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弁護士過疎地域で困難を乗り越え、弁護士としても人間としても成長しました/伊藤拓弁護士(弁護士法人福岡西法律事務所)

弁護士過疎地域で仕事をしたいという想いから、約2年の経験を積んで離島へ赴任。自信をもって赴任したものの現地では全くうまくいかず、任期途中での退任を何度も考えたそうです。赴任当初は「何もかもうまくいかず、どん底だった」と振り返る当時の状況から、どのように復調し、任期を全うされたのか。そして現在の弁護士業務についてもお話いただきました。

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弁護士を目指した理由とこれまでについて

これまでの経歴について教えてください。

東京都中野区出身で、大学と法科大学院時代は京都で暮らしました。
2009年に弁護士になってからは、福岡市内の「あさかぜ基金法律事務所」で約2年経験を積み、2011年10月に「対馬ひまわり基金法律事務所」の所長に就任しました。
約3年半の任期を終えた2015年5月に福岡市内に「福岡西法律事務所」を開設し、2018年11月に法人化して現在にいたります。
現在当事務所には、私を含め3名の弁護士が所属しています。
女性弁護士も所属していますので、「女性弁護士に相談したい」という方からも多くのご相談をいただいております。
 

「ひまわり基金法律事務所」というのはどういった事務所なのでしょうか?

弁護士が少ない又は一人もいない「弁護士過疎地域」と呼ばれる地域で、いつでも、誰でも司法サービスを受けられるように、日本弁護士連合会等の支援を受けて開設・運営される公的な法律事務所です。
「対馬ひまわり基金法律事務所」は2005年に開設され、私が4代目所長で、2024年12月現在8代目所長が事務所を運営しています。

弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください。

大学は法学部だったのですが、法学部を選んだのは「その後の選択肢が多そう」という理由で、弁護士になろうとは思っていませんでした。
弁護士という仕事を意識したのは、たまたま誘われて入った法律相談部というサークルでの活動がきっかけです。
法律相談部では、年に3,4回近畿を中心に全国各地へ行って無料法律相談を行うんです。
特に弁護士が少ない地域に行くと、何百人という方が相談に来られるんですよ。
その活動を通じて、「普段学んでいる法律知識がこういう風に役に立つんだ」と実感でき、「弁護士になって人の役に立てたら良いな」と思うようになりました。
最終的に、弁護士になるため司法試験に挑戦しようと決めたのは、大学3年生の頃です。
 

弁護士になって、「あさかぜ基金法律事務所」に入られたのはどういった理由だったのでしょうか?

「あさかぜ基金法律事務所」は、弁護士過疎地域へ赴任する弁護士を養成する事務所です。
私も1,2年経験を積んで、弁護士過疎地域へ赴任するつもりで入りました。
そういった養成事務所は全国にいくつかあるんですが、福岡という街に憧れがありましたし、事務所説明会でお会いした弁護士がとても魅力的で入所を決めました。
 

弁護士過疎地域で仕事をしたいと思われたのは、どういった理由だったのでしょうか?

1つは大学の法律相談部での活動で、弁護士が少ない地域で困っている人を目の当たりにした経験です。
自分がそういう場所に行くことで、より人の役に立てると思ったんです。
もう1つは、多くの弁護士と同じように法律事務所に就職するのは、大勢の中に埋もれてしまいますし、なんとなくキャリアの先が見えてしまって面白くないと思ったんです。
弁護士過疎地域へ行けば、そこまでのキャリアは見えているけれど、その先は色んな選択肢があります。
その「どうなるかわからない」というのが、とても面白いと感じました。
私は、決められたルールに従ったり、組織に所属するのが苦手なんです。
それよりも、人と違う道をいくことに喜びを感じます。
「なぜ?」と聞かれると難しいのですが、そうすることが楽しいし、しっくりくるし、そうすることが私という存在そのものなんですね。
私の下の名前は「拓」で、「開拓」などの言葉に使われます。
まさに誰かが作った道を歩くのではなく、自ら道を切り開いていくことが自分の生き方ですね。
 

約2年経験を積んで「対馬ひまわり基金法律事務所」へ赴任されたということでしたが、赴任するときはどのような心境でしたか?

