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フリーランス新法とは?フリーランスを保護するための法改正を詳しく解説

「フリーランス新法が新しく制定されてフリーランスの働き方に影響があるかもしれないということを聞いた。」「そもそもフリーランス新法とは何?」「だれにどんな影響があるの?」

フリーランス新法は、いわゆるフリーランスとして業務を受託する事業者を保護するために、取引の適正化や就業環境の整備を図ることを目的として新たに作られた法律です。フリーランス新法は、2023年に成立・公布された法律ですが、2024年中には施行されることが決まっています。

この記事では、フリーランス新法とはどのような法律でありどのような規制内容が定められているか、フリーランス新法によってどのような影響があるのかなどについて、具体的な例を交えながら詳しく解説しています。

この記事を読むことで、フリーランス新法のことを詳しく知ることができ、フリーランス新法の施行に備えて適切な対策を取ることが可能となります。

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1.フリーランス新法とは何か

フリーランス新法とは、個人が事業主として受託した業務につき安定して働くことができる環境を整えるために、業務を委託する事業者との間の取引の適正化や就業環境の整備を図ることを目的とした法律のことです。 フリーランス新法の正式名称は、以下の通りです。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)

参考:フリーランス新法の条文はこちら|

フリーランス新法で規定されている内容は、大きく分けて次の2つです。

  • 取引の適正化に関する規定
  • 就業環境の整備に関する規定

このうち、「取引の適正化」については公正取引委員会が所管し、「就業環境の整備」に関しては厚生労働省が所管します。

これは、「取引の適正化」は事業者間の適正な経済競争のルールという側面があるのに対し、「就業環境の整備」は働く環境を整えてより良くするルールという側面があり、それぞれ異なる側面からの規制であることが理由です。

フリーランス新法は、2023年2月24日に第211回国会に提出され、同年4月28日に成立し、5月12日に公布されました。法律は公布の日から1年6か月を超えない範囲内で政令に定める日から施行されることとされており、フリーランス新法は2024年11月1日に施行されることとなりました。

2.フリーランス新法が制定された背景と議論の経緯

フリーランス新法が制定された背景には、フリーランスの保護と取引の適正化の必要性が一層高まっていたということがあります。このことを前提に検討がなされ、法案が提出・可決されるに至りました。

ここからは、フリーランス新法が制定された背景と議論の経緯についてご紹介します。

2-1.フリーランス新法が制定された背景

日本では、フリーランスとして働く人が増えていることに伴い、フリーランスが取引の中でトラブルにあったり不利益を受けたりすることが増えてきています。

厚生労働省の統計資料によれば、厚生労働省から委託を受けて第二東京弁護士会が運営しているフリーランスのための相談窓口「フリーランス・トラブル110番」では、2023年度に8,986件の相談を受け付けています。

2020年度には1,332件、2021年度には4,072件、2022年度には6,884件の相談を受け付けており、2023年度に8,986件まで右肩上がりに相談件数が増えていることが分かります。

作成:カケコム/参考:フリーランス・トラブルに関する統計資料(1頁)|厚生労働省

相談者の年齢は、20代から40代までが約8割を占めており、業種は、運送関係15.3%、システム開発・ウェブ制作関係9.8%、建設関係9.6%、デザイン関係7.4%などとなっています。(資料2頁

相談内容は、「報酬の支払い」29.7%、「契約条件の明示」が16.7%、「受注者からの中途解除・不更新」が10.0%、「発注者からの損害賠償請求」が8.9%などとなっています。(資料4頁

このように、フリーランスに関するトラブルは増える一方ですが、この背景にはフリーランスが組織に属して雇用されて働く人とは異なり、十分な法的保護を受けていなかったということがあります。また、フリーランスは特定の発注者に依存していることが多く、対等な取引関係に基づいて取引内容や働く環境などについて発注者としっかり交渉することが難しいという現状もあります。

このような事情を背景として、フリーランスを保護するためのフリーランス新法が制定されました。

参考:フリーランス・トラブル110番|厚生労働省

2-2.フリーランス新法が制定されるまでの議論の経緯

フリーランス新法の議論が始まったきっかけは、2020年7月17日に閣議決定された「成長戦略実行計画」において、フリーランスの増加を前提にフリーランスとして安心して働ける環境を整備するために保護ルールの整備を行うことが決められたことにあります。

参考:成長戦略実行計画(令和2年7月17日)|成長戦略会議

この実行計画では、まずフリーランス取引に関するガイドラインを策定することなどが決められました。行政が策定するガイドラインとは、法律の実施に関する基本的な方向性や法律の具体的な解釈・判断基準を示したものです。

2021年3月26日には、この実行計画に基づいて、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が策定されました。このガイドラインは、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で策定されたものであり、省庁横断的に国を挙げてフリーランス保護のための対応に乗り出そうという姿勢がうかがえます。

このガイドラインは、独占禁止法、下請法、労働関係法令の適用関係を明らかにし、法令に基づく問題行為を明確化する目的で策定されたものです。ガイドラインの中では、フリーランスと取引を行う事業者が遵守するべき事項として、問題となる行為類型が多数挙げられ、独占禁止法などによる規制の考え方が解説されています。

参考:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)|内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省

2021年6月18日に閣議決定された「成長戦略実行計画」では、単なるガイドラインの策定から一歩進んで、フリーランス保護のための法制面の措置(新法の制定など)が検討されることとされました。

参考:成長戦略実行計画(令和3年6月18日)|成長戦略会議

2022年6月7日に「新しい資本主義実現本部」(2021年10月15日設置)が作成した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の中では、フリーランスの取引を適正化するための法制度について検討し、国会に法案を提出することが決められ、閣議決定されました。

参考:

ここでは、フリーランスのトラブル増加やフリーランスが従来の中小企業法制では保護の対象とならないことへの問題意識が指摘されていました。

また、この「新しい資本主義」とは岸田内閣の主要政策のひとつであり、岸田内閣が特に力を入れてフリーランス保護のための新法制定を推し進めたことが分かります。

2022年9月13日には「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に関する意見募集(パブリックコメント)が行われました。このパブリックコメントでは、2週間の募集期間で622件という多くの意見が寄せられ、フリーランス保護のための法整備に関する国民の関心が高かったことをうかがわせます。

参考:「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に関する意見募集に寄せられた御意見について

このような議論を経て、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(フリーランス新法の法案)が2023年2月24日に閣議決定され、同日に第211回国会に提出、同年4月28日に成立、5月12日に公布されました。

