普通解雇の要件とは?【使用者向け、企業向け】懲戒解雇との違いや、予防するためには?
【この記事の法律監修】
藤田 圭介弁護士(大阪弁護士会)
弁護士法人・響 大阪オフィス
普通解雇とは解雇のうち懲戒解雇以外のものです。
普通解雇は従業員の同意を得ることなく企業が一方的に従業員としての身分を失わせるものであり、労働者保護の観点から厳しい制約がかせられます。
懲戒解雇とは重大な違反行為をした社員に対して制裁罰として会社が一方的に労働契約を終了させることをいいます。それにより企業としての規律を回復する目的があります。
本記事では
・普通解雇について
・労働基準法による解雇制限
・従業員、企業それぞれの普通解雇のケース
を紹介します。ぜひ参考にしてください。
普通解雇とは?その定義と正当な理由
普通解雇とは、企業が従業員との労働契約を終了させる場合に用いられる解雇形式の一つです。通常、この解雇には、業務上の適合性の欠如や、長期にわたる能力不足など、従業員側に何らかの問題がある場合に行われます。
普通解雇は、懲戒解雇とは異なり、罰則的な性質を持たない解雇です。しかし、企業側には正当な理由が必要とされ、その理由が客観的かつ合理的であることが求められます。
普通解雇の具体例
- 病気による就業不能
- 能力不足や成績不良
- 協調性の欠如
従業員が病気や怪我によって長期にわたり職務を遂行できない場合、通常の業務に復帰する見込みがないと判断されると、普通解雇の対象です。
また、従業員が業務において著しく能力不足であり、指導や再配置を行っても改善が見られない場合も解雇の理由になります。特に業務成績が低い場合、合理的な理由として認められることがあります。さらに、職場での協調性が著しく欠如し、他の従業員との摩擦が業務の遂行に悪影響を与える場合、普通解雇が正当とされることもあります。
懲戒解雇との違いとは?
普通解雇と懲戒解雇は、労働契約の終了を意味する点では共通していますが、その性質は大きく異なります。普通解雇は従業員の職務適性や健康状態、能力不足など、業務上の適性がないことに基づいて行われます。一方、懲戒解雇は、重大な規律違反や犯罪行為など、従業員の違法行為や会社秩序を著しく乱す行為が理由で、制裁措置として行われます。懲戒解雇は企業にとって最も厳しい処分であり、退職金の不支給や即時解雇の可能性も含まれるため、適用には厳しい基準が求められます。
普通解雇と懲戒解雇を区別することは重要であり、企業は解雇の際にその理由を明確にし、正当な手続きを踏む必要があります。誤った理由で解雇が行われた場合、解雇は無効とされ、企業に対する法的なリスクが高まります。そのため、解雇に関するトラブルを避けるためには、弁護士に相談することが推奨されます。
普通解雇の4つの要件
普通解雇が法的に有効であるためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 正当な解雇理由があること
- 解雇が制限される場面に該当しないこと
- 解雇予告または解雇予告手当の支払いがあること
- 従業員に解雇の通知が適切に行われること
これらの要件を満たさない場合、解雇は「解雇権濫用」とされ無効になる可能性が高いです。では、要件についてそれぞれ詳しく解説します。
1. 正当な解雇理由があること
普通解雇が法的に有効となるためには、正当な解雇理由が不可欠です。つまり、企業が一方的に従業員との労働契約を終了させる際に、その解雇が客観的かつ合理的なものである必要があります。この要件を満たさない場合、解雇は無効とされ、不当解雇とみなされるリスクがあります。
正当な解雇理由の具体例としては、以下の3つが挙げられます。
- 経営悪化による人員削減
- 業務上の能力不足や適合性の欠如
- 長期的な健康問題
正当な理由を確認するためのポイントとしては、解雇理由が会社の事情に適合しているか、個々の従業員に対する解雇判断が公平かが重要です。解雇が経営上の必要性に基づいているか、従業員の能力不足など、具体的な根拠が示されているかが大切です。単なる経営上の都合や曖昧な理由では、正当性が認められない可能性があります。
また、同じ業務上の問題を抱える複数の従業員がいた場合、その解雇の判断が偏っていないか、特定の従業員に対してのみ不公平な扱いがなされていないかを確認することが求められます。
加えて、正当な解雇理由を満たすためには、企業は解雇前に従業員へ十分な説明と機会を提供することが重要です。これは後のトラブルを防ぐためにも不可欠であり、適切なプロセスを経て解雇が行われなければ、法的なリスクが高まります。そのため、解雇の際は慎重な対応が求められます。
