覚醒剤での逮捕、覚醒剤取締法を解説【本人・家族】~詳細や逮捕の流れ、家族がとるべき対応~
【この記事の法律監修】
田附 周平弁護士(東京弁護士会)
田附法律事務所
覚醒剤は、使用すると身体に深刻な影響を及ぼし、また依存性が非常に高いため、その使用や所持は法律で厳しく禁じられています。覚醒剤の使用は、人生を一変させる重大な出来事です。一瞬の過ちで取り返しのつかない結果を招くことがあります。
今回は、覚醒剤取締法の詳細や逮捕の流れについて解説し、本人や家族がとるべき対応について紹介します。
あなた自身が覚醒剤の使用や所持で逮捕されてしまった場合、今後の生活や将来に大きな影響が及ぶことは避けられません。ですが、この記事を読むことで、逮捕の流れや取るべき行動、さらに適切な弁護士の助けを得ることでどのように状況を改善できるかを詳しく理解できます。
また、もし家族が覚醒剤で逮捕された場合は、逮捕後の72時間は特に重要であり、弁護士への早急な相談が求められます。家族の方々が取るべき行動を見ていきましょう。
1.覚醒剤取締法違反とは?
覚醒剤取締法違反とは、日本における覚醒剤の取り締まりに関する法律である「覚醒剤取締法」に違反する行為を指します。
覚醒剤取締法では、以下のように規定されています。
第一条
この法律は、覚醒剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するため、覚醒剤及び覚醒剤原料の輸入、輸出、所持、製造、譲渡、譲受及び使用に関して必要な取締りを行うことを目的とする。
引用:e-Gov法令検索 覚醒剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)
覚醒剤取締法の条文から分かるように、覚醒剤及び覚醒剤原料の
- 輸入
- 輸出
- 所持
- 製造
- 譲渡
- 譲受
- 使用
が罪となります。
第二条
この法律で「覚醒剤」とは、次に掲げる物をいう。
一フエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及び各その塩類
二前号に掲げる物と同種の覚醒作用を有する物であつて政令で指定するもの
三前二号に掲げる物のいずれかを含有する物(後略)
引用:e-Gov法令検索 覚醒剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)
具体的に規制されている覚醒剤の成分として、日本では「アンフェタミン」や「メタンフェタミン」が代表的です。これらの化合物は中枢神経を刺激し、依存性や健康への有害な影響を持つことから厳しく規制されています。
1-1.覚醒剤取締法違反の成立要件
覚醒剤を所持していても、それが覚醒剤だと知らなかったり、自分が持っていると認識していなければ、罪にはなりません。たとえば、知らずに覚醒剤が入った荷物を預かった場合や、複数人で乗った車に覚醒剤があった場合などが該当します。
覚醒剤の所持や使用量が、たとえ少量であっても処罰の対象となります。「微量だから」「自分用に少しだけだから」といった言い訳は通用しません。
近年、覚醒剤は粉末状や錠剤、カプセルなどさまざまな形状で流通しています。どのような形状であっても、覚醒剤であることに変わりはなく、法律で禁止されている行為を行えば処罰の対象となります。
1-2.覚醒剤取締法違反の時効
犯罪行為が完了した後、一定の期間が過ぎると、その犯罪に対して起訴や処罰ができなくなることを公訴時効と呼びます。
覚醒剤の使用、所持、譲渡・譲受に関する公訴時効は7年ですが、営利目的で行われた場合は10年となっています。また、覚醒剤の輸入・輸出や製造に関する公訴時効は10年であり、営利目的で行われた場合は15年です。
1-3.覚醒剤取締法違反の罰則
覚醒剤取締法の罪状は、行為によって異なります。
覚醒剤の使用、所持では10年以下の懲役、また営利目的での所持の場合は、1年以上の懲役に加え、状況次第で500万円以下の罰金も科されることがあります。
所持とは、覚醒剤を物理的に持っている状態で、使用とは、覚醒剤を体内に摂取する行為を言います。使用には、注射や炙っての吸引が含まれます。他人に注射する行為や、他人に注射してもらう行為も「使用」とみなされる可能性があります。