作成:カケコム

フリーランス新法は、施行後3年を目途として、施行状況を考慮しつつ法律の規定に検討を加え、検討結果に基づいて必要な措置を講ずることが定められています。

参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案に対する附帯決議(衆議院・参議院 内閣委員会)法附則2項|厚生労働省

なお、フリーランス新法の法案に対しては、衆議院・参議院それぞれの内閣委員会において附帯決議がなされています。

「附帯決議」とは、行政が法律を執行するにあたっての留意事項を示したもので、法的拘束力はないものの国会からの要望として政治的な効果があるものです。

附帯決議では、相談体制の整備、具体的なガイドライン作成、禁止事項拡充の検討、インボイス対応の一方的要求と不利益取扱い示唆禁止の周知徹底など、フリーランス新法の運用が問題なく行われるようにさまざまな事項が求められています。

3.フリーランス新法と下請法・独占禁止法との関係

フリーランス新法に似た法律として、下請法や独占禁止法があります。

下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)とは、親事業者が下請事業者に対して下請代金の支払を遅延するなど優越的な地位を濫用する行為を取り締まり、下請事業者の利益を保護することなどを目的とした法律です。

フリーランス新法には下請法とよく似た規制が多くありますが、これらの法律は適用の対象が異なります。

下請法は、資本金が一定額以上である発注者に対して適用される法律であり、発注者の資本金の額が1,000万円を超える場合に初めて下請法が適用される可能性が出てきます。

これに対し、フリーランス新法では、資本金の要件はありません。例えば資本金の額が1円である会社や資本金という概念がない個人事業主が発注者である場合でも、要件を満たす限りフリーランス新法が適用されます。

参考:下請代金支払遅延等防止法(昭和三十一年法律第百二十号)

独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)とは、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法などを禁止し、自由な経済社会における公正・自由な競争を妨げる行為を規制している法律です。

独占禁止法では、資本金の要件などはなく、同法で定められた要件さえ満たせば適用対象となります。

もっとも、独占禁止法の要件は抽象的であり、要件に該当して規制の対象となるのかの判断が難しいという特徴があります。このため、実務上はまず下請法の適用を検討し、下請法が適用できない場合に独占禁止法の適用ができるかが判断される傾向にあります。

参考:昭和二十二年法律第五十四号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)

独占禁止法は、自由な経済社会における事業者間の競争行為のルールを定めた最も基本的な法律です。

これに対し、下請法は、独占禁止法を補完する関係にある法律です。

また、フリーランス新法は、下請法を補完する位置付けの法律です。

フリーランス新法が施行されれば、取り締まりの対象や違反行為の内容に応じて各法律が活用され、より充実した取り締まりが実行され、フリーランスなど立場の弱い事業者の保護がいっそう進むことが期待されます。

作成:カケコム

4.フリーランス新法の適用対象と用語の定義

フリーランス新法が何に適用されるのかということやフリーランス新法で使われる用語がどのような意味なのかについてご説明します。

4-1.フリーランス新法の適用対象

フリーランス新法は、業務を受託する事業者と業務を委託する事業者との間の業務委託取引に適用される法律であり、いわゆるB to Bの取引に対して適用されます。

フリーランス新法では、業務を受託する事業者のうち特定のものに業務委託をする事業者(またはそのうち特定のもの)に対して、一定の義務を課しています。

フリーランス新法の適用対象となる取引は広く、業務委託取引の実務に与える影響は大きくなると予想されています。

また、規制の内容に応じて少しずつ適用対象が異なるため、ご自身の場合にはどのような規制が適用されるのかを正確に見極めて対応する必要があります。

4-2.フリーランス新法における用語の定義

フリーランス新法のルールを理解するうえでは、特に次の用語の意味をしっかりと把握することが重要です。

  • 特定受託事業者
  • 業務委託
  • 業務委託事業者(特定業務委託事業者)

フリーランス新法では、それぞれ次のように用語が定義されています。

4-2-1.特定受託事業者

「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するものです(法2条1項)。

  • 個人であって、従業員を使用しないもの
  • 法人であって、ひとりの代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

この「特定受託事業者」が、いわゆるフリーランスのことです。

個人事業主であって完全にひとりで業務を行っているものについては、特定受託事業者に該当します。また、法人化していても完全に代表者ひとりで業務を行っており実質的に個人ひとりで業務を行っているのと同じである場合には、特定受託事業者に該当します。

これに対して、個人であっても誰かを雇っているなどの場合や、法人であって他の役員や従業員がいるという場合には、特定受託事業者には該当しません。

このような特定受託事業者に該当する場合の個人または法人の代表者のことを、「特定受託業務従事者」といいます(法2条2項)。

4-2-2.業務委託

「業務委託」とは、次の行為のことです(法2条3項)。

  • 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造・加工または情報成果物(プログラム、映像、文章、デザインなど)の作成を委託すること
  • 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者に対して自らに役務の提供をさせることを含む)

「業務委託」には、いわゆるB to Cの取引は含まれませんが、下請的な構造がある取引に限らず対等な事業者の関係として取引をする場合も含まれます。これにより、多くの業務委託取引がこれに含まれます。

4-2-3.業務委託事業者/特定業務委託事業者

「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者のことです(法2条5項)。

「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者のうち、次のいずれかに該当するもののことです(法2条6項)。

  • 個人であって、従業員を使用するもの
  • 法人であって、2人以上の役員があり、または従業員を使用するもの

業務委託事業者は、特定受託事業者に業務委託をする事業者の全てを含み、従業員を使用しているかどうかなどを問いません。

これに対し、特定業務委託事業者は業務委託事業者のうち従業員を使用していたり複数の役員がいたりするもののことを指します。もっとも、1人でも従業員を使用していたり2人以上の役員がいたりすれば特定業務委託事業者に該当するので、その範囲は相当広いといえます。

ここまでに見たように、業務委託を受ける側については完全にひとりで業務を行っているものがフリーランス新法の適用対象となりますが、業務委託をする側についてはこのような受託者に業務を委託するのであれば全ての事業者が対象となります。また、業務委託をする事業者の中でも従業員を雇うなど複数人で事業を行っているものについては、特別な規制の対象となります。

なお、法案の審議過程における政府参考人の答弁によれば、業務委託を受ける者の家族が仕事を手伝う場合には、青色事業専従者である場合も含めて、基本的には従業員を使用していない場合と同じ扱いになる見込みです。また、従業員がいる法人を経営している社長が新たに自分ひとりだけの法人を設立して仕事を受けた場合には、その新法人は新法の保護の対象になる見込みです。