2. 解雇が制限される場面に該当しないこと
普通解雇を行う際には、解雇が制限される特定の場面に該当しないことが重要です。日本の法律には、労働者の権利を保護するために、特定の状況での解雇を禁止または制限する規定があり、これらを無視して解雇を行うと、無効とされるリスクがあります。企業は、労働基準法やその他の関連法規を理解し、適切な手続きを踏む必要があります。
労働基準法による解雇制限
労働基準法には、特定の状況下での解雇を制限する規定があります。たとえば、労災による療養中の労働者や、産前産後休業中の女性は保護され、原則として解雇が禁止されています。これは、怪我や病気からの回復を促進するための社会的な配慮であり、企業側が労働者の健康状態を理由に簡単に解雇できないようにするための措置です。また、産前産後休業中の女性に対する解雇も、特別な理由がない限り禁止されています。
男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の制限
妊娠や出産、育児・介護休業を理由とする解雇は、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法によって明確に禁止されています。これらの法律は、妊娠や出産、育児、介護といった生活上の不可避な状況において、労働者が不利な扱いを受けないようにすることを目的としています。例えば、育児休業を取得したことを理由に解雇を行うことは、違法行為として訴えられる可能性が高く、企業にとって大きな法的リスクとなります。
差別や通報を理由とする解雇の禁止
差別的な理由や労働者が行った通報行為を理由とする解雇も、法律で禁止されています。例えば、性別や年齢、障害などを理由とする差別的な解雇は違法です。さらに、従業員が会社の違法行為を通報した場合、それを理由に解雇することも「公益通報者保護法」によって禁止されています。このようなケースでは、労働者が不当に解雇されたとして訴訟を起こす権利があり、企業は解雇理由を厳密に証明できない場合、大きな損害を被る可能性があります。
3. 解雇予告または解雇予告手当の支払いがあること
労働基準法では、企業が従業員を解雇する場合、原則として30日前に解雇予告を行うことが義務付けられています。この解雇予告は、従業員が今後の生活や就職活動に備えるための期間を確保するためのものであり、企業側が一方的に解雇を実行する前に適切な通知を行うことが求められます。
もし30日前の解雇予告を行わない場合は、30日分の給与に相当する解雇予告手当を支払うことが義務となります。この手当は、従業員が解雇後の生活を支えるためのものであり、給与計算の際には通常の基本給に基づいて算定されます。
具体的な支払い方法は、通常の給与支払いと同様に現金や振込などの形で行われますが、支払いのタイミングは解雇日までに行うことが義務付けられています。
解雇予告手当が支払われなかったり、30日前の通知が行われなかったりした場合、労働者は不当解雇として訴訟を起こすことができ、企業側には多大なリスクが生じます。このため、企業が解雇を実行する際は、労働基準法に基づく手続きを厳守し、適切な予告や手当の支払いを行うことが不可欠です。
4. 従業員に解雇の通知が適切に行われること
解雇が法的に有効とされるためには、解雇の通知が適切に行われていることが求められます。労働者に対する解雇は、単に口頭で伝えるだけでは十分ではなく、書面で正式に通知することが望ましいです。これにより、解雇の理由や手続きに関する誤解や後々のトラブルを防ぐことができます。書面での通知は、会社が解雇の正当性を証明する重要な証拠となり、労使間の信頼関係を保つ上でも重要です。
書面による解雇通知の重要性
解雇通知書は、解雇の正当性を裏付けるために極めて重要です。解雇理由が明確に記載されている書面は、企業側が解雇に関して法的に正当な手続きを取ったことを示す証拠として機能します。特に、不当解雇の疑いが生じた場合、書面による通知がなければ、労働者側が企業を訴える可能性が高まり、企業にとって大きなリスクとなります。単なる口頭での通知では、労働者がその内容を正確に理解できず、解雇のトラブルが拡大する可能性があります。
解雇通知の際のポイント
解雇通知は、解雇が決定された直後、もしくは解雇日の30日以上前に行うのが原則です。これにより、労働者が新しい職を探す準備をするための期間を確保できます。また、解雇通知を行う際は、労働者に対して解雇の理由を明確かつ具体的に説明することが重要です。
