司法過疎地域で法テラス所長を務め、独立後はDV案件を中心に地域の様々な問題解決に尽力/早川雅子弁護士(早川法律事務所)
東京都内の法律事務所で経験を積み、2009年から3年間、司法過疎地域にある法テラス鹿屋法律事務所の所長を務められた早川先生。法テラス退職後は同じ鹿屋市内に法律事務所を開設し、DV案件を中心に様々な案件に対応されているそうです。
弁護士を目指した理由とこれまでについて
これまでの経歴について教えてください。
3歳から大学入学まで、米どころ、新潟県燕市で過ごしました。
新潟平野の夏は、夜は、蛙の合唱が鳴り響き、昼は、稲が風にそよぎ、まるで緑の絨毯を敷き詰めた様に美しい。自然の中で、育ちました。
大学在学中から司法試験の勉強をしていましたが、択一は、なんとか合格できても論文のハードルが高く、周りを見ると苦節〇〇年の受験生も多く、大変な世界に足を踏み入れたと思いました。その頃、結婚し、相手は弁護士だったので、周りから「受からなくてもよいのではないか」と残酷な言葉を投げかけられました。皮肉にも、弁護士になったのは、離婚後、2007年、既に40歳を過ぎていました。
弁護士になってからは、東京都内の法律事務所で経験を積み、2009年1月に司法過疎地域にある法テラス鹿屋法律事務所に赴任し、3年間所長を務めました。
法テラスというのは、全国各地の裁判所本庁所在地や司法過疎地域などに拠点事務所を設け、市民の皆様に様々な法律サービスを提供する国が設立した機関です。
鹿屋市に赴任した直後は、改正貸金業法施行前で、未だ過払いブームが残っており、多くの相談・依頼が寄せ、相談予約3か月待ちの状況が続くほどでした。そして2012年1月に法テラスを退職し、同じ鹿屋市内に早川法律事務所を開設しました。
その後、ばらのまち鹿屋の中心的存在であるバラ園を運営するNPO法人ローズリングかのやの監事、鹿屋市コンプライアンス委員、鹿屋市教育委員(教育長職務代理)、鹿屋市男女共同参画審議会委員、鹿児島県教育委員会の事務の点検及び評価等に係る評価委員、鹿児島県男女共同参画地域推進員に就任しました。
法テラス鹿屋法律事務所に赴任した頃から、九弁連の支部交流会に参加していた関係で、九弁連司法改革問題に関する連絡協議会委員に、その関係で、日弁連裁判官制度改革・地域司法計画推進本部・事務局次長に就任しました。
2023年は、長野で行われた人権大会で地域司法、支部に関する報告を行うという貴重な経験をさせていただきました。
その本部から、共同親権に関するWG(令和6年民法等改正法の施行準備に関する検討ワーキンググループ)に1名参加するようにということで、現在就任しております。
いずれも、貴重な機会を与えていただき感謝しております。
弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください。
積極的に弁護士になりたいというわけではなく、他になりたいものが無かったことから、とりあえず、大学は、法学部に進学し、その時点で弁護士になるための勉強を始めました。
動機の甘さが、認識の甘さに繋がり、合格するまで、スムーズにいかなかったことは、既に述べたとおりです。離婚というピンチが、チャンスとなり、私を救ってくれました。離婚により、精神的解放感と自由な時間、十分な財産分与を得ることが出来、司法試験予備校へ通学し、択一合格後の夏の時期も不合格者と一緒に答練を受け、実力の底上げを図り、若い受験生に対抗できるように、毎日3kmを走り、体力をつけました。冗談では無く、この頃は、腹筋も割れていた様な記憶があります。
このようにして、なんとか(旧)司法試験に合格しました。司法試験をなめていたことを反省し、合格させていただいたことに感謝し、何にでも謙虚であるべしと思うようになりました。
ですから、弁護士になって、特に何かしたいとかいうことではなく、仕事があることに感謝し、与えられたことを、コツコツこなしているという感じです。
弁護士になったときから、司法過疎地域で働こうと思っていたのでしょうか?
知人から、弁護士の少ない島根県で就職先を探した人がいるという話を聞いたことがあったこと、田舎育ちで、都会には窮屈さを感じていたこと、自分の年齢も考えて、司法過疎地の方が可能性があると考えて、当初から司法過疎地勤務が希望でした。
地方の事務所、ひまわり基金公設事務所、法テラス、いずれがよいのか考えたところ、当時法テラスの1期生の活躍が紹介されており、可能性を感じ、東京都内の法テラス養成事務所に就職しました。
ちなみに法テラスは全国にあり、赴任先は、法テラスに関係している弁護士が決めます。
それが私の場合は鹿屋市でした。スタッフ弁護士2期生として、法テラス鹿屋法律事務所に赴任しました。初めて暮らした街でしたが、それまで、法律の勉強だけをして、一般人や地域とのつながりが無かったこともあり、人との交流が楽しく、そのまま鹿屋市で独立しました。
現在の業務について
離婚関連事件(監護者指定・子の引き渡し、保護命令等)、遺産分割事件、交通事故(弁護士特約の案件が多い)、後見等、債務整理、一般民事、刑事事件(常に4~5件)などです。人生の歯車が狂ってしまった人や行動制御能力に乏しい障がい者の刑事弁護をすることは、弁護士らしい仕事だと感じています。
近時、学校では、学年で1クラス特別支援学級があると言われていますが、早い段階での教育の必要性を痛感します。
注力している分野を教えてください。
離婚事件です。DVには、身体的暴力だけではなく、精神的暴力、経済的暴力等も含まれますので、離婚事件イコールDV案件と言ってもよいと思います。
法テラス時代から、地元のDV被害者支援の会アミーチという被害者支援団体に関わっていたこと、独立した当時、丁度、鹿屋市が配暴センターを立ち上げた時期で、法律相談を担当することになりました。
離婚案件は大半の弁護士が扱っていますが、DV案件は、精神的にきついと話される弁護士がいます。しかし、加害者心理が分かると、行動が理解できるようになり、精神的にきついということはなくなります。
また、男性弁護士に相談し、理解してもらえず、泣いて相談に来られる方もいらっしゃいます。
男性のDV被害者からの依頼を受けることも有ります。女性が、女王様の様に振舞うケースです。
怒りのコントロールが出来無いことがどれだけ他人を傷つけるのかよく理解できるので、自分の性格も丸くなったような気がしています。
DV案件の経験が豊富な弁護士は、そうでない弁護士と比べて、どういった違いがあるのでしょうか?