覚醒剤の譲渡、譲受でも、10年以下の懲役が適用されます。さらに、営利目的でこれらの行為を行った場合は、1年以上の懲役に加え、状況次第で500万円以下の罰金も科されることがあります。
輸入、輸出、製造に関しては、1年以上の懲役が課されますが、営利目的の場合は無期懲役や3年以上の懲役に加え、1000万円以下の罰金が適用される可能性があります。
日本では、特に航空機を使った違法薬物の密輸入が増加しており、違法行為に関与すると厳しい法的処罰を受けることがあります。違法な誘いには注意し、関与しないよう気をつけることが重要です。
初犯の場合、執行猶予がつく可能性がありますが、これは個々のケースの状況や裁判所の判断によります。被告人の反省の度合いや再犯の可能性、社会復帰の見込みなどが考慮され、場合によっては執行猶予がつくことがあります。
1-4.麻薬及び向精神薬取締法・大麻取締法との違い
覚せい剤、麻薬・向精神薬、大麻は、それぞれ異なる法律で規制され、罰則も異なります。
麻薬及び向精神薬取締法は、ヘロインやコカインなど、覚せい剤以外の危険な薬物を規制する法律です。ヘロインの所持・譲渡では、10年以下の懲役が科せられます。麻薬及び向精神薬取締法の目的、用語の定義は、以下のとおりです。
第一条
この法律は、麻薬及び向精神薬の輸入、輸出、製造、製剤、譲渡し等について必要な取締りを行うとともに、麻薬中毒者について必要な医療を行う等の措置を講ずること等により、麻薬及び向精神薬の濫用による保健衛生上の危害を防止し、もつて公共の福祉の増進を図ることを目的とする。
(用語の定義)
第二条
この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 麻薬 別表第一に掲げる物をいう。
二 あへん あへん法(昭和二十九年法律第七十一号)に規定するあへんをいう。
三 けしがら あへん法に規定するけしがらをいう。(後略)
引用:e-Gov法令検索 麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)
大麻取締法では、大麻の所持や栽培などが禁じられています。大麻の所持・譲渡では5年以下の懲役が科せられます。大麻取締法の一部を紹介します。
第一条
この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。(中略)
第三条
大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。(後略)
引用:e-Gov法令検索 大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)
これらの法律に違反すると、刑罰以外にも、社会的な制裁を受ける可能性があります。薬物には絶対に手を出さず、健康な生活を送りましょう。
2.覚醒剤を使用するリスク
覚醒剤の使用には深刻なリスクが伴います。一般的な覚醒剤の使用による症状を紹介します。
(短期的な影響の例)
- 覚醒作用および身体活動の増加
- 食欲の減退
- 呼吸数の増加
- 心拍数の増加および不整脈
- 血圧および体温の上昇
(長期的な使用による健康被害の例)
- 極度の体重減少
- 深刻な歯科疾患(歯がボロボロになる)
- 激しい痒み、および掻いたことによる皮膚炎
- 不安
- 混乱
- 睡眠障害
- 暴力行為
- 被害妄想(他人に対する極端かつ理不尽な不信感)
- 幻覚
- 現実には存在しない感覚やイメージ
覚醒剤の使用による影響は、一時的なものだけでなく、使用をやめた後も長く続く後遺症が残る可能性があります。薬物を使用していない時に、使用時の感覚がよみがえってくるフラッシュバックや、抑うつ状態に悩まされるケースもあります。また、依存症になるリスクも非常に高いです。
また、覚醒剤を注射する人は、HIVやB型肝炎、C型肝炎といった感染症にかかるリスクが高くなります。これらの感染症は、血液や体液を介して広がります。さらに、メタンフェタミンの使用は判断力や意思決定に影響を及ぼし、それにより無防備な性行為など危険な行動を取ってしまうことで、感染症のリスクが増加します。
3.覚醒剤取締法違反の逮捕の流れ
覚醒剤取締法違反での一般的な捜査・逮捕の流れを紹介します。
- 予試験(簡易検査)
- 逮捕
- 取調べ
- 送検・勾留
- 起訴・裁判
それぞれ見ていきましょう。
3-1.予試験(簡易検査)
