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カスハラとは?【企業向け、従業員向け】事例、類型、対応マニュアルや規定の作成方法は?

【この記事の法律監修】  
森江 悠斗弁護士(東京弁護士会)
森江法律事務所弁護士

厚生労働省の調査によると、過去3年間にカスハラの相談があったと回答した企業の割合はおよそ20%。パワハラ(約48%)やセクハラ(29%)と比べると少ないですが、カスハラのみ相談件数が増加しているという実態があります。

実際に、ニュースでも度々カスハラが話題となり、社会問題となっています。

カスハラを放っておくと従業員はもちろん、企業にも大きなダメージをもたらします。そのため、カスハラをどのように防ぐか、カスハラが起きたときにどのように対応するかを企業は考えるべきといえます。

この記事では、そもそもカスハラとは何なのか、カスハラの実例や法的な観点、そして企業が取るべき対策などについて解説します。

この記事を読むことで、企業として取るべきカスハラ対策がより明確になればよいと考えています。

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1.カスハラとは?

カスハラの予防や対応策について考えるに当たり、そもそもカスハラはどういった行為なのか?を確認する必要があります。

1-1.カスハラの定義

現時点で、法令上のカスハラの定義は存在しません。しかし、厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策マニュアル」では、カスハラを以下のように定義しています。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業関係が害されるもの

出典:厚生労働省、カスタマーハラスメント対策マニュアル

つまりカスハラとは、顧客が企業や従業員に対して行う過度な、又は理不尽なクレームや言動のことであるといえるでしょう。

1-2.カスハラが増加している社会的背景

カスハラが近年ここまで増加している背景には、以下のような日本独特の社会的背景が関係していると推測されます。

  • 「お客様は神様」という考え:日本において、顧客を大切にする風土が存在することは否定できません。
  • SNSの普及:誰でも簡単に意見を発信できるようになったため、企業側がクレームに対して過敏に反応する場合も少なくありません。
  • 過剰サービスによる過剰期待:1つ目と関連しますが、顧客の期待度の高さが、自分の望むサービスが提供されない、という感情を強め、カスハラに発展する場合もあると推測されます。

様々な要因が組み合わさることで、カスハラが生じやすい社会になっているといえます。

1-3. カスハラとクレームの違い

クレームは企業にとっても必要な場合も少なくないものですが、それが度を過ぎてしまうと、カスハラという周囲に大きな迷惑をもたらす言動に発展してしまいます。

商品やサービスをもっと良くしてほしい、という要望は正当なクレームで、企業にとっても有益なものとなり得ます。しかし、罵倒や暴力的な振る舞いなど、悪質な言動はカスハラであり、法的対応が必要な場合も出てくることとなります。

2. カスハラの具体例

現場で起きているカスハラの具体例については以下のとおりです。

2-1. 暴言や侮辱的言動

顧客が従業員に対して「バカ」、「役立たず」などと大声で罵ることは、不法行為となり得るカスハラです。

その他、従業員の外見をけなすことなどもカスハラと捉えられるため、企業はこうした事例が生じた場合には毅然とした対応を検討しなくてはなりません。

2-2. 理不尽な要求

従業員に土下座を要求する、脅迫する、長時間すぎるクレームを行うなど、顧客としての形式的な優位性を利用した理不尽な要求も、不法行為となり得るカスハラにほかなりません。

ある報道(https://bunshun.jp/articles/-/63636)によれば、女性が購入したタオルケットに穴が空いていると返品しにきた顧客が、従業員と店長に対して土下座を要求するという事件も存在するようでこの事件では土下座を要求し、その様子をSNSに投稿、さらに後日に家まで謝罪に来るよう要求したという事案があるようです。

店としては土下座までは対応したものの、自宅での謝罪までも要求されたため、警察に被害届を提出したところ、結果的に、強要罪の嫌疑で逮捕される事案に発展したとのことです。

2-3. 長時間の拘束や脅迫

長時間にわたってクレームを続けたり、従業員を拘束することなども度を過ぎた行為として不法行為ともなり得るカスハラに相当します。

自分が望むような対応がない限りは帰らないと居座ったり、脅迫を行うようなカスハラ行為も、企業としては決して軽視できません。

2-4. 個人の特定

顧客の怒りや不満の矛先はどうしても個々の従業員へ向きがちですが、その中でも特に個人の名前を特定した上で「お前の名前は覚えたからな」と述べたり、「名前から住所を特定して家に行くぞ」などと脅すことは明らかに度を越しており、こうした不法行為となり得るカスハラから企業は従業員を守らなければなりません。

