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アスベストに関連する法律は?給付金、石綿障害予防規則、建築基準法

【この記事の法律監修】  
藤田 圭介弁護士(大阪弁護士会) 
弁護士法人・響 大阪オフィス

「アスベストに関連する法律にはどのような規定があるのか知りたい」「アスベスト給付金制度について理解を深めたい」このように、アスベストによる被害を訴えたいものの、アスベストに関する救済制度や法律のルールがよくわからないと不安を抱える方は多いのではないでしょうか。

本記事では、アスベストに関連する法律の規定内容や、法律に基づく救済制度であるアスベスト給付金の仕組みについて詳しく解説します。

この記事を読むことで、症状が気になり診断を迷っているご本人やご家族は、給付金制度の対象に当てはまり、救済を受けられるのかという判断を適切に進めることができます。

また、診断を済ませた方やご遺族の方は、給付金申請を検討するにあたって必要な手続きについて理解を深められます。

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1.アスベストとは

アスベストとはどのような特徴があり、どのような場所で使われている素材であるのかを解説します。

1-1.アスベストとはどのような物質?

アスベストとは、「石綿」とも呼ばれ、天然の鉱物繊維を指します。

繊維がきわめて細かいことが特徴で、熱や酸・アルカリなどに強いという丈夫で変化しにくい素材です。

その丈夫さから、かつての社会では次のようなものに使用されていました。

  • 建材(断熱材、吹付材など)
  • シール断熱材(石綿紡織品、ガスケットなど)
  • 摩擦材(自動車のブレーキライニングやブレーキパッドなど)

しかし、中皮腫や肺がんの原因となることが問題視され、現在は基本的に製造・使用等の利用が禁止されています。

1-2.アスベストに曝露されやすい職業

アスベストは、さまざまな職場で断熱材や建材などに使用されていました。そのため、アスベストを曝露する(吸入する)危険がある職業は多岐にわたります。

アスベスト製品を直接製造・加工する工場で働いていた人だけが問題になるわけではないことに注意が必要です。

アスベストに曝露されやすい業種には、次のようなものが挙げられます。

  • 石綿製品の製造・加工・運搬作業
  • 配管・断熱・保温・ボイラー・築炉関連作業
  • 造船業
  • 建設・解体業
  • 発電所・変電所・その他電気設備での作業
  • 鉄鋼業
  • 鉄道業
  • 上下水道の関連作業
  • 清掃工場
  • 自動車整備
  • 道路建設・補修作業

このように、アスベストは広く活用されており、知らないうちに職場で曝露している可能性が高い素材です。

自身の職種ではアスベストを曝露する心当たりがない場合でも、被害を受けている可能性があるかもしれません。

2.アスベストが原因の疾患はどのような症状?

アスベストが原因の疾患には、次のようなものが挙げられます。

 

自覚症状

放置した場合

潜伏期間

中皮腫

  • 息切れ
  • 胸痛
  • 呼吸困難
  • 胸部圧迫感
  • 非常に進行速度が速い病気
  • 1年経たずに死に至る場合もある

20〜50年

石綿肺

  • 息切れ
  • 運動能力の低下
  • 呼吸機能が低下する
  • 在宅酸素療法が必要になることがある

15〜20年

肺がん

  • 血痰
  • 腫瘍が大きくなれば死に至る
  • 他に転移することもある

15〜40年

びまん性胸膜肥厚

  • 軽度の労作時呼吸困難
  • 無症状
  • 重度の呼吸困難
  • 肺機能の拘束性障害

30〜40年

良性石綿胸水

  • ほぼ自覚症状なし
  • 息切れ
  • 胸痛
  • 再発を繰り返す
  • びまん性胸膜肥厚へ進展

15~20年

中皮腫・石綿肺はアスベストが原因であることがほとんどですが、肺がんやびまん性胸膜肥厚などはアスベスト以外に原因がある可能性も考えられる疾患です。

これらの病名を診断されても、必ずしもアスベストが原因とは限らないことに注意しましょう。

3.アスベストに関連する法律にはどのようなものがある?

