裁量労働制とは?導入のポイント、まとめて紹介
多様な働き方の一つとして、裁量労働制の導入も増えてきました。労働者からは時に「定額働かせ放題」と言われることもあるこの制度ですが、正しく運用すれば労働者にとってのメリットも十分あります。
この記事では、裁量労働制の概要や変形時間労働性との違い、導入のポイントを紹介します。
・裁量労働制は労使ともに自由を尊重する
・労働基準法はしっかり守りましょう
・働かせ放題どころか、労務管理が面倒になるリスクも気をつけたい
裁量労働制とは?
裁量労働制とは、勤務時間や業務の時間配分を労働者の裁量に任せる働き方です。
実際の労働時間とは関係なく、前もって定められた時間を労働時間とみなして、仕事を労働時間ではなく成果としてみる働き方です。
したがって、勤務時間の制限がなくなり、労働者の裁量で労働時間が管理できます。
裁量労働制を採用するには、使用者と労働者の間で事前に取り決めをしておかなければなりません。使用者側で一方的に制度を採用することはできないので注意が必要です。
裁量労働制はその他の労働制度と混同されやすいので、その違いを確認しておくことが重要です。以下、それぞれの制度との違いを解説します
変形労働時間制やフレックスタイムとはどう違う?
裁量労働制と混同されやすい働き方によくあげられるのが、変形労働時間制とフレックスタイムです。
1)変形労働時間制との違い
変形労働時間制とは、一定期間に変形期間における法定労働時間の枠内で、法的労働時間を超えて労働させられる制度です。
例えば、「冬は忙しいが、夏は忙しくない」または「週末は忙しいが、週の前半は忙しくない」など、閑散期と繁盛期がはっきり分かれている業種は、変形労働時間制を導入することで、実労働時間を減らしたり増やしたりするといった柔軟な対応ができます。
裁量労働制とは、下記の点で異なります。
・業務の対象範囲:変形労働時間制は対象労働者の職種や業種の範囲が限定されていませんが、裁量労働制は限定されています。
・時間管理:変形労働時間制は、法定労働時間の総枠が決められており、その範囲を超える部分に対しては時間外手当が支給されます。裁量労働制には総枠がなく時間外手当や深夜労働として割増賃金が支給されるのみです。
2)フレックスタイム制度との違い
フレックスタイム制度は、変形労働時間制のひとつで、3か月以内の一定期間の総労働時間をあらかじめ決め、その範囲内で労働者が始業および終業の時刻を選択して働きます。コアタイムという労働者が必ず労働しなければならない時間に労働すれば、いつ出社または退社してもよいのが特徴です。
フレックス制度と裁量労働制とはしばしば混同されがちですが、下記の点で異なります。
・残業手当の支払い:裁量制度ではみなし労働時間制であることから、多くの場合において実働時間の残業手当もあらかじめ見込みとして計算されるので、残業代が支払われません。フレックス制度は週40時間を超えた労働に対しては、残業手当が支払われます。
・時間管理:フレックス制度は法定労働時間の枠内で始業と就業時間を選べます。裁量労働制では、労働総時間や始業や就業時間を労働者の裁量に委ねられています。
・業務の対象範囲:フレックス制度は業務の対象範囲は決められていません。裁量労働制では対象業務の範囲が明確に定められています。
在宅勤務は裁量労働制じゃない?
在宅勤務とは、会社に出勤せずに自宅を就業場所として働く勤務形態をいいます。 裁量労働制の要件を満たし制度の対象である労働者も在宅勤務は可能です。
在宅勤務の場合でも裁量労働制であれば、使用者はあらかじめみなし時間を決めておく必要があります。
在宅勤務の裁量労働制であっても36協定は適用されます。36協定とは、法定労働時間である1日8時間、週40時間を超える場合には、労働基準法36条に基づく労使協定を締結し、所轄の労働基準局に届け出をしなければならないという制度であり、適用があることに注意が必要です。
裁量労働制の対象となる業務
裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。
以下、それぞれについて解説します。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、専門性が高い業務であり業務の遂行手段および時間配分の決定などについて、使用者が労働者に具体的な指示を出すことが困難な業務について導入することができます。
対象となるのは、下記の19の業務です。
- 新商品、新技術の研究開発、人文科学・自然科学の研究業務
- 情報処理システムの分析・設計
- 記事の取材、編集の業務
- デザインの考案
- 放送番組、映画等のプロデューサー、ディレクター
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲーム用ソフトウエア開発
- 証券アナリスト
- 金融開発商品
- 大学教授
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、 事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査、分析を行う労働を対象にしています。
この制度は使用者の指示を得てから行うものではなく、自らがフレキシブルに働ける労働者が対象です。