また最近は従業員を撮影して、SNSに投稿するといった事例も出てきています。こうしたカスハラ行為に対する対策も、これからますます必要になってくるでしょう。

3. 職種ごとのカスハラの傾向

職種ごとのカスハラの特徴は以下のとおりです。役所、医療機関、小売店などでのカスハラが確認できることなどからすると、顧客と関わる頻度の高い業種において、特にカスハラに注意すべきであるといえます。

3-1. 公的機関(役所など)

自治労の調査(https://www.jichiro.gr.jp/doc/pawahara/2023-cushara-manual.pdf)によると、過去3年間に職場でカスハラを受けた公務員は46%にも上るとのことです。カスハラの現場を見たことがあるケースも含めるとその数は76%にもなり、実に公務員の約4分の3以上が何らかの形でカスハラに関与していることになります。

公務員が全ての住民にサービスを提供する立場であることは、公的機関でカスハラが生じる一因であると推測されます。

3-2. 病院・介護の現場

ストレスを抱える患者も多いといえる病院や介護の現場でもカスハラが生じ得ます。

この点、厚生労働省「令和2年度 厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査」では、医療・介護業界でカスハラを受けた方の割合が18.9%にも上ると指摘されています。

ただでさえ多忙を極める職場であるため、カスハラによって医師や職員が疲弊しないように、病院等の側において適切な対応が求められます。

3-3. コンビニ・スーパー

不特定多数の人が利用するコンビニやスーパーも、カスハラが生じ得ます。

ある報道(https://www.j-cast.com/2018/11/04342751.html?p=all)によれば、男性が、タバコやアルコール類を購入するための年齢確認のタッチパネルに対し、「どうして毎回、押さなければいけないんだ」と激昂した上で、液晶パネルを破壊し、警察に現行犯逮捕されるといった事案も生じているようです。

企業はこのようなカスハラに対して対策を行い、従業員を守る必要性が高まっているといえます。

4. カスハラから従業員を守るための対策

企業がカスハラを放置しておくと、離職者・求職者の増加、生産性の低下やレピュテーションの悪化などを招きます。

大切な従業員を守り、業績を上げるためにも、カスハラに対するしっかりとした対応策を講じなくてはなりません。

ここでは、企業が取るべきカスハラの対応策を解説します。

4-1. カスハラに屈しない方針を明示する

企業がすべきカスハラ対策について、現在、明確な正解が確立しているわけではありません。
そのため、各企業において、各企業の個性等を踏まえた方針を検討していかなければなりません。
以上のとおり、正解はありませんが、私見としては、カスハラを絶対に許さない・屈さないという姿勢を内外に示すことが重要であると考えています。従業員に危害が及ぶような言動を許容する理由はないためです。

例えば、大手デパートの高島屋( https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240809/k10014543051000.html)はカスハラに対する会社の基本方針を公表しています。その中では、カスハラを行う顧客には対応の打ち切りやその後の来店拒否、さらに悪質な場合には警察や弁護士に連絡するとしています。

企業がこうした方針をはっきりと打ち出すことによって、従業員たちは安心して働くことができるでしょう。

4-2. 何がカスハラ行為かを周知する

企業にとっても必要な正当なクレームと、カスハラの違いを明確にしてそれを従業員に周知することも大切です。そうすることによって、従業員もどんな行為がカスハラに当たるかが明確になり、より安心して働けるようになるでしょう。

また顧客に対しても、どんな行為がカスハラにあたるかを周知することも有効な対応策です。カスハラを行う人の一定数が、自分では良かれと思って迷惑行為を行う「無自覚カスハラ」(https://www.asahi.com/articles/ASS1M54ZZS1HUTFL020.html)とも思われるからです。

例えば、以下のとおり、ファミリーマートは、全国約1万6,300ある店舗の全てに、カスハラ行為を明示するポスターの掲示することを決定しました。

出典:「ファミリーマート カスタマーハラスメントに対する方針」を策定 店舗利用に関するお客さま向け啓発ポスターを全店で掲示~誰もが安全で働きやすい環境を目指して~

どのような言動がカスハラに該当するかを周知することによって、無自覚カスハラを抑止する効果が期待できます。

4-3. カスハラ対応マニュアルを作成する

社内でカスハラへの認識と対応方法を共有するために、対応マニュアルを作成しましょう。マニュアルでは、以下のような点を意識するのが良いと考えられます。

  • カスハラへの基本的な考え方
  • カスハラの定義と想定されるカスハラの事例
  • カスハラ対応のフローチャート
  • 正当なクレームと不当要求の違い
  • カスハラに遭ったときの窓口
  • 法律的根拠