アスベストは1970〜1990年ごろに多く使われてきた歴史があるため、近年、関連疾患の発症者が増加してきました。

そのため、アスベストによる被害に関連する法律がいくつか定められています。

アスベストに関連する内容を定めた法律は、以下のものが挙げられます。

過去のアスベストによる健康被害を救済する目的の法律

特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律

現在以降のアスベストによる被害を防ぐことを目的とする法律

  • 大気汚染防止法
  • 労働安全衛生法
  • 石綿障害予防規則
  • 建築基準法
  • 建築工事に係る資材の再資源化等に関する法律

各法令の内容について、以下で詳しく解説します。

4.アスベストの被害を救済する法律

過去のアスベストによる健康被害を救済する目的の法律には、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」があります。

この法律は、労働者等がアスベストを吸入することにより発生する疾病にかかり、精神上の苦痛を受けたことについて、最高裁判決で国の責任が認められたことに鑑みて策定されました。

被害者へアスベストによる損害の迅速な賠償を図ることを趣旨としています。

令和3年6月9日に議員立法によって成立し、令和4年1月19日に施行されました。

参照:e-Gov法令検索 特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(令和三年厚生労働省令第百八十七号)

5.アスベストの被害を防ぐ法律

現在以降のアスベストによる被害を防ぐことを目的とする法律には、以下のものが挙げられます。

  • 大気汚染防止法
  • 労働安全衛生法
  • 石綿障害予防規則
  • 建築基準法
  • 建築工事に係る資材の再資源化等に関する法律

規定内容の概要を解説していきます。

5-1.大気汚染防止法

大気汚染防止法では、建築物等の解体等工事におけるアスベストの飛散を防止するための規制が定められています。

具体的な規制内容は、以下のとおりです。

  • 事前調査に関して発注者への説明(第18条の15 1項)
  • 事前調査結果の都道府県等への報告(第18条の15 6項)
  • 作業実施の届出(第18条の17)
  • 作業基準の遵守(第18条の14、第18条の20)
  • 作業結果の報告(第18条の23)
  • 違反時の罰則(第33条の2、第34条)

大気汚染防止法は令和3年4月施行の改正により、アスベスト関連の規制が一層強化されました。

規制対象の拡大や報告の義務付け、直接罰の創設などの改正点は、確認する必要があります。

参照:e-Gov法令検索 大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)

5-2.労働安全衛生法

労働安全衛生法では、事業者に対して健康障害を防止するために必要な措置を講じる義務を定めています(第22条)。

そして、適切かつ有効な措置の実施を図るために必要な技術上の指針を、厚生労働大臣から公表する旨が規定されています(第28条1項)。

アスベストに関連する技術上の指針は、次に説明する「石綿障害予防規則」です。

参照:e-Gov法令検索 労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)

5-3.石綿障害予防規則

石綿障害予防規則では、労働安全衛生法に基づき、アスベストによる健康障害を事業者が防止するために必要な措置の指針を示しています。

制定されたのは、平成17年2月24日です。

石綿障害予防規則では、事業者に次のような責務を定めています(第1条1項)。

  • 作業方法の確立
  • 関係施設の改善
  • 作業環境の整備
  • 健康管理の徹底

また、アスベストを含有する製品の使用状況を把握し、アスベストを含有しない製品に代替するよう努めることも責務としています(第1条2項)。

参照:e-Gov法令検索 石綿障害予防規則(平成十七年厚生労働省令第二十一号)

5-4.建築基準法

建築基準法では、アスベストの飛散または発散に対して衛生上の措置をとることが義務付けられています(第28条の2)。

平成18年の政令では、吹付けアスベスト等の建築物への使用禁止及び増改築、大規模修繕・模様替の際に除去が義務付けられました。

参照:e-Gov法令検索 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)

5-5.建築工事に係る資材の再資源化等に関する法律

「建築工事に係る資材の再資源化等に関する法律」では、他の建築廃棄物の再資源化を妨げないように、石綿含有建築材料は、原則として他の建築材料に先がけて解体等を行い、分別しておくことが規律されています(第9条)。

参照:e-Gov法令検索 建築工事に係る資材の再資源化等に関する法律(平成十二年法律第百四号)

6.アスベスト給付金とは

アスベストの被害者を救済する制度である、アスベスト給付金について解説します。

6-1.アスベスト給付金とはなにか?

