交通事故で裁判をした方がよいケースとは?【被害者向け】裁判の種類や流れ、弁護士に依頼するメリットとは?
【この記事の法律監修】
大西 信幸弁護士(大阪弁護士会)
弁護士法人ラポール綜合法律事務所
「交通事故の被害にあったけど、裁判をした方がいいのだろうか」
「交通事故の裁判にはどのような種類があり、流れはどうなるのだろうか」
「弁護士に依頼すると、どのようなメリットがあるのだろうか」
これらは、交通事故で被害に遭われた方がよく悩まれる問題です。
交通事故の被害者は、交通事故によるケガの治療による苦しみだけでなく、保険会社や相手方との示談交渉等でも、精神的な負担を負います。
本記事では、交通事故の被害に遭われた方のために、裁判をした方がよいケース、裁判の種類や流れ、そして弁護士に依頼するメリットについて詳しく解説します。
1.交通事故における裁判とは?
交通事故の裁判には、刑事裁判と民事裁判の2種類があります。
1-1.刑事裁判
刑事裁判は、検察官が加害者を起訴して始まる手続きで、被害者には起訴する権限はありません。
刑事裁判では、有罪または無罪かを決め、有罪の場合には懲役刑または禁錮刑(執行猶予)、罰金が科せられます。ただし、刑事裁判では被害者への損害賠償について審理されません。
1-2.民事裁判
民事裁判は、交通事故によって生じた損害の賠償を求めるための裁判です。被害者は、治療費や慰謝料などの損害を加害者や保険会社に請求するために民事裁判を起こします。通常の民事裁判は、示談交渉を経た結果、話がまとまらなかった場合等に裁判をするかどうかが検討されます。
交通事故の民事裁判では、通常、被害者が原告、加害者が被告になります。民事裁判では、裁判官が原告と被告の主張を聞き、証拠に基づいて判決を下します。判決により、加害者に対して損害賠償が命じられるケースがあります。
通常、交通事故の民事裁判がすぐに始まるケースは少なく、示談交渉からスタートするケースがほとんどです。示談交渉では、被害者と保険会社(あるいは加害者本人)と賠償額について交渉します。示談交渉しても話がまとまらなければ民事裁判の手続きをすることになります。
2.交通事故で裁判をした方がよいケースとは?
裁判をすると、時間と手間、労力がかかるため、裁判をしない方がいいケースはあります。一方で、交通事故の被害者としては納得できない場合もあるでしょう。ここでは、交通事故で裁判をした方がよいケースを紹介します。
2-1.後遺障害の認定結果や過失割合に不満がある
交通事故において、後遺障害の認定結果や過失割合は賠償額に影響を及ぼします。後遺障害の等級が低く認定されれば、その分、賠償額が減額されるので、被害者にとっては大きな不利益になります。
また、過失割合が不当に高く設定されれば、被害者がもらえる損害賠償額が減少して、示談交渉での合意が困難になるケースもあります。このような場合には裁判を起こした方がいいでしょう。
2-2.賠償額が高額な場合
死亡事故や重度の後遺障害が残る事故などのケースでは、賠償額が高額になります。高額賠償になる場合、加害者側の保険会社は少しでも支払額を減額しようとしてきます。
示談では満足できる賠償がもらえない可能性があり、納得できない被害者は民事裁判を起こさなくてはいけなくなります。民事裁判では、法的根拠に基づいて適正な過失割合や賠償額が決定され、被害者が適切な補償を受けることが可能です。
2-3.損害賠償請求の示談交渉がまとまらず時効が迫っている場合
民法724条1号、724条の2では、交通事故による損害賠償請求の時効について、以下のように定められています。
民法 第724条1号
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
民法 第724条の2
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
引用:e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)
時効の期間
物損 | 事故の翌日から3年 |
怪我の治療費 | 慰謝料:完治または事故の翌日から5年 |
後遺障害慰謝料・逸失利益 | 症状固定日の翌日から5年 |
死亡慰謝料・逸失利益 | 死亡日の翌日から5年 |
通常、事故発生から3年以内に損害賠償の請求を行わなければなりません。示談交渉がまとまらずに長引き、時効期間を過ぎると請求権を喪失してしまうこともあります。
示談交渉がまとまらない場合は、早期に弁護士に依頼し、時効の延長や適切な手続きを進めてもらいましょう。
2-3.加害者が話し合いに応じない
加害者が話し合いに応じない場合、問題が解決できないので、訴訟を提起せざるを得ません。
3.交通事故で裁判をしない方がよいケースは?