曖昧な理由や不十分な説明では、労働者が解雇の正当性を疑い、紛争に発展する可能性があります。また、労働者が解雇理由について質問を持っている場合には、それに対して誠実に対応することも必要です。
特殊な雇用形態の従業員に対する解雇の注意点
アルバイトやパート、契約社員など、雇用形態によって解雇の取り扱いが異なります。これらの雇用形態に関する解雇のルールも理解しておくことが重要です。
アルバイト・パート従業員の解雇ルール
アルバイトやパートタイムの従業員であっても、解雇する際には労働基準法第20条に基づき、30日以上前に解雇予告をする必要があります。この規定は正社員と同様に適用され、もし30日以内に解雇する場合は、30日分の給与に相当する解雇予告手当を支払わなければなりません。
また、労働者が短期間の雇用であっても、この規定は原則として適用されるため、雇用形態による解雇の手続きを軽視することはできません。ただし、契約期間が短い、あるいは試用期間中の場合には、一部の例外が適用されることもあります。例えば、契約期間が2ヶ月以内の短期契約である場合や、日雇い労働者、試用期間が6ヶ月未満であり14日以内に解雇が行われる場合です。
契約社員の解雇に関する特別な注意点
契約社員の解雇には、正社員とは異なる特別な注意点があります。契約社員は通常、期間を定めた雇用契約を締結しているため、契約期間満了前に解雇する際は、やむを得ない事由が必要です。これに加えて、契約期間が終了した際に契約更新の有無を巡るトラブルを防ぐための事前対策も重要です。
契約社員の雇用契約は、通常、一定の期間を定めて結ばれます。このため、契約期間内に解雇する場合、やむを得ない事由がなければ法的に無効とされる可能性があります。具体的なやむを得ない事由には以下のような例が挙げられます。
- 重大な業務上の規律違反
- 業務能力の著しい不足
このような理由がない限り、企業は契約期間満了前に契約社員を解雇することはできません。また、契約社員は、期間満了前に一方的な解雇を受けた場合、損害賠償を請求することが可能です。よって、企業側は慎重に判断し、解雇の正当性を十分に立証できるような証拠を準備する必要があります。
普通解雇でトラブルに遭ったら弁護士に相談
解雇トラブルが発生した場合や、会社が適切な解雇手続きを踏んでいないと感じた場合、弁護士への相談が有効です。
【労働者側】普通解雇を弁護士に依頼するケース
労働者が普通解雇に直面し、不当だと感じた場合、弁護士の助けを得ることで解決への道筋が開けます。
不当解雇が疑われる場合の初期対応
最初に確認すべきことは、解雇通知書が正当な理由を明確に記載しているかどうかです。解雇が不当であるかどうかを判断するためには、解雇理由の詳細が重要です。労働基準法により、解雇する際には労働者に対して理由の説明が義務付けられています。通知書に曖昧な理由や根拠が記載されている場合、不当解雇の可能性が高いと考えられます。
次に、解雇予告手当の支払いが行われているかを確認することも重要です。解雇予告手当とは、30日前に解雇予告が行われなかった場合に支払われる給与のことです。解雇予告が適切に行われていない場合、会社は30日分の給与に相当する手当を支払う義務があります。これが行われていない場合、解雇は違法である可能性が高まります。
不当解雇で弁護士に依頼するメリット
不当解雇で弁護士に依頼するメリットは、次の2つです。
- 法的に無効な解雇を撤回させる
- 解雇による損害賠償請求が可能
弁護士は、解雇が法的に無効であることを証明し、解雇の撤回を求めることができます。不当解雇の場合、法的に無効とされる可能性が高く、解雇を取り消させることができる場合もあります。労働契約法第16条に基づき、客観的で合理的な理由がない解雇は無効とされることがあります。
また、無効な解雇が認められた場合、弁護士を通じて損害賠償請求を行うことができます。これは、解雇により生じた経済的損失や精神的な苦痛に対する補償を求めるものです。不当解雇が認められれば、解雇前の給与の支払いを求めることや、会社からの賠償を受けることが可能です。
【企業側】普通解雇を弁護士に依頼するケース
企業としても、解雇に関するトラブルを避けるためには、法律に精通した弁護士のサポートが不可欠です。
解雇したい従業員がいる場合の弁護士活用法
弁護士は、まず正当な解雇理由が存在するかどうかを確認します。労働基準法や労働契約法に基づき、解雇には客観的に合理的な理由が必要です。正当な理由として認められる例には、従業員の重大な職務上の不適合や業績不振、規律違反などがあります。
