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弁護士過疎地域・奄美で6年活動した経験を生かし人事労務や相続に注力/正込健一朗弁護士(正込法律事務所)

元々は現代思想の研究者を目指し、心理学と現代思想を専攻していたという正込先生。弁護士2年目から6年間弁護士過疎地域である奄美で活動し、その経験を生かし2016年からは鹿児島市内で法律事務所を経営されています。奄美へ行った理由やそこでの経験などもお話いただきました。

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弁護士を目指した理由とこれまでの歩み

弁護士になろうと思った理由を教えてください。

元々は現代思想の研究者になりたいと思って、大学と大学院博士課程では心理学と現代思想を専攻してきました。ただ博士課程2年目に修士論文を書き上げた時点で、あまり将来が描けなかったんです。それで方向転換を考えたときに、自分が学んできたことを一番社会に還元できる仕事が弁護士だと思ったんです。

先生が学んできたことというのは、具体的にどういったことでしょうか?

私の現代思想的なテーマが個と全体の調和とか秩序だったんですが、一個一個の運動から秩序が自然に生まれてくるみたいな世界観を持っていたんです。そして現実世界でそういった働きをするのは、一つは法律という制度の中で、わかりやすく言えば個々の事件で判決が出て、それが集まって判例になって、社会に新しい秩序が生まれてくるみたいなイメージがあるんですけど、そういうところに関わることで、自分が思っているような世界観を実現できるかなと思ったんです。

当時は法科大学院(ロースクール)制度ができたばかりで、法律を学んだことがない人でも弁護士になりやすい状況だったことも後押しになりました。それから大学院を退学して法科大学院に進学し、2008年に弁護士になりました。


まったく違う分野から弁護士になられたのですね。弁護士になられてからのキャリアについても教えてください。

最初は鹿児島市内にある永山法律事務所に入所し、2010年4月に、ひまわり基金公設事務所として奄美に開設された「あまみ法律事務所」の初代所長に就任しました。2013年1月には、私が所長を務めていた「あまみ法律事務所」と元々あった「弁護士法人あすなろ奄美支所(奄美あすなろ法律事務所)」を合併して、奄美あすなろ法律事務所の所長として引き続き奄美で仕事をしました。合併前は個人の依頼者が中心でしたが、合併後は、本店のバックアップを受けながら、法人破産申立・管財や企業組織再編などの大型案件、債権回収、契約書作成といった企業法務も取り扱うようになり、弁護士としての幅も広がりました。

そして2016年4月に地元鹿児島市に戻って「正込法律事務所」を開設して、今に至ります。

 
「ひまわり基金公設事務所」というのはどういった事務所なのでしょうか?

弁護士が少ない又は一人もいない「弁護士過疎地域」と呼ばれる地域で、いつでも、誰でも司法サービスを受けられるように、日本弁護士連合会(日弁連)等の支援を受けて開設・運営される公的な法律事務所です。ただし、日弁連等から経済的・制度的な支援はありますが、基本的には独立採算の個人経営の形態をとっています。

 
弁護士過疎地域で働こうと思ったのは、どういった理由だったのでしょうか?

正直に言うと、ひまわり基金公設事務所という制度は知っていたのですが、弁護士過疎問題自体に関心があったわけではないんです。

実は私が鹿児島で弁護士になった頃、奄美には先行して設置されていたひまわり基金公設事務所があったんです。ところがその所長弁護士が不祥事を起こしてしまい、北海道の公設事務所から来てくれた弁護士が後始末をしていたんです。その一連の経緯を見ていて、「鹿児島の問題なんだから、鹿児島の弁護士がちゃんと対応すべきだろう」と強く思っていました。そうしたところ、奄美に新たにひまわり基金公設事務所を開設するという話を聞いたので応募し、採用されたんです。

ですから、弁護士過疎地域で働きたいと思ったのではなく、奄美の問題をなんとかしたいと思ったことが理由ですね。

弁護士過疎地域で働くことに不安はなかったですか?