交通事故において、裁判をしない方が良いのは以下のケースです。
3-1.損害賠償の金額が低く、過失割合が大きい場合
交通事故において損害賠償の金額が低く、過失割合が大きい場合には、裁判を避ける方が良いでしょう。裁判を起こしても、弁護士費用やその他の費用がかかるだけで、トータルで見ると費用倒れになるケースがあるからです。
もらえる賠償額が低いと、かかる費用の方が大きくなってしまうので裁判は避けるべきです。
3-2.証拠がない場合
裁判で勝訴するには証拠が必要ですが、証拠がない場合は裁判をしない方が良いでしょう。
裁判では、自分の主張を裏付ける証拠が必要となります。証拠がないのに裁判をすると、主張が認められない可能性が高いのです。証拠がない状態で裁判をすると、勝訴する見込みはなく、時間や労力だけかかって終わります。
3-3.相手方に支払い能力がない
相手方に支払い能力がない場合、裁判をするのはおすすめしません。加害者が任意保険に加入していない無保険の場合や、経済的に困窮している場合は、裁判を起こしても損害賠償金をもらうのは難しい可能性が高いのです。
4.交通事故の裁判にかかる費用は
交通事故で裁判をするには、以下の費用がかかります。それぞれ詳しく解説していきます。
4-1.裁判費用
裁判費用は、裁判を起こす際、裁判を起こす側(原告)が負担するのが原則です。裁判費用には次のような費用があります。
収入印紙代・郵便切手代
訴えを提起するためには、裁判所に対して手数料を支払わなくてはなりません。手数料は訴状に収入印紙を貼ることにより支払います。手数料の金額は請求する金額によって変わります。
訴えを提起する際には、裁判所からの郵便物の発送に必要な郵便切手代として一定額を原告が裁判所に納付します。
4-2.弁護士費用
裁判を起こす場合、弁護士に依頼するには弁護士費用がかかります。弁護士費用特約を利用すれば負担を軽減することが可能です。
また、交通事故裁判が和解または判決によって解決した場合、弁護士との契約によっては成功報酬を支払います。成功報酬の額は事前に取り決められます。
5.交通事故を弁護士に依頼するメリット
交通事故の被害にあった被害者が弁護士に依頼することには、以下のメリットがあります。
5-1.相手方の保険会社とのやり取りを一任できる
事故に遭った被害者は、事故が起きてから示談が成立するまで、相手方の保険会社と何度もやり取りをするのが一般的です。やり取りは決して楽なものではなく、大きなストレスとなります。
その原因としては以下のことがあります。
- 仕事や家事、子育てなどで多忙にもかかわらず、日中に保険会社と連絡を取らなくてはいけない。
- 保険会社の担当者の横柄な対応や冷たい態度。
- 担当者が専門用語を多用して示談交渉を進めてくるので、理解できない。
- 担当者の対応が遅く、話し合いが進展しない。
弁護士に依頼すれば、相手方保険会社とのやり取りを一任できます。そうすれば、被害者はけがの治療に専念でき、ストレスからも解放されます。
5-2.慰謝料の増額
交通事故の慰謝料は、3つの異なる基準により算定されます。どの基準を採用するかにより、慰謝料の金額は大きく変わってきます。
3つの基準は以下の通りです。
- 自賠責基準
自賠責保険が設定した基準で、被害者に対して最低限の補償を行います。
- 任意保険基準
加害者の任意保険会社が独自に設定した社内基準です。自賠責基準とほぼ同等か、少し高い金額になることが一般的です。
- 弁護士基準
過去の裁判例を基にした、一番高額で法的に適切な基準です。この基準では、慰謝料の金額が自賠責基準の2〜3倍になるケースもあります。
弁護士基準は誰でも適用できるわけではなく、裁判外の場合、基本的には弁護士に一任した場合のみ適用されます。弁護士に依頼すれば、弁護士基準を採用でき、相手方の保険会社が提示する金額よりも高額な慰謝料をもらえる可能性が高くなるのです。
5-3.弁護士費用を加害者側に請求できる
損害賠償請求の裁判をして勝訴した場合、弁護士費用の一部を加害者側に請求できます。ただし、一部に限られており、全額を請求することはできません。認められる弁護士費用は、請求額の10%程度が上限とされるケースがほとんどです。弁護士費用の全額を加害者に請求しても、支払われる可能性は低いので注意してください。
弁護士費用を加害者に請求するには、訴状にその旨を明記しなくてはなりません。例えば、訴状には総損害額と既に支払われた賠償金を記載し、さらに弁護士費用の項目を設けて請求するという方法があります。
6.弁護士なしで裁判を起こせる?
