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不正アクセス禁止法とは?【被害者側、加害者側】罰則や懲役、裁判例は?

【この記事の法律監修】  
稲生 貴子弁護士(大阪弁護士会) 
瀧井総合法律事務所

不正アクセスは、アクセス権限のない第三者が詐欺行為や個人情報の取得などのために、他人のIDやパスワードを使用し、サーバや情報システムに不正な手段によりアクセスする犯罪行為です。
不正アクセスがあると、企業や組織の業務だけでなく企業のブランドイメージに悪影響を及ぼす可能性があります。

本記事では、不正アクセス禁止法について解説します。被害者となる企業や組織としては、どうやって証拠を収集するのか、どうやって警察や弁護士へ相談するのか気になるでしょう。
一方、加害者にとっては、逮捕やその影響、弁護士への相談のメリットと費用相場を把握することが大切です。不正アクセスに対する理解を深め適切な対策を講じるため、この記事を参考にしていただければ幸いです。

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不正アクセス禁止法とは

不正アクセス禁止法の正式名称は、不正アクセス行為の禁止等に関する法律です。不正アクセス禁止法によると、不正アクセス行為の定義について、他人の識別符号を悪用したり(第2条第4項第1号)、コン ピュータプログラムの不備を衝く(第2条第4項第2号、第3号)ことにより、本来ア クセスする権限のないコンピュータを利用する行為とされています。

なお、識別符号とは、「当該アクセス管理者において、当該利用権者等をほかの利用権者等と区別して識別することができるように伏される符号」であり、情報機器やサービスにアクセスする際に使用するIDやパスワード等のことを意味します。

・不正アクセス禁止法第2条第4項

(定義)
第二条この法律において「アクセス管理者」とは、電気通信回線に接続している電子計算機(以下「特定電子計算機」という。)の利用(当該電気通信回線を通じて行うものに限る。以下「特定利用」という。)につき当該特定電子計算機の動作を管理する者をいう。

4この法律において「不正アクセス行為」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

一アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするものを除く。)

二アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる情報(識別符号であるものを除く。)又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者の承諾を得てするものを除く。次号において同じ。)

三電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機が有するアクセス制御機能によりその特定利用を制限されている特定電子計算機に電気通信回線を通じてその制限を免れることができる情報又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為
引用:不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)


不正アクセス禁止法が制定された背景と目的

ここでは、不正アクセス禁止法が制定された背景と目的について解説します。

(1)背景

不正アクセス禁止法は、情報通信技術の急速な進化とそれに伴うサイバー犯罪の増加を背景に、平成12年に制定されました。インターネットの普及により、特にインターネットバンキングやオンラインショッピングに関する不正アクセスが増加し、令和5年には認知件数が6312件に達しました。

従来の法律ではコンピュータ犯罪を包括的に取り締まることが難しく、被害者救済や犯罪者への厳罰化が求められていました。この法律により、不正アクセス行為が明確に定義され、罰則が強化されることで、サイバー犯罪への抑止力が高まりました。引き続き、法律の見直しが重要視されています。

(2)目的

不正アクセス禁止法には、その目的について、以下のように規定されています。

・不正アクセス禁止法第1条

(目的)
第一条この法律は、不正アクセス行為を禁止するとともに、これについての罰則及びその再発防止のための都道府県公安委員会による援助措置等を定めることにより、電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪の防止及びアクセス制御機能により実現される電気通信に関する秩序の維持を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的とする。
引用:不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)

不正アクセス禁止法は、人々が安全にインターネットを利用できる環境を整備し、より一層の発展を促進することを目的とした法律です。
ちょうど2000年はインターネットの普及が始まった頃で、この目的を実現するのに不可欠として制定されました。

