問題なのは勾留中の家族が被害者との直接交渉に臨むのは不可能なことなので、刑事事件の処理が得意な弁護士に依頼するのがおすすめです。
短期間で示談をまとめるのはとても大変ではありますが、早めに対処できるでしょう。
まとめ
不法侵入は程度によって住居者の安全を脅かす非常に危険な問題であり、住居侵入罪および建造物侵入罪に該当する可能性があります。
もしも不法侵入の疑いがある場合は証拠を集めてから警察に通報するのがおすすめですが、民事・刑事のどちらかに発展する場合でも弁護士に相談するのがおすすめです。