民事裁判は、弁護士に依頼しなくても裁判を起こせるので、被害者が自分で裁判をすることも可能です。これは本人訴訟と言われています。
弁護士に依頼すると弁護士費用が発生しますが、請求する損害賠償金が60万円以下の少額訴訟の場合、弁護士費用が高くついて赤字になるケースがあるため、本人訴訟をする方が費用倒れにならないことが多いです。ただし、少額訴訟でも、勝訴するためには事前に準備しなくてはなりません。民事裁判では本人訴訟ができますが、裁判手続きを進めるには法律の知識が必要ですし、証拠を収集して、適切に主張しなくてはなりません。
これらのことを被害者が自分で行うのは難しいケースもあります。加害者側が弁護士に依頼していた場合、勝訴するのは難しくなります。自分の主張を認めさせて、満足できる損害賠償金をもらうためには、弁護士に依頼するのがおすすめです。ただし、弁護士費用がいくらかかるか、費用対効果を考える必要があります。弁護士特約が使えれば、弁護士に依頼するべきでしょう。
7.交通事故の裁判の流れは?
交通事故の裁判は、以下の流れで進められます。
- .裁判所へ訴状を提出
被害者(原告)が訴状を作成し、裁判所に提出します。訴状とは、原告の請求内容やその理由について記載した文書です。訴状は裁判所のホームページにある書式をダウンロードできますが、弁護士に依頼して作成してもらうこともできます。
提出する訴状は、被告(加害者)の人数分に加えて裁判所用1通が必要です。たとえば、被告が1名の場合は合計2通が必要になります。裁判所で訴状が受理されると、裁判所が第1回口頭弁論期日を指定し、訴状を被告に送付します。被告は訴状の内容を確認して、訴状の内容に対する反論を書いた答弁書を提出します。
- 口頭弁論および証拠提出
初回の口頭弁論は短時間で終わるケースがほとんどで、被告が出席しないケースもあります。
証拠の例
事故の状況や過失割合に関する資料 交通事故証明書、実況見分調書、ドライブレコーダーの映像など 損害の証明資料 診療報酬明細書、治療費の領収証、診断書、後遺障害診断書など
- 裁判所による和解勧告
裁判が進んでいくと、裁判官が和解案を提示する場合があります。この和解案は、その時点での裁判官の見解に基づくもので、判決で採用されるものではありませんが、早期に解決するために検討する意味があります。
ここで和解が成立した場合と成立しなかった場合の手続きは、以下のようになります。
和解が成立した場合 「和解調書」が作成され、判決と同じ効力を持つ形で裁判が終了します。 和解が不成立の場合 引き続き裁判が行われ、証人尋問や本人尋問に進みます。 - 証人尋問および本人尋問
和解が成立しなかった場合、証人や当事者本人への尋問が行われます。尋問は一問一答形式で行われます。尋問の流れは、以下のとおりです。
(尋問の流れ)
1.主尋問:尋問を申請した側の質問
2.反対尋問:相手側の質問
3.再主尋問:再度、申請側からの質問
4.補充尋問:裁判官からの質問
この段階では、原告・被告本人の出席を要求されます。
- 和解または判決
尋問後にも裁判官から和解案が提示される場合があり、裁判官が提示した和解案に原告・被告の双方が合意した場合には和解が成立し、裁判は終了します。
合意しなかった場合は、最終的に裁判官による判決が下されます。判決前には、原告・被告双方が「最終準備書面」を提出して、ここまでの主張と証拠を整理して、自分の請求が認められるべき正当な理由を裁判官に訴えます。判決が出るまでに1年以上かかることが一般的です。
- 判決に不満がある場合
判決に不満がある場合は、判決書が送達された日の翌日から2週間以内に控訴できます。
8.交通事故の裁判の期間は?
裁判所の統計によると、交通事故の裁判が終了するまでの審理期間は平均12.4ヶ月です。
「裁判は長引く」と思われがちですが、実際には約20%の案件が6ヶ月以内に解決しています。
審理期間の分布
審理期間 | 割合 |
6ヶ月以内 | 16.7% |
6ヶ月超~1年以内 | 39.1% |
1年超~2年以内 | 6.0%~36.7% |
2年超~3年以内 | 6.0% |
3年超~5年以内 | 1.4% |
5年を超える | 0.1% |
参考:「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第9回)」(最高裁判所・令和3年7月30日)
9.まとめ
交通事故の被害者が裁判を検討すべきケースは、相手方との示談交渉が難航している場合や、提示された示談金額が納得できない場合などです。裁判の流れを理解し、適切に進めるためには専門的な知識が欠かせません。
弁護士に依頼すると、弁護士基準での示談金になるため、増額を期待できます。また、保険会社との交渉も弁護士に任せられるため、精神的ストレスから解放され、治療に専念できるでしょう。交通事故に関する不安やお悩みは、ぜひ弁護士にご相談ください。