不正アクセス禁止法の主要な内容

不正アクセス禁止法は、以下の5つの行為を禁止しています。

(1)不正アクセス行為の禁止

不正アクセス禁止法第3条では、「何人も、不正アクセス行為をしてはならない。」と規定されています。不正アクセス行為には、以下の3つの行為が含まれます。

  • 他人のIDやパスワードを不正に使用すること
  • ウェブサイトの脆弱性を悪用して不正なプログラムを実行すること
  • マルウェアやコンピューターウイルスを使用して攻撃すること

(2)他人の識別符号を不正に取得する行為の禁止

不正アクセスを目的として他人の識別符号』取得すると、不正アクセス禁止法第4条に基づく不正取得罪に問われる可能性があります。識別符号は、アクセス管理者から利用権を与えられているユーザーかどうかを識別するための符号です。これは、IDやパスワードなどが該当します。

この法律は、インターネットやコンピューターに精通している人だけが処罰対象になるわけではありません。例えば、他人がIDやパスワードを入力しているのを盗み見るショルダーハッキングも、不正取得罪になる可能性があるのです。

(3)不正アクセス行為を助長する行為の禁止

他人の識別符号を無断で第三者に提供する行為は、不正アクセス禁止法第5条に規定された不正助長罪に問われる可能性があります。例えば、会社の銀行口座のIDとパスワードを社外の人間に無断で教える行為は処罰の対象となることがあります。

(4)他人の識別符号を不正に保管する行為の禁止

不正アクセス行為を目的として他人の識別符号を不正に取得し、それを保管することは不正アクセス禁止法第6条に基づく『不正保管罪』に該当します。

(5)識別符号の入力を不正に要求する行為の禁止

アクセス管理者になりすまし、他人に自らの識別符号を入力させる行為、識別符号の入力を求める電子メールを送信する行為は、不正アクセス禁止法第7条に基づく『不正入力要求罪』に該当します。

不正アクセス禁止法は、金融機関などのサイトを模倣したフィッシングサイトを開設したり、フィッシングサイトへの誘導やID・パスワードの入力を要求する電子メールを送信する行為を処罰します。

・不正アクセス禁止法第3条~第7条

第三条 何人も、不正アクセス行為をしてはならない。
(他人の識別符号を不正に取得する行為の禁止)
第四条 何人も、不正アクセス行為(第二条第四項第一号に該当するものに限る。第六条及び第十二条第二号において同じ。)の用に供する目的で、アクセス制御機能に係る他人の識別符号を取得してはならない。

(不正アクセス行為を助長する行為の禁止)
第五条 何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、アクセス制御機能に係る他人の識別符号を、当該アクセス制御機能に係るアクセス管理者及び当該識別符号に係る利用権者以外の者に提供してはならない。

(他人の識別符号を不正に保管する行為の禁止)
第六条 何人も、不正アクセス行為の用に供する目的で、不正に取得されたアクセス制御機能に係る他人の識別符号を保管してはならない。
(識別符号の入力を不正に要求する行為の禁止)

第七条 何人も、アクセス制御機能を特定電子計算機に付加したアクセス管理者になりすまし、その他当該アクセス管理者であると誤認させて、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、当該アクセス管理者の承諾を得てする場合は、この限りでない。

一 当該アクセス管理者が当該アクセス制御機能に係る識別符号を付された利用権者に対し当該識別符号を特定電子計算機に入力することを求める旨の情報を、電気通信回線に接続して行う自動公衆送信(公衆によって直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送又は有線放送に該当するものを除く。)を利用して公衆が閲覧することができる状態に置く行為

二 当該アクセス管理者が当該アクセス制御機能に係る識別符号を付された利用権者に対し当該識別符号を特定電子計算機に入力することを求める旨の情報を、電子メール(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号に規定する電子メールをいう。)により当該利用権者に送信する行為
引用:不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)

不正アクセス禁止法における罰則

不正アクセス禁止法は、5つの行為について以下のような罰則を規定しています。

不正アクセス罪 3年以下の懲役または100万円以下の罰金(第11条)
不正取得罪・不正保管罪・不正入力要求罪 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(第12条1項)
不正助長罪 不正アクセスの目的があることを知っていた場合は1年以下の懲役または50万円以下の罰金(第12条1項)
不正アクセスの目的があることを知らなかった場合は30万円以下の罰金(第13条)

