侮辱罪とは?【被害者側、訴えられた側】言葉や罰則、事例、名誉毀損との違いは?
【この記事の法律監修】
佐藤 光太弁護士(札幌弁護士会)
ステラ綜合法律事務所
日常生活の中で、他人から侮辱されるケースが往々にしてあります。最近では、ネットによる誹謗中傷も増えてきました。侮辱されたら、どう対処すればよいのでしょうか。本記事では、どのような場合に侮辱罪に当たるのかを解説し、告訴する手順をご紹介します。また、侮辱罪で訴えられた場合の対処方についても解説します。
侮辱罪とは?
侮辱罪とは、刑法第231条に定義されている犯罪で、他人を公然と侮辱する行為を指します。日本では、侮辱行為がインターネット上で行われた場合でも、その内容が広く知られるため、侮辱罪が成立する可能性があります。
侮辱罪の成立要件
侮辱罪が成立するためには、以下の3つの要件が必要です。第1に、行為が公然と行われること、つまり第三者が認識できる形で侮辱が行われることが、侮辱罪が成立するための要件となります。第2に、侮辱の対象となる人物が、特定されることも必要です。不特定多数の人に向けられた侮辱や、特定の個人を指し示さない暴言や悪口雑言は侮辱罪とはなりません。
第3に、侮辱行為が他人を軽蔑する意図を持つことも、成立条件として不可欠です。さらに、侮辱の意図があるのはもちろん、その内容がその人の社会的評価を下げるものであることも必要です。
侮辱罪と名誉毀損罪の違い
侮辱罪に似た犯罪に、名誉毀損罪があります。この2つはどう違うのでしょうか。
名誉毀損罪は、他人の社会的評価を低下させる「事実」を公然と示すことによって、成立する犯罪です(刑法第230条)。「公然」とは、示された事実が不特定多数の人々に認識される状態を指します。たとえば、インターネット上で他人の社会的評価を低下させる内容を投稿した場合、その事実が広く不特定多数に伝わるため、公然性が認められ、名誉毀損罪が成立します。
また、不特定多数の人々に伝わった内容が事実かどうかも、侮辱罪と名誉毀損罪に分かれるポイントです。一例を挙げると、「A会社は不正を行い、利益を増やしている」という投稿は、具体的な事実を示してA会社の社会的評価を低下させているため、名誉毀損罪に該当します。
一方で、「B会社のC課長はバカで仕事ができない」という投稿は、具体的な事実を示しているとは言えず、「バカ」や「仕事ができない」という主観を述べているだけです。そのため、このケースでは名誉毀損罪ではなく、侮辱罪が成立すると考えられます。
侮辱罪は親告罪
名誉毀損罪や侮辱罪は、親告罪に分類されます(刑法第232条)。親告罪とは、被害者またはその代理人が告訴しなければ、起訴されない犯罪を指します。親告罪には告訴するための期限が設けられており、被害者が加害者を知った日から6か月以上経過すると、刑事告訴は認められません(刑事訴訟法第235条)。
さらに、公訴時効(刑事訴訟法第250条)も存在し、犯罪が行われてから3年たつと公訴時効が成立して起訴できなくなります。このように、名誉毀損罪や侮辱罪で刑事告訴するには、法律で定められた期間制限があることを知っておく必要があります。
侮辱罪の時効
侮辱罪の公訴時効は、日本の刑法では犯行から3年となっています。従って、この期間内に被害者やその代理人から告訴が行われなければ、刑事責任の追及はできません。時効が成立すると、その犯罪行為に対する刑事責任の追及ができなくなるため、加害者に刑事責任を問えなくなります。
侮辱罪の成立要件は?
