任意整理の費用が払えない場合どうすればいい?対処法や相談先は?
【この記事の法律監修】
熊本 健人弁護士(大阪弁護士会)
磯野・熊本法律事務所
多額の借金を抱えてどうにもならず、解決策として任意整理を選択する人が増えています。しかし、手元にお金がないため、任意整理の費用が払えないという人も少なくありません。
本記事では、このような場合の対処法や相談先などについて解説します。任意整理を考えている人や、知識として知っておきたい人はぜひ参考にしてください。
任意整理とは
任意整理とは、債権者との交渉を通じて、将来の利息や遅延損害金を軽減し、返済期限を延長することによって、借金の返済を容易にする手続きです。
任意整理の基本的な仕組み
任意整理を理解するために、以下のポイントを詳しく見ていきましょう。
1.任意整理の利点と欠点
任意整理の主な利点は、基本的に元金のみの返済が可能になることです。利息分がなくなるため、返済した分だけ確実に借金が減少します。以下に、任意整理の利点と欠点をまとめました。
- 任意整理の利点
任意整理を行うと、将来の利息がカットされ、督促や取り立てが停止し、元金のみの返済が可能になります。また、過払い金があれば、元金をさらに減少させることも可能です。任意整理することで、毎月の返済額が減少する可能性があるため、借金完済の見通しが立てやすくなります。
- 任意整理の欠点
任意整理すると、ブラックリストに登録され、クレジットカードやローンの利用が制限されます。任意整理の手続き後、約5年間は信用情報に事故情報が残るため、クレジットカードの新規作成や、住宅ローンなどが利用できなくなるという問題があります。
任意整理の仕組み
任意整理がどのように返済を容易にするのか、その具体的な仕組みを見ていきましょう。任意整理を行うことで、基本的に以下の利息や遅延損害金が削減され、元金のみの返済が可能になります。
- 経過利息
最後に借金を返済した日から、任意整理の和解日までに発生した利息です。
- 利息制限法を超える利息
利息制限法で定められた、年利15%〜20%を超える部分の利息です。最近の借り入れには該当しませんが、平成19年以前に利用していた場合には適応される可能性があります。
- 遅延損害金
借金返済が滞った期間に課される損害賠償金です。多くの金融機関や貸金業者では年利20%程度を設定しています。借金の返済が厳しい状況は、利息の存在が大きな要因です。返済期間が延びれば3〜5年(36〜60回)の分割払いで返済する形になります。この延長された期間には利息が発生しないため、余裕をもって返済できるわけです。
債権者が任意整理に応じる理由
債権者は、債務者からできるだけ多くの金額を回収したいと、考えています。しかし、債務者が返済不能になってしまうと、回収できる金額は限られてしまいます。その点、任意整理では将来利息のカットなどの条件を受け入れることで、元金の返済が確実に行われることが保証されます。
つまり、任意整理を受け入れることによって、元金だけは確実に回収できるのです。このような理由から、債権者は任意整理に応じています。
任意整理後の返済方法について
任意整理を実施した後は、通常3〜5年の間に分割返済を行います。任意整理後は、設定された返済計画に基づき、原則として3〜5年間にわたって毎月返済を続けることになります。返済方法には自分で債権者に振込を行うか、弁護士を通じて債権者に送金する2つの方法があります。
自分で任意整理できるのか?