覚醒剤の所持や使用の疑いがある場合、警察官はまず予試験(簡易検査)を実施することがあります。この検査では、尿や唾液を使った簡易なテストを行い、覚醒剤の成分の有無を確認します。これにより、覚醒剤使用の可能性が高いと判断された場合、次のステップである逮捕に進む可能性があります。
3-2.逮捕
予試験で陽性反応が出た場合や、客観的な証拠が揃った場合、警察は容疑者を逮捕することができます。
逮捕には、現行犯逮捕と通常逮捕があります。現行犯逮捕は、犯罪が行われた現場で犯人を即座に逮捕する方法で、通常逮捕は、証拠に基づいて警察が逮捕状を取得し、後日逮捕する方法です。逮捕により長期間拘束されると、仕事を失ったり、学校を休学するなど人生に大きな影響が出ることがあります。
逮捕の可能性があるかも、と不安に感じている方は弁護士に相談しましょう。
3-3.取調べ
逮捕後、警察は被疑者に対する取調べを行います。この段階で警察は、覚醒剤の所持や使用に関する詳細を確認し、犯行動機等の供述内容を記録します。取調べは慎重に行われ、被疑者の権利が守られるように進められることとなっています。黙秘権の行使は認められており、弁護士のサポートを受けることも可能です。
弁護士に相談しなかった場合、法的手続や自分の権利についての理解が不十分で、不利な状況に陥る可能性があります。これにより、判決が重くなったり、余計な混乱やストレスが生じることがあります。また、社会的信用の失墜や生活の安定が損なわれるリスクが高まり、長期的な影響を受けることが考えられます。
3-4.送検・勾留
警察による取調べが終了した後、被疑者は検察に送検されます。検察はさらに詳しく事件を調査し、公判で有罪を立証するための証拠を集めます。必要に応じて、裁判所は勾留を認め、容疑者を拘束した状態で更なる捜査が行われます。勾留期間は、原則として最長20日間です。
3-5.起訴・裁判
証拠が十分に揃ったと判断された場合、検察は被疑者を起訴します。起訴されると、被疑者は被告人となり、正式な裁判が行われます。裁判では、検察が提示する証拠に基づいて裁判官が有罪・無罪を判断し、有罪となった場合は刑罰が言い渡されます。裁判の結果に対しては控訴も可能で、最終的な判決が出るまで法廷での手続きが続きます。
覚せい剤取締法に違反した場合でも、場合によっては不起訴になることがあります。不起訴処分には、証拠不十分と判断された場合などが考えられます。
しかし、具体的な判断はケースバイケースで行われ、検察官が個別の事情や証拠を総合的に考慮して決定します。なお、不起訴であっても、その後の経緯によっては再度の立件が行われる可能性もありますので、注意が必要です。
4.覚醒剤取締法違反の裁判例
覚醒剤取締法違反の裁判例を紹介します。
1つ目は、被告人が共謀の上、営利目的で約965.7グラムの覚せい剤を国際スピード郵便物を利用して輸入したとされるものです。捜査に基づき、覚せい剤が氷砂糖に代替されて送付され、被告人はそれを受け取った際に逮捕されました。
被告人は覚せい剤の認識を否認するも、裁判所は被告人が郵便物の内容を認識していたことを示す複数の間接事実から、控訴は棄却され、被告人の有罪を認定しました。
参考:令和元年(う)第173号 覚醒剤取締法違反,関税法違反,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反被告事件|広島高等裁判所
2つ目は、覚醒剤取締法違反の再犯に関する事例です。被告人は覚醒剤0.222gの所持と覚醒剤自己使用の罪で懲役4年の実刑判決を受け、量刑が重すぎると控訴しました。この被告は過去にも覚醒剤関連の罪で9回も懲役刑を受けており、常習性が認められています。
弁護側は、被告の依存症の深刻さや、更生のためには会社勤めをしながら治療を続ける方が効果的だと主張しました。しかし、裁判所は、被告が前刑後も短期間で再犯に及んでおり、量刑は同種事案と比較しても重すぎるものではないと判断し、控訴を棄却しました。
今回の判決は、覚醒剤犯罪に対する厳罰化の姿勢を示すとともに、常習的な使用には特に厳しい量刑が言い渡される傾向を改めて示すものとなりました。
参考:令和4年(う)第1号 覚醒剤取締法違反被告事件|広島高等裁判所
5.覚醒剤取締法違反に関するよくある疑問
ここからは、覚醒剤取締法違反に関するよくある疑問について解説します。
- 逮捕される確率は?
