アスベストによる病気の症状は?【本人、ご家族向け】~疾患名、検査、保証、給付金など~
【この記事の法律監修】
北上 拓哉弁護士(三重弁護士会)
弁護士法人決断サポート
アスベストによる健康リスクは、長い潜伏期間を経て発症することが多く、発症後も適切な対応が求められます。そのため、アスベスト関連疾患の症状や検査方法、給付金や補償制度に関する情報は、健康不安を抱える方やご家族にとって欠かせません。
この記事では、診断前後の本人・ご家族に向けて、アスベスト曝露が疑われる際の初期症状や必要な検査、専門機関での早期診断の重要性について説明します。ご遺族には、遺族向けの給付金・補償制度についての情報を紹介しています。ぜひ参考にご覧ください。
1.アスベストとは
アスベストは、耐熱性や絶縁性、耐久性が高く、建築材料や工業製品に広く使われてきた鉱物繊維です。ビルや住宅の断熱材、耐火材、自動車のブレーキ部品など、多くの場所で利用されていました。しかし、アスベスト粉塵を吸い込むと健康被害が生じることが判明し、現在は使用が禁止されています。
アスベストに曝露するリスクが高い職業には、建設業、造船業、配管工やボイラー技士、自動車整備士、およびアスベスト製品の製造業が挙げられます。
アスベストによる自覚症状は主に呼吸器に現れるのが特徴です。以下の症状が現れた際には、健康状態が悪化している可能性があるため、早めに医療機関に相談しましょう。
- 息切れがひどくなっている
- せきや痰が以前よりも増えたり、痰の色が変わってきた
- 痰に血が混じっている
- 顔色が悪いと指摘されたり、爪が紫色に見える
- 顔がむくんでいる
- 手足が腫れている
- 急激に体重が増えている
- 強い動悸が感じられる
- 風邪をひいても治りが遅い、または治らない
これらの症状はアスベストに長期間さらされた後、数十年経ってから発症することが多く、早期発見が難しい点も特徴です。
2.アスベスト給付金とは
アスベスト給付金とは、建設業務に従事していた際にアスベストにさらされ、その影響で石綿関連疾病に罹患した労働者やその遺族に対して支給される給付金です。特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律に基づいて給付されます。
第一条
この法律は、石綿にさらされる建設業務に従事した労働者等が石綿を吸入することにより発生する中皮腫その他の疾病にかかり精神上の苦痛を受けたことに係る最高裁判所平成三〇年(受)第一四五一号、第一四五二号令和三年五月一七日第一小法廷判決及び最高裁判所平成三一年(受)第四九五号令和三年五月一七日第一小法廷判決並びに大阪高等裁判所平成二八年(ネ)第九八七号平成三〇年八月三一日第四民事部判決において、国が労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)に基づく権限を行使しなかったことは、労働者の安全及び健康の確保という同法の目的等に照らして著しく合理性を欠くものであるとして、国の責任が認められたことに鑑み、これらの判決において国の責任が認められた者と同様の苦痛を受けている者について、その損害の迅速な賠償を図るため、特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給について定めるものとする。
アスベスト給付金の審査は、提出された証拠や診断書などの資料に基づいて行われます。審査機関は、厚生労働省と独立行政法人労働者健康安全機構が主に担当し、申請者の従事していた業務内容や作業場所、疾病の内容が給付対象に該当するかを確認します。審査の結果に基づき、認定された方には給付金が支給され、不認定の場合にはその理由が通知されます。
アスベスト被害による給付金には、労災保険給付もあります。労災保険制度は、仕事での石綿曝露が原因で石綿肺や肺がん、中皮腫などを発症した労働者や遺族に保険給付を行う制度です。療養給付や休業給付、障害給付、介護給付、遺族給付などがあり、給付を受けるには労働基準監督署長の認定が必要です。
療養給付は、治療費や薬代の一部または全額を補助する制度で、療養のために入院や通院が必要な場合もカバーされます。休業給付は、仕事ができない期間の生活支援を目的とした給付で、通常、収入の一定割合が支給されます。障害給付は、障害が残った場合に提供されるもので、障害の等級に応じて給付額が決まります。介護給付は、日常生活に介護が必要な場合に支給されます。遺族給付は亡くなった方の遺族に支給されるものです。遺族給付は、後述のとおり、これとは別に特別遺族給付金というものもあります。
