法律相談記事のカテゴリー

男女問題
債務整理
労働問題
トラブル
ニュース
犯罪・刑事事件
労働問題

未払い賃金とは?【労働者側・企業側】~対策と解決法について説明~

【この記事の法律監修】  
稲生 貴子弁護士(大阪弁護士会) 
瀧井総合法律事務所

萩原 貴彦弁護士(東京弁護士会)
萩原法律事務所

「未払い賃金が発生した時の対応方法を知りたい」「未払い賃金トラブルを解決するには何に注意したらいいの?」賃金の未払いは労働者にとって深刻な問題であり、発生すれば大きな紛争に発展することもあります。未払い賃金に関する制度を把握しておかなければ、大きく損をする事態にもなりかねません。

本記事では、未払い賃金に関する法制度や発生時の手続きについて、労働者と企業が知っておくべき内容を詳しく解説しています。

この記事を読むことで、労働者側として未払い賃金を請求する方は、どのように請求を進めるのか、何に注意をして手続きをすればいいのかを、未払い賃金に関わるあらゆる法制度とともに詳しく理解できます。

企業側として未払い賃金の対応をする方は、労働者からの請求への適切な対応方法や賃金の未払いを発生させないための予防策を、裁判例を交えながら知ることができます。

記事をご覧になった方は
こちらもご確認ください!

緊急の法律に関する
お悩みはこちら

いざって時のために
手のひらに弁護士を!

1.未払い賃金とは

1-1.未払い賃金の対象となる賃金

未払い賃金とは、労働契約や就業規則で決められた賃金のうち、所定の支払日に支払われないものを指します。

未払い賃金の対象となる賃金は以下のとおりです。

  • 定期賃金(給料)
  • 退職金
  • 一時金(賞与・ボーナス)
  • 休業手当
  • 割増賃金(残業代など)
  • 年次有給休暇の賃金
  • その他、労働基準法第11条に定める賃金に当たるもの

労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものが賃金に該当します。そのため、賃金以外の名目で支払われているものも、労働基準法上では「賃金」に含まれます。

1-2.賃金の未払いは労働基準法違反

未払いの賃金を発生させることは、労働基準法(労働基準法第11条、第24条)に違反する行為にあたります。

これは次のような労働基準法の原則に反するからです。

労働基準法 第二十四条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
参照:e-Gov法令検索 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

