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googleのクチコミで訴えられたら?何罪、費用や裁判例は?

【この記事の法律監修】
大西 信幸弁護士(大阪弁護士会) 
弁護士法人ラポール綜合法律事務所

「Googleマップに投稿したクチコミが原因で訴えられた…」
「正直に自分が体験したこと、感じたことを悪い評価としてクチコミ投稿しただけなのに…」
そんなことを聞いたことがありませんか?

最近では2024年6月に、「グーグルマップ」上のクチコミで一方的に悪評を投稿されたとして、兵庫県内で眼科医院を運営する医療法人(原告)が、投稿者(被告)に対して損害賠償と投稿の削除を求めた事案がありました。この事案では、大阪地裁が名誉毀損を認定し、投稿者に200万円の賠償と削除を命じており、NHKや日本経済新聞などでも報道されています。
判決・報道によると、原告は兵庫県尼崎市で眼科医院を運営する医療法人「秀明会」、被告は大阪府内に住む女性で、2021年11月までに同眼科について「レーシック手術は左目だけで勝手に右目はレンズを入れられていた。最悪」「何も症状もないのに、勝手に一重まぶたにされた」といった内容のクチコミをグーグルマップに投稿していました。

今回のケースでは、クチコミが匿名で投稿されていたことから、原告は2021年11月、米グーグルに発信者情報の開示を求め訴訟提起をしていました。その後、開示を命じる大阪高裁判決が確定し、2023年9月に、通信事業者から原告に対し、投稿者の氏名や住所が明らかにされていました。

このような事例も参考にしつつ、
・Googleマップに投稿したクチコミが原因で損害賠償を求められるプロセスとは何か
・もし自分が過去に何気なくGoogleマップに投稿したクチコミが原因で訴えられてしまった場合には、どのように対応したらよいのかについて解説していきます。

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1.そもそも、なぜ投稿者が誰か分かるのか?

「Googleマップへのクチコミは匿名でしているのに…」
「なぜ本名を出していないのに自分が投稿者だと分かったのだろう」
「自分のスマホに対して、何かサイバー攻撃やハッキングでもされたのだろうか?」

Googleマップのクチコミなどインターネットへの匿名投稿を原因として訴えられた場合には、このような疑問が湧くと思います。
そこでまず、どのような仕組みでGoogleマップのクチコミの投稿者が特定されているのかを具体的に見ていきましょう。

Googleマップのクチコミ投稿は匿名でされるのに、どうして投稿者が分かるの?

インターネットへの投稿については、「IPアドレス(インターネット接続に用いられる機器の識別番号)」と「タイムスタンプ(投稿日時)」が分かれば、誰がその投稿をしたのかを特定することができます。
特定までの手順は、以下のようになっています。

  1. コンテンツプロバイダ(サイト管理者)への開示請求
    サイトの管理者(Googleマップ等の場合はGoogle LLC(米国))に対し、発信者情報開示請求を行い、裁判所の決定に基づき、投稿に係る「IPアドレス」と「タイムスタンプ(投稿日時)」を取得する 
  2. アクセスプロバイダ(通信事業者)の特定
    上記①で取得した「IPアドレス」と「タイムスタンプ(投稿日時)」を用いて、投稿の際に用いられたインターネット通信が、どの通信事業者の回線(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天など)を用いてなされた通信かを「Who is 検索」で特定する
  3. アクセスプロバイダ(通信事業者)への開示請求
    上記②で特定した通信事業者に対し、投稿に係る「IPアドレス」と「タイムスタンプ(投稿日時)」を用いて、発信者情報開示請求訴訟を提起、または発信者情報開示命令の申立てを行い、裁判所の決定に基づき「投稿を行なった者の氏名・住所・電話番号・メールアドレス等」を特定する

投稿者を特定することは、違法ではないのか?