この記事では、国が責任を持ち、厚生労働省が管轄している、建設アスベスト給付金制度に関する情報をまとめました。
2-1.アスベスト給付金の金額
アスベスト給付金は、疾病の種類や重症度に応じて給付されます。詳細は下表のとおりです。
石綿肺の重症度 |
疾患の種類 |
給付金額 |
管理2 |
石綿肺で合併症のない場合 |
550万円 |
管理2 |
石綿肺でじん肺法所定の合併症がある場合 |
700万円 |
管理3 |
石綿肺で合併症のない場合 |
800万円 |
管理3 |
石綿肺でじん肺法所定の合併症がある場合 |
950万円 |
管理4 |
中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺、良性石綿胸水のいずれかである場合 |
1,150万円 |
上記の金額は一般的な支給額であり、減額や調整が行われる場合もあります。たとえば、肺がんと石綿肺では、ばく露期間が10年未満の場合、給付金が10%減額されます。また、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の場合、特定石綿ばく露建設業務に従事した期間がが3年未満の場合にも減額対象です。
さらに、肺がんに関して、喫煙の習慣がある場合は給付金が10%減額されます。このように、アスベスト給付金は被害者の状況に応じて支給額が異なり、短期のばく露や喫煙、その他の損害賠償等により調整が加わることがあります。
給付までは、数ヶ月から1年程度かかることが多いです。提出書類に不備があるとより期間が伸びてしまいますので、弁護士に相談し、適正かつ迅速な請求を行うことをおすすめします。
2-2.アスベスト給付金の対象者
アスベスト給付金の対象者は、次の要件を満たす方です。
- 特定石綿ばく露建設業務に従事していた方
- その業務により、石綿関連疾病を発症した方
- 労働者、一人親方等であった方、またはその遺族
また、アスベスト給付金の支給対象となる期間は、業務内容と従事期間により以下のとおりに定められています。
- 昭和47年10月1日~昭和50年9月30日:石綿の吹付け作業
- 昭和50年10月1日~平成16年9月30日:屋内作業場で行われた建設作業(屋根や外壁に囲まれた作業場)
2-3.アスベストの給付金の請求期限
アスベスト給付金の請求は、以下の期間を過ぎるとできなくなります。原則として、次のいずれか遅い方の日から20年以内です。
- 石綿関連の病気と医師に診断された日
- 石綿肺について「じん肺管理区分(管理2~4)」と決定された日
被災者が石綿関連の病気で死亡した場合は、死亡した日から20年以内が請求期限です。
3.アスベスト関連疾患とは
給付金等の支給対象となる石綿関連疾病には、以下のものがあります。
- 中皮腫
- 肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
- 石綿肺
- 良性石綿胸水
各疾患の症状や潜伏期間を解説します。
3-1.中皮腫
中皮腫は胸膜や腹膜にできる悪性腫瘍で、アスベスト繊維が肺や胸膜に入り込むことが一因です。自覚症状は、以下のとおりです。
- 呼吸困難
- 胸や背中の痛み
- 乾いた咳
- 倦怠感
- 体重減少
- 胸水による圧迫感
潜伏期間は20〜50年と長く、アスベスト曝露から長期間経ってから発症することが多いです。
以下の条件を満たす場合に中皮腫がアスベスト給付金の対象となります。
まず、中皮腫が発症するまでには通常10年以上の潜伏期間が必要であるため、最初のアスベスト曝露作業から10年未満で発症した場合は給付金の対象外となります。
次に、給付金の対象となる条件には、以下の2つのいずれかを満たす必要があります。
- 胸部エックス線写真で「第1型以上」の石綿肺所見があること
- 特定の石綿ばく露建設業務に1年以上従事していること
中皮腫は診断が難しく、病理組織検査が必要です。放置すると腫瘍が広がり、呼吸困難や痛みが悪化し、最終的に致命的となる可能性があるため、早期の対応が重要です。
3-2.肺がん
アスベストによる肺がんは、アスベスト繊維が肺に入り込んで慢性的な炎症を引き起こすことが原因です。主な症状は以下のとおりです。
- 咳や血痰
- 呼吸困難
- 胸の痛
- 食欲不振
- 体重減少
- 倦怠感
潜伏期間は15〜40年と長く、進行が早いため、放置すると他の臓器に転移し、生命を脅かす可能性もあるため、早期に医療機関を受診することが大切です。
アスベストによる肺がんでは、以下の1〜6の場合に給付が認められます。
- 胸部エックス線写真で「第1型以上」の石綿肺所見が確認されている場合