参考:第211回国会 内閣委員会 第10号(令和5年4月5日(水曜日))|衆議院

4-3.フリーランス新法で「フリーランス」はどのように定義されているか

この法律は「フリーランス新法」と呼ばれていますが、法律上は「フリーランス」という言葉は使われていません。代わりに「特定受託事業者」という名称がいわゆるフリーランスを指すものとして使われています。

「特定受託事業者」「特定業務委託事業者」「業務委託事業者」のいずれについても資本金が要件になっておらず、資本金のない個人や資本金が1円のような会社でもこれらに該当する可能性があります。

ひとりで仕事をしており業務を受託するものであれば基本的には「フリーランス」としてこの法律の対象になると考えて対応を進めるとよいでしょう。

5.フリーランス新法ではどのようなルールが定められているか

フリーランス新法では、「取引の適正化」と「就業環境の整備」のために、さまざまなルールが定められています。

5-1.取引の適正化に関するルール

フリーランス新法では、取引を適正化するため、特定受託事業者に対して業務を委託する業務委託事業者が遵守するべき義務や禁止事項が規定されています。

フリーランス新法で規定された取引適正化のための義務や禁止事項には、次のものがあります。

  • 取引条件の明示義務
  • 報酬の支払期日を定める義務
  • 特定業務委託事業者の禁止事項

なお、取引条件の明示義務については業務委託事業者であれば全ての発注者が対象となりますが、その他の義務・禁止事項は特定業務委託事業者(従業員等がいる事業者)が発注者となる場合に限られます。

取引条件の明示義務(法3条)

業務委託事業者が特定受託事業者に対して業務委託をした場合には、直ちに次の事項を書面または電磁的方法によって特定受託事業者に明示しなければなりません(法3条1項本文)。

  • 特定受託事業者の給付の内容
  • 報酬の額
  • 支払期日
  • その他公正取引委員会規則で定める事項

体的な明示事項や明示の手段である電磁的方法の具体的内容については公正取引委員会規則で定めることとされていますが、この規則の内容は2024年5月時点ではまだ公表されていません。

もっとも、「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会報告書」では次の事項などを明示事項とすることが適当であるとされています。

  1. 業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称又は番号、記号等であって業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの
  2. 業務委託をした日
  3. 特定受託事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供する役務の内容)(※注1)
  4. 特定受託事業者の給付を受領する期日又は役務の提供を受ける期日
  5. 特定受託事業者の給付の場所・役務提供の場所
  6. 特定受託事業者の給付・役務の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
  7. 報酬の額(※注2)
  8. 報酬の支払期日
  9. 報酬の全部又は一部の支払につき、手形を交付する場合に必要な事項
  10. 報酬の全部又は一部の支払につき、一括決済方式で支払う場合に必要な事項
  11. 報酬の全部又は一部の支払につき、電子記録債権で支払う場合に必要な事項
  12. 報酬の全部又は一部の支払につき、デジタル払い(報酬の資金移動業者の口座への支払)をする場合に必要な事項
  13. 具体的な金額を記載することが困難なやむを得ない事情がある場合の、報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方法
  14. 業務委託をしたときに書面又は電磁的方法により明示しない事項(未定事項)がある場合の、未定事項の内容が定められない理由及び特定事項の内容を定めることとなる予定期日
  15. 基本契約等の共通事項があらかじめ明示された場合の個別契約との関連付けの明示
  16. 未定事項の内容を書面又は電磁的方法により明示する場合の、当初明示した事項との関連性を確認できる記載事項
  17. 〔再委託の場合〕再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日

 

引用:特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会報告書(令和6年1月)7頁|特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会

このことに関し、ガイドライン等で明らかにすることが期待される考え方として、次の考え方が示されています。

※注1については、「特定受託事業者が作成した情報成果物等に係る知的財産権について、業務委託事業者が、作成の目的たる使用の範囲を超えて、当該知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを含んで発注する場合には、「特定受託事業者の給付の内容」の一部として、特定受託事業者が作成した情報成果物等に係る知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載することが必要」とされています。

※注2については、「例えば、業務委託をした際に、諸経費を「報酬の額」として支払うこととしている場合には、当該諸経費を含めた「報酬の額」を明示することが必要」とされています。

明示の手段である電磁的方法としては広い手段が認められる方向であり、具体的には次のような手段が認められる方向です。(報告書13頁)。

  • 電子メール
  • クラウドメールサービス
  • オンラインストレージサービス
  • ソーシャルネットワークサービス(SNS)
  • アプリ等を用いた各種メッセージサービス

電磁的方法により明示した場合であっても、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは原則として遅滞なく書面を交付しなければなりません(法3条2項本文)。

また、電磁的方法により明示する場合には、特定受託事業者の同意や承諾は必要ありません。このことは、下請法においては書面に代えて電磁的方法により情報を提供するために下請事業者の承諾が必要とされている(下請法3条2項前段)ことと異なります。

取引条件の明示義務について特に注意しなければならない点は、義務の対象が「業務委託事業者」であることです。

これは、従業員を使用していない事業者も含めて業務委託をする全ての事業者が対象となることを意味します。これにより、フリーランスからフリーランスへの業務委託や再委託についても取引条件の明示義務の適用があります。

また、契約期間の長さにかかわらず義務が適用されるため、この義務の適用範囲は非常に広くなります。

報酬の支払期日を定める義務、支払遅延の禁止(法4条)

特定業務委託事業者が特定受託事業者に対して業務委託をした場合には、報酬の支払期日についてルールが定められています。

具体的には、給付を受領した日から60日以内(かつ、できる限り短い期間内)に報酬の支払期日を定めなければなりません(法4条1項)。

特定業務委託事業者が他の事業者から業務委託を受け、その業務の全部または一部について特定受託事業者に再委託をした場合には、発注元から支払を受ける日から30日以内(かつ、できる限り短い期間内)に報酬の支払期日を定めなければなりません(法4条3項)。

特定業務委託事業者は、支払期日までに報酬を支払わなければなりません(法4条5項本文)。

これらの義務に違反して報酬の支払期日が定められなかった場合には、給付を受領した日(再委託の場合は発注元から支払を受ける日)が、報酬の支払期日と定められたものとみなされます。また、これらのルールに違反して報酬の支払期日が定められた場合には、給付を受領した日から60日後(再委託の場合は発注元から支払を受ける日から30日後)が、報酬の支払期日と定められたものとみなされます(法4条2項、4項)。

特定業務委託事業者の禁止事項(法5条)

特定業務委託事業者が特定受託事業者に対して、政令で定める一定期間以上継続して行う業務委託をした場合には、次の禁止事項(遵守事項)を守らなければなりません(法5条)。