この制度を導入できる事業所も下記のようにあらかじめ規定されています。
- 本社・本店である事業場
- 事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われている事業場
- 事業の運営に影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を独自に行う支社・支店など
裁量労働制のメリットとデメリット
今までの働き方を変え時間的な制約から解放される裁量労働制ですが、実際にどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
ここでは、使用者と労働者それぞれのメリットとデメリットについて解説します。
メリット
1)使用者のメリット
裁量労働制を採用した場合の使用者のメリットは、 人件費を予測しやすい、労務管理がしやすい、ということがあげられます。
裁量労働制はみなし労働時間とされるので、時間外労働における残業代はほとんどの場合、支給されません。残業代の支払いがないので人件費の総額を算出できるようになります。また、社員の生産性が上がることが予測されるので、結果的には人件費の削減にもつながります。
みなし労働時間を固定給として算出できるので、残業代の計算など煩雑な手続きが要される労務管理の負担が軽減されるのも裁量労働制のメリットといえるでしょう。
2)労働者のメリット
裁量労働制を採用した場合の労働者のメリットは、なんといっても仕事を成果で評価するため、労働時間や業務遂行の方法を自分の裁量で決められることでしょう。
あらかじめ決められたみなし時間を労働時間とするので、仕事の処理能力が高ければ労働時間を減らすことが可能で、給料が減額されることもありません。
さらに自分のペースで業務ができ、周囲に振り回されることなく仕事を進めることができ、生産性を高めることが可能になります。
デメリット
1)使用者のデメリット
裁量労働制の使用者側のデメリットは、制度の導入に際しての手続きが煩雑であること、また労働者の労働管理が難しいことがあげられます。
裁量労働制を導入するには、使用者側で労使委員会を設け、運営ルールを定めなければなりません。また労働基準監督署からの指導や罰則が厳しくなることもあります。
さらに、労働者に労働時間や業務遂行の方法を裁量に委ねることになるので、労働管理が難しくなることがあげられます。
2)労働者のデメリット
裁量労働制の労働者の最大のデメリットは、残業代が支給されないことです。みなし労働時間が定められているため、原則として深夜労働と休日労働以外は残業代は支給されません。
また残業代が支給されないことから、裁量のない労働者に裁量労働制を導入して長時間の労働を強いる企業もあるので注意が必要になります。
裁量労働制導入で気をつけたいトラブル
裁量労働制を導入する際に、使用者が注意するべき点がいくつかあります。
チーム連携の不全
裁量労働制を導入する場合、労働者同士がチームで仕事をしたり、また共に過ごす時間が少なくなる傾向があるため、組織としての連携が図れなくなる可能性があります。
会社を組織としてまとめていく段階にある場合は、労働者の動きをしっかりと把握しておく必要があるため、裁量労働制の導入についてはこの点を考慮して対策をとる必要があるでしょう。
チームワークの重要性や、メリットについては以下のサイトも参考にしてみてください。
仕事のチームワークの重要性とは?主体性を高める方法も解説!|Stock
サボり
裁量労働制は、労働者が自分で労働時間を自由に決めることができる反面、高い自己管理能力が求められます。
労働者が常に生産性を上げることができれば問題ないのですが、業務の怠慢などにより生産性を上げることができないのであれば、かえって労働管理が煩雑になります。
事前に週1回のミーティングを設定して業務の進捗状態を確認するなどの対策を講じる必要があるでしょう。
残業代の未払い
裁量労働制では、労働時間をみなし労働時間とするため原則的には残業代の請求ができません。しかし、みなし労働時間が労働基準法の8時間を超えていたり、深夜・休日労働が発生した場合は残業代の請求が可能です。
その他にも裁量労働制では、専門業務型裁量労働制の対象である19種の業務にのみ採用できますが、対象外の業務にも裁量労働が適用されていたり、対象内・対象外が混在している場合など裁量労働制が違法に導入されている場合には、違法残業として発生した未払いの残業代を請求することができます。
深夜・休日労働
裁量労働制では、通常の勤務制度に比べて深夜労働、休日労働の取り扱いが異なるので注意が必要です。
裁量労働制は、労働時間や業務遂行の方法が労働者に委ねられているため、深夜労働や休日労働の決定権も原則的に労働者にあります。
ただし、休日の取り方は会社の就業規則に準じるか、別に労使間で規定する必要があります。
裁量労働制といえども、あくまでも労働基準法の範囲内で認められている制度である以上、深夜労働または休日労働も割増賃金の規定が適用されるので注意が必要です。
まとめ
裁量労働制は運用が問題となりやすく、違法な運用については正しくペナルティを受けます。あくまで時間管理に馴染まない労働者の生産性を高めるための制度と心得ましょう。
法律トラブルを防ぐためにも、雇用体制を変えるときは弁護士又は社会保険労務士への相談が望ましいです。