- 胸膜プラーク所見があり、石綿ばく露作業従事期間が10年以上であること
- 広範囲の胸膜プラーク所見があり、石綿ばく露作業従事期間が1年以上であること
- 石綿小体または石綿繊維の所見があり、石綿ばく露作業従事期間が1年以上であること
- びまん性胸膜肥厚を併発していること
- .特定の作業に従事し、石綿ばく露作業従事期間が5年以上であること
4の石綿小体や石綿繊維の条件は、特定の基準を満たすことが求められ、6の「特定の作業」とは、石綿紡織製品製造、石綿セメント製品製造、石綿吹付作業などです。
3-3.著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
胸膜が厚くなり、肺が正常に膨らみにくくなるため、呼吸が苦しくなります。特に運動時に息切れが顕著です。慢性的に疲労を感じることが多く、日常生活に支障をきたすこともあります。この状態を放置すると、重度の呼吸不全に至る可能性があるため、早めに医療機関での診察をおすすめします。
潜伏期間は10〜30年とされています。著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚がアスベスト給付金の対象となるには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
1つ目の条件は「アスベスト曝露作業に3年以上従事していたこと」です。これは、長期にわたるアスベスト曝露によって病状が引き起こされたと考えられるための基準です。
2つ目の条件は「呼吸機能に著しい障害があること」です。具体的には、パーセント肺活量(%VC)が60%未満、または%VCが60〜80%の範囲で以下のいずれかの条件を満たしている場合です。
- 1秒率が70%未満かつ、パーセント1秒量が50%未満
- 動脈血酸素分圧(PaO₂)が60Torr以下、または肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO₂)が限界値を超えている
3つ目の条件は「胸膜肥厚が一定以上広がっていること」です。具体的には、胸部CT画像で片側の胸膜肥厚が側胸壁の1/2以上に及んでいる、または両側の胸膜肥厚が側胸壁の1/4以上に及んでいる場合に、この条件を満たします。これは、胸膜肥厚が広がり呼吸に悪影響を与えていることを示しています。
3-4.石綿肺
石綿肺は、アスベスト繊維が肺に蓄積することで発症し、初期は無症状ですが、進行すると咳、息切れ、呼吸困難が現れ、重症化すると呼吸不全に至ることもあります。潜伏期間は10〜20年程度です。アスベスト関連疾病として認められるには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
アスベスト関連疾病として給付金の対象となるには、次の条件のいずれかを満たす必要があります。
- 管理区分が「管理2、管理3、または管理4」の石綿肺であること
- 管理2以上の石綿肺で、以下の合併症があること:肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、気管支拡張症、または気胸
3-5.良性石綿胸水
良性石綿胸水とは、アスベストに曝露されたことによって胸腔内に液体が異常に溜まる病態です。自覚症状は以下のとおりです。
- 息切れ
- 胸の痛み
- 胸部の圧迫感
放置すると胸水が増え、呼吸困難が悪化することがあり、重症化するリスクがあるため、注意しましょう。潜伏期間は10〜30年程度です。
4.アスベスト給付金は遺族でも受け取れる
アスベスト給付金は、被災者が亡くなった後でも、条件を満たしたご遺族が受け取ることができます。
4-1.【遺族向け】アスベスト給付金の金額
支給金額は、被災者の症状や病気の重症度に応じて異なります。石綿肺が管理区分2または3で合併症がない場合は1,200万円が支給され、合併症がある場合、または中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水による死亡の場合は1,300万円が支給されます。
4-2.【遺族向け】アスベスト給付金の対象者
給付金を受け取れる遺族には優先順位があり、順位の高い遺族がいる場合は、後順位の遺族は支給の対象になりません。最も優先されるのは配偶者で、次いで子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹という順番です。配偶者には、内縁関係や事実婚の方も含まれます。