5つの行為すべて懲役が規定されているので、どんな犯罪に該当するのか、行為の悪質性などにより刑務所へ収監される可能性があることを知っておきましょう。

・不正アクセス禁止法第3条~第7条

不正アクセス禁止法第11条~第12条
第十一条 第三条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一 第四条の規定に違反した者
二 第五条の規定に違反して、相手方に不正アクセス行為の用に供する目的があることの情を知ってアクセス制御機能に係る他人の識別符号を提供した者
三 第六条の規定に違反した者
四 第七条の規定に違反した者
第十三条 第五条の規定に違反した者(前条第二号に該当する者を除く。)は、三十万円以下の罰金に処する。
引用:不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)

不正アクセス禁止法の時効について

犯罪には時効がありますが、時効について刑事訴訟法が規定しています。時効には刑の時効と公訴時効がありますが、一定期間経過すると罪に問われないというのは公訴時効です。一般人がイメージする時効は公訴時効です。

刑事訴訟法の第250条2項6号で長期5年未満の懲役もしくは禁錮または罰金にあたる罪の公訴時効は3年と規定しています。不正アクセス禁止法で規定されている罰則は最も重いものでも3年以下の懲役、長期5年に満たないため、不正アクセス行為の時効は3年です。

したがって、不正アクセス行為から3年が経過すると検察官が公訴提起できなくなるため、罪を問われなくなります。

・刑事訴訟法第250条2項6号

第二百五十条時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

②時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

一死刑に当たる罪については二十五年
二無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七拘留又は科料に当たる罪については一年
引用:刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)

不正アクセス禁止法違反事件の一般的な流れ

ここでは、不正アクセス禁止法違反で逮捕された場合の一般的な流れについて解説します。

(1)逮捕後48時間以内 警察での捜査と送検

不正アクセス禁止法違反で逮捕された場合、まず警察による捜査が行われます。ただし、この捜査期間は逮捕から48時間以内と決まっており、その後、被疑者の身柄は警察から検察に送致されます(送検)。

逮捕された際には、当番弁護士制度を利用することができます。この制度により、1回限り無料で弁護士と面会し、アドバイスを受けることが可能です。しかし、勾留以降のサポートを継続して受けるためには、私選弁護士へ依頼しなくてはなりません。逮捕直後に私選弁護士に依頼することが、早期釈放や不起訴を勝ち取るために有効です。

(2)送検後24時間以内 勾留請求

警察から送検された後、検察は被疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぐために、勾留を請求することがあります。この手続きは送検後24時間以内に行われます。勾留が決まると、被疑者は引き続き拘束されることになるのです。

私選弁護士を依頼している場合、勾留の必要性がないことを主張するなど、早期釈放に向けた弁護士からの働きかけが期待できます。

(3)勾留期間 最大20日間での捜査・起訴判断

勾留期間は通常10日間ですが、さらに捜査が必要と判断された場合、最大10日間延長される場合があります。この期間内に検察官は、起訴するか不起訴にするかを決定します。起訴とは、検察が被疑者に対して裁判を起こすことであり、起訴された場合の有罪率は99.9%という高水準です。不起訴となれば被疑者は前科がつかず、すぐに釈放されます。

勾留中に私選弁護士に依頼して入れば、勾留取消請求や準抗告などの手続きにより、早期釈放を目指せます。

(4)逮捕後約1~2ヶ月 刑事裁判

起訴されると、被疑者は被告人になります。また刑事裁判が開始されるまで引き続き身柄を拘束されるケースもあります。裁判が開始されるまでは通常約1ヶ月かかることが多いです。
私選弁護士に依頼した場合、保釈請求を行えば、起訴後でも身体の自由を確保できることがあります。裁判で執行猶予付き判決など軽い処分を求めた場合は、弁護士に働きかけてもらうのが有効です。