  1. 給付の受領を拒むこと
  2. 報酬の額を減らすこと
  3. 給付受領後に、特定受託事業者にその給付された物を引き取らせること
  4. 同種または類似の給付内容に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬額を不当に定めること
  5. 正当な理由がないのに、自己の指定する物を強制して購入させ、または役務を強制して利用させること
  6. 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
  7. 給付の内容を変更させ、または給付を受領した後(もしくは役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること

このうち、1~5については、そのような行為をすることそのものが禁止されています(法5条1項)。

これに対して、6、7については、その行為をすることによって特定受託事業者の利益を不当に害することが禁止されています(法5条2項)。逆にいえば、特定受託事業者の利益を不当に害しない範囲の行為であれば、6、7に該当する行為であっても許容されます。

「政令で定める一定期間」について定めた政令の内容は、2024年5月時点ではまだ公表されていません。

もっとも、「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会報告書」では、法5条の適用対象となる業務委託の期間は1か月とすることが適当であるとしています(報告書9頁以下)。このため、1か月以上継続して行う業務委託がこれらの禁止事項の対象となる可能性があります。

5-2.就業環境の整備に関するルール

フリーランス新法では、特定受託事業者が働く環境を整備するために特定業務委託事業者が行わなければならない事項も規定されています。

フリーランス新法で規定された就業環境を整備するための事項には、次のものがあります。

  • 募集情報の的確な表示
  • 妊娠、出産、育児・介護に対する配慮
  • ハラスメント対策のための措置
  • 契約解除の予告義務

就業環境の整備に関するルールは、特定業務委託事業者(従業員等がいる事業者)が発注者となる場合に限られます。このため、従業員等がおらずひとりで事業を行う者はこのルールの適用対象外です。

募集情報の的確な表示(法12条)

新聞、雑誌、ウェブサイトなどに仕事の募集に関する情報を掲載するときは、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはなりません。また、掲載する募集に関する情報は、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。

これまでも、雇用契約の元で働く労働者については求人などに関する情報の的確な表示が義務とされていました。仕事の募集に関する情報を的確に表示するべきであることは労働者でもフリーランスでも変わらないことから、同様の義務が定められることとなりました。

参考:職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)五条の四

妊娠、出産、育児・介護に対する配慮(法13条)

政令で定める一定期間継続する業務委託に関し、特定受託事業者が妊娠、出産、育児・介護と両立しながら業務を行うことができるように、状況に応じた必要な配慮をしなければなりません。

また、政令で定める一定期間継続していない業務委託に関しても、必要な配慮をするよう努力しなければなりません(努力義務)。

この政令で定める一定期間継続する業務委託には、当初から一定期間以上の期間が契約期間として定められているものだけでなく、更新によって一定期間以上継続するものも含みます。

ハラスメント対策のための措置(法14条)

いわゆるセクハラ、マタハラ、パワハラについての相談に応じて適切に対応するための体制を整備するなど必要な措置を講じなければなりません。

また、相談を行ったことや相談への対応に協力したことを理由として、契約を解除するなどの不利益な取扱いをしてはなりません。

契約解除の予告義務(法16条)

政令で定める一定期間継続する業務委託の契約を解除したり契約を更新しないこととしたりするときは、少なくとも30日前までに、契約の解除や更新しない旨の予告をしなければなりません。

契約解除などの予告がされた日から契約が終了する日までに契約解除などの理由の開示を請求したときは、遅滞なく理由を開示しなければなりません。

6.フリーランス新法に違反するとどうなる?

フリーランス新法に違反した場合には、次の流れで手続きが進みます(法6条~11条、法17条~20条)。

  • 申出
  • 調査
  • 勧告
  • 命令
  • 公表
  • 罰則

 

また、このほかにも、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省により、必要に応じて指導・助言がなされることがあります(法22条)。

6-1.申出、調査

フリーランス新法に定められた義務に違反した事実があるときは、フリーランスは、公的機関に違反の事実を申し出ます。

申出の先は、取引の適正化に関するルールに違反している場合には公正取引委員会または中小企業庁の窓口、就業環境の整備に関するルールに違反している場合には厚生労働省の窓口です。

これらの公的機関への申出を理由として、取引の数量削減や取引の停止などといった不利益な取扱いをすることは禁止されています。

申出がなされると、公正取引委員会等により調査が行われます。

調査では、実際に法律に定められたルールに違反した事実があるかどうか、具体的にどのような違反事実があるのかなどが調べられます。

6-2.勧告

法律違反の事実があると認められたときは、違反を是正・防止するために必要な措置を取るように、公正取引委員会・厚生労働大臣により勧告が行われることがあります。

調査・勧告をするにあたっては、報告要求、立入調査、帳簿書類その他物件の調査も可能です。

6-3.命令、公表

勧告を受けたのに、正当な理由なく勧告された措置を取らなかったときは、措置を取るように命令することができます。ただし、ハラスメントの防止に関しては、命令制度の対象外です。

命令をした場合には、命令をした旨を公表することができます。

ハラスメントの防止に関しては、正当な理由なく勧告に従わなかったときにその旨を公表することができます。

企業としては、公表によってフリーランス新法のルールを守らなかったことが社会に知れ渡り、社会的評価が低下するリスクがあるため、公表に至らない段階で適切な対応をすることが重要です。

6-4.罰則

命令違反、不報告、虚偽報告、検査拒否・妨害があったときは、50万円以下の罰金が科されることがあります(法24条)。

罰則には、両罰規定があります(法25条)。両罰規定とは、違反した人だけでなく、あわせて違反した人の雇い主である個人や法人に対しても刑が科されることです。

ハラスメント対策に関する不報告・虚偽報告については、20万円以下の過料が科されます(法26条)。

7.フリーランス新法に関する対応や注意点

フリーランス新法に関する対応や注意点について、「職業別」「シチュエーションごと」の2つの観点に分けてご説明します。

【職業別に見た対応と注意点】

職業別に見た対応と注意点についてご説明します。

7-1.シルバー人材センターの対応

シルバー人材センターでは、フリーランス新法の施行に合わせて契約方法の見直しが行われます。

これまでは、発注者がセンターに発注・業務委託を行い、センターが会員に再委託をするという契約方法でした。この方法の下では、発注者とセンター、センターと会員の間でそれぞれ請負・委任契約関係が発生していました。

見直し後は、発注者と会員との間で直接請負・委任契約関係が発生します。センターは、発注者と会員との間に立ってさまざまな調整を行い、依頼された仕事がしっかりと行われたり会員が安心して働ける環境を確保したりするために、適切な対応を行います。