任意整理は、個人が行うことも可能ですが、債権者が交渉に応じる場合に限ります。個人で任意整理を行う際の最大の利点は、弁護士に依頼する費用がかからないことです。しかし、個人で行うことには以下のようなデメリットがあります。
自分で任意整理を行うデメリット
- 債権者からの督促が続く
自分で任意整理を行う場合、債権者からの督促は基本的に止まりません。そのため、督促を受けながら交渉や手続きを進めることになります。
- 負債額の確定が自分の責任
任意整理を行うには、まず各債権者から取引履歴を取り寄せ、「引き直し計算」を行って、現在の負債額を正確に把握する必要があります。この引き直し計算はかなり複雑で、慣れていないと間違える可能性があります。
- 過払い金を見落とすリスク
借り入れが長期間に及ぶと、引き直し計算を行うことによって、過払い金が発生することがあります。過払い金があれば、その分だけ借金が減額されますが、計算を誤ると見落としてしまう可能性があります。ちなみに、債権者が過払い金があることを知ると、「ゼロ和解」(お互いに債務がないとする和解)を提案してくることがあります。
この場合、不利な条件で和解しないよう、注意しなければなりません。業者との交渉を進める中で、「取引の分断があるため過払い金は時効で消滅しており、借金が残っている」などという、個人の主張とは異なる意見が提示されることがあります。弁護士であれば、業者の反論を事前に予測し、有効な反論を準備することができます。
しかし、個人が業者と交渉を行うと、適切な反論ができずに、不利な条件で和解してしまうことがあるので注意が必要です。このように、貸金業者との交渉は、個人では相手にされなかったり、不利な条件で合意してしまうリスクがあります。任意整理は債権者との直接交渉であるため、「交渉力」が非常に重要です。
個人で任意整理を行う場合は、最終的な合意内容が本当に最善のものであるか、業者に有利な条件に誘導されていないかを、慎重に判断する必要があります。もちろん、個人にそのような知識や判断力があるはずはないので、任意整理を円滑に進めるには、弁護士に依頼するのが最善の選択です。
任意整理は費用が払えなくても手続きできるのか?
任意整理の費用が払えなくても、弁護士に依頼することは可能です。
着手金不要の事務所に依頼する
着手金が不要な事務所に依頼すれば、手元に資金がなくても手続きを進めることができます。また、報酬を分割払いできる事務所を選ぶことによって、返済を一時的にストップしている間に費用を工面することが可能です。任意整理を希望する人は、経済的に厳しい状況にあることが多いため、着手金が不要な事務所が急増しています。
そのため、手続きを依頼する時点では、資金を準備する必要がないケースがほとんどです。さらに、費用の分割払いが可能な事務所も多くなっています。分割払いの金額は、相談時に専門家が家計の収支を考慮して、「無理のない範囲で設定する」のが一般的です。それでもなお費用が支払えない場合は、「何らかの問題がある」可能性があります。
たとえば、高額な事務所に依頼してしまったり、無理な金額設定をされてしまったり、あるいは任意整理では解決できず、自己破産が最適な選択である場合などが考えられます。
実際にどんな費用がかかる?
任意整理の手続きでは、減額を希望する借金を選ぶことができるため、1社あたりの費用は約3万円からスタートし、減額報酬はおよそ10%程度となります。この手続きは、弁護士が代理人として、裁判所を介さずに債権者と直接交渉を行うため、裁判所にかかる費用は発生しません。
費用の内訳は、主に弁護士の報酬に関連しており、債権者の数によって変動しますが、他の債務整理手続きと比較すると、比較的低コストで行えます。
費用内訳:
着手金:2万~5万円(1社につき)
報酬金:2万~5万円(1社につき)
減額報酬:減額した分の10%程度
相談料:1時間あたり1万円程度
過払金報酬金:交渉の場合は回収額の20%以下、裁判の場合は回収額の25%以下
送金代行手数料:借入先1社につき月額千円程度
実費:交通費や宿泊費など、案件処理のため実際にかかった経費
このように、任意整理にかかる費用は明確に設定されているので、事前に把握しておくことが大切です。
任意整理後の返済ができない場合どうしたらいいのか?
