離婚の公正証書とは?公正証書作成のメリット、公正証書に記載すべきことは?
【この記事の法律監修】
金 浩俊弁護士(第二東京弁護士会)
金法律事務所
離婚は、夫婦にとって人生の大きな転換期であり、感情的にも経済的にも大きな負担を伴う決断です。実際に離婚する際には、財産分与、慰謝料、養育費など、複雑な問題を解決する必要があります。
円滑な離婚手続きと、将来発生する可能性のあるトラブルを未然に防ぐために重要な役割を果たすのが「公正証書」です。内容の適切さを確保するためには、専門知識を持つ弁護士への相談が不可欠です。弁護士に相談することで、安心感を得られ、将来的なリスクを大幅に軽減できます。
本記事では、離婚における公正証書の役割を紹介します。メリット・デメリット、注意点などを具体的な事例を交えて解説しますので、最後までご覧ください。
この記事を読むことで、公正証書がどのような文書であるのか、その法的効力についても理解できるでしょう。
1.公正証書とは
公正証書とは、公証人が法律に基づいて作成する公文書のことです。当事者の依頼に基づき、契約内容や事実関係を公的に証明するもので、法的効力を持ちます。紛争発生時には裁判所での証拠として有効です。
特に金銭の支払い、財産の移転、離婚時の条件などで利用され、合意内容を証拠として確保します。離婚時に作成される公正証書は、離婚に伴う財産の取り決めが主に記載されるため「離婚給付等契約公正証書」とも呼ばれます。
2.離婚の種類
日本の法律では、離婚は以下の3つの種類に分類されます。
2-1.協議離婚
協議離婚は、夫婦間の話し合いを通じて合意のもと離婚届を作成し、市区町村役場に提出することで離婚が成立します。この過程では、双方の同意が基本となるため、迅速に進めることが可能です。
たとえ自分が離婚を望んでいても、相手が離婚に同意しなければ協議離婚は成立しません。「離婚したい」そう思ったときにはまず協議離婚を試み、その後、調停や裁判を検討しましょう。
2-2.調停離婚
調停離婚は、家庭裁判所の調停手続を介して、夫婦間で合意に至る形の離婚です。話し合いをしても合意に至らない場合に利用され、第三者の仲裁により円満に解決を図ります。
2-3.裁判離婚
裁判離婚は、協議離婚や調停離婚で合意に至らなかった場合に行われる手続きです。法廷で争われ、判決により離婚が成立します。この形式では、法的な根拠が必要となり、時間と労力がかかることが一般的です。
3.公正証書の重要性
ここからは、公正証書の重要性を紹介します。
3-1.協議離婚時の公正証書の重要性
協議離婚は、夫婦間の話し合いのみに基づいて進められるため、後々、約束が守られなかったり、解釈の違いでトラブルが発生する可能性があります。
公正証書を作成しておくことで、離婚の条件を明確に記録し、法的効力を持たせることで、将来的なトラブルを未然に防げます。
3-2.公正証書の法的効力
公正証書は、強制執行力を持つ法的文書であり、裁判所の判決と同様の効力があります。特に養育費や慰謝料の支払い義務を確保する手段として重要です。
公正証書の内容は、後からの変更も可能ですが、養育費や慰謝料の変更は双方の合意が必要です。変更内容について再度公正証書を作成することで、正式に改訂されます。
4.公正証書作成のメリット
では、公正証書作成のメリットとデメリットには、それぞれどのようなものがあるのでしょうか。実際の裁判事例を交えながら解説します。
4-1.強制執行力がある
公正証書には、養育費や慰謝料の支払いが滞った場合に強制執行を行う力があります。これは、相手が支払いを怠ったときに、裁判を経ずに給与差し押さえなどを直接手続きできることを意味します。
4-2.証拠能力が高い
公正証書は、公証人という法律の専門家が作成し法務局に保管されるため、私文書よりも法的効力が高く証明力も強固です。
4-3.精神的負担の軽減
公正証書を作成することで、当事者は法律に関する心配やトラブルへの不安から解放され、精神的な安定を得られるというメリットがあります。
4-4.裁判事例
財産開示手続実施決定に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件は、離婚後に公正証書で定めた養育費の支払いに関する事案です。
抗告人は、公正証書に基づき、債務者に対して財産開示手続きを申し立てました。離婚時に養育費の支払いを公正証書で合意していたものの、債務者がその後に弁済を行い、この弁済を理由に財産開示手続を不要とするよう抗告しました。