つまり、企業の都合だけで支給額を減らしたり支給を遅らせたりすることはできません。労基法違反になれば、企業側に罰則規定が適用されます。

1-3.未払い賃金に対する労働者の請求権

未払いの賃金に対して、労働者は支払いを求める請求権を有します。

これは、労働者には労働に対して報酬を受け取る権利があり、所定の労働が終わったならば報酬を請求する権利を得るからです。

労働基準法上が指す「労働者」は、雇用形態を問いません。つまり、正社員でなくとも、パート・アルバイトや契約社員などでも賃金の支払いを請求できます。

2.未払い賃金の請求と紛争手続きの流れ

未払い賃金の請求があった際に、起こり得る手続きの流れを解説します。

2-1.労働者が企業に未払い請求をする

賃金の未払いが発生したら、まず労働者は直接企業に支払いを請求します。

2-1-1.【労働者側】請求の方法と準備すべきもの

労働者が行う賃金請求の流れは以下のとおりです。

  1. 労働をした事実に関する証拠の収集
  2. 未払い賃金額の計算
  3. 会社との交渉
  4. 内容証明郵便を送達

労働をした事実に関する証拠となるものには、以下のようなものがあります。

  • 勤怠管理システム・タイムカードの記録
  • 会社のシステムのアクセスした記録
  • オフィスの入退館記録
  • 業務日報

労働時間に関する情報の整理が終わったら、収集した証拠をもとに未払賃金額を計算します。割増賃金が適用される計算の場合は複雑になるので注意が必要です。

そして、請求する賃金額を算出したら、企業に連絡して支払い交渉に進みます。

直接の話し合いでは支払いに応じてくれない場合、以下のような利点を考慮し、内容証明郵便を使って請求書を送ることを推奨します。

  • 未払賃金の請求を行った事実を証拠化できる
  • 法的手段に出るという意思を示し、圧力をかけられる

労働者が企業に賃金請求をする場合、個別ではなく労働組合で対応するなど、労働者でまとまって行動するのも有効な方法です。

2-1-2.【企業側】請求された際の対応方法

労働者に未払い賃金の請求をされた場合、企業は速やかに以下の対応を行います。

  1. 請求内容の精査
  2. 反論の検討

まずは労働者側の主張や現状の労働時間データ等の情報を整理することが重要です。請求内容と周辺情報を精査することで、反論や証拠の準備につながります。

そして、情報を精査した上で、反論の余地がないかを検討しましょう。

請求額の計算方法が間違っている場合や支払い義務がない残業代等が含まれている場合があり、請求額を減らせる可能性があります。

請求に対して誠実に迅速な支払い対応をすることは重要ですが、余分な出費を発生させないように請求内容の精査は欠かせません。

2-2.労働基準監督署に労基違反を申告する

企業と直接交渉をしても支払いをしてくれない場合、労働者の対応として、労働基準監督署に労基違反を申告することが有効です。

労基署に申告すれば、未払い賃金に関する調査をし、企業に対して行政指導による是正を図ってくれます。

証拠となる資料を用意し、事業所の所在地を管轄する労基署の相談窓口に申告しましょう。

ただし、労基署による行政指導や勧告には法的拘束力が無いことに注意が必要です。企業が行政指導や勧告に従わなければ、法的手段を検討しなければなりません。

2-3.仮差押を実行する

ここまでの対応で企業が支払いに応じてくれない場合は、法的手段(民事調停、労働審判、裁判等)に進みます。

なお法的手段を行うとしても紛争をしている間に企業が預金を使い果たしたり隠したりすると、労働者は対抗のしようがありません。

裁判等で勝訴して強制執行ができるようになっても、差し押さえる財産が無ければ請求額の回収が難しくなってしまいます。
そこで、法的手段を行う前に、企業の財産に対して仮差押手続きを行うことが効果的な場合もあるため、仮差押を先行して行うか検討してみましょう。

2-4.民事調停を利用する

裁判以外の法的手続きの有効な手段として、民事調停があげられます。

民事調停とは、簡易裁判所において、裁判官(調停主任)と2人以上の調停委員からなる調停委員会が、非公開の話し合いにより円満解決を図る手続きです。

民事調停には次のようなメリットがあります。

  • 手続きが簡単
  • 費用が低額
  • 秘密が守られる
  • 円満かつ迅速な解決を図れる

ただし、相手方の出席は任意であり、欠席しても法的不利益は生じません。そのため企業側が話し合いへの出席に同意してくれる状況ならば、利点が大きい選択肢ですが、企業側の不参加が明らかな場合には、他の方法を選択した方がよいでしょう。

調停が成立しなければ訴訟手続きに進むことになります。

2-5.裁判手続きを進める

裁判所でできる手続きには、通常の民事訴訟の他にも、未払い賃金発生時に利用できる民事手続がいくつかあります。

各手続きの特徴を把握した上で、状況に応じた選択をすることが重要です。

2-5-1.支払督促

支払督促とは、申立人の金銭請求に基づき、裁判所から督促状を送ってもらえる手続きです。

支払督促申立書を簡易裁判所に提出するだけという簡単な手続きで、迅速かつ安価に解決を図れることが利点です。

企業側が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議申立てをしなければ、労働者側は強制執行の申立をする権利を得られます。

異議申立てがあった場合は、通常の訴訟に移行します。

2-5-2.少額訴訟

少額訴訟とは、1回の審理だけで紛争解決を図る手続きです。

60万円以下の金銭の支払いを求める訴えであれば利用できるため、未払い賃金の請求額が少額の場合は利用を検討してみましょう。

迅速な解決を図れる上に、強制執行も少額訴訟をした簡易裁判所と同じ裁判所でできるため、便利な制度といえます。

ただし、短期間の審理で効果的な主張をするために、未払い賃金の証明をするための証拠は十分に準備する必要があります。また相手方が異議を申し立てた場合は、支払督促の場合と同じく通常の訴訟に移行します。