このように、形式的な契約の方法は変わりますが、実務的な面ではこれまでと基本的に変わることはありません。

ただし、シルバー人材センターの会員は、フリーランス新法に基づいた保護を受けられるようになるため、働く前に「会員業務仕様書」などの形で業務の内容や報酬の額などを明示してもらったうえで業務を受けるかどうか判断・同意することができるようになるなどの違いがあります。

7-2.フリーランス医師との契約に関する注意点

ある民間の調査によると、常勤先を持たずにフリーランスとして働く医師の割合は全体の15.7%でした。

フリーランスとして働く医師にもフリーランス新法のルールが適用される可能性があります。フリーランス新法のルールが適用される場合には、医師との間で業務委託契約を締結する際に取引条件を明示するなどの必要があります。

もっとも、フリーランス医師であれば常にフリーランス新法のルールが適用されるというわけではありません。フリーランス新法のルールが適用されるのは、医師との契約が業務委託契約である場合に限られます。雇用契約を結んで働く場合には、フリーランス新法のルールが適用されることはありません。

フリーランスとして働く医師の契約が業務委託契約であるか雇用契約であるかは、業務の内容や働き方などに応じて個別に決まります。契約書のタイトルなど文言上は「業務委託契約」と明記されていても、業務の内容や働き方によっては、契約書の文言にかかわらず雇用契約であると認定されることも多くあります。

業務委託契約としてフリーランス新法のルールが適用される可能性がある医師の仕事には、次のようなものがあります。

  • 嘱託産業医
  • 労働衛生コンサルタントなどのコンサルタント業務
  • 遠隔読影(CT、MRIなど)
  • 講演、医療記事の執筆・監修

これに対して、フリーランスの医師であっても、業務遂行に対する指揮監督の有無、諾否の自由の有無、勤務の時間・場所の拘束の有無・程度、報酬の額や計算方法、機械・器具の負担その他の事情を考慮して、雇用契約関係にあると判断される(労働者性が認められる)ことは多くあります。

非常勤の勤務医や、麻酔科医や産業医のアルバイトなどであっても、働き方などによっては雇用契約関係の成立が認められます。雇用契約関係が認められる場合には、フリーランス新法の適用対象外である一方、労働基準法その他の労働基準関係法令を守らなければならないため、十分に注意することが必要です。

7-3.建設業・一人親方における注意点

「一人親方」とは、建設業や林業などを営む方のうち、他人に雇用されず、かつ、他人を雇用しないで、自分だけで仕事を請け負って業務を行う方のことです。

一人親方も個人事業主のひとつです。このため、一人親方が建設業者から建物の工事などの仕事を請け負う場合には、基本的にはフリーランス新法のルールが適用されます。

一人親方に対して業務を発注する建設業者は、契約の際に書面等により取引条件を明示するなど、フリーランス新法のルールを守らなければなりません。

7-4.コンサルタント契約に関する注意点

コンサルタントであってもフリーランスとして働く人との間で契約を締結するのであれば、基本的にフリーランス新法のルールが適用されます。このため、契約締結の際に取引条件を明示するなどのルールを守らなければなりません。

コンサルタント契約をする場合の特徴として、契約締結時にはどのようなサービスを提供するのかその具体的な内容がはっきりと定まっていないケースも多いことがあります。例えば、抽象的に「~のプロジェクトの支援に関する業務」などとあいまいな範囲でしか定められないこともあるでしょう。

法3条1項に基づいて明示することが義務付けられた取引条件であっても、契約後直ちにその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、直ちに明示しなくてもかまいません。代わりにその内容が定められた後には直ちに明示しなければなりません(法3条1項ただし書き)。

コンサルタント契約では、初めの契約締結時に無理に細かな業務内容を明示する必要はありませんが、抽象的な業務内容だけを明示して後は全て口頭で済ませるという対応も望ましくありません。

コンサルタント業務が進むにつれて具体的な業務範囲や取引条件が定まってきたら、その都度できる範囲でそのことを書面やメール等の形で残すように留意しましょう。

【シチュエーションごとに見た注意点】

フリーランス新法に関し、シチュエーションごとに見た注意点をご説明します。

7-5.再委託の場合の注意点

再委託の場合には、報酬の支払いに関して通常の場合とは異なるルールが定められています。

再委託をした場合に、再委託であることや元委託に関する一定の情報を再受託者であるフリーランスに明示したときは、元委託の支払期日から30日以内にフリーランスに対して報酬を支払わなければなりません(法4条3項、4項)。

通常のルールであれば給付受領・役務提供の日から60日以内に報酬を支払う義務があるのに対し、再委託の場合には元委託の支払期日から30日以内に報酬を支払う義務があり、支払期日のルールが異なります。

再委託の場合には、元委託の支払期日によっては、給付受領・役務提供の日から60日を超えてから受託者に報酬が支払われることもあり得ますが、再委託の場合のルールを守っていればそれで構いません。

もっとも、再委託の場合にはこのように通常よりも報酬の支払いが遅くなる可能性があり、報酬の支払期日に関する管理を間違わないようにすることが大切です。また、受託者に対して報酬の支払がいつになるのかをしっかりと説明して理解を得るように努めることが大切です。

7-6.契約書上の表記が「準委任契約」や「請負契約」などの場合の注意点

いわゆる「業務委託契約」は、非典型契約であって民法に直接規定されているわけではありません。

業務委託契約は、個別の契約ごとにさまざまな性質・内容のものがあり、契約の内容や性質によって、委任契約・準委任契約や請負契約のルールが適用されます。場合によっては、業務委託契約の名称を用いていても雇用契約(労働契約)として扱われることもあります。

「準委任契約」(参考:民法656条)とは、依頼を受けて特定の業務を遂行するよう委託する契約のことです。「委任契約」(参考:民法643条)が法律行為を委任する契約であるのに対して、準委任契約は法律行為以外の事実行為(事務の処理)を委託する契約であるという違いがありますが、民法上の規律は同一です。

「請負契約」(参考:民法632条)は、特定の仕事の完成(結果達成)を約束する点で、準委任契約と区別されます。請負契約の下では、仕事を完成して初めて報酬を請求することができ、逆に仕事を完成しなかったり完成した仕事の内容が不十分だったりしたときには債務不履行責任(損害賠償責任など)を負うことがあります。

このように、一定の仕事・業務を任せる契約にはさまざまなものがあり、締結した契約についてフリーランス新法のルールが適用されるかどうかは、あくまでもフリーランス新法の「業務委託」(法2条3項)に該当してその他の要件を満たすかどうかによって判断されます。