- 覚醒剤取締法違反は親告罪?
- 逮捕された場合は必ず報道される?
- 芋づる式で捜査・逮捕されることはある?
それぞれ見ていきましょう。
5-1.逮捕される確率は?
覚醒剤取締法違反の令和4年の検挙人数は、6,289人です。前年と比較すると、21.1%減少という結果でした。犯罪の動向としては、減少傾向にあることが分かります。
逮捕される確率を具体的な数値で示すことは難しいですが、近年は警察の取締りが強化されており、密売人だけでなく使用者の摘発も増加傾向にあります。一度の過ちで人生を棒に振ってしまう可能性もあることを理解しておく必要があります。
5-2.覚醒剤取締法違反は親告罪?
覚醒剤取締法違反は親告罪ではありません。
親告罪とは、被害者の告訴があって初めて罪に問われる犯罪のことですが、覚醒剤取締法違反は、警察が捜査を行い、検察官が起訴することで裁判になる非親告罪です。つまり、被害者からの告訴がなくても、処罰される可能性があります。
5-3.逮捕された場合は必ず報道される?
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合、必ずしも報道されるわけではありません。
報道されるかどうかは、事件の性質、社会への影響、被疑者の社会的地位など、様々な要素を考慮して判断されます。一般的には、著名人や公務員が逮捕された場合や、事件の規模が大きい場合などは、報道される可能性が高くなります。
しかし、たとえ報道されなくても、逮捕・起訴されれば、家族、職場、近隣住民などに知られる可能性は高く、その後の人生に大きな影響を与えることは避けられません。また、インターネットやSNSの普及により、事件の情報が広がりやすい状況です。
5-4.芋づる式で捜査・逮捕されることはある?
覚醒剤の事件では、芋づる式に捜査が及ぶケースは少なくありません。
密売ルートを解明するために、逮捕者から情報を得て、さらに別の関係者を捜査することがあります。知人が覚醒剤取締法違反で逮捕された場合、後日、自分にも捜査の手が及ぶ可能性もゼロではありません。
特に、過去に一緒に覚醒剤を使用していた、または覚醒剤の入手に関与していた場合は、捜査対象となる可能性が高まります。
6.家族が覚醒剤で逮捕されたときの対応について
家族が覚醒剤で逮捕された場合、家族内では、コミュニケーションを大切にし、問題解決に向けた協力を図ります。罪を認めたあとも問題が継続する場合には、再発防止のためのカウンセリングやリハビリプログラムの利用も検討してください。
本人、家族ともに冷静になり、まずは法律の専門家である弁護士に相談することが重要です。弁護士は家族の権利を守り、適切な法的手続きを進める手助けをしてくれます。家族が逮捕された場合は72時間以内の刑事弁護活動がその後の状況を大きく左右しますので、いち早く弁護士に相談しましょう。
また、家族の一員が覚醒剤取締法違反で逮捕されると、SNS上でのバッシングや日常生活の中での嫌がらせの可能性も否定できません。
事件とは無関係な被疑者本人への人格攻撃や、その家族のプライバシーへの侵害といった悪質な行為については、開示請求や損害賠償請求などの法的手段を検討しつつ、厳正に対応するべきです。弁護士は法律に基づく弁護活動だけでなく、被疑者やその家族への精神的支援やサポートも行うことができます。
7.まとめ
覚醒剤での逮捕は、人生を一変させる深刻な事態です。身柄の拘束や解雇、退学、報道による社会的制裁など、避けられないマイナスの影響が伴います。
逮捕の可能性がある場合は、すぐに弁護士に相談し、自首を検討することで、その後の状況の悪化を軽減できます。
逮捕時や自首前に弁護士へ相談しておくと、外部への連絡、取り調べへの助言、被害者との示談交渉、学校や勤務先への連絡の配慮要請など、弁護士による支援が受けられます。弁護士の専門的な支援がケースの進展を左右するため、逮捕前の相談が重要です。
弁護士は、法的処置後の社会復帰プランを共に考えてくれるので、精神的な安心感や新たな人生計画を築く手助けをしてもらえます。結果的に、人生における新たな希望とチャンスを見いだせるでしょう。お悩みの方はまず一度ご相談ください。