2-5-3.労働審判

労働審判とは、裁判官(調停主任)と労働関係の専門家である労働審判員2名が、原則3回以内の期日で審理し、事案の実情に即した柔軟な解決を図る手続きです。

労働関係の専門家が関与することが大きな利点です。

労働審判では、話し合いによる解決を試み、まとまらない場合は、審理の結果認められた当事者間の権利関係と手続きの経過を踏まえ、判断を下します。

そのため、事案に応じて柔軟に結論が導かれる点が魅力です。

労働審判に不服がある場合は異議申立てができます。異議申立てがなされた場合は、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行します。

2-5-4.通常訴訟

通常訴訟で未払い賃金請求権の立証ができれば、裁判所が企業に対して未払い賃金の支払いを命じる判決を出します。

判決が確定すれば、強制執行を申し立てて財産を差し押さえ、未払い額の回収を図ることが可能です。

敗訴した側にとっては逃げ道がなく、強力な手段といえます。

民事訴訟にかかる期間は約1年ほどと長く、費用面や労力面で負担が大きい点がデメリットでしょう。

また、訴訟では未払賃金の支払いに加えて「付加金」の支払いが命じられる場合があります。付加金とは企業へのペナルティで、企業の態様が悪質な場合等に裁判所の裁量により課せられます(労働基準法第114条 )。
付加金の支払いが命じられた場合は、企業は実質的に未払賃金の2倍の金員を支払うこととなり、経済的負担が大きくなります。

3.未払い賃金請求権には時効がある

未払い賃金の請求権には時効があることに注意しなければなりません。

賃金請求権の時効制度について解説します。

3-1.賃金請求権の時効期間

賃金請求権に関しては、労働基準法第115条に定められています。

労働基準法 第百十五条
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間・・・においては、時効によつて消滅する。
引用:e-Gov法令検索 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

時効がスタートするのは、賃金請求権を行使することができる時、つまり賃金の支払い期日(給料日)の翌日です。

時効期間は、条文では5年と示されていますが、改正の都合で2024年現在は3年と定められています。

時効の制度があるということは、未払い賃金の請求はいつでもできるわけではないということです。「退職後にまとめて請求しよう」と考えていたら、ほとんどの額を回収できない事態になりかねません。

未払い賃金の請求は、早めに行動を起こすことが重要です。

3-2.時効規定の改正と影響

労働基準法の時効規定は2020年4月に改正が行われ、元々は2年だった時効期間が5年(当分の間は3年(労働基準法附則第143条3項))に延長されました(労働基準法第115条)。。

時効期間が延びたことで、未払い賃金を請求できる期限に余裕が生まれるため、労働者側としては単純に利点が大きいといえます。

一方で企業側としては、時効期間が延長されたことで労働者からの未払い分の請求額が上がるというリスクが増えました。

未払い額を認識しているならともかく、賃金の未払いが意図せず発生していることもあるため、注意しなければなりません。

思いがけない巨額の請求をされる可能性もあるため、労働時間や賃金支払いの管理の重要性を高める必要性があるといえます。

3-3.時効は中断・延長できる

賃金請求権の時効は、一度時効期間がスタートしたものであっても、時効完成を阻止する方法があります。

以下のような行動があれば、時効を延長(時効の完成猶予)することが可能です。

  • 内容証明郵便による未払い賃金の請求(6ヶ月の延長)(民法150条1項)
  • 協議を行う旨の合意(1年の延長)(民法151条1項)

また、以下のような事由が生じれば、時効が中断・リセット(時効の更新)されます。

  • 企業が未払い賃金請求権の存在を認める
  • 訴訟提起・労働審判の申立て

時効期限が迫っている場合、労働者はまず時効を延長できるように動き、延長された期間を活かして時効のリセットを目指します。

企業としては、時効期間が延びて支払い日が遅くなるほど、遅延損害金や利息の額が膨れ上がるリスクを把握しておかなければなりません。

時効の完成を期待して支払いを遅らせるとかえってリスクが増えるため、支払いは早めに進めることを推奨します。

4.未払い賃金請求における和解の進め方と注意点

未払い賃金請求は和解によって解決することもあります。

ここでは、和解の進め方や注意点、和解金の取り扱いについて解説します。

4-1.和解書の作成と注意点

和解は、双方が当初の主張から譲歩し、話し合いで合意した内容で紛争を終結させる手段です。

請求する未払い賃金額や遅延損害金、話し合いの過程は事案によってさまざまであるため、未払い賃金請求における和解金に相場はありません。

話し合いがまとまれば、合意内容を明確に示すために和解書を作成します。

和解書は記述が曖昧であれば後にトラブルを生みかねないため、記載内容を明確にすることが重要です。

また、和解書を作成する際はどちらか一方に作成を任せてはいけません。和解の内容を後から覆すことはできないため、双方がしっかりと内容を確認しながら作成する必要があります。