加害者側について

不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕された場合、ほとんどの人はどうすればいいかわからないでしょう。身に覚えがある場合、身に覚えがない場合があるかと思いますが、それぞれの場合の対処方法について解説していきます。

(1)身に覚えがない場合

不正アクセス行為をしていないにもかかわらず、容疑者として逮捕されることはあります。例えば、第三者にパソコンを遠隔操作されて、不正アクセスに悪用されるケースなどです。まったく身に覚えがないに場合は、遠隔操作されたのではと疑い、弁護士に事情を話しましょう。

警察で取り調べを受けた場合、黙秘権を行使することを取調官に伝えて、安易に罪を認めないことが大切です。もし取り調べで自白のような供述をすると、裁判の時に主張が食い違う事態が生じて、裁判官に発言を信用してもらえない可能性があります。安易に自白するのだけは避けましょう。

(2)身に覚えがある場合

不正アクセス行為を行って逮捕された場合は、すぐに弁護士と連絡をとり依頼しましょう。弁護士に相談してサポートを受けないと、起訴されて有罪が確定しまう可能性が高いからです。逮捕されてから72時間以内は家族や関係者とも面会出来ないので、この時間内に面会できるのは弁護士だけです。

弁護士に依頼すると、取り調べについてアドバイスを受けられます。24時間体制で監視されるので、厳しい取り調べを受けると、不用意な発言をして自分に不利な供述書を作成されるおそれがあります。弁護士と面会すれば精神的な支援となり、適切なアドバイスを受ければ不利な供述調書を作成するのを避けられます。

また、弁護士に依頼すると、早期に身柄を開放できるケースもあります。例えば、勾留取消請求や準抗告、保釈請求などの手続きを弁護士が行ってくれるのです。被疑者として逮捕されると最長で23日間も拘束されることがあります。こうなると、実社会と断絶され、様々な不利益を被りますが、それを防止するには弁護士への依頼は不可欠です。

その他にも以下のことをして、不起訴や執行猶予処分を勝ち取れる可能性もあります。

  • 被害者との示談交渉
  • 反省文の作成
  • 被疑者に有利な証拠収集

早い段階で弁護士に依頼することには大きな意味があるのです。

(3)弁護士に依頼する理由

逮捕の影響は非常に大きく、身柄の拘束や解雇、退学の可能性があるため、報道や周囲への周知によるマイナスの影響も避けられません。そのため、今後逮捕される可能性が高いと考えられる場合は、まず弁護士に相談し、自首をすることをお勧めします。自首を行うことで逮捕される確率が下がり、その後の悪い状況を変えることができます。

もし、逮捕されるかどうかわからない状況であれば、まず弁護士に相談し、待つことが重要です。自首や逮捕の際に弁護士に事前に相談しておくことで、状況が大きく好転する可能性があります。弁護士は外部への連絡や取り調べへの助言、被害者との示談交渉、さらには学校や勤務先への配慮を要請するなど、多岐にわたる支援を行います。

逮捕前に弁護士に相談し、逮捕時に弁護士を指定して接見してもらうことができれば、さらに安心して対応することができるでしょう。

被害者側について

不正アクセスされた疑いがある場合、または不正アクセスの被害にあった場合には、適切な対処をする必要があります。ここでは、不正アクセスの被害者がとるべき対処法を解説します。

(1)状況の確認

不正アクセスが発生した可能性がある場合は、迅速かつ冷静に状況を把握します。どういう経緯で不正アクセスの被害にあったのか、何か思い当たることはないか、何か兆候はなかったかなど思い返しましょう。