契約書に書かれた文言が「業務委託契約」ではなく、「委任契約」、「準委任契約」、「請負契約」またはそれ以外の名称の契約であったとしても、フリーランス新法のルールが適用される可能性は十分にあります。文言などの形式面ではなく、実質面から判断しなければならないことに注意が必要です。

7-7.インボイス制度との関係

フリーランスに対する影響が大きい最近話題の新制度として、インボイス制度があります。

インボイス制度そのものは、消費税に関する制度であり、フリーランスの保護を目的としたものではありません。フリーランス新法との直接の関係も基本的にはありません。

もっとも、フリーランス新法の附帯決議では、「業務委託事業者が、報酬減額等の不利益取扱いを示唆して、消費税免税事業者である特定受託事業者に対し、課税事業者になるよう一方的に通告しないよう、業務委託事業者に周知徹底すること」として、インボイス制度に関連してフリーランスへの不利益な取扱いがなされないようにすることが盛り込まれています(衆議院附帯決議18項、参議院附帯決議19項)。

このことは、インボイス制度の導入・運用のうえでもフリーランスを保護する必要があるとの国会の意識の表れともいえます。

インボイス制度もフリーランス新法も、フリーランスやフリーランスと取引をする個人・会社に直接大きな影響がある新制度です。これらの内容をしっかりと押さえて取引に臨むことが重要です。

参考:令和5年10月からインボイス制度が開始!事業者間でやり取りされる「消費税」が記載された請求書等の制度です|政府広報オンライン

8.フリーランスに関するよくあるトラブルと対処法

フリーランスに関するよくあるトラブルとその対処法についてご紹介します。

8-1.報酬の未払いに関するトラブル

フリーランスとして仕事をしたのに報酬がきちんと支払われないというトラブルは多くあります。

報酬が支払われない原因にはさまざまなものがありますが、単に発注者が支払いを忘れているだけであれば、支払いを催促する連絡をすることで支払ってもらえることが多いです。

また、発注者が「納品された成果物の品質に問題があるから支払わない」「報酬を減額する」「費用などを天引きしてから報酬を支払う」などと言って報酬の支払いを拒絶することがあります。このような理由であっても、支払期日までに約束どおりの報酬を支払わないことが常に正当化されるとは限りません。実際には成果物の品質に問題があるかどうかなどの点が争いになるケースも多いため、まずは十分に話し合うことが大切です。

これらに対して、発注者の資金繰りが悪化して報酬を支払う経済的余裕がないから支払われないというケースでは注意が必要です。最悪の場合には、そのまま倒産するなどして報酬が支払われないままになってしまうこともあります。

フリーランスとしては、発注者が支払期日までに報酬を支払ってくれない場合には、放置することなくできるだけすぐに催促するとともに支払が遅れている理由を問い合わせるようにしましょう。また、十分に納得できる理由がないのに報酬の支払遅延が続くようであれば、発注者の経済状況が悪化している可能性もあります。この場合には、報酬債権の回収を急ぐために、すぐに債権回収を取り扱う弁護士に相談するのがおすすめです。

なお、業務委託に関する契約書が作成されていないなど、証拠となる資料が手元にないケースもあります。「契約書がなければ報酬が一切請求できない」とあきらめてしまう方もいるかもしれません。しかし、契約書がなくてもその他のさまざまな資料や取引に関する書類、メール、メッセージ履歴などから報酬を請求する権利があることを立証することは可能です。何が使える証拠なのかの判断は弁護士でなければ難しいため、少しでも不安があれば債権回収を取り扱う弁護士に相談するべきです。

逆に、フリーランスに発注する事業者としては、万が一報酬の支払いが遅れるようであればフリーランスに対し十分に事情を説明し、話し合いによって報酬の支払いを待ってもらうようにするべきです。何もせず放置していれば、弁護士に依頼したフリーランスにより訴訟が提起されるなどの事態になるリスクがあります。

フリーランスが資金調達するなら、即日ファクタリングを検討しましょう。
即日ファクタリングを利用すれば、取引先との請求書を現金化して最短当日中に資金を調達できます。

8-2.契約関係の解消に関するトラブル

フリーランスが取引先からいきなり契約解除を告げられるなどして取引を打ち切られるというトラブルがあります。

両当事者が合意すれば、基本的には合意に基づいて契約を解除することができます。合意がない場合には、取引の当事者が自由に契約を解除できるわけではなく、法律や契約によって定められた解除の要件を満たしていることが必要です。

フリーランスが取引先から突然契約の解除を言い渡された場合には、あきらめたり焦ったりせず、まずはなぜ契約を解除しようとするのかその理由や根拠を確認するようにしましょう。その上で、取引先としっかりと話し合うようにしましょう。

逆に、発注者がフリーランスとの間の契約を解除したいときは、まずは話し合いの機会を設けて契約解除の合意を成立させることができないか試み、合意によらずに解除をする場合にも解除の要件を満たしているかをしっかりと確認するようにしましょう。トラブルを避けるためにも、安易に契約解除の旨を通知するのではなく、その前にまずは弁護士に相談しましょう。

8-3.ハラスメントに関するトラブル

フリーランスが当事者になる取引でも、取引先からパワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどのハラスメントが行われたとして問題になることがあります。

フリーランス新法の下では、ハラスメントに関する一定のルールが設けられました。フリーランス新法が施行された後は、このルールをしっかりと守ることが重要です。

また、新法施行前の取引や施行後であってルールの適用対象外である取引であっても、各種のハラスメントが行われるべきでないことは当然のことです。

取引先がフリーランスに対してハラスメントを行ったとしてトラブルになると、賠償金などを負担する可能性が生じるのはもちろん、トラブルの事実が広く知られて社会的な評価が低下するなど、さまざまなリスクがあります。

まずは、実際にハラスメントが行われないようにすることが重要です。そのうえで、ハラスメントに関するトラブルが生じてしまったら、弁護士に相談するなどすみやかに適切な対応を取ることが大切です。

8-4.著作権などの知的財産権に関するトラブル

フリーランスとの取引では、著作権などの知的財産権に関するトラブルが生じることもあります。

例えば、イラストや写真、動画、文章などの成果物をフリーランスが納入する取引を行う場合には、その成果物に関する知的財産権の帰属や取扱い、対価の支払いなどに関する法律のルールを確認するとともに、当事者同士で契約条件をしっかりと確認してできる範囲で契約書などの書面に残しておくことが重要です。