カスハラ対応マニュアルを作成するには、法的な問題が生じないように弁護士に相談することも大切です。自社のカスハラ対応マニュアルが法律的視点からも適切かを判断し、フィードバックをもらうために、マニュアル作成後、資料を共有した上で、弁護士へ相談してください。

そのマニュアルを手にする従業員も、専門家である弁護士が監修したものであれば、安心してその指針に従えるでしょう。

4-4. 名札とカスハラの関係性

従業員の名前が分かってしまうと、SNSへの投稿や誹謗中傷を受ける可能性があります。そのため、各企業や自治体で名札の見直しが進んでいます。

ローソンとファミリーマートでは、店舗の判断で名札に本名以外を記載しても良いことにしています(https://news.yahoo.co.jp/articles/37e756f634049ca9ac36f5c022fdf84a42a45a19)。つまり、これまではひらがなで記載していた名札を、例えば「さとう」であれば「クルーST」というように、役職と任意のアルファベットで組み合わせた名札にできるといった対応であり、画期的ともいえます。

名札自体を撤廃することが難しいとしても、企業にはこうした対策によってカスハラ被害に遭うリスクを少しでも下げる努力が求められています。

4-5. 相談体制・エスカレーション制度の構築

カスハラに遭ったときの相談窓口、上司や担当者にいつでも報告できるエスカレーション制度を整えておくことは、従業員が安心して働くのに欠かせません。

カスハラの多くが顧客と従業員の一対一の状況で発生するため、従業員が問題を1人で抱え込まないように、情報を共有できる仕組みを整えることが大切です。

また必要なときには、いつでも担当者が法律の専門家に相談できる体制を整えることも大切です。弁護士はカスハラが深刻な問題や訴訟に発展しないよう、法的な観点からアドバイスできるため、従業員に大きな安心感をもたらせます。

5. カスハラに関連する法律と罰則

カスハラ問題に適切に対応するには、どのような法的根拠があるのかを理解しておくことが必要です。特定のカスハラが単なる迷惑行為ではなく、法律的にもアウトであることを企業がしっかりと理解しておけば、カスハラに対して毅然とした対応を取れるからです。

ここでは、カスハラに関連する法律と罰則、そして実際に逮捕や裁判にまで至った事例を紹介します。

5-1. 従業員への安全配慮義務

まずは、企業に対する法律です。企業には、従業員の安全に配慮する義務があります。そのためカスハラを放置しておくと、カスハラを受けた従業員から損害賠償を請求される可能性があります。

第5条(労働者の安全への配慮):使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

実際に、小学校の教諭が児童の保護者からカスハラを受けた際に、校長が教諭をを守らなかったとして損害賠償が言い渡された裁判例(https://www.cuorec3.co.jp/info/thinks/hara_01_23.html)もあります。

企業は自らが法令違反を犯さないためにも、カスハラから従業員を守ることが求められます。

5-2. 脅迫罪

顧客が従業員に対して害悪を告知する行為は、刑法222条の脅迫罪に相当します。

第222条(脅迫):生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

例えば、顧客が「お前の名前から住所を特定して毎日家に行ってやる!」などと脅すような場合は、脅迫罪が成立し得ます。

5-3. 損害賠償責任

従業員がカスハラによって精神的・身体的なダメージを受けた場合には、民法709条に基づいて顧客に損害賠償責任を追求し得ます。

第709条(不法行為による損害賠償):故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

損害賠償責任を問えるのは、従業員個人だけではありません。会社がカスハラによって名誉を既存されたり、何らかのコストが生じた場合には、顧客に対して損害賠償請求を行えます。

5-4. 強要罪

暴行又は脅迫により相手に無理やり行う必要のない行為をさせると、刑法第223条第1項の強要罪が成立し得ます。

第223条1項(強要):生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

例えば、従業員が土下座を強要された場合などに、強要罪で訴えることが考えられます。

5-5. 威力業務妨害罪

威力業務妨害罪とは、威力により企業の経済活動を妨害したときに成立し得る犯罪です。

第234条(威力業務妨害):威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

例えば、店内で大声で怒鳴り続けて他の顧客の対応ができなくなった、嫌がらせで店内に虫をばらまいた、というようなケースでは、威力業務妨害罪で訴えることを検討できるでしょう。

5-6. 不退去罪

納得できるまで帰らない、とオフィスや店舗に正当な理由なく居座り続ける顧客の行為については、刑法130条の不退去罪が成立し得ます。

第130条(住居侵入等):正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

カスハラ行為を働く顧客に対して、企業側が毅然と退去を命じたにも関わらず、その指示に従わない場合には、こうした法律があることを相手に説明することもできるでしょう。

5-7. 暴行罪又は傷害罪

カスハラが暴力行為にまで発展してしまった場合、刑法208条の暴行罪又は刑法204条の傷害罪の適用が考えられます。

・第208条(暴行):暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
・第204条(傷害):人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