赴任を決めた当時は弁護士1年目でしたから、もちろん不安はありました。ただ公設事務所では、定期的に支援委員会がひらかれ、公設事務所を所管する日弁連の委員会に出席することもでき、その繋がりの中でわからないことがあれば直接または電話やメールで質問できるので、完全に一人で放り出される不安はありませんでした。また、出身事務所や鹿児島の同期などにも相談できる関係ができていたことも安心材料でした。

生活についても、奄美は鹿児島にも東京にも飛行機で一本ですし、大型スーパーやコンビニ、チェーン系の飲食店などもあって、公設事務所が設置される離島としてはかなり恵まれています。そういう意味でも、特に抵抗はなかったですね。
 

弁護士過疎地域での経験について

実際に奄美で仕事をしてみていかがでしたか?

弁護士が少ないので、必要とされている実感は非常に強かったです。仕事はとんでもなくあって、営業は全く必要なく、来るものにひたすら対応するような状況でした。ピーク時は140件くらい依頼を抱えていましたね。「経験がないので他所に行ってください」と断るわけにもいかないので、たくさん本を買って必死で調べて対応していました。情報が命なので、鹿児島市内に出張した際に大型書店で20万円分本を買うみたいなこともありましたよ。

奄美と言えば自然豊かな観光地をイメージされると思いますが、奄美にいた6年間は土日もほぼ国選待機などが入っていたので、思い返せばほとんど仕事しかしていなかった記憶ですね。
 

奄美で6年間弁護士をされた後、鹿児島で今の事務所を開設されたのですね。

はい。奄美での仕事は充実していましたが、前半はあくまでも日弁連等が設置する公設事務所、後半は弁護士法人という組織の一員でしたから、もっと自由に仕事をしてみたいと思ったんです。それで地元に戻って事務所を開設しようと思いました。奄美で自分の事務所をマネジメントしていたので、今の事務所も非常にスムーズに運営できています。

奄美での経験は、その後の弁護士人生にどのように影響していますか?

弁護士過疎地域ですから、どんな相談でも簡単に断るわけにはいきません。ですから必然的に幅広い案件に対応する力が身につきました。弁護士2年目から6年間という、弁護士としての土台を作る期間に多くの経験を積めたことで、本当に鍛えられました。

奄美では法的知識が乏しい相談者が多かったので、相談者の話を丁寧に聴き、専門用語を使わずわかりやすく説明するスキルが身につきましたし、地域特有の感覚とか依頼者のおかれている実情に合わせた解決を意識するようにもなりました。
 

現在の弁護士業務について

現在注力している分野を教えてください。

企業側の人事労務と相続に注力しています。奄美にいた頃に社会保険労務士としても登録していて、人事労務の仕事をするときはその知識や資格も生きています。

弁護士として、どういったことを大切にされていますか?

法律はあくまでも手段なので、その人がなにを実現したいのかを考えるようにしています。たとえば法律的には関係なくても、依頼者の気持ち的には非常に大きい部分もあります。それを関係ないと切り捨てるのではなく、できる限り相手方や裁判所に届けるといったイメージです。

また法律家は議論でトラブルを解決する仕事なので、「法律家はクリスタルクリア(注:明晰な、非常に明瞭な)な言葉を使わないといけない」と教えられたのをすごく覚えていて、相手をどう言葉で説得するかというのはいつも意識しています。依頼者に書面を見てもらったときに、「私はこれが言いたかったんです。」と言っていただけることも多く、依頼者の考えや想いを相手に伝わる言葉にするというところは、評価されているかなと思います。

先生の強みを教えてください。

特に奄美にいた頃は、どんな案件でも扱っていましたし、かなりの案件数をこなしました。鹿児島に来てからは企業法務にも力を入れてきましたので、トラブルの予防や解決には自信を持っています。

また法律問題だけでなく、安定的な人材の採用、育成、定着を目的とした働く環境を整備したり、企業とそこで働く社員がともによくなっている実感を得られるような関わり方ができるところも強みです。