Googleマップのクチコミなど、インターネットへのクチコミ投稿をした人を特定するには、発信者情報開示請求訴訟または発信者情報開示命令の申立といった裁判手続きを行う必要があります。
これらに関しては「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)」で定められています。

開示を求められるのは、投稿者にとっては通信の秘密(憲法21条2項後段、電気通信事業法4条)として保護される情報ですから、

  • 投稿に係る「IPアドレス」と「タイムスタンプ(投稿日時)」
  • 「投稿を行なった者の氏名・住所・電話番号・メールアドレス等」

の開示をプロバイダから受けるためには、投稿者の通信の秘密に対する保護を制限してでも開示することが必要と認められる一定の条件を満たす必要があります(プロバイダ責任制限法5条)。

2.クチコミの投稿に関して、どのような請求がされることが多いのか?

請求者から投稿者に対する請求内容として、主なものは、

  • 名誉権の侵害(※冒頭の医療法人のケース)
  • 名誉感情の侵害
  • プライバシー権の侵害

を理由とした不法行為に基づく損害賠償の請求(民法709条)が多いです。
また、冒頭に掲げた医療法人の事例でもあったように、問題となった投稿自体の削除を求めるケースも多いようです。

3.投稿したクチコミが原因で慰謝料を請求された!今後どうやって対応したらよい?

主要な対応方法

主な対応としては、時点ごとに、以下の3つの対応が考えられます。
どのように対応をすべきかについては、事案によってケースバイケースです。
そのため、その事案でどのように対応すべきかについては、専門家である弁護士に相談して、メリット・デメリットを考慮しつつ、対応方針を決めるのがよいでしょう。

  1. 意見照会を受けた時点
  2. 発信者情報が開示された後
  3. 民事裁判で訴えられた後

1.  意見照会を受けた時点

請求者がアクセスプロバイダ(通信事業者)に対して「投稿を行なった者の氏名・住所・電話番号・メールアドレス等」の開示を請求する際、アクセスプロバイダ(通信事業者)は、これらの情報の開示請求に応じるか否かについて、投稿者自身に意見を聞かなければならないとされています(プロバイダ責任制限法6条1項)。

この際、投稿者はアクセスプロバイダ(通信事業者)に対して「開示に応じる」「開示に応じない」を回答するのですが、回答の際に「請求者と和解をしたい」などと回答した場合、請求者によっては、和解で終了することができる可能性があります。

2. 発信者情報が開示された後

投稿者が上記①の意見照会で「開示に応じない」と回答した場合で、請求者によるアクセスプロバイダ(通信事業者)に対する開示請求が裁判所で認められたときは、アクセスプロバイダ(通信事業者)が投稿者に対して、開示が裁判所で認められた旨を通知しなければならないとされています(プロバイダ責任制限法6条2項)。

すなわち、投稿者がこの通知を受けた時点で、請求者は投稿者の「投稿を行なった者の氏名・住所・電話番号・メールアドレス等」を知っているので、この時点で請求者と和解の交渉をすることも考えられます。

3. 民事裁判で訴えられた後

民事裁判で最後まで請求者と徹底的に争って投稿者勝訴の判決を狙う、または、最初は争いつつ途中で和解交渉をする、という方法も考えられます。
なお、裁判で争う場合、法律的な論争をする必要があります。

今から投稿を削除すれば間に合う?

すでに投稿者に意見照会が届いているなど、発信者情報開示請求が始まった以降の段階においては、請求者は、投稿のスクリーンショットなどを証拠として保存していると思われます。

したがって、発信者情報開示請求が始まった後でインターネット上の投稿を削除しても、請求者が証拠を手元に持っているため、(請求者が投稿さえ削除されれば良いと考えている場合を除いて)意味がないことがほとんどだと思われます。

Googleマップにクチコミを投稿したことが原因で訴訟が行われていることは、会社などの周りの人に簡単に知られてしまうのか?

結論としては、そう簡単に知られることはないでしょう。
実名で報道された場合や知っている人からの噂が広まった場合は別として、

  • 投稿者を被告とした民事裁判、投稿者を被告人とした刑事裁判について裁判所へ傍聴に行く(誰でも傍聴可能)
  • 上記の民事裁判または刑事裁判の訴訟資料を閲覧する(誰でも閲覧可能。民事訴訟法91条、刑事訴訟法53条)

といった場合を除き、会社などの周囲の人に知られることはないと思われます。
ただし、周囲の人も忙しいでしょうから、わざわざ平日の昼間に裁判所へ傍聴に行ったり、訴訟資料を閲覧しに行くことは考えづらいです。
したがって、実名報道や噂が広まった場合を除いては、周囲の人に知られる可能性は非常に低いでしょう。

請求は自分で対応できる?