暴行罪と傷害罪の違いは、実際に身体に傷害が加えられたかどうかによります。そのため、顧客が従業員に暴力を振るおうとした時点で、暴行罪が成立し得ます。その結果、ケガをしたという場合に傷害罪が成立し得ます。

6. カスハラによる実際の逮捕・裁判例

カスハラによって実際に逮捕・裁判にまで至った事例を、いくつか取り上げます。

6-1. 自治体がカスハラ住民を訴える

大阪市は、特定の職員の略歴への情報公開請求を合計53回行い、入手した情報に基づいて職員を罵倒・誹謗中傷を繰り返した住民に対して、面談強要行為の差し止め・損害賠償請求を行いました。

情報公開請求自体は市民に認められた正当な権利ですが、この案件では明らかに不当な行為で就業環境が悪化されていることも明確であったため、大阪地裁は市側の差止請求と80万円の損害賠償請求を認めました(https://asadalaw.jp/asadablog/423/)。

この裁判では直接的に住民の行為をカスハラだとは述べられていませんが、自治体がカスハラを行う住民に対して損害賠償請求が行えるという一つの事例となっています。

6-2. コンビニでのカスハラ行為に対する逮捕例

あるトラブルをきっかけに、1人の女性客がコンビニの店長に土下座を強要し、女性の娘がその姿を動画で撮影、SNSに投稿しました。さらにコンビニの幹部まで呼びつけ、「謝罪に来るときに手ぶらで来るのか」などと話し、2万6,700円相当のタバコ6カートンを脅し取るなどの事件がありました。

しかし事はこれだけで終わらず、女性は別の知人男性にも連絡して、さらにコンビニ側から現金を脅し取ろうとしました。実はこの女性とその娘はカスハラの常習犯で、以前にも同じような手口で現金や物品を脅し取っていたことが後に明らかになっています。

この女性と、関わった男性3人の全員が逮捕され、女性の娘(土下座動画をインターネット上に公開するなどしました。)も少年院に送致される結果になりました(https://www.sankei.com/article/20141224-AKYMECXDBNKH7B4V2YZJ7W5CRM/)。

こうした2つの事例からも、カスハラに対して企業は毅然とした対応を示すことの大切さが分かります。さらに悪質なケースに関しては、弁護士に相談しながら法的な対応を取ることも検討できるでしょう。

7. 従業員がカスハラを受けたときの対応・救済策

どれだけ企業が対策を講じたとしても、カスハラは起こりえます。そのため、企業は従業員が実際にカスハラ被害に遭ったときにどのように対応し、従業員をケアするのかも考えなければなりません。

7-1. カスハラとして顧客を訴える事は可能か?

これまで考えてきたように、カスハラを行う顧客を訴えることは可能です。従業員個人が身体的・精神的ダメージを被ったときには企業が従業員をサポートし、必要なときにはいつでも法的手段に訴えられるということを社内で通知しておくことは、安心して働ける職場環境づくりにもつながります。

そのためにも事前に、カスハラを受けたときの相談窓口やエスカレーション制度を整えておくことが必要です。

上司や企業が弁護士にいつでも相談でき、法的な対応を取れるということは、従業員に大きな安心感をもたらすでしょう。

7-2. カスハラで体調を崩した従業員は労災の対象となるか?

カスハラによる被害を受けた場合であっても、労災の対象とはなり得ます。

厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34888.html)を改正し、労災認定に用いる「業務による心理的負荷評価表」に、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為(カスハラ)を受けた」場合も追加しました。

実際に、カスハラが原因で自殺した従業員に対して、労災が認定されたケース( https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/02169/)もあります。

企業はカスハラによって体調を崩した従業員をケアするためにも、弁護士に相談しながら適切な補償が受けられるようにサポートすることが求められます。

7-3. 個人向けの相談窓口

カスハラから従業員を守ることは、企業に課せられた義務です。しかし何らかの事情で会社からのサポートを受けられない場合、個人でも相談できる窓口が存在します。

  • コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク:非正規労働者や個人でも加入できるコミュニティユニオン。状況によっては会社との交渉を行ってくれます。公式サイトから各地のユニオンの連絡先が検索可能。
  • 総合労働相談コーナー:全国各地の労働基準監督署などに設置されている総合労働相談コーナーでは、カスハラへの相談も受け付けています。面談・電話での相談も可能で、利用は無料。
  • ハラスメント悩み相談室:厚生労働省が委託する相談室で、LINEやメールで、匿名でのカスハラ相談も無料で受け付けています。

カスハラ被害に遭って会社からの助けが得られないときには、1人きりで問題を抱え込まずに、ぜひこうした窓口に相談してください。

7-4.警察への通報は可能?意味はある?