和解書の作成は、弁護士などの専門家に依頼をした方が、自身の主張をより確実に反映した、安心できる内容になるでしょう。

4-2.和解金の税務上の取り扱い

未払い賃金請求における和解金は、基本的に賃金の代わりとして支払われるため、税務上は「給与所得」として取り扱われます。

したがって、名目上は和解金であったとしても、実質的には賃金であるため、企業側には源泉徴収義務が発生します。

そのため、和解の後に源泉徴収分を納税することを踏まえて、和解交渉を進めなければなりません。

また、労働者側にとっても和解金は実質的に労働の対価である賃金であるため、所得税の対象です。

ただし、和解金として支払われたなら「一時所得(賞与などと同様)」として処理され、当期の給与所得として扱われるため、過去の所得税や住民税について修正する必要はありません。

5.未払い賃金と税金や社会保険との関係

未払い賃金は過去の労働の対価であるため、後からまとめて支払われた場合でも所得税や社会保険料の課税対象になります。

税務上は、未払い賃金が支払われた時ではなく、本来支払われるはずであった日の所得として処理しなければなりません。

つまり、過去に支払った税金は実際より少なく申告していたことになるため、これを修正する必要があります。

退職後に未払い賃金を受け取る場合は退職金として処理したくなるかもしれません。しかし、退職金は給与所得より税率が優遇されているため、過去の賃金を退職金として処理すると本来納付すべき税率より低い税率で計算することになります。

脱税と扱われる危険もあるため、過去の賃金分は必ず給与所得として処理するようにしましょう。

なお、退職金が未払いになっていて後に支払われた場合は、「退職所得」として扱われ課税対象となります。

6.会社が倒産したら未払い賃金はどうなる?

未払いの賃金があるにも関わらず会社が倒産してしまった場合、労働者と企業がそれぞれどのような対応をすべきかを解説します。

6-1.労働者は未払い賃金立替払制度が使える

会社が倒産した場合、労働者は未払い賃金の立替払制度を救済措置として活用することがおすすめです。

立替払制度の概要を解説します。

6-1-1.未払い賃金立替払制度とは

未払い賃金立替払制度とは、賃金確保法第7条に基づく、企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払い賃金の一部を国が立替払いする制度です。

参考:賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五十一年法律第三十四号)

倒産をした企業がすぐに未払い賃金を支払ってくれる可能性は低いため、未払い賃金が残っている状態で企業が倒産した場合、労働者は立替払制度の利用を迅速に検討しましょう。

6-1-2.立替払制度の対象者

倒産にはさまざまな形がありますが、立替払制度の対象となる倒産は以下の2つに類型されます。

  1. 法律上の倒産:労災保険の適用事業で1年以上事業活動を行なった事業主が、法律上の手続きをとって倒産したケース。
  2. 事実上の倒産(中小企業のみ):事業活動を停止していて再開する見込みがなく、賃金支払能力がなくなったことを労基署長が認定するケース

この類型に当てはまる倒産をした企業の中で、対象となる労働者は次のような者です。

  1. 企業の倒産に伴い退職した者で、2万円以上の未払い賃金が残っている者
  2. 退職日が倒産の日の6ヶ月前から2年の間であること

また、倒産日の翌日から2年以内に立替払請求をしなければ制度を利用できないことに注意しなければなりません。

6-1-3.対象となる未払い賃金

対象となる賃金は、退職日の6ヶ月前以降に支払期日が到来している未払い賃金です。請求できるのは半年前までの賃金であることに注意しましょう。

また、請求が認められるのは定期給与と退職金のみです。賞与等は含まれないため、この点も把握しておきましょう。

立替払される額は、未払い賃金の総額の80%相当であり、退職日における年齢に応じて上限額が決められています。

退職日における年齢 未払い賃金の上限額 立替払の上限額
45歳以上 370万円 296万円
30歳以上 220万円 176万円
30歳未満 110万円 88万円

6-1-4.請求手続き方法

請求手続きは、倒産の類型によって異なります。

法律上の倒産の場合、裁判所や破産管財人などの証明者に立替払請求の必要事項についての証明を申請します。証明書が交付されたら、労働者健康安全機構に立替払請求書を提出するという流れです。