「できなくはないが、決しておすすめはしない」というのが結論です。
訴訟でも和解交渉でも、法律的な知識を用いた難解な対応が必要で、自分自身で対応することは非常に苦労が多いといえます。
弁護士に依頼することで、以下のようなメリットが得られます。

・事務作業に伴う時間や労力を削減できる

法律手続の当事者としてご自身で作業を行い、自分で手続を進めることもできます。しかし、慣れない作業を行うのには、時間的・労力的な負担が伴います。例えば、裁判となった場合、代理人弁護士がいなければ自分が裁判所に原則として毎回出頭する必要がありますが、代理人弁護士がいる場合には本人が出頭しなければいけない回数は大幅に減るでしょう。

また、細かい民事訴訟上の手続など慣れないことも多く、裁判所に逐一聞きながら煩雑な手続を進める必要が生じてしまいます。 このような事務作業に伴う時間や労力的な負担を削減するために、専門家である弁護士に作業をお任せしてみることもよいでしょう。

・精神的な負担を軽減できる

対立している相手方との連絡は、大きな精神的負担になります。
そういった時、弁護士を代理人にして間に入ってもらうことで、弁護士を通した連絡をすることができ、相手方と直接接触するストレス・リスクを軽減することができます。

・専門的な法的見解によるサポートを得られる

法律に詳しくない方であれば、相手方から請求を受けたとしてもどのように対処すればよいのか、全く見当もつかないかもしれません。しかし、経験のある弁護士に依頼した場合には、どのように対応すればよいのかといったアドバイスをもらえるので、対応方針について比較的迷うことなく、手続を進めることができるでしょう。

また、例えば訴訟を自分自身で対応するとなると、法的知識がなくて、すべき法的主張ができていないために、ご自身に不利な形で裁判が進行してしまうといった事態や、裁判期日を無駄に重ねてしまうといった事態も起こり得ます。しかし、弁護士に依頼する場合には、法的知識がないことを原因として上記の問題が起こる可能性は非常に低いでしょう。

・相手方との交渉がしやすい

投稿者本人とは直接話をしたくはないが、投稿者の代理人弁護士には正直に話してよい、といった考えを持つ人も少なくありません。相手方がどうしたいか(投稿者と和解をしたいのか、裁判・判決まで徹底的にやりたいのか。

投稿を削除してほしいのか、謝ってくれればよいのか、お金を支払ってほしいのか。)についても、意見照会通知や裁判での請求を受けただけでは分かりませんが、弁護士が請求者側と話すことで、請求者側がどのような解決をしたいのかを把握できる可能性があるでしょう。

弁護士に依頼するためには、いくらかかる?

弁護士に依頼する以上、無料というわけにはいかず、弁護士に依頼するための費用がかかってきます。依頼するために弁護士に支払う費用は相場としてはいくらくらいかかるのでしょうか。
「弁護士による」というのが結論ですが、弁護士に支払う費用は「着手金(相場は20~30万円程度)+成功報酬」というケースが多いと思われます。

例えば、民事裁判で名誉権侵害請求を提起されて、請求が全て棄却された(投稿者側が勝った)場合は、「着手金30万円+成功報酬(請求された金額の10~15%程度)」となります。
ただし、支払う費用は依頼する内容や、依頼する弁護士によって違いますので、実際に問い合わせて依頼する弁護士等に直接確認してみてください。

弁護士に依頼するときに注意する点は?

