覚醒剤(覚醒剤取締法)で逮捕されると?罰則や関連する法律、所持、使用で罪状などが変わるのか?
【この記事の法律監修】
大西 信幸弁護士(大阪弁護士会)
弁護士法人ラポール綜合法律事務所
覚醒剤に関する問題は、個人の健康被害だけでなく、社会全体に深刻な影響を与える重大な問題です。厚生労働省の調査によると、2022年の覚醒剤事犯による検挙人員は7年連続で減少していますが、6,289名と依然として高い水準を維持しています。
この記事では、覚醒剤取締法違反の概要、覚せい剤取締法違反で逮捕された場合の刑事手続きの流れや対応について詳しく解説します。
覚せい剤取締法違反の概要
覚醒剤取締法違反とは?
覚醒剤取締法は、覚醒剤及び覚醒剤原料の輸出入、所持、製造、譲渡し、譲受け、使用などを規制する法律です。同法の主な目的は、覚醒剤の乱用による保健衛生上の危害を防止することにあります(覚醒剤取締法第1条参照)。
覚醒剤の種類と成分
覚醒剤取締法で規制されている主な薬物には、以下のようなものがあります。
- メタンフェタミン(俗称:シャブ、スピード)
- アンフェタミン
- メチルアンフェタミン
これらの物質は、中枢神経系に強い刺激作用を持ち、使用者に一時的な興奮や快感をもたらします。しかし、その反動として深刻な精神的・身体的悪影響を引き起こす危険性が高いものです。
覚醒剤取締法違反と他の薬物乱用に関する法律の違い
日本には、覚醒剤取締法以外にも、薬物を取り締まる法律があります。その中でも、麻薬及び向精神薬取締法と大麻取締法が主なものとして挙げられます。
各法律で規制対象としている薬物は以下のとおりです。
- 覚醒剤取締法:メタンフェタミンなどの覚醒剤を規制
- 麻薬及び向精神薬取締法:ヘロイン、コカイン、MDMA、LSD、睡眠薬などを規制
- 大麻取締法:大麻(マリファナ)を規制
これらの中でも覚醒剤取締法違反は、他の薬物を取り締まる法律と比較しても、罰則が厳しくなっています。覚醒剤は、他の薬物に比べて依存性が強い薬物であり、社会に深刻な影響を与えるものだからです。
覚醒剤取締法が禁止する行為と罰則
覚醒剤取締法が禁止する主な行為と罰則について解説します。
覚醒剤取締法が禁止する主な行為と罰則
- 所持、譲渡・譲受など
覚醒剤をみだりに所持し、譲り渡し、または譲り受けた者は、10年以下の懲役に処せられます(覚醒剤取締法第41条の2)。
- 使用
覚せい剤を使用した者も上記と同様に法定刑は10年以下の懲役に処せられます(覚醒剤取締法第19条、第41条の3第1項第1号)。
- 営利目的がある場合
覚醒剤の営利目的の使用、所持、譲渡・譲受に対しては、1年以上の有期懲役に処し、または情状により1年以上の有期懲役および500万円以下の罰金に処せられます(覚醒剤取締法第41条の2第2項)。
初犯の場合は執行猶予が付くことも
上記のように、覚醒剤取締法違反ついては重い罰則が規定されていますが、初犯の場合は執行猶予が付くことが多くあります。
逮捕されたらどうなる?
覚醒剤取締法違反が捜査機関に発覚した場合、逮捕されることがほとんどです。ここでは逮捕後の手続きの流れを解説します。
逮捕後の刑事手続きの流れ
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合、一般的に以下のような流れで刑事手続きが進みます。
- 逮捕から48時間以内に検察官に身柄送致
- 送致から24時間以内に検察官は裁判所(裁判官)に勾留を請求
- 勾留請求が認められると、原則10日間、最長で20日間(勾留延長10日)、身体拘束
(勾留請求却下の場合は釈放)
- 勾留期間内に検察官が被疑者を起訴
(不起訴の場合は釈放)
- 起訴後勾留が認められると、2か月間、身体拘束
(以降、1か月ごとに更新可)
- 刑事裁判(公判)
保釈について
起訴(公判請求)後に勾留されても、保釈が認められれば、身体拘束から解放されます。
保釈とは、保証金納付等を条件として、勾留の効力を残しながらその執行を停止し、被告人の身体拘束を解く制度です(刑事訴訟法第90、91条)。
裁判所への出廷などが保釈の条件であるため、保釈条件に違反すれば保釈金は没収されます。
保釈申請が許可されるためには、 「死刑・無期懲役又は、法定刑の刑期の下限が1年以上の懲役・禁固刑」にあたる重罪でないこと、法定刑の上限が10年を超える罪の前科がないこと、常習性がないこと、証拠隠滅やお礼参りのおそれがないこと、氏名・住所が明らかなことが条件となっています。
上記条件に該当すれば、必要的保釈であるとして権利保釈は原則認められます。
また、上記条件に該当しなくても、裁判官が職権で釈放を認める場合には裁量保釈が認められる場合もあります。