弁護士は、これらの理由が十分に正当とみなされるかを確認し、企業が誤った判断で訴えられるリスクを可能な限り防ぎます。また、労働者への指導や改善機会が適切に提供されたかも重要なポイントとなります。
弁護士は、解雇に伴う法的手続きをサポートし、トラブルの予防に役立ちます。例えば、労働基準法では30日前の解雇予告が必要ですが、これが適切に行われているかを確認し、必要に応じて解雇予告手当の支払いについてもアドバイスします。また、従業員への解雇通知を適切なタイミングで行い、書面による通知の準備もサポートします。
不当解雇で訴えられた場合の対応
弁護士を活用することで、訴訟が起こった場合でも適切な対応が可能です。訴訟では、解雇の正当性を証明するための書類や証拠が必要となりますが、弁護士はこの準備を手助けします。また、訴訟手続きの進行中、労働者との交渉や裁判での対応を代行し、企業が最も有利な立場で問題を解決できるようにします。
解雇がトラブルに発展し、従業員がメディアやSNSで会社を攻撃するリスクもあります。弁護士は、こうした場合に企業の評判を守るためのメディア戦略についてもアドバイスできます。具体的には、企業として公式声明を発表するタイミングや内容の助言、またはSNSでの対応策を考えるサポートを行います。
普通解雇を弁護士に依頼する費用の相場
弁護士に依頼する際の費用は、依頼内容やケースによって異なります。ここでは、労働トラブルに関する一般的な弁護士費用の相場を紹介します。
労働者側の費用相場
弁護士に普通解雇の問題を依頼する際、労働者側の費用は一般的に以下の要素に基づいて算出されます。まず、相談料としては、初回の法律相談で30分から1時間あたり約5,000円から1万円がかかることが多いです。弁護士事務所によっては、初回の相談を無料で提供している場合もありますが、これは例外的なケースです。
正式に弁護士へ依頼する場合、次に必要となるのが「着手金」です。この着手金は弁護士が案件に着手するために前払いされる費用で、一般的には10万円から30万円が相場です。この金額は、案件の難易度や複雑さ、解決までにかかる時間に応じて上下します。複雑なケースであれば、さらに高額になる可能性もあります。
次に、訴訟や交渉で成功した際には「報酬金」を支払うことになります。この報酬金は、弁護士が交渉や裁判を通じて得た成果に対する成功報酬で、獲得した賠償金や和解金額の10%から20%が相場となっています。例えば、解雇が無効とされ、100万円の賠償金が得られた場合、その10万円から20万円を弁護士に支払うことになります。
加えて、裁判手続きや交渉の過程で発生する実費もあります。これには、書類作成や郵送、交通費などが含まれ、通常は数千円から数万円程度がかかることがあります。このように、弁護士費用は裁判の進行や交渉内容、事務所の方針により変動するため、最初にしっかりと費用について確認しておくことが重要です。
企業側の費用相場
企業側が従業員の解雇問題に直面し、弁護士に依頼する際の費用は、ケースの難易度や弁護士との契約形態によって異なります。一般的に、企業が労働問題や解雇に対処する際、顧問契約を結んでいる場合と、個別の解雇案件に対処する場合で費用の体系が異なります。
まず、企業が弁護士との顧問契約を結んでいる場合は、毎月定額の料金を支払うことで、定期的に法的なアドバイスを受けられます。この顧問料は、一般的には月額5万円から10万円程度が相場であり、企業の規模や相談内容の頻度、相談範囲に応じて変動します。特に従業員の数が多く、労働トラブルが頻発する企業では、この金額はさらに高くなる場合もあります。顧問契約を通じて、企業は通常業務におけるトラブル防止策や解雇手続きに関する助言を定期的に得られるため、長期的なリスク管理として有効です。
一方で、顧問契約がなく、個別に解雇案件で弁護士に依頼する場合は、最初に相談料が発生します。初回の相談では、1時間あたり5,000円から1万円程度が一般的な料金です。その後、正式に解雇手続きや訴訟のサポートを依頼する場合、着手金が必要となります。着手金の相場は、案件の難易度や従業員との交渉の複雑さによって異なりますが、20万円から50万円程度が一般的です。企業が解雇に関連した法的問題で裁判や交渉に勝利した場合、成功報酬として、解決により得られた金額や裁判の結果に応じて報酬金が発生します。この報酬金は、案件の規模や結果によって変動し、一般的には成功報酬として設定されるため、弁護士と事前に明確に取り決めておく必要があります。
まとめ
本記事では普通解雇について紹介しました。
普通解雇にも種類があるためよく確認し、トラブルを未然に防ぐために早めに弁護士に相談しましょう。