やれるという自信がありました。
赴任を見越して毎日一生懸命仕事に取り組み、ご依頼いただいた案件を一人で解決できる力もつき、売り上げも上げられるようになっていたからですね。
弁護士過疎地域にいって、皆さんを救うヒーローになるつもりで意気揚々と赴任しました。
 

実際赴任してみて、いかがでしたか?

本当にお恥ずかしい話ですが、全然ダメでした。
もう、やることなすこと全くうまくいかず、頭をバーンと殴られたような感じでした。
私が生まれ育った場所は、新宿まで徒歩数分という都会でした。
その後、学生時代は京都市内、弁護士になってからは福岡市内で過ごしました。
そこから対馬という離島に行き、島ならではの濃い人間関係、方言などのハードルもあり、相談者・依頼者とのコミュニケーションにつまずきました。
さらに当時は島内にコンビニもなく、生活面でもストレスが溜まりました。
一方、前任から引き継いだ案件が100件ほどあり、毎日のように新しい相談もあり、処理しなければならない案件は溜まっていくばかり。
当時私は20代後半で、社会人としてもまだ3年目だったということもあり、悪い流れを断ち切る方法もわからなかったんですね。
意気揚々と赴任したのに、なにもできない自分、そして溜まり続ける仕事を目の前にどうすることもできず、次第に眠れなくなり、トンビの鳴き声で朝になったことに気づき、重い体を引きずって昼前に出勤するような日々で、まさに「どん底」のような状況でした。
 

そのようなことがあったのですね。そこからどうされたのでしょうか?

ある日、「もう無理だ。開き直るしかない」と思ったんです。
それで依頼者一人一人に、「今仕事をできる状態ではありません。必ずなんとかしますから、時間をください」と頭を下げて謝ったんです。
どんな罵声を浴びせられるか心配だったのですが、ほとんどの依頼者が状況を理解して「先生のペースでやってください」と言ってくださったんです。
そこからは自分のペースで仕事をして、徐々に心身の状態も良くなり、少しずつご依頼いただいた案件を進められるようになっていきました。
任期は2年だったのですが、2年で島を離れたら皆さんに迷惑をかけて終わりだと思って延長し、最終的には3年半仕事をさせていただきました。
任期を終えて島を離れるときには島民の皆さんから感謝もしていただき、とても良い終わり方ができたと思います。
 

どん底のような状況から持ち直せたのは、どういった理由だったと思われますか?

等身大の自分を認められたことだと思います。
赴任するときは自信がありましたし、「これくらいできるはずだ」という理想の自分があったんです。
ところが理想とほど遠い現実とのギャップに「こんなはずじゃない」と苦しみ、周囲や環境のせいにしたこともありました。
もっと早く等身大の自分を認められれば良かったのですが、理想の自分にこだわってしまったんですね。
そうするうちに自分の未熟さを認めざるをえない状況に追い込まれ、頭を下げたときに、等身大の自分をさらけ出せたんだと思います。
当時は本当に恥ずかしくて、情けなくて、申し訳なくて、今思い出しても涙が出てきます。
 

等身大の自分をさらけだしたことで、どういう変化がありましたか?