任意整理後に月々の返済が厳しくなったら、どうすればいいのでしょうか。
任意整理後の返済ができない場合の影響
任意整理を行うには、債権者と交渉して返済条件を決定する必要があります。通常、利息や遅延損害金が減免され、元本の長期分割払いが基本となります。また、支払い遅延に対するペナルティが、明記されるのが通常です。
もし支払いが遅れた場合は、残りの債務が一括請求され、完済までの間に損害金を支払う必要が生じます。このように、返済が遅れると期限の利益を喪失し、これまでのように期限まで支払わなくてもよいという特権が失われ、一括で支払うよう迫られます。
- 初回の延滞の場合
任意整理後に、今月だけ支払いができないということもあるでしょう。理想的には遅延や滞納は避けるべきですが、和解書には「2回以上の遅延で期限の利益を喪失し、一括請求される」と記載されるケースが多いため、1カ月だけの遅延であれば特にペナルティはありません。
しかし、ペナルティがないからといって、放置しておくわけにはいかないのは当然のことです。では、どのように対処すればいいのか、以下に解説します。
対処法①:翌月には必ず支払う
重要なのは、今月の支払いが遅れた場合でも、翌月には必ず支払うことです。前述の通り、2ヶ月以上の滞納があると期限の利益が失われると、和解書に書かれています。つまり、1ヶ月の遅れでは特にペナルティはないものの、2カ月遅れると一括請求という厳しいペナルティが発生します。
従って、2ヶ月連続での滞納は、何としても避けなければなりません。また、和解書の内容によっては、一括請求が発生した場合、完済までに年利で損害金が加算されることもあります。せっかく減免された利息が再び加算されることになるため、2ヶ月目は必ず支払うようにしましょう。
対処法②:滞納することを速やかに連絡する
1ヶ月の滞納にはペナルティがないとはいえ、滞納を容認するわけではありません。支払い期日を過ぎると、債権者は不安を感じるに違いありません。そこで、遅れることが分かった時点で、必ず連絡を入れることが大切です。
- 【延滞2回目】任意整理後の支払いを2ヶ月延滞した場合
任意整理後に支払いを2ヶ月間延滞すると、深刻なペナルティが発生します。この2ヶ月の延滞により、和解書に記載された内容に基づき、一括請求が求められます。また、和解書の内容は一律ではなく、場合によっては1回の延滞でも、一括請求が適用されることがあるので注意しましょう。
和解書の内容は、債権者との交渉によって決まるため、事前にしっかり確認しておくことが大切です。
対処法①:債権者に相談する
支払いが難しい場合は、誠意を持って対応することが重要です。そこで、まずは債権者に相談することをお勧めします。いつまでに支払いが可能かを明確に伝えられるなら、相談するのも良い方法です。債権者も、一括請求をしても支払えないことは理解しています。
そこで、「いつなら支払えるので、少し待っていただけませんか」とお願いすることになります。ただし、自分で支払えると言ったにもかかわらず遅れてしまうと、今後の信用を失うので注意が必要です。
対処法②:自己破産や個人再生の選択肢を検討する
任意整理を行った後でも、支払いが難しい状況が続くようであれば、再度債務整理を考え直す必要があります。任意整理だけでは問題が解決しないこともあるため、個人再生や自己破産などの債務整理の方法も、検討してみましょう。
個人再生は、裁判所に申し立てを行い、借金の元金を原則として5分の1に減額し、長期にわたる分割払いを可能にする手続きです。まず最初に再生計画案を提出し、裁判所が返済可能かどうかを審査します。返済が可能と認められた場合にのみ、個人再生における再生計画が認可されます。
自己破産は、支払い能力がないことが裁判所に認められた場合に、現在の借金が免責され、返済義務がなくなる手続きです。ただし、借金は消えますが、自由財産以外の資産はすべて処分され、債権者に分配されることになります。
ちなみに自由財産とは、自己破産後も所有することが認められている財産のことです。具体的には99万円以下の現金、破産後に取得した財産、法律で差し押さえが禁止されている財産などを指します。
任意整理後に支払いを放置するのは避けるべき
依頼者が不誠実な態度を続けると、弁護士が辞任する可能性があります。弁護士からの連絡に応じない、必要な書類を準備しない、面談の約束を守らないといった行動が見られると、責任を果たせない依頼者と見なされることがあるので注意しましょう。
今後も返済が難しい場合の対策
返済が困難な状況は今だけでなく、将来的にも続く可能性があります。将来にわたって返済が難しい場合は、別の対策を考える必要があります。返済が困難な状態が続く場合は、以下のような対策が有効です。
- 再和解(任意整理)
前述しましたように、2回以上の滞納があると期限の利益を失い、一括返済を求められる可能性があります。しかし、一括で返済できる人は少ないのが現実です。再度任意整理を行うことで、新たな返済計画を立てることが可能となります。ただし、再和解が成立するかどうかは、債権者との話し合いの結果で決まります。
- 個人再生
個人再生は、裁判所に申し立てを行う手続きです。この手続きにより、現在の借金を原則として5分の1、最大で10分の1まで減額することができ、元金は36回から60回の期間で分割返済することになります。個人再生を行うためには裁判所の承認が必要で、再生計画案を提出し、その内容に基づいて返済を進めることになります。
- 自己破産
自己破産は、裁判所に申し立てを行い、返済能力がないことを証明して、借金の返済義務を免除してもらう手続きです。自己破産を行う際には、自由財産を除く所有財産を処分する必要があります。この手続きは非常に効果的ですが、認められるためには厳しい条件が課せられます。
また、自己破産を行ったからといって借金が完全になくなるわけではなく、返済義務が免除されるだけの手続きであることを、理解しておく必要があります。保証人がいる場合は、保証人に対して請求が行われるので注意しましょう。
弁護士に依頼する方法や一連の流れは?