不正アクセスは、以下のような手口で行われることがよくあります。

  • パスワードの推測・漏洩
  • 簡単に推測できるパスワードの設定
  • 同一パスワードの使い回し
  • フィッシング詐欺
  • 偽のメールやウェブサイトで個人情報を入力させる手口
  • 個人情報の管理不足
  • ウイルスや不正プログラムによる情報漏洩
  • セキュリティソフトの未導入
  • ソフトウェアの脆弱性に対する対策不足

総務省の発表によれば、令和4年の不正アクセスにおいてパスワードの設定や管理の甘さに付け込むのが、最も多い手口であると総務省が発表しています。つまり、誰でも不正アクセスのリスクにさらされていることがわかります。

(2)アカウント停止や金融機関への問い合わせ

最初にすることは、不正アクセスを受けたアカウントに関する情報の変更、アカウントの一時停止です。不正アクセスをしている第三者がログアウトしなけでば、状況は改善しないので早期に対応する必要があります。

次にするべきことは、クレジットカード会社や金融機関に連絡し、被害にあった可能性があることを伝えることです。こうすることで、被害拡大を最小限に抑えることができます。また、警察へ被害届を出す場合に備えて、できるだけ証拠を収集しておきましょう。

以下は、保存すべき証拠の例です。

  • ログイン履歴
  • ログイン日時、IPアドレス、使用端末など
  • スクリーンショットや印刷物
  • 不正アクセスの痕跡を示す画面
  • 不正な金銭引き落としの証拠
  • 金融機関の取引明細や不正取引の記録
  • フィッシング詐欺のメール
  • メール本文、ヘッダー情報、添付ファイル
  • ウイルス感染の警告
  • セキュリティソフトからの警告メッセージ

後で証拠を収集することも可能ですが、できるだけ早期に証拠を確保しておきましょう。不正アクセス者により消去されるリスクがあるからです。収集する証拠がわからない場合は、弁護士に相談しましょう。

(3)警察へ被害届

収集した証拠は最寄りの警察署へ被害届と一緒に提出しましょう。なお、被害届を提出する場合、以下のことに注意してください。

  • 証拠を持参する
  • 被害状況や被害額をくわしく説明する
  • 担当者の名前と連絡先を控える

被害届を提出した場合、捜査は進行しますし、損害賠償請求において有利になるケースがあります。

(4)弁護士に依頼する理由

被害者としての第一歩は、警察に被害届を出すことです。相談が必要な場合は、警察相談専用電話「#9110」に連絡することもできます。ただし、被害届を提出しても必ずしも捜査が行われるわけではありません。また、告訴状は警察への被害の事実を報告し、犯人の処罰を求める意思表示でもあります。

告訴状の作成は自分でも行うことが可能ですが、弁護士に相談すれば、告訴状の作成だけでなく、捜査や告訴に関連するさまざまな相談やアドバイスを受けることができます。弁護士は捜査官との告訴相談に同席することもでき、これは弁護士にのみ許された業務です。また、被害者は民事訴訟を提起することも可能です。

警察は犯罪行為の捜査をしますが、損害賠償請求については感知してくれません。加害者に賠償責任を負わせるためには、弁護士へ依頼するのが最も確実な手段です。

不正アクセス禁止法の事例

ここでは実際に起こった不正アクセス禁止法の事例をご紹介します。

(1)不正アクセスに加えて他人になりすましメール送信した事例

インターネット上で仲良くなった女性から会おうと誘われたが、内向的な性格のため会う決断ができなかった。そのことに焦燥感を覚え、女性に対して不正アクセスによる嫌がらせをした事例。

加害者は、アカウントを有するフリーメールのサイトで、被害者の女性のアカウントに不正にアクセスしました。さらに無断でID・パスワードを入力してメールの送受信や閲覧を行いました。これらの行為が、不正アクセス禁止法第3条などの違反となったのです。その後も、加害者は不正アクセス行為を繰り返し行いました。
裁判所は非常に悪質と認定するが、一部の犯行を自ら申告したこと、初犯であること、妻子を養い仕事をしていたことなどを考慮し、懲役1年、執行猶予3年という判決になりました。
引用:平成14年(わ)第62号 不正アクセス禁止法違反、電気通信事業法違反 平成14年10月16日 高松地方裁判所