1. 「インターネットの権利侵害」を得意とする弁護士に依頼する

弁護士にも分野によって得意不得意があります。離婚問題に強い弁護士、相続問題に強い弁護士、交通事故に強い弁護士…といったように、インターネットの権利侵害分野を得意とする弁護士もいます。

インターネットの権利侵害についてあまり対応経験がない弁護士に依頼するよりも、インターネットの権利侵害分野に強い弁護士に依頼して対応していくのが、スムーズな対応をしてもらえる可能性が高いでしょう。

インターネットの権利侵害分野に強い弁護士の探し方としては、「インターネットの権利侵害」「発信者情報開示請求」といったテーマで書籍や記事を執筆している弁護士、セミナー講演をしている弁護士などを検索してみるとよいでしょう。

2. できる限り早く弁護士に相談してみる

依頼したい弁護士が決まったら、できる限り早く連絡し、相談の予約をするとよいでしょう。先のばしをしたあとで相談すると、「もっと早く相談してくれれば対処できたのに…」と言われてしまうこともあり得ます。 こういった結末を避けるためにも、できる限り早く弁護士に相談することをおすすめします。

3. 希望する解決策を伝える

弁護士からアドバイスをもらうことができるとはいえ、最終的にどのように解決したいかを決めるのは依頼者ご自身になります。よって、「発信者は自分ではない」「和解で解決したい」「発信者は自分だが権利を侵害していないので、最後まで争いたい」など、ご自身が希望する解決策を前もって考えておき、弁護士に明確に希望を伝えられるとよいでしょう。

4. 事件に関係する資料をできるだけ持参する

相談の際には、事件に関係する書類を持参するとよいでしょう。
依頼者の話だけではなく、客観的な資料を基に相談することで、弁護士も状況をより正確に理解でき、それにより的確なアドバイスを出しやすくなります。

5. 嘘をつかず、また、自分自身に不利な事実も正直に伝える

真実を隠すことなく、全ての情報を弁護士に伝えましょう。不利な事実を隠して交渉や訴訟を進めてしまうと、あとから事実が発覚した際に言動に矛盾等が生じ、自身の主張の真実性に疑問を持たれてしまうことがあります。また、後から不利な情報を出すと、弁護士との信頼関係に支障が生じてしまうケースもあり得ます。弁護士とのコミュニケーションではご自身にとって不利な事実も含めて情報を提供することで、弁護士は全体の状況を正確に把握し、適切な対応策を考えることができるでしょう。

4.クチコミで刑事責任に問われることはあるのか?

以上、民事上の責任について解説してきましたが、Googleマップなどインターネットへのクチコミ投稿を理由に、投稿者が刑事責任を問われることはあるのでしょうか?

結論として、実際に刑事責任に問われたケースは多くないものの、投稿の内容によっては以下のような罪に該当するケースがあり、刑事責任を問われることがあります。

  • 名誉毀損罪(刑法230条1項):
    「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合に、「その事実の有無にかかわらず」成立する犯罪です。
    三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処せられる旨が定められています。
  • 侮辱罪(刑法231条):
    「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」場合に成立する犯罪です。
    一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処せられる旨が定められています。
  • 脅迫罪(刑法222条1項):
     「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」場合に成立する犯罪です。
    二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処せられる旨が定められています。
  • 信用毀損罪(刑法233条前段):
    「虚偽の風説を流布し…て、人の信用を毀損し…た」場合に成立する犯罪です。
    三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処せられる旨が定められています。
  • 偽計業務妨害罪(刑法233条後段):
    「偽計を用いて…人の業務を妨害した」場合に成立する犯罪です。
    三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処せられる旨が定められています。
  • 威力業務妨害罪(刑法234条):
    「威力を用いて人の業務を妨害した」場合に成立する犯罪です。
    三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処せられる旨が定められています。

有名な事案としては、木村花さんの事例が挙げられます。
テレビ番組「テラスハウス」に出演した女子プロレスラーの木村花さんは、インターネット上で受けた誹謗中傷を原因として2020年に自ら命を絶っており、このことは大きく報道されました。記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
木村さんの事案では、インターネット上で誹謗中傷をした投稿者の男性2名が、侮辱罪で書類送検されたのち、略式命令により罰金刑に処されています。

もし、ご自身がした投稿が原因で、刑事責任に問われる可能性があるかどうか不安な場合には、弁護士に相談してみるのもよいでしょう。

 

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