相続に関しては、30回以上のセミナーを開催しており、税理士、司法書士、土地家屋調査士、不動産業者、建設業者などとも連携できる体制が整っています。

先生が取り組んでいるIT化について教えてください。

Zoomを使ったオンライン相談や打ち合わせを行っていますし、事務局とはSlackを使って連絡しています。企業法務も多いので、AIを使った契約書レビューツールも導入しています。今後も色んなツールを試して、仕事の質を上げていきたいと思います。

今後の展望をお聞かせください。

企業法務に関しては、今取り組んでいる人事労務分野を中心に、企業の中に入って予防的な関わり方をしていきたいです。どうしても、なにか問題が起きてから弁護士に相談する企業が多いんです。そこで、私が社長の助手席に座るようなイメージで、もっと普段からコミュニケーションを取って紛争の芽を摘んでいければよいなと思います。

相続に関しては、セミナーなどをとおして相続が「争族」にならないような予防的な活動を続けながら、事業承継や家族信託といった専門性も高めていきたいと思っています。不動産が関わることも多いので、復習の意味も込めて今年は宅建の勉強をしています。

弁護士への相談を考えている方へ

「弁護士にこれを相談していいんだろうか」と思って、相談を躊躇される方も少なくありません。

ただ私は、半分冗談で「弁護士に相談しちゃいけないことは犯行計画だけで、それ以外はなにを相談してもいいんですよ」と言っています。弁護士に相談した結果、弁護士では対応できないとわかれば、対応できる専門家や公的機関などに繫ぐことができます。その意味では、弁護士は困っている人と社会資源とを繫ぐ役割をになっているソーシャルワーカーなんです。とにかく弁護士に相談することで、なにかしら解決に近づく、少なくともそのヒントは得られると思います。当事務所でも相談を受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

弁護士過疎地域での仕事に興味がある方へ

私は元々弁護士過疎問題に関心が高かったわけではありませんが、実際活動してみて、それぞれの地域に弁護士がいる意義は大きいと感じています。この思いは、オンラインコミュニケーションが普及した今でも変わりません。私は奄美を離れてからも、日弁連の委員会活動などを通じて、ずっと弁護士過疎問題に関わっています。ただ弁護士過疎地域で弁護士をしたいという方は本当に少なくなっていて、どの公設事務所も赴任者確保に苦労しています。

おそらく一番不安なのは、公設事務所での任期を終えた後どうするんですかというところだと思います。ただ弁護士過疎地域では、普通に都市部で働いていたらできないくらいの案件数を経験できて、通常その年次だと回ってこないような大きな事件に取り組む機会もあります。また、自分から動くことで、地域の中で人的なネットワークを拡げていくような活動もでき、若いうちに経験を積む場としてはとても魅力的です。そしてその経験を生かして、他の弁護士過疎地域はもちろん、自分の地元でも、また都市部ででも、様々な場所で活動すればよいと思います。

弁護士として若いうちに集中して、大量かつ多種多様な経験を積めるというところが、この制度の一番の魅力だろうなと私は思っています。

弁護士情報

弁護士名:正込 健一朗
所属弁護士会:鹿児島県弁護士会
事務所名:正込法律事務所
事務所HP:https://shogomori.com/
事務所住所:〒892-0816鹿児島市山下町9番1号 チャイムズビル504号

経歴:
2001年 3月 筑波大学第二学群比較文化学類 卒業
2004年 3月 筑波大学大学院人文社会科学研究科現代文化・公共政策専攻 退学
2007年 3月 専修大学大学院法務研究科法務専攻 修了
2008年12月 弁護士登録
2009年 1月 永山法律事務所 入所
2010年 4月 あまみ法律事務所(※日弁連ひまわり基金公設事務所)
2013年 1月 弁護士法人あすなろ奄美支所奄美あすなろ法律事務所 奄美支所長
2016年 4月 正込法律事務所開設

 

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