原審は、弁済によって請求債権が消滅したと判断して申立てを却下しましたが、最高裁は、請求債権の存否は「請求異議の訴え」で判断されるべきとして、財産開示手続において考慮すべきでないとしました。
結果として、原審の判断は破棄され、事件は東京高等裁判所に差し戻されることになりました。このケースでは、養育費に関する合意を公正証書として保持することで、養育費の支払い義務が法的に確定され、強制執行手続が進められる根拠となりました。
参考:最高裁判所 裁判例検索 令和3年(許)第16号 財産開示手続実施決定に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件 令和4年10月6日 第一小法廷決定
5.公正証書作成のデメリット
公正証書作成には、以下のようなデメリットがあります。
5-1.費用がかかる
公正証書の作成には公証人への手数料が発生するため、初期費用が必要です。金額は、内容や財産の額によって異なります。
5-2.作成に手間がかかる
公正証書作成のための準備と手続きには、時間や労力がかかります。また、公正証書の内容を変更する場合には、改めて手続きを行う必要があります。
5-3.相手との合意が前提である
公正証書を作成するためには、両者の合意が必要です。合意が得られなければ、公正証書を作成できません。
5-4.裁判事例
殺人被告事件は、被告人が元夫を殺害した事案です。この事件の背景には、被告人と被害者である元夫との複雑な関係がありました。被告人と元夫は結婚して1男1女をもうけましたが、家庭内暴力や元夫の女性問題に悩まされていました。
平成10年9月頃、元夫から離婚給付契約を公正証書にすることを強制され、平成11年6月には元夫の強い要求により離婚届を提出することを余儀なくされました。しかし、実際にはその後も一緒に同居を続けていました。
離婚しても名目上は関係を解消したものの、現実には経済的や人間関係のしがらみから別居はせず、内縁関係のような同居生活をしていました。このような状況は、被告人にとっては精神的にも肉体的にも負担が大きく、不安定な状態を招いていたと考えられます。この経緯が最終的に事件の発端となったとも言えます。
公正証書の強要が直接的な事件の一因とは言い切れないものの、それが一連の不和の中での一つの要因であった可能性を示唆できます。
参考:最高裁判所 裁判例検索 平成14(わ)29 殺人被告事件 平成15年4月24日 神戸地方裁判所
6.離婚の公正証書に記載すべきこと
離婚する際に作成される「離婚給付等契約公正証書」は、離婚に関連するお金や財産に関する約束事を記載することが多い書類です。ここからは、離婚の公正証書に記載すべき内容を解説します。
6-1.離婚の公正証書の基本事項
離婚の公正証書に記載する基本的な事項は、以下の通りです。
- 離婚の合意(離婚することに両者が同意していること)
- 住所変更等の通知義務(住所が変わったときなどに相手に通知する義務)
- 清算条項(すべての金銭的な問題が解決したことを確認する項目)
- 強制執行認諾(取り決めた内容が守られない場合に、裁判を経ずに強制的に実行できることの確認)
など。
6-2.子どもがいる場合の注意点
子どもがいる場合には、基本的な事項に加え、親権者と監護権者の決定についても記載します。親権を持つ人と子どもの世話をする人を決定し、親権者が子どもの監護を行います。非監護親が子どもとどのように会うかについての取り決めについても記載することが一般的です。
6-3.養育費
一方の親が子どもを引き取って育てる場合、もう一方の親がその子どもの生活費や教育費を支援します。「親の世話が必要な子ども」には、未成年の子どもや大人になっても大学に通っていて、経済的に自立できない場合などが該当します。
養育費の項目には、支払い金額、頻度、期限を明記する必要があります。養育費の保証は、子どもの生活を安定させるための重要な要素です。
6-4.財産分与
結婚生活中に、夫婦で力を合わせて築き上げた財産は、たとえ名義がどちらか一方であっても、離婚の際には、二人の共有財産として分け合うことになります。これは、結婚期間中に夫婦がともに努力し、支え合った結果として得られた財産は、どちらか一方だけのものではないという考え方に基づいています。
財産分与については、詳細な取り決めを公正証書に明記します。名義変更、共有物の処理方法など具体的な点まで記載することが重要です。