アスベスト給付金とは、アスベストを曝露する可能性がある職場で働いたことで、関連疾患を発症した人やその遺族の救済を目的とする制度です。給付対象の要件を満たす場合に、請求が認められれば国が給付金を支給してくれます。

これは、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」に基づく制度です。

被害者の方々へ、アスベストによる損害の迅速な賠償を図ることを趣旨として施行されました。

アスベスト給付金制度について、厚生労働省による説明が公表されているため、併せてご参照ください。

参考:厚生労働省「建設アスベスト給付金制度について」

6-2.給付対象

アスベスト給付金の給付対象となるのは、以下の要件を満たす人です。

  • 次の表の期間で、表に記載しているアスベストにさらされる建設業務に従事していた
  • アスベスト関連疾病にかかった
  • 労働者や、一人親方・中小事業主(家族従事者等を含む)である

期間

業務

昭和47年10月1日〜昭和50年9月30日

アスベストの吹付け作業に係る建設業務

昭和50年10月1日〜平成16年9月30日

一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務

アスベスト関連疾病には、次の病気が認められています。

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
  • 石綿肺(じん肺管理区分が管理2〜4)
  • 良性石綿胸水

対象要件を満たす場合は、国に対して給付金を申請できます。

6-3.給付金額

給付金は、病態区分に応じて、厚生労働大臣から以下の金額が支給されます。

①石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のない者

550万円

②石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のある者

700万円

③石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のない者

800万円

④石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のある者

950万円

⑤中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺管理4、良性石綿胸水である者

1,150万円

⑥上記①及び③により死亡した者

1,200万円

⑦上記②、④及び⑤により死亡した者

1,300万円

なお、「石綿肺管理」とは、じん肺法に規定される管理区分のことです。じん肺法では、次のような管理区分が規定されています。

じん肺法 第四条

じん肺のエックス線写真の像は、次の表の下欄に掲げるところにより、第一型から第四型までに区分するものとする。

エックス線写真の像

第一型

両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの

第二型

両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの

第三型

両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの

第四型

大陰影があると認められるもの

引用:e-Gov法令検索 じん肺法(昭和三十五年法律第三十号)

この管理区分に基づき、アスベスト給付金の金額が決定されます。

6-4.給付の対象期間

アスベスト給付金の請求期限は、「石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日」または「石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日」から20年以内です。

また、石綿関連疾病により死亡したときは、死亡日から20年以内が請求期限と定められています。

期限を過ぎれば給付金の請求が認められなくなるため、注意しなければなりません。

6-5.遺族による申請について

アスベスト給付金は、本人が死亡している場合でも、遺族が申請することが可能です。

請求できる金額は、本人が請求する場合と比べて基本的に変わりません。

給付金の支給対象である以下の遺族のうち、番号が最も小さい人が給付金を請求できます。

  1. 配偶者
  2. 父母
  3. 祖父母
  4. 兄弟姉妹

被害者本人が亡くなった時点で、関連疾患とアスベスト曝露が結びつけられていない場合も多いでしょう。遺族では仕事のことが詳しくわからず、給付金の対象業務に従事していたことを証明するのは難しいと感じるかもしれません。

しかし、過去の職歴や資料を分析し、同僚への聞き取り調査などを行うことで、求める情報を得られる可能性があります。

給付金の申請は難しいのではないかと感じる場合でも、一度弁護士に相談してみることを推奨いたします。

7.アスベスト給付金の申請手続き

アスベスト給付金の申請手続きの流れや、申請時に必要な書類について解説します。

7-1.申請手続きのフロー

アスベスト給付金を申請して給付されるまでの流れは、以下のとおりです。

  1. 給付金の請求
  2. 厚生労働省が受付
  3. 認定審査会による審査
  4. 厚生労働省から認定結果通知
  5. 労働者健康安全機構による給付金の支給

給付金の請求は、必要な書類を揃えた上で、簡易書留やレターパックなど配達状況が確認できる方法で郵送して行います。

基本的に、申請を行えば認定結果通知を待つのみとなるため、申請を認めてもらえるように不備なく準備を進めることが重要です。

7-2.申請時に必要な書類

アスベスト給付金の申請時に提出する書類は場合によって異なりますが、基本的に必須であるものは、以下のとおりです。

  • 請求書
  • 労災支給決定等情報提供サービス通知書のコピー
  • 死亡届の記載事項証明書(請求者が遺族の場合)
  • 振込先情報
  • 被災者の職業歴・石綿曝露作業歴のわかる資料
  • 石綿関連疾患への罹患がわかる資料