DVに至る心理や行動には共通点があります。加害者心理は、一言で言えば、支配したいという心理、特徴的な行動は、相手を困らせて快感を覚えるということです。
加害者が、被害者を困惑させる行為の意味を理解できないと翻弄されることになります。DV案件の経験が豊富で、かつ、きちんと研修などを受けてスキルや知識を磨いている弁護士であれば、慌てることなく、淡々と手続きを進めていき、依頼者の混乱を招くことは、少なく、適切なタイミングで、適切な対応が可能となります。
依頼者は、「なにをされるかわからない」という不安や恐怖を抱えています。そこで経験豊富な弁護士から、今後起こりうることや解決に向けた道筋を説明されることで、ずいぶん肩の荷は降りるはずです。
また、DV被害者保護に関する様々な法律や制度を知っていることも事件処理に役立ちます。鹿屋市には、離婚前でも離婚意思を表明し、法的に手続きをしている方が優先的に市営住宅に入居できる制度もあります。別居した状態で、離婚の話し合いが出来ることは、同居状態で調停を行うより、精神的に非常に楽です。反対に、DV案件をあまりやっていない弁護士の場合、依頼者に対して「それはあなたのワガママ」「それくらいどの家庭にもある」といった誤った対応をしてしまい、被害者が二次被害を受けたり、「この弁護士になにを言ってもダメだ」と諦めてしまうこともあります。場合によっては必要な対策を採らず、被害が大きくなることもあります。
DV案件は弁護士にとってもストレスの大きい仕事だと想像するのですが、いかがでしょうか?
私の場合は、加害者の行動心理などもよくわかっているので、たとえば嫌がらせを受けても慌てず、淡々と対処できるようになりました。
もちろんストレスはありますが、それはどの案件でも同じで、DV案件だから特別大きいとは感じません。それよりも、依頼者が安心できる生活を取り戻せた時の達成感、やりがいの方が大きいですね。
弁護士として、どういったことを大切にされていますか?
上から目線にならず、丁寧に、誠実に、気持ちに寄り添いながら対応することです。今こうして弁護士として活動出来るのは、環境が整って司法試験に合格できたからです。育った環境が違えば全く違った人生になっていたでしょう。ですから、たまたま私が恵まれていただけだと自覚して、どのような方にもしっかり敬意を持って接したいと思っています。
今後の目標など
今後の目標などを教えてください。
法律問題に限らず、教育や貧困問題など、様々な分野について具体的な解決策を提言していきたいと思います。
たとえば、やる気さえあればお金がなくても誰でも学べる機会を作って、専門学校や大学に行けるような、環境つくりをしていきたいと思っています。
また、広い範囲ではありませんが、教育、児童虐待、高齢者の問題など、地域の問題は地域で解決できる体制作りのお手伝いをしたいと思います(自分なりの地方創生)。そのために町内会に積極的に参加したり、色んな場所に足を運んでいます。実は、町内会長の女性比は、極端に低いことから、その改善のために何をすれば良いのかそのリサーチの意味もあります。
やはり、地域が生き生きしていないと日本全体の元気がなくなります。私は私らしく、まずは目の届く範囲のことを頑張っていきたいです。
相談を考えている方へ一言お願いします。
「これは弁護士に相談すべきことなんだろうか」「今相談すべきタイミングなんだろうか」と分からなくても、お気軽にご相談いただければと思います。弁護士が、法律問題ではないと遮ってしまえば相談者は、委縮してしまいます。特にDVの場合は、自分がDVを受けているという自覚がない方も多いです。ですから、ちょっとでも苦しいと感じたら、一度ご相談ください。
相談したら離婚しなければならない、ということはありません。相談者の意向を踏まえて、解決に向けた提案をいたします。また、弁護士には守秘義務がありますから、相談したこと自体、そして相談内容が外部に漏れる心配もありませんので安心してご相談ください。
弁護士情報
弁護士名:早川 雅子
所属弁護士会:鹿児島県弁護士会
事務所名:早川法律事務所
事務所HP:https://www.hayakawahouritsu.jp/
事務所住所:鹿児島県鹿屋市打馬2-2-27
経歴:
2007年 弁護士登録、東京都内の法律事務所へ入所
2009年1月 法テラス鹿屋法律事務所へ赴任
2012年1月 早川法律事務所を開設
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