また、成果物を納入したフリーランスが他の著作物等の盗用などを行っていた場合には、そのことが発覚した際に発注者がさまざまな対応に追われることもあります。この場合には、発注者がフリーランスに対して契約解除や損害賠償などを求めることもあります。

まずは、発注者としては、具体的な事例を示すなどしてフリーランスが理解できる形で盗用にあたる行為は行わないように注意喚起をするべきです。また、実際に盗用などのトラブルが発生した際には契約が解除できることや一定の額の損害賠償請求ができることなどをあらかじめ契約に定めておくという対処を取ることも考えられます。

著作権などの知的財産権に関する法律のルールは理解が難しいことも多いので、安易な自己判断は特に避けるべきです。このような権利が関係する取引をするのであれば、契約締結時やトラブル発生時に弁護士に相談するようにしましょう。

8-5.秘密保持義務・専属義務・競業避止義務に関するトラブル

フリーランスとの取引を行う際に、秘密保持義務・専属義務・競業避止義務などとして、取引に関する秘密を漏らしたり競業に該当するような他社との取引を行ったりしないように契約条件を定めることがあります。

このような各種の義務を定める契約条件は、慎重に扱うことが望ましいといえます。場合によっては、これらの義務を定めてもそれが合理的に必要な範囲を超えており無効であると判断されることもあります。

フリーランスは、発注者に雇用されて働くものではなく、取引の相手方です。秘密保持義務・専属義務・競業避止義務などの各種義務を当然に負うわけではありません。

これらの義務を契約条件に定める場合には、合理的に必要な範囲を超えないように注意しましょう。

なお、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」では、発注者が合理的に必要な範囲でこれらの義務を設定することは直ちに独占禁止法上問題となるものではないとしたうえで、正常な商慣習に照らしてフリーランスに対し不当に不利益を与えることとなる場合などには優越的地位の乱用として問題となる(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)としています。

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フリーランス・個人事業主が利用できる相談窓口やトラブルの予防策を紹介 – フリーランスガイド

9.フリーランス新法対応の実務上の留意点

フリーランス新法対応の実務上の留意点についてご説明します。

9-1.労働者と個人事業主とをしっかりと区別する

フリーランスと取引する際には、「労働者」と「個人事業主」とをしっかりと区別して考えることが大切です。

「労働者」とは、雇用契約を結んで従業員などの形で雇われて働く人のことです。これに対して、「個人事業主」は雇用契約関係ではなく業務委託契約などを結んで取引相手として働く人のことです。

労働者として働く人は、フリーランス新法の規制対象ではありません。

もっとも、労働者に該当するかどうかは、契約書の文言などの形式面だけで判断されるのではなく、働く実態に即して判断されます。たとえ業務委託契約という文言で契約を締結していたとしても、実際の働き方が従業員とほとんど変わらないようであれば、その人は労働者とみなされてフリーランス新法の適用対象外と判断されることもあります。

もし労働者とみなされれば、フリーランス新法の代わりに労働基準法や最低賃金法などの各種の労働基準関係法令が適用されることとなります。

フリーランスとして働く人が労働者か個人事業主かでどのような法律のルールが適用されるかが変わってくるため、働き方の実態に即して適切に判断し、それぞれに応じたルールを守るようにしましょう。

9-2.フリーランスを活用すべき場合かを考える

フリーランスに仕事を発注する場合、今後はフリーランス新法のルールも把握したうえで取引を行わなければなりません。

安易にフリーランスに発注するのではなく、まずは自社の内部で仕事を処理できないか考えてみるのもよいでしょう。

また、フリーランスとして仕事を発注するのではなく、正式に従業員として雇い入れて仕事を任せるという方法もあります。従業員として雇い入れれば、会社への帰属意識を持ってより熱心に仕事を行うことが期待できたり、労働契約や就業規則に基づいて秘密保持義務・競業避止義務等をより実効性のある形で課すことができたり、従業員に対するルール(労働基準法など)を守ればそれでよくフリーランス新法という新しいルールを把握する必要がなくなったりするなどのメリットがあります。

フリーランスは、場面に関係なく安易に使うべきではなく、活用すべき場面を適切に選んで活用することが大切です。今がフリーランスを活用する時なのかをよく考えたうえでフリーランスを活用するようにしましょう。

9-3.契約書や発注書などをしっかりと用意する

フリーランスとの取引を行うにあたっては、契約書や発注書などの取引書類をしっかりと用意することが大切です。

フリーランス新法の下では取引条件の明示義務が課されたため、契約書などの条件明示のための書類は非常に重要です。

また、契約書などの書類は、いざというときに訴訟等の証拠にすることもできます。

契約書や発注書などの取引に関する書類はしっかりと用意し、必要な時にいつでも参照できるようにしておきましょう。

9-4.【取引開始時】正確な募集情報を記載し、契約時には取引条件を明示する

フリーランス新法の下では、特定受託事業者に対して業務委託をする全ての者について取引条件を明示する義務が課せられています。

この際には同時に報酬の支払期日についても、給付受領日から60日以内、かつ、できるだけ短い期間内にて定めておくことで、報酬の支払期日を定める義務を守ることができます。

取引条件の明示事項は法令で定められることとなっており、新法の施行後には義務付けられた明示事項をしっかりと示さなければなりません。

また、特定業務委託事業者には募集情報を的確に表示する義務が課せられています。

政府により公表されているフリーランス新法のQ&Aでは、次のような表示をすると募集情報を的確に表示する義務に違反するものと考えられています(Q&A問6)。

  • 意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示する(虚偽表示)
  • 実際に募集を行う企業と別の企業の名前で募集を行う(虚偽表示)
  • 報酬額の表示が、あくまで一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのように表示する(誤解を生じさせる表示)
  • 業務に用いるパソコンや専門の機材など、フリーランスが自ら用意する必要があるにもかかわらず、その旨を記載せず表示する(誤解を生じさせる表示)
  • 既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続ける(古い情報の表示)

参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)|内閣官房

ここでは、虚偽の表示、誤解を生じさせる表示、古い情報の表示が許されない表示の基本的な類型として想定されています。

意図的な虚偽の表示などが許されないことはもちろん、そのつもりがなくて結果的に虚偽になってしまったというケースは発生し得るものです。意図的でなくても虚偽などの表示は許されません。

正確な募集情報を記載することは、法律上の義務であると同時に、取引開始後のトラブルを防止する効果もあります。例えば、報酬や納期などを正しく記載していなければ、報酬をめぐるトラブルが生じたり納期までに成果物が納入されなかったりするなどのリスクがあります。