プライドを捨てて、わからないことはわからないと言う、即答できないことは調べてから連絡すると言う、わからないことは誰かに尋ねる、それまでできなかったそういうことができるようになりました。
そうするうちに、少しずつ好循環に入っていったんです。
色んな方に迷惑をかけてしまいましたが、そこがターニングポイントになって、等身大の自分で仕事ができるようになったんですね。
また、ひまわり基金法律事務所は、先輩弁護士と定期的に会議もあり、なにかあれば気軽に相談できるバックアップ体制があります。
「うまくいきません」「つらいです」と弱音を吐ける数少ない場でしたし、いつも励ましてくださいました。
弁護士業務でもわからないことがあれば相談できましたし、「いざとなれば助けてくれる人がいる」という安心感があったからこそ、投げ出さずに済みました。

現在の業務について

注力している分野を教えてください。

相続・離婚・交通事故・債務整理といった個人のお困り事から企業法務まで、幅広く取り扱っております。
当事務所がある福岡市西区には、法律事務所は数えるほどしかありません。
ですから、地域のニーズにしっかりお応えできる事務所でありたいと思っています。
 

弁護士として、どういったことを大切にされていますか?

たくさんありますが、あえて1つ挙げるとすれば、目の前の方の役に立つということを大切にしています。
そのためにも、自分が相談者・依頼者の立場に置かれたときに納得できるような仕事をすることを意識しています。

弁護士過疎地域での経験は、どのように生きていますか?

弁護士としての力がついたことです。
弁護士1年目から赴任を見越して仕事に取り組みましたし、現地では所長弁護士として仕事をしました。
任期を終える頃には、よほど特殊な分野以外は対応できるだけの力が身につきましたし、その土台があったからこそ、今もこうして自信をもって日々の業務に取り組めます。
そして大変なこと、辛いことがあっても、「あの場所で3年半やれたんだから大丈夫」という自信にもなりましたね。
 

先生の場合は、人間としても大きく成長されたような印象を受けました。

そうですね。先ほどお話ししたとおり、あのとき等身大の自分を認められたこと、仕事とは何なのかということを気づかせてもらえたことは、私の人生において大きな財産となりました。
ですから今は、自分を育ててくださった人たちへ恩返しをしたいという想いで仕事をしています。
もちろん自分やスタッフの生活は考える必要がありますが、なにより相談者・依頼者のことを第一に考え、相談者・依頼者にとって一番良い解決方法を提案しています。
法律相談に力を入れている理由もそこにあります。
経営的にはご依頼いただくほうが良いですが、相談者にとっては法律相談ですべて解決できればベストですから、そうなるように全力で臨んでいます。
 

先生の強みを教えてください。

人間力かなと思います。
弁護士業務は、ただ法律的な知識を持っているだけでは足りません。
相談者・依頼者とのコミュニケーション、相手との交渉、裁判所をリードして力強く前に進める力など、様々な力が必要ですし、そこが弁護士として差が出る部分だと思います。
それを全部まとめて人間力だと思うのですが、その人間力が身についたのも対馬での経験があってこそです。
 

今後の目標など

今後の目標などを教えてください。

もっと気軽に弁護士に相談して、自分が抱えている問題を解決できる社会にしたいと思っています。
自分の事務所もそういう事務所にしたいですし、弁護士過疎地域へ赴任する弁護士をバックアップすることも大事な役目だと思っています。

相談を考えている方へ一言お願いします。

今皆さんが抱えている悩みや問題が、「弁護士に相談すべき問題なんだろうか」と考えていただく必要はありません。
どんな相談でも構いませんし、相談だけして依頼しなくても全く問題ありません。
相談が遅れれば遅れるほど問題が大きくなりますし、取り返しのつかないことになる場合も少なくありません。
少しでも不安や悩みがあれば、できるだけ早く相談に来ていただきたいと思っています。

以上

弁護士情報

弁護士名:伊藤 拓
所属弁護士会:弁護士会
事務所名:弁護士法人 福岡西法律事務所
事務所HP:https://www.fukuokanishi.jp/
事務所住所:福岡県福岡市西区姪浜駅南 1丁目6-24 髙辰ビル 2階

経歴:
東京都中野区出身
2009年12月  弁護士登録、あさかぜ基金法律事務所入所
2011年10月  対馬ひまわり基金法律事務所の所長に就任
2015年5月  福岡西法律事務所開設
2018年11月  弁護士法人福岡西法律事務所設立

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