カスハラ行為は脅迫罪や強要罪などの犯罪に該当する可能性があるため、悪質なカスハラに対しては110番で警察に通報してください。緊急性がそれほど高くないときには、#9110番で最寄りの警察署に相談することもできます。

カスハラが行われたときには、その状況を録音又は録画した証拠を警察に提供するなら、警察も事件に介入しやすくなります。

しかし事件性がないと判断された場合には、会社が対応しなければなりません。その場合には、ぜひ弁護士などに相談してください。

8. 公的機関や自治体の対策と条例

各公的機関もカスハラ対策に積極的に乗り出していますし、条例制定へ動いている自治体もあります。

ここでは、そうした取り組みのいくつかを紹介します。

8-1. 厚生労働省のカスハラマニュアル

厚生労働省は2022年に、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf)を作成・公表しました。このマニュアルでは、企業が直面するカスハラを想定した事前の準備や実際にカスハラが起こったときの対応策などが収められています。

このカスハラマニュアルは非常に画期的なもので、これによって日本の企業がカスハラ対策に乗り出す契機となったと言われています。

しかしこのマニュアルは包括的な指針となっているため、各企業がそのまま自社のカスハラマニュアルとして用いることは難しいかもしれません。業種や業態によって、カスハラの実態や対応策も異なるからです。

そのため、各企業はこのマニュアルを参考にしつつ、弁護士と相談しながら自社に最適化されたマニュアルを用意する必要があるでしょう。

8-2. 自治労のカスハラマニュアル

地方自治体職員や公立病院職員などからなる全日本自治団体労働組合は、増加している公務職場におけるカスハラを予防するため、「カスタマーハラスメント予防・対応マニュアル」(https://www.jichiro.gr.jp/doc/pawahara/2023-cushara-manual.pdf)を作成しました。

このマニュアルでは、人権侵害であるカスハラに対して、組合が積極的に対応べきだと明確に述べられています。その上で、公務職場におけるカスハラの現状や法的な対応策、組織としての対処方法などが取り上げられています。

各自治体はこのマニュアルを参考に、カスハラに対応する準備を整えることができるでしょう。

8-3. 東京都のカスハラ条例

東京都は2023年に「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」を発足させ、カスハラ防止のための条例案を議会に提出する予定であることを明らかにしました。

東京都のカスハラ条例では、カスハラを防止して豊かな消費生活と事業者の安定した事業活動を実現させるために、以下の3つの基本的な考え方を柱としています。

  • 「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」として、カスタマーハラスメントの禁止を規定
  • 「カスタマーハラスメント」の防止に関する基本理念を定め、各主体(都、顧客等、就業者、事業者)の責務を規定
  • 「カスタマーハラスメント」の防止に関する指針を定め、都が実施する施策の推進、事業者による措置等を規定

出典:東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方

東京都のカスハラ条例は、成立すれば全国初となります。他道府県や自治体へも大きな波及効果があると考えられているため、注目を集めています。

9. カスハラを対象とした保険はある?

各保険会社は、カスハラを対象とした保険を用意しています。カスハラ保険により、顧客からカスハラを受けた際の相談窓口を無料で利用できたり、弁護士に相談する際の費用を補償される場合があります。

例えば、損保ジャパンは中小企業向けの事業活動総合保険「ビジネスマスター・プラス」の特約として、「クレーム等対応費用補償特約」を新たに設けました。カスハラ被害に対応するための弁護士費用を補償します。詳細は各保険会社にお問い合わせください。

企業としてカスハラ問題に対応するには、やはり弁護士の助けを借りることが不可欠です。こうした保険も、ぜひ積極的に検討なさってください。

10. まとめ

  • カスハラから従業員を守ることは企業の義務。弁護士に相談しながら、しっかりとした予防と対応策を講じる。

増加するカスハラへの予防と対応策を講じることは、従業員を守るだけではなく、自社の企業価値を高めるのにもつながります。

企業にとって有益なクレームとカスハラの違いを明確にし、カスハラに対しては毅然とした対応を取ることが必要です。そのためにもカスハラ対応マニュアルを作成し、カスハラに遭ったときにはすぐに相談できる体制を構築しましょう。

カスハラを行う迷惑な顧客には、法律でしっかりと対処することが可能です。そのため、弁護士に相談しながら、カスハラから大切な従業員を守れるようになさってください。

 

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