また、正確な募集情報を記載しないことで、「あの会社は、募集情報には良いことを書いているが取引を始めてみると募集情報と異なる悪い取引条件を押し付けてくる」などと企業に対する悪い評判が広がるリスクもあります。

取引開始前には、正確な募集情報を記載することや、契約時に取引条件を明示することに留意しましょう。

9-5.【取引中】遵守事項を守り、妊娠等への配慮やハラスメント対策を行う

一定期間以上継続して行う業務委託について、特定業務委託事業者には、新法で定められた禁止事項(遵守事項)を守る義務があります。

いずれの遵守事項も、立場の強い発注者が立場の弱いフリーランスに付け込んでフリーランスの利益を不当に害することを禁止し、フリーランスを守る趣旨で設けられたものです。

これらの遵守事項を守る義務は、一定期間以上継続して行う業務委託について特定業務委託事業者に対して課せられたものですが、それ以外の全ての業務委託についても発注者が当然守るべき内容のものばかりです。

フリーランスに業務委託をするにあたっては、新法で定められた遵守事項を把握し、これらの行為はしないように心がけることが大切です。

また、一定期間以上継続して行う業務委託について、特定業務委託事業者は、妊娠、出産、育児・介護への配慮をすること、ハラスメント対策を講じることも、義務とされています。

政府により公表されているフリーランス新法のQ&Aでは、妊娠等への配慮の具体的な内容として、次のものなどが想定されています(Q&A問7)。

フリーランスが妊婦検診を受診するための時間を確保できるようにしたり、就業時間を短縮したりする
育児や介護等と両立可能な就業日・時間としたり、オンラインで業務を行うことができるようにしたりする

このほかにも、例えば、働ける時間に応じて納期を柔軟に設定したり、出産前後の一定期間は取引をいったん休止したりするなどの配慮を行うことが考えられます。

ハラスメント対策については、相談窓口として普段やり取りを行う発注者側の担当者とは別の者(上長、部門の長、代表者など)を設定して必要なときには相談できるようにするなどの対策が考えられます。

ハラスメント対策のための措置の具体的な内容として、政府により公表されているフリーランス新法のQ&Aでは、次のようなものが想定されています。

  • ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に対してその方針を周知・啓発すること(対応例:社内報の配布、従業員に対する研修の実施)
  • ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備(対応例:相談担当者を定める、外部機関に相談対応を委託する)
  • ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応(対応例:事案の事実関係の把握、被害者に対する配慮措置)

なお、ハラスメントの考え方や発注事業者が講ずべき措置の具体例については、今後、厚生労働大臣が定める指針(新法15条)においてより明確なものとされる予定です。

定められた指針も参考にしつつ、ハラスメント対策の措置を的確に行うことが重要です。

9-6.【取引終了時】契約解除を予告し、支払期日までに報酬を支払う

契約を解除して取引を終了させるのであれば、契約解除の予告義務を守らなければなりません。

フリーランス新法で定められたルールを守って契約解除を予告することが必要ですが、可能であればできるだけ早くから契約解除の予告をしておくことで解除をめぐるトラブルのリスクを減らすことができます。

また、契約が終了したら、定められた支払期日までに報酬を支払うことが必要です。支払期日を守ることは当然のことですが、どうしても期日までに支払ができない事情がある場合には、できるだけ早くフリーランスに対してその旨を相談し、報酬の支払時期の延長に合意してもらえないか話し合うようにしましょう。十分なコミュニケーションができていない中で報酬の支払を遅延させてしまうと、トラブルに発展しかねないため、注意が必要です。

10.フリーランス新法に関するよくある質問

フリーランス新法に関連してよくある質問についてご説明します。

10-1.フリーランス新法に遡及適用の規定はある?

フリーランス新法には遡及適用の規定はありません。このため、原則として施行日から法律の内容に応じた対応を取れるように準備ができていればそれでかまいません。

もっとも、施行日より前から続いている業務委託契約等については、なるべく早めに契約内容を見直して、フリーランス新法の内容や想定されるガイドラインの内容に応じた対応を行っておくことが大切です。

10-2.フリーランスが働く中でけがをしたら労災保険が使える?

労災保険とは、労働や通勤に起因してけがや病気になった場合に無料で診療を受けることができるなど、労働災害に対する補償が受けられる公的保険のことです。

これまで、労災保険は原則として雇用されて労働する労働者を対象としており、フリーランスとして働く人は基本的に労災保険に加入できませんでした。

しかし、2024年秋からフリーランスが労災保険の特別加入制度(労働者以外でも労災に特別に加入できる制度)の対象となり、任意に労災保険に加入して補償を受けることができるようになりました。

2024年秋から労災保険の特別加入制度の対象になる事業は、次の事業です。
フリーランス(特定受託事業者)が企業等(業務委託事業者)から業務委託を受けて行う事業(特定受託事業)
フリーランスが消費者(業務委託事業者以外の者)から委託を受けて行う特定受託事業と同種の事業

新しく特別加入制度の対象となるフリーランスの方は、フリーランス新法の施行日から労災保険に特別加入をすることができます。

このように、フリーランス新法の施行と合わせて労災保険の加入対象が拡大されることとなっており、フリーランスへの保護がいっそう厚いものになるといえます。

参考:令和6年秋から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となります|厚生労働省

11.まとめ

  • フリーランス新法はフリーランスを保護するための新ルール。対象は広いので適切な対応が必要!

フリーランス新法は、これまで下請法などでも保護の対象となっていなかったフリーランスを幅広く保護するための新ルールを定めた新法です。

対象となるフリーランスとは従業員を雇わずにひとりで仕事をする個人・法人であり、このようなフリーランスに仕事を発注するものであれば取引条件の明示などのルールを守る義務が発生します。

フリーランス新法のルールに違反した場合には、罰則などが科される可能性もあります。また、調査や勧告・命令の結果、違反した事実が公表されることもあります。違反の事実が公的機関により公表されれば、発注者にとっては社会的な評価が低下するリスクがあり、公表に至らないうちに適切な対応を行い公表されることがないようにすることが何より重要です。

フリーランス新法への対応は、まずはフリーランス新法のルールを把握するところから始めるとよいでしょう。また、ご自身の取引において実際にどのように対応したらいいのか分からないときには、フリーランス新法に詳しい弁護士に対応を相談することもおすすめです。

弁護士のアドバイスも参考にして、フリーランス新法に適切に対応し、トラブルなくフリーランスとの取引を続けられるようにしましょう。

記事執筆|秋葉原あやめ法律事務所 岡島 賢太 弁護士(第二東京弁護士会)

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