4-3.【遺族向け】アスベスト給付金の請求期限
請求期限は亡くなった日から20年以内であり、遺族はタイミングに十分注意が必要です。
なお、被災者が生前にアスベスト曝露と病気の関連性を認識していなかった場合でも、遺族が職歴や医師の診断書などをもとにアスベストが原因と確認されれば、給付が認められる場合があります。
4-4.【遺族向け】特別遺族給付金
石綿健康被害救済制度では、労災補償を受けずに石綿が原因の病気で亡くなられた労働者のご遺族を支援するため、「特別遺族給付金」が設けられています。この給付金は、労災保険での遺族補償給付を時効で受け取れなくなった遺族が対象です。具体的には、石綿曝露が原因で亡くなった労働者(特別加入者も含む)の遺族が該当します。
給付内容には、「特別遺族年金」と「特別遺族一時金」の2つの形式があります。特別遺族年金は、遺族1人の場合、年間240万円が支給される定期的な給付であり、遺族が複数いる場合は支給額が変動します。一方、特別遺族一時金は、遺族に一括で支払われるもので、特別遺族年金を受けることができる遺族がいないときに限り、受け取ることが可能です。請求の期限は令和14年3月27日です。
4-5.【遺族向け】石綿健康被害救済制度
石綿健康被害救済制度は、石綿(アスベスト)による健康被害の潜伏期間の長さと原因者特定の難しさから、労災補償対象外の被害者や遺族を迅速に救済する制度です。中皮腫、肺がん、重度の石綿肺やびまん性胸膜肥厚といった指定疾病を患う方や、その疾病で亡くなった方の遺族が申請可能です。
アスベスト給付金の申請についてお悩みの方には、弁護士による給付申請の代行や相談が可能です。ご遺族という立場での申請手続きが複雑な場合や、詳細なサポートが必要な場合は、専門家のアドバイスを活用することができます。
5.アスベスト関連疾患かも?と思ったら
まず、アスベスト関連疾患が疑われる場合は、最寄りの保健所やアスベスト相談窓口に相談することをおすすめします。また、石綿に詳しい専門の医療機関での受診が望ましいです。特に職場でのアスベスト曝露が原因と考えられる場合、労働基準監督署や労災保険の窓口に相談すると、給付金申請や治療費補助についても説明を受けることができます。
病院に直接行って診断を受けることも可能ですが、相談機関を経由することで費用負担が軽減される場合もあります。
また、アスベスト関連疾患は、いずれも完治が難しいとされています。中皮腫や石綿肺は進行性の病気であり、治療は症状の進行を遅らせたり、苦痛を和らげたりする対症療法が中心です。早期発見により、病気の進行を抑えることは可能な場合もありますが、根本的な治療法がないため、定期的な検査と早期対応が非常に重要です。
5-1.検査を受ける
アスベスト関連疾患を調べるための検査には、まず胸部レントゲン検査やCTスキャンが一般的に行われます。レントゲンやCTスキャンで、肺や胸膜の異常を確認し、必要に応じてさらに詳しい検査を行います。がんや中皮腫が疑われる場合には、細胞診や病理組織検査も行われ、確定診断につなげます。
検査は医師と相談の上、健康状態や曝露状況に応じて頻度を決めます。
5-2.会社に報告する
会社への連絡については、職場での曝露が考えられる場合は報告を行った方が良いでしょう。特に労災認定を受ける可能性がある場合、会社からの証明が必要になるため、相談窓口や病院と併せて会社にも連絡しておくと、給付申請の手続きがスムーズです。
6.まとめ
本記事では、アスベスト曝露による健康リスクや関連疾患の症状、診断方法、給付金や補償制度について、アスベストによる健康被害の疑いがある方やそのご家族、ご遺族に向けて解説しました。
「アスベスト関連の病気になっているかも」と心配な方やそのご家族は、給付金の対象になるかどうかや、必要な検査について確認することが大切です。給付金対象か判断が難しい場合や申請方法が不明な場合は、弁護士への相談をおすすめします。
また、診断後の方とそのご家族に対しては、給付金申請の具体的な手続きや負担を軽減する制度の利用が不可欠です。申請や手続きが複雑な際には、カケコムの弁護士が手続きを代行し、円滑な申請をサポートしますので、まずは費用や手続きの流れを確認することをおすすめします。
分からないままご自身だけで進めてしまうと、手続きのミスや申請遅延により給付金が受け取れない、または減額されるリスクがあります。特に遺族の方は手続きの負担が大きく、経済的な支援を逃してしまう恐れももあるので、注意しましょう。
当サイト「カケコム」では弁護士が10分2,000円〜のオンライン・電話相談を提供しており、安心して相談が可能です。ご不安な方は、ぜひ一度ご相談ください。