弁護士に任意整理を依頼する場合は、インターネットを利用して弁護士を探すのが一般的です。弁護士事務所のWebサイトを見て、自分に合う弁護士を選ぶことをお勧めします。弁護士との相談は10分から可能なので、自分の状況を簡潔に箇条書きにまとめて相談してみましょう。弁護士に相談した後、依頼することが決まれば任意整理の手続きに入ります。その後の大まかな流れは以下の通りです。
弁護士に相談・依頼する(目安期間:面談日当日~3日)
まず、弁護士との面談予約を取りましょう。通常は即日から3営業日以内に予約が可能です。面談時には、弁護士が以下の内容を確認します。
- 借金の相手や金額
- 滞納の有無
- 収入や家計の状況
- 家族構成
- 経済的援助者の有無
これらの情報をもとに、任意整理が可能かどうかを判断します。もし任意整理が難しい場合は、自己破産や個人再生など、適切な債務整理の方法を提案してくれます。
弁護士から債権者に受任通知を送付(目安期間:依頼日当日~3日)
依頼を受けた後、弁護士は債権者に受任通知を送付します。この通知は、弁護士が代理人として就任したことを知らせる文書です。
- 受任通知の効果
受任通知には、以下のような効果があります。
- 債権者からの連絡や請求を停止する
- 本人から債権者への返済を停止する
これにより、本人の精神的および経済的な負担が大幅に軽減されます。
各債権者からの取引履歴の受領(期間目安:数週間~1ヶ月)
取引履歴の開示は、通常数週間から1ヶ月程度かかりますが、場合によっては2~3ヶ月以上かかることもあります。
利息制限法に基づく引き直し計算と返済案の検討(期間目安:2週間~1カ月)
債権者から取引履歴の開示を受けた後、利息制限法に基づいて引き直し計算を行います。この計算は通常1~2週間程度で完了しますが、債権者の数が多かったり、取引期間が長い場合は、さらに時間がかかることがあります。
返済プランの検討
債務の金額が引き直し計算によって確定した後、返済プランを検討します。まず、本人の毎月の返済可能額を確認し、分割回数や月々の返済額を決定します。振込手数料も考慮する必要があるため、これを含めた返済可能額の範囲内でプランを立てます。ちなみに、返済回数は36回(3年分割)から60回(5年分割)となるのが通常です。
一部の債権者に過払金が発生し、その過払金を利用して他社の借金を一括返済できる場合は、一括払いの返済プランを提示することもあります。この場合、利息制限法に基づいて引き直した確定元本額から、さらに減額した金額での返済案を提示し、交渉を行うことがあります。
過払いがあった場合の過払金返還請求
引き直し計算の結果、過払いが確認された場合は、交渉または訴訟を通じて過払金の返還請求を行います。返済プランが確定したら債権者に提案し、和解交渉を開始します。この交渉には通常2~3カ月かかります。和解が成立すると、合意書を作成します。
返済開始と完済(期間目安:3~5年)
合意書が締結されると、その内容に従って返済が開始されます。弁護士によっては、複数の債権者がいる場合、返済計画を一覧表にして提供してくれることもあります。分割返済の返済期間は通常3~5年です。合意書には、2回以上の延滞が発生した場合に、残債務を一括返済することを定めた懈怠約款が含まれています。
毎月の返済は期日を厳守し、遅れがないようにしましょう。なお、病気や失業などで、一時的に収入が減少し返済が遅れる場合は、事前に債権者や弁護士に相談することが大切です。
まとめ
任意整理は借金苦から抜け出し、人生を再スタートするための有効な方法です。借金問題を解決するためには、任意整理について理解し、弁護士の協力を得ながら進めることが大切です。任意整理によって借金を返済できれば、明るい未来が開けます。任意整理をミスなく進め、借金を完済するには、弁護士に依頼するのが一番の近道です。