一方で事実上の倒産の場合、まずは労基署長に事実上の倒産について認定を申請しなければなりません。認定通知書が交付されたら、労基署長に立替払請求の必要事項について確認を申請し、認定確認書が交付されたら労働者健康安全機構に立替払請求書を提出します。

請求書を提出したら、労働者名簿や賃金台帳などの資料を元に審査が行われます。

支払いが決定すれば、支払通知が届き、指定した口座に立替払金が振り込まれるという流れです。振り込みまでの期間は、請求書の提出から30日以内が目安とされています。

6-2.企業の対応

倒産をした企業が進める手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 弁護士に相談しながら書類の準備
  2. 債権者に破産通知
  3. 従業員を解雇
  4. 裁判所に破産申立
  5. 破産手続開始の決定(破産管財人の選任)
  6. 資産の換価
  7. 債権者集会の開催
  8. 債権者への配当

未払い賃金の支払いは、他の債権者への支払いよりも優先的に進められます。

破産管財人が選任されたら、債権者に債務を返済するために資産の売却や回収を進め、換価した資金で税金や社会保険料、未払い賃金などを支払います。

企業としての未払い賃金の処理手続きは基本的に破産管財人に任せることになりますが、労働者に対する解雇前の通知や説明は誠実に行うようにしましょう。

7.過去の裁判例を確認

未払い賃金を争った過去の事例にはどのようなものがあるかを確認するため、裁判例をひとつ取り上げます。

実際にどのようなことが紛争につながるのかを確認し、学ぶべき点を解説します。

7-1.高知県観光事件

高知県観光事件を紹介します。タクシー運転手の歩合給には、時間外及び深夜の労働に対する割増賃金は含まれないと判断しました。

タクシー運転手に対する賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じて支払われている場合に、時間外及び深夜の労働を行った場合にもその額が増額されることがなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないときは、右歩合給の支給によって労働基準法(平成五年法律第七九号による改正前のもの)三七条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることはできない。
引用:タクシー運転手に対する月間水揚高の一定率を支給する歩合給が時間外及び深夜の労働に対する割増賃金を含むものとはいえないとされた事例|高松高等裁判所 裁判例結果詳細

7-2.裁判例からわかること

この裁判例では、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金相当部分が明確に区別されていなければ、割増賃金を支払ったといえないことを示しています。

事例の内容を未払い賃金対策に応用すると、あらかじめ労働条件や賃金制度について企業内で明確にしておく重要性がわかります。

未払い賃金の発生と紛争トラブルを予防するためには、労働条件の整備や労使間の話し合いが欠かせません。

8.未払い賃金の発生を防ぐ対策

賃金の未払いは故意でなくとも起こり得るものです。

意図していない未払い賃金の発生を防ぐために講じるべき対策について解説します。

8-1.労働条件を確認する

未払い賃金の発生を予防するために、まずは企業内における労働条件を確認し、ルールの明確化を図りましょう。

企業と労働者の間で労働時間に関する認識に相違があれば、賃金未払いのトラブルにつながってしまいます。

たとえば、始業と終業はパソコンの電源をオン/オフしたタイミングと決めておくと、残業時間の認識で揉めるリスクは減るでしょう。ただし、独自ルールを自由に決められるわけではなく、法的な根拠に基づく判断は必要です。

労使でしっかりと話し合い、定めたルールは必ず全労働者に周知することで、労働条件に関する認識の統一を図りましょう。

8-2.労働時間の管理方法を見直す

労働時間の管理が適切に行われていなければ、賃金支払いの手続時に抜けや漏れが発生し、賃金未払いにつながります。また、労働時間の管理が徹底されていなければ、労働時間をめぐる紛争に発展しかねません。