中でも、以下の3点は認定審査に当たって特に重要なポイントとなるため、必ず準備しなければなりません。

  • 石綿関連疾病に罹患したことを証明できる資料
  • 建設業務に関する職業歴・石綿曝露作業歴を証明する書類
  • 就業歴等申告書(可能な限り記載したもの)

就労を証明する書類の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 雇用保険加入記録
  • 建設工事の契約書・注文書・発注書・領収書等
  • (在籍企業・取引先企業の)法人登記簿
  • (屋号の記載がある)確定申告書・開業届等
  • (建設業務に関わる)免許・資格証・表彰状
  • 被災者の勤務状況を示す日誌等
  • 被災者の作業状況を示す写真等

就労証明や医療証明の資料を取得することは難しい場合もありますが、スムーズに審査を進めてもらうためには、できる限り証拠となる情報を揃えることが重要です。

7-3.給付されるまでの期間

アスベスト給付金は、申請をしてから認定されるまで最短でも3ヶ月ほどかかります。

アスベスト関連疾患は発症までの潜伏期間が長く、数十年前に従事していた業務の調査をしなければなりません。そのため、疾患と業務の関連性を審査するには長い期間が必要になります。

このような特性上、給付の支給は遅くなる傾向にあることを理解しておきましょう。

8.アスベストに関するよくある疑問

アスベストに関するよくある疑問に回答します。

8-1.アスベスト関連疾患かもと思ったらどこに相談すべき?

アスベスト関連疾患が疑われる場合、まずは国の支援センターやNPO法人の窓口に相談してみましょう。

治療費の相場や、保証・給付制度などについて、あらかじめ適切に理解を深めてから落ち着いて診断を受けられます。

中皮腫や肺がん等の検査を病院でする場合、まずは呼吸器外科や呼吸器内科を受診しましょう。

また、アスベスト給付金制度に関する相談は、弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士に相談することで、給付対象か否かの判断や給付申請の代行を専門家に任せることが可能です。

8-2.関連疾患の発病でアスベスト以外の原因もある場合は給付金をもらえる?

アスベスト関連疾患を発病した場合において、アスベスト以外にも原因が考えられる場合でも給付金はもらえます。

しかし、給付金が減額されるかもしれません。

特に、肺がんを発症している場合で喫煙の習慣があれば、給付金の10%が減額されることが定められています。

8-3.当時の会社がない場合でも給付金は申請できる?

アスベスト曝露があった業務に従事していた時の会社が倒産・廃業して現存していない場合でも、給付金は申請できます。

会社がなくなったとしても、被災者が給付を受ける権利を失うわけではありません。

ただし、就労証明をする書類等の準備が困難になる可能性があります。弁護士などのサポートを受けながら、諦めずに申請を進めましょう。

8-4.アスベスト給付金を申請したら会社に迷惑がかかるのでは?

アスベスト給付金を申請したとしても、現在勤めている会社に直接的な影響はありません。

ただし、給付金申請時に、就労証明等の準備に協力をしてもらう必要はあります。

また、業務が原因でアスベスト関連疾患を発症した場合に給付金を申請することは、法律で決められた権利です。

最低限の療養や生活の補償を受けることを否定されることはありません。

9.まとめ

アスベストに関連する法律には、過去の健康被害を救済するものと現在以降の被害を防ぐ目的のものがあります。アスベストが原因で病気になった場合は、アスベスト給付金を申請することが可能です。

病院への診断前であり、給付金がもらえるかどうかによって病院にかかるか悩んでいる場合は、まずは給付対象かどうかの確認を行いましょう。

当記事で理解が難しい場合、当サイトで10分2,000円〜オンラインや電話で弁護士が相談を受け付けているので、ぜひご相談ください。

また、診断を済ませた方や遺族の方で給付金の申請を検討する場合、弁護士による給付申請の代行や相談が可能です。

当サイトでは、10分2,000円〜オンラインや電話で弁護士が相談を受け付けています。まずは弁護士に手続きを行ってもらった場合の金額感などを確認する相談をしてみましょう。

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