保釈申請は、誰でもできるわけではなく、申請できるのは、被告人本人、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹に限られます(刑事訴訟法88条1項)。
保保釈金相場は、100~200万円といわれています。
刑事裁判の流れ
- 冒頭手続き
冒頭手続きでは、以下のような手続きが実施されます。ここでは、覚醒剤取締法違反の自己使用(自白)を想定して解説します。
●人定質問
裁判官が被告人に対して本人確認をします。氏名、住所、本籍地、生年月日、職業等を質問し、人違いがないか確認します。
●起訴状朗読
検察官による公訴事実や罪名罰条の読み上げがあります。どのような事実で刑事裁判にかけられているのか等を明らかにします。
●黙秘権の告知
裁判官が被告人に対して黙秘権を告知します。
●罪状認否
裁判官から被告人に対して、起訴状記載の公訴事実についての意見を確認します。
被告人は、「間違いありません。」と言って、起訴状の内容を認めます。もし間違ってる事実があれば、ここで説明します。
被告人が罪状認否した後、弁護人にも意見を求められます。自白事件の場合、「被告人と同じ意見です。」と答えることが多いです。
- 証拠調べ
証拠調べでは、検察官が冒頭陳述を行います。被告人の経歴、犯行に至る経緯等を説明します。その後、検察官、弁護人双方から証拠調べ請求を行います。
●検察官立証
検察官は犯罪の事実について立証責任を負います。冒頭陳述の後、まずは検察官が証拠調べ請求を行います。
裁判官は、検察官が請求した証拠について弁護人の意見(同意・不同意など)を聞き、採用する証拠を決定します。覚醒剤取締法違反(自己使用)の自白事件の場合、検察官が請求した証拠のほとんどが採用されます。
●弁護人立証
弁護人による立証です。情状証人の尋問や被告人質問をすることが多いです。ダルク等の薬物更生団体に関する証拠が提出されることもあります。
- 弁論手続き
●検察の論告・求刑
証拠取調べによって、起訴状記載の公訴事実について立証されていることや、被告人に科される刑罰について、検察官が意見を述べます。
●弁護人の最終弁論
弁護人が、被告人に有利な事実を述べ、情状酌量を求めます。
●被告人最終陳述
弁護人の弁論の後、被告人は自分の意見を述べることができます。「反省しています。」、「二度と覚醒剤を使用しません。」などと意見を述べることが多いです。
- 結審・判決
裁判官が審理終了を宣言し、判決の日付を決めます。即日に判決を下す場合もありますが、通常は、結審から判決までの期間は、覚醒剤取締法違反(自己使用)の自白事件であれば、10日~数週間ほどです。
- 控訴・上告審
被告人は、第1審の判決に不服があれば控訴審で争うことも可能です。控訴審の判決にも不服があれば上告し、最高裁での審理を求めることもできます。自白事件で実刑判決を下された場合、刑務所に収監されるまでの時間稼ぎのため、控訴、上告を行うこともあります。
弁護士に刑事弁護を依頼するメリット
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合に、弁護士に依頼をするメリットについて説明します。
弁護士から的確なアドバイスを受けることができる
覚醒剤取締法違反で逮捕されると、長期間、身体を拘束されることが多くあります。否認事件の場合、弁護人以外の者と接見禁止となることもあります。
接見禁止になった場合でも、弁護士に依頼していれば、逮捕直後から接見をして、今後の見通しや取り調べの内容や今後行われる捜査の内容について、的確なアドバイスを受けることができます。
接見禁止になっていない場合、家族であっても、平日1日10分~15分ほどしか面会できませんが、弁護人であれば、平日だけではなく、土日祝、時間無制限で接見することが可能です。弁護人であれば、捜査機関の立ち合いもつかないので、捜査機関に聞かれたくないことのやり取りも可能となります。
身体拘束からの早期解放
弁護人が、検察官に対して、釈放を求める意見書を提出したり、裁判所の勾留決定に対する準抗告を申し立てたりすることで、早期に身体を解放できる可能性があります。
早期に身体拘束から解放された場合、覚醒剤取締法違反に関する捜査は続きますが、元の生活に戻ることができるというメリットがあります。
執行猶予や減刑の可能性
弁護人による弁護活動により、被告人は、執行猶予判決や検察官の求刑よりも軽い判決が出る可能性が高まります。
まとめ
刑事事件は、初動が重要です。身内が覚醒剤取締法違反で逮捕されたら、早期に弁護士に相談、依頼するべきです。知り合いに弁護士がいない場合は、インターネットで探して刑事弁護の得意な弁護士に依頼するか、各弁護士会に連絡して当番弁護士の要請をしましょう。早期に弁護士に相談、依頼することで、適切な法的サポートを得ることができます。