タイムカードの打刻や残業申請書等の書類の保管など、客観的な証拠となる情報を正確に記録するように、企業・労働者双方が心がけましょう。

労働時間の管理方法については厚生労働省からガイドラインが示されています。参考にしながら、自社の労働時間管理方法を見直すことをおすすめいたします。

9.未払い賃金発生時は弁護士に相談すべき理由

未払い賃金発生時に弁護士へ相談するメリットを、労働者側と企業側に分けて解説します。

9-1.労働者

未払い賃金発生時に労働者が弁護士に相談すると、次のようなメリットがあります。

  • 請求額の計算や書類の準備を一任できる
  • 証拠の開示請求ができる

未払い賃金を請求する際は、賃金計算だけでなく遅延損害金や利息なども含めて請求金額を算定するため、知識と経験がなければ正確な計算をすることは難しいです。

さらに、労基署への申告や法的手続きをする場合は、証拠書類の準備や企業側との交渉を進めなければなりません。

弁護士に請求手続きを一任すれば、正確かつ迅速な問題解決を期待できます。

また、未払い賃金請求に必要な証拠は会社が管理していることが多く、発行を申し出ても取り合ってもらえないことがあります。

そのような場合でも、弁護士に手続きを任せることで、裁判所をとした証拠保全や文書提出命令などの強制的な開示手続きが可能です。

賃金請求の手続きを全て自力で進めようとすると多大な労力と時間がかかるため、専門家である弁護士にサポートを求めることをおすすめします。

9-2.企業

企業が未払い賃金に関して弁護士に相談をするメリットは、労働者からの請求対応を任せられることはもちろん、リスク管理や体制づくりへのアドバイスを受けられる点にあります。

未払い賃金発生によるリスクを減らすためには、効果的な予防策を講じ、そもそも賃金の未払いを発生させないことが重要です。

また、適切な対策の構築や労働者の主張に対するリスク把握をするためには、法制度への理解が欠かせません。法改正等が行われた際は、迅速な対応を進めることも求められます。

そのため、顧問弁護士を付けて日頃からサポートを受けられる体制を整えることをおすすめします。企業の体制や労働状況を弁護士にあらかじめ相談しておけば、もしトラブルが起こった際も迅速な対応が可能です。

未払い賃金に関するよくある質問

未払い賃金に関するよくある質問に回答します。

未払い賃金にかかる遅延損害金や利息はどう計算するの?

遅延損害金は次のような計算式で求めます。

遅延損害金=未払い賃金額×遅延損害金の利率×遅延日数÷365

遅延損害金の利率は、労働者が在籍中の期間は年3%、労働者が退職した後の期間は年14.6%で計算します。

個人事業主でも立替払制度を利用できるの?

立替払制度を利用できるのは、倒産した企業に労働者として雇用されていた人だけです。

したがって、委託業務などで報酬を得ているフリーランスなどの個人事業主は、立替払制度の対象外です。

まとめ

未払い賃金が発生した際は労働者側から賃金請求を行い、直接交渉で解決に至らなければ法的手続きへと進みます。未払い賃金請求の解決方法は、通常の訴訟だけでなく、和解や調停、労働審判など選択肢が多岐に渡るため、状況に応じた適切な判断が欠かせません。

賃金の未払いは意図せず発生することも多いため、適切な予防策の構築や紛争対応をするためには、未払い賃金に関わる制度への理解は必須です。

当事者による未払い賃金の請求や手続きが思うように進まない場合、自身で直接企業と交渉することに躊躇される方等、まずは弁護士にご相談下さい。賃金請求権には時効もあるため、まずは気軽に10分から予約ができるカケコムで相談しましょう。

企業は、未払い賃金請求に対する適切な対応やリスク管理、法改正への対応・予防策に悩む際に弁護士のサポートが必要となります。カケコムでは企業法務を強みに扱っている弁護士が多数在籍しておりますので、まずはオンライン予約をしてみましょう。

どちらの場合も、早期の相談がトラブルの拡大を防ぎ、迅速な解決につながります。

よく検索されるカテゴリー
検索
インターネット インタビュー セミナー トラブル ニュース フリーランス 不倫 交通事故 企業法務 企業法務 借金 債務整理 債権回収 債権回収 加害者 労働 労働問題 医療 婚約破棄 時事ニュース 浮気 消費者トラブル 犯罪・刑事事件 男女問題 税務 自己破産 親権 近隣トラブル 過払い金 遺産相続 離婚 養育費