(2)不正アクセスをしてID・パスワードを変更したときの刑罰がさらに重くなった事例

不正に入手した他人のID・パスワードを使用しただけで法律違反ですが、さらにネットオークションサイトへアクセスして、無断でID・パスワードを変更した場合に刑罰が重くなった事例です。問題となったのは、不正アクセスの手段としてID・パスワードを変更する行為は牽連犯なのか、あるいは併合罪なのかという点です。

牽連犯とは、数個の行為についてそれぞれ別の犯罪が成立するものの、各行為の間に目的と手段の関係、原因と結果の関係がある場合をいいます。
牽連犯では、本当なら複数の犯罪が成立しますが、一つの罪が科されるだけです。

刑法第54条1項後段に規定されています。

併合罪とは、確定審判を経ていない2つ以上の罪のことです。

懲役が科せられる場合には一番重い刑罰が定められている犯罪の上限が1.5倍になり、罰金刑が科せられる場合はそれぞれの犯罪の罰金額の合計が上限となります。
刑法第45条前段に規定されています。

つまり、牽連犯と取り扱われるか併合罪と取り扱われるかにより、科される刑罰の重さが変わってくるのです。併合罪と取り扱われると重い刑が科されます。
裁判所は不正アクセスを手段として私的電磁記録不正作出が行われた場合、両罪は手段または結果の関係にあるとは認められないとして、併合罪と取り扱う判断を下したのです。

私的電磁記録不正作出の法定刑・・・5年以下の懲役または50万円以下の罰金、
不正アクセス罪の法定刑・・・3年以下の懲役または100万円以下の罰金
この事件では法定刑の重い私的電磁記録不正作出の方が科されて、刑の上限は「7年6か月以下の懲役となります。罰金刑が科されるとしても、それぞれの犯罪の罰金額が合計され、150万円以下の罰金になり、その範囲内で量刑が言い渡されるのです。

この判例は、不正アクセス行為と私的電磁記録不正作出の罪数に関する重要な事例です。
ポイントは以下のとおりです。

  • 行為の内容
    不正アクセス行為を行った後にID・パスワードを変更する行為。

  • 刑罰の重さ
    単なる不正アクセスに比べ、ID・パスワードの変更を伴う場合は、より重い刑罰が科される可能性がある。
  • 認識の重要性
    このような行為が法的に厳しく扱われることを理解しておく必要がある。

引用:平成19年(あ)第720号 不正アクセス禁止法違反、私的電磁記録不正作出、同供用 平成19年8月8日 最高裁判所第二小法廷

(3)不正アクセス禁止法違反の疑いで兵庫県の高校1年生が書類送検された事件

兵庫県芦屋市在住の15歳男子生徒が不正アクセス禁止法違反の疑いで書類送検されました。
2023年、札幌市の医療関係の学会のホームページに少年は不正アクセスしました。

不正アクセスの詳細
中学3年生の2022年に、管理用IDやパスワードを変更して業務を妨害した疑い。

使用したデバイス
学校から貸与されたタブレットを使用して情報を収集し、不正アクセスを実行。

追加の犯罪行為
2024年3月には、サイトを乗っ取り学会の会員に殺害予告のメールを送信。
少年は道警の調べに対し、恒心教徒としてネットで認められたかったと供述しました。

まとめ

不正アクセス禁止法事件に直面した場合、被害者は速やかに証拠を収集し、警察や弁護士に相談することが大切です。一方、加害者においても弁護士へ速やかに相談し、適切な対応をすることで、状況を改善できます。

本記事により、適切な対応を行うための参考にしていただければ幸いです。弁護士への相談は、被害者と加害者の双方にとってメリットがあり、問題の早期解決のための重要な手段になります。早い段階で弁護士へ依頼するようにしましょう。

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