6-5.慰謝料
慰謝料とは、離婚において過失がある側が相手に支払う料金のことです。精神的苦痛に対する賠償金であり、その金額は離婚の原因や精神的苦痛の程度、婚姻期間、資産や収入、その他さまざまな要素が考慮されます。
慰謝料の金額と支払い条件を公正証書に明確に記載します。これにより、後の紛争を予防し、相手方の支払い義務を法的に確認できます。
7.公正証書の作成方法
ここからは、具体的な公正証書作成の手順や費用を紹介します。必要書類についても解説します。
7-1.手順
公正証書の作成手順は、以下の通りです。
7-1-1.公証役場への相談・予約
まず、離婚内容や必要な書類などを確認するために、事前に公証役場へ相談し、作成の予約をします。公証人は全国に約500名おり、公証役場は約300ヶ所あります。日本公証人連合会のホームページから最寄りの公証役場を検索可能です。
7-1-2.必要書類の準備
印鑑登録証明書や実印など、必要な書類を収集します。必要書類についても、日本公証人連合会のホームページから確認可能です。
7-1-3.公証役場への訪問・証書案の確認
公証役場を訪問し、証書案の内容を確認します。離婚に関する話し合いの内容は、当事者の希望や必要に応じて選んで決めます。
7-1-4.公正証書への署名・交付
証書案に問題がなければ、署名と押印を行います。手数料を支払い、公正証書の交付を受けます。
7-2.費用
公正証書の作成費用は、公証人手数料令によって定められています。
第一条公証人(公証人の職務を行う法務事務官を含む。以下同じ。)が受ける手数料、送達に要する料金、登記手数料、日当及び旅費については、この政令の定めるところによる。
引用:e-Gov法令検索 公証人手数料令(平成五年政令第二百二十四号)
手数料令9条には、契約やその他の法律行為に関連する証書作成の手数料は、基本的にその行為の目的となる価値に基づいて決定されることが明記されています。
ここでいう目的の価値とは、その法律行為によって一方が得る利益、または相手が負う損失や義務を金銭的に評価したものです。目的の価値は、公証人が証書の作成を開始した時点を基準にして計算されます。
第九条(法律行為に係る証書の作成の手数料の原則) 法律行為に係る証書の作成についての手数料の額は、この政令に特別の定めがある場合を除き、別表の中欄に掲げる法律行為の目的の価額の区分に応じ、同表の下欄に定めるとおりとする。
引用:e-Gov法令検索 公証人手数料令(平成五年政令第二百二十四号)
たとえば、目的の価額が100万円以下の場合、手数料は5,000円です。一方、10億円を超える場合の手数料は、24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額と定められています。
また、公証人手数料令第二十五条に基づき、縦書きの証書は4枚以上、横書きの場合は3枚以上になると、1枚ごとに250円の追加費用がかかります。
第二十五条(証書の枚数による加算) 法律行為に係る証書の作成についての手数料については、証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により四枚(法務省令で定める横書の証書にあっては、三枚)を超えるときは、超える一枚ごとに二百五十円を加算する。
引用:e-Gov法令検索 公証人手数料令(平成五年政令第二百二十四号)
7-3.作成に必要な書類
当事者本人により公正証書を作成する場合の必要書類を紹介します。当事者が個人の場合、下記のいずれかを用意する必要があります。
- 印鑑登録証明書と実印
- 運転免許証と認印
- マイナンバーカードと認印
- 住民基本台帳カード(写真付き)と認印
- パスポート、身体障害者手帳または在留カードと認印
この他に、
- 戸籍謄本(公正証書作成後に離婚する場合は、現在の家族全員が載った戸籍謄本が必要。離婚済みの場合は当事者双方の離婚後の戸籍謄本が必要。)
- 不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)および固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書
- 年金分割のための年金手帳等(当事者の年金番号が分かる年金手帳、年金情報通知書等)
が必要です。
8.公正証書提出後の処理
続いて、公正証書提出後の保管方法や、相手が認めない場合の対処法を見ていきましょう。
