「作曲家としても活動し、エンタメの現場を知る弁護士」高木啓成 弁護士(渋谷カケル法律事務所)
エンターテインメント業界に特化した法律サービスを提供する高木啓成弁護士にお話を伺いました。弁護士としてのキャリアや、音楽業界での活動、そして今後の展望について語っていただきました。
弁護士を志したきっかけを教えてください。
もともと僕はずっと音楽をやっていて、実は、弁護士を志す強いきっかけがあったわけではありませんでした。司法試験勉強を始めたのも、「自分は就職活動には向いてなさそう」という後ろ向きな理由からでした。
なので、司法試験合格まではよかったのですが、合格後は目標を失ってしまい、熱意をもった司法修習生の輪のなかで自分だけが長い五月病に罹っているようで、けっこう苦労しました。ただ、今考えれば、だからこそ自分なりのキャリアを築けたのかもしれません。
弁護士としてのキャリアについて教えてください。
2007年に弁護士登録して最初の3年ほどは勤務弁護士として働きましたがやっぱり窮屈で、自分の好きなことをして生きようと思い、勤務先を辞めて音楽活動を再開しました。
何も考えずに勤務先を辞めたので最初は収入ゼロでしたが、当時は空前のアイドルブームだったこともあり、音楽活動をしていると、ライブハウスで地下アイドルの運営会社やミュージシャン個人から法律相談を受けたり、他の企業を紹介いただけることが少しずつ増えていきました。
ただ、当時の自分には音楽業界の独特の契約や慣習についての知見が全くなかったので、音楽に関する法律書は全部読んだというくらい勉強しましたし、音楽業界の法務のセミナーに通ったりライツの方々から話を聞いたり、さまざまな方法で知識を得ました。
次第に、音楽関係に限らず、映画・アニメ、ゲームなどいろんな業界の企業から顧問契約をしていただけるようになり、音楽活動のほうではHKT48さんに楽曲提供する機会を得たりして、今の「弁護士 ✕ 作曲家」というキャリアへとつながっていきました。
現在注力している分野や強みを教えてください。
いわゆる「エンターテイメント法務」に注力しています。具体的には、音楽や映画・アニメ、ゲーム業界の企業、タレント事務所、広告代理店や、著名人の方々などをクライアントにして、リーガルサービスを提供しています。
僕の強みは、業界の各種約款(JASRACの信託約款やYouTubeのガイドラインなど)や、エンタメのビジネスの仕組み(YouTubeコンテンツIDの運用など)も把握していることなど、いくつかあります。
そのなかでも一番の強みは、制作現場を理解していることです。現場を知らずに作成された契約書は、抽象的で実体とかけ離れているケースも多く、そのために事故が生じることもあります。大きな企業になればなるほど、法務と現場が乖離しがちです。
僕は、「その契約書でビジネスが適切に動くか」「当事者の権利義務が明確か」といった一般的なことだけでなく、「現実的に制作現場で運用できる契約書になっているか」「実際の制作現場と矛盾がないか」を常にチェックするようにしています。これは自分にしかできない強みだと思っています。
印象に残っている案件を教えてください。
人気ロックバンドのギタリストで、いまはB.Ambiという芸能事務所を立ち上げている、華那さんの訴訟を以前担当しました。訴訟が解決したあと、華那さんから「復活ライブをやるので共演しませんか?」とお声がけいただき、ビジュアル系のメイクをしてご依頼者と一緒にステージに立つという貴重な経験をすることができました。
ちなみに、「フェストヴァンクール事件」という、エンタメ法務では有名な近時の裁判例があります。これは、ロックバンド「フェストヴァンクール」さんがパブリシティ権などで前所属事務所に勝訴した事件なんですが、実は華那さんの友人で、このライブにも出演していて、ご一緒することができました。
ですので、エンタメ法務の業界の方々に会うと、ことあるごとに「フェストヴァンクールさんと対バンしたことがあるんですよ」と自慢しています(笑)。
今後の取り組みや売り出していきたいサービスについて教えてください。
AIの影響を見据えて、人間にしかできない、そして自分だからこそできる価値の提供を目指しています。いま積極的に取り組んでいるのは、作品やイベントの製作に関する包括的な法務です。
例えば、コンサートの製作委員会構成員の利害調整や、国内・海外さまざまな出演者側との契約交渉などは、エンタメ法務の知見と対人能力の両面が必要になるため、AIに置き換えることはできず、今後も自分が必要とされる仕事だと思っています。
また、やっぱり自分はクリエイターなので、作品づくりを通じて、おもしろい企画をやっていきたいという気持ちが強いです。
例えば、僕は、クリエイター向けに「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」(日本加除出版)という書籍を出していて、この書籍のなかで『君に異議あり!』という架空の曲が登場します。
昨年、この書籍の第2版(改訂版)を出版することが決まり、せっかくだから第2版に合わせて書籍のテーマ曲を作ろうと思い、『君に異議あり!』を実際に自主制作しました。
出版社の営業の方もこの曲をすごく気に入って、「何か書籍のプロモーションでこの曲を活用させてください」とおっしゃってくださいました。
僕は、嬉しい反面、正直なところ、「法律書専門の出版社だし、なかなか活用は難しいんじゃないかな」と内心思っていたのですが、なんと、「この書籍のテレビCMを放送するので、そのCMで『君に異議あり!』を使わせてください」というありがたいご提案をいただき、僕自身もそのCMに出演することになりました。
https://www.youtube.com/watch?v=GUh1tJdtsZI
作品づくりを続けていると、時々こういったおもしろい体験をすることができたりしますので、今後もチャレンジしていきたいです。
先生が取り組んでいるIT化、DXについて教えてください。
クライアントとのコミュニケーションはほぼ完全にデジタル化しており、事務所で直接面談することはほとんどありません。仕事の資料はすべてクラウド上に置いているので、執筆や音楽制作など、クライアント情報を扱わない仕事に関しては、カフェなどの好きな場所で行っています。
DXといえば、音楽制作はここ20年くらいで劇的に変化していて、近年は、いわゆるDTM(Desk Top Music)で、作曲から音源制作までの大半をMacbookひとつで完結することができるようになっています。レコーディングスタジオを持ち歩いているような感覚です。
記事を読んでいる方へひとことお願いします。
エンターテインメント関係の法務に関心をおもちでしたら、書籍のほか、note でも有益な情報を発信していますので、ご覧いただければ嬉しいです。
また、僕の活動に興味をもってもらうことも多く、僕の事務所には、高校生、大学生や司法修習生などからよく「話を聞きたい」と問い合わせをいただきます。このようなお問い合わせも歓迎です。
もちろん、顧問契約のお問い合わせや法律相談などもお受けしています。特に著名人の方は、飛び込みでの相談は不安なところもあるかもしれませんが、僕の事務所はとても小さな事務所でありながら、第一線で活躍している著名人の方々からも多くご依頼いただいていますので、どうぞご安心ください。
弁護士情報
弁護士名: 高木 啓成 弁護士
所属弁護士会:第二東京弁護士会
事務所名:渋谷カケル法律事務所
事務所住所:東京都渋谷区宇田川町2-1 渋谷ホームズ216
【略歴】
・一橋大学法学部卒業
・2005年 司法試験合格
・2007年 弁護士登録(旧60期)
・作曲家としても活動
【著書】
・「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」(日本加除出版)https://www.amazon.co.jp/dp/4817846828
・「第2版 弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」(日本加除出版) https://www.amazon.co.jp/dp/4817849436/
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