8-1.保管方法と有効期限
公正証書は、紛失や破損に備え、大切に保管する必要があります。有効期限はなく、内容に基づく義務が履行されるまで効力を持ち続けます。
万が一紛失してしまった場合には、公正証書を作った公証役場の担当公証人に依頼して、正本を発行してもらう必要があります。直接その役場に行くか、郵送で行うことができます。
8-2.相手が認めない場合の対処法
相手が公正証書の内容を認めず義務を履行しない場合、裁判所を通じて強制執行の申し立てを行うことが可能です。これにより、迅速な権利執行が行えます。
9.離婚の公正証書に関するよくある悩み
離婚に際し、公正証書を作成する際にはさまざまな悩みが生じます。この章では、離婚の公正証書に関するよくある悩みをまとめました。参考にご覧ください。
9-1.公正証書なしでの離婚は可能か
公正証書を作成せずに離婚することは可能です。しかし、公正証書がない場合、後々のトラブル発生時に当事者間での解決が困難になり、裁判に発展する可能性も高まります。
9-2.1人での作成が可能か
公正証書の作成は通常、双方当事者が揃っていることが前提となります。単独での作成は不可能ではありませんが、相手方の同意が必須です。
9-3.テンプレートはあるのか
公正証書のテンプレートはありませんが、公証役場では一般的な公正証書の例や書き方について相談できます。弁護士に相談することで、依頼者の状況を詳しくヒアリングし、最適な条項を提案してくれるでしょう。
9-4.離婚届けと公正証書の違いは何か
離婚届けは離婚の事実を届け出るための手続きであり、夫婦関係の終了を役所へ届け出るための書類です。一方、公正証書は、離婚に伴う財産分与、養育費、慰謝料などの合意内容を公証役場で作成する書面です。
9-5.裁判所の調停調書と公正証書の違いは何か
裁判所の調停調書とは、家庭裁判所での調停手続を経て作成するものです。一方、公正証書は、夫婦間の合意に基づき、公証役場で作成します。
9-6.弁護士への相談は必要か
離婚に関する公正証書について弁護士に相談することは非常に有益です。弁護士は、法的なアドバイスを提供し、あなたの権利や義務がしっかりと反映された公正証書を作成する手助けをしてくれます。
特に、養育費や財産分与、親権などの重要な事項を正確に記載するために、専門家の意見を求めることは重要です。経験豊富な弁護士のサポートを受けることで、将来のトラブルも未然に防ぐことが可能です。プライバシーや子供の将来についての不安も少なくなり、新しい生活を安心してスタートできるでしょう。
9-6-1.弁護士に依頼する流れ
弁護士への依頼は、初回相談を通じて行い、状況に応じた法的助言を受けます。その後、正式な依頼を経て公正証書作成のサポートを受けることが一般的です。
9-6-2.弁護士にかかる費用
護士費用は依頼内容により異なりますが、公正証書作成に関する助言料や代理作成費用が一般的にかかります。
もしも弁護士に相談せずに進めてしまうと、離婚に関する法律や判例、相場価格などを知らないまま、相手方の主張を受け入れてしまう可能性があります。
弁護士への相談には一定のコストが掛かりますが、専門的なアドバイスを受けることで、適切かつ正確な公正証書を作成可能です。より大きな損失を未然に防ぐことができるでしょう。
9-6-3.公証人と弁護士の違い
公証人は国家公務員法の下では公務員ではありませんが、公証人法に基づき、法務大臣が法律実務経験のある人から任命します。そのため、実質的には公務員とされ、刑法や国家賠償法での「公務員」に該当します。
一方で、弁護士は法律相談や紛争処理を通じて依頼人を代理し、法的助言を行う専門家です。依頼者の利益を守るために、意向を踏まえたサポートを提供してくれるでしょう。
10.まとめ
離婚手続きを円滑に進めるためには、公正証書の作成が重要です。公正証書は法的な強制力を持ち、将来的な紛争を未然に防ぐ役割を果たします。
弁護士は依頼者の状況に応じて、最適な解決策を提案し手続きを支援します。法な的観点からの安心感を得られるだけでなく、精神的な負担を軽減し、離婚後の生活にスムーズに移行できるでしょう。
離婚は、新たな人生の出発点です。弁護士のサポートを受けながら、公正証書を作成することで、自身と子どもの将来を守り、より良い未来を切り開きましょう。
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