侮辱罪とは、事実を示さずに公然と他人を侮辱する行為を指します。「公然」とは、不特定多数の人々が認識できる状態を意味し、インターネット上の匿名掲示板やSNSでの誹謗中傷はこの要件を満たすことになります。ただし、ダイレクトメッセージや個別のチャットなど、1対1の状況では「公然」という要件を満たさないので侮辱罪は成立しません。
しかし、少数の人々への発言であっても、その場にいた人から情報が広がる可能性がある場合は、「公然」の要件を満たしていると見なされることがあります。もちろん、インターネットだけでなく、事実を示さずに公然と他人を侮辱する行為があれば、侮辱罪に該当します。近隣住民や会社の同僚との間でも、侮辱罪が発生する可能性は十分にあるのです。
侮辱罪の刑罰
侮辱罪が成立した場合の法定刑は、「1年以下の懲役または禁錮、または30万円以下の罰金、または拘留、または科料」と規定されています(刑法第231条)。「拘留」とは、1日以上30日未満の期間、刑事施設に収容されることを指します(刑法第16条)。ちなみに「科料」とは、1,000円以上1万円以下の金額が科される財産刑のことです(刑法第17条)。
ちなみに、侮辱罪は2022年から厳罰化されています。これまで侮辱罪には懲役刑や罰金刑がなく、「拘留または科料」で済んでいたので、法定刑が軽すぎるとの批判がありました。特に、芸能人や著名人がインターネットやSNS上で、誹謗中傷を受ける事例が社会問題化し、誹謗中傷を苦にして命を落とすケースも発生したため、国会でも侮辱罪の刑罰について再度議論が行われました。
このような経緯により、2022年7月7日から侮辱罪の刑罰が改正され、これまでよりも重い罪が課せられるようになりました。また、厳罰化に伴い侮辱罪の公訴時効も、従来の「1年」から「3年」に延長されています。
侮辱罪にあたる言葉とは?
侮辱罪における「侮辱」とは、他者の人格を軽視する言葉を浴びせるような行為を指します。具体的には、「バカ」や「クズ」といった言葉がその例です。さらに、身体的な欠陥を指摘して嘲笑する行為も、具体的な事実を示さない場合には名誉毀損ではなく、侮辱罪に該当します。たとえば、「ブス」や「ブタ」といった表現は、侮辱罪に当たるおそれがあります。
侮辱罪で訴えるには
侮辱罪で加害者を訴え、刑事罰を求めることは、たとえその罰が軽いものであっても重要な意味を持ちます。これは、加害者に自らの行為が犯罪であることを、認識させることができるからです。加害者は、侮辱罪という犯罪に当たる行為とは知らずに、軽い気持ちで人を侮辱していることが少なくありません。
インターネット上で匿名での誹謗中傷を受けた場合でも、加害者を特定し、その責任を追及することが可能です。以下に、ネット上で誹謗中傷を行った人物を特定し、侮辱罪で訴えるまでの手順を説明します。
- 侮辱の証拠を集める
ネット上の誹謗中傷に対しては、迅速に証拠を保存することが重要です。書き込みが削除される前に、スクリーンショットを撮って、ページのURLやアカウントIDを保存しましょう。こうしておけば、書き込みが削除されても証拠が残ります。
- 発信者情報開示請求を行い加害者を特定する
次に、書き込みを行った加害者の情報を得るために、サイトの運営者に対して情報提供を求めます。この際には「発信者情報開示請求書」を使用します。
手順は以下の通りです。
- サイト運営者から、IPアドレスやタイムスタンプなどの情報を取得する
- 開示された情報をもとに、加害者が契約しているプロバイダを特定する
- プロバイダに対して個人情報の開示を求める
- 告訴状を作成する
加害者を特定できたら、告訴の時効である6ヵ月以内に告訴状を作成します。告訴状には以下の情報を記載し、証拠を添付して提出する必要があります。
- 告訴人の情報
- 告訴の内容
- 告訴に至った経緯
- 処罰を求める意思表示 など
- 警察署に告訴状を提出する
ちなみに、告訴状の提出先は裁判所ではなく警察署です。ただし、警察署に告訴状を提出しても、その場で必ず受理されるわけではありません。個人で告訴状を提出しても、受理されない可能性もあります。その場合には、弁護士に同行してもらい、事情を説明してもらうことで受理される可能性が高まります。
ネットは匿名性が高いので、侮辱した人物が誰かわからない場合がほとんどです。しかし、ネットで侮辱された場合でも、このような手続きを踏むことによって加害者を特定し、告訴することは可能です。ネットではなく、近隣住民や会社の同僚などに侮辱されたケースでは、多くの場合加害者が容易に特定できるので、侮辱罪に問える可能性はさらに高くなります。
ただし、証拠隠滅のおそれがない限り、告訴状を受理しても警察はすぐには動いてくれません。捜査が開始されるまでに、数ヶ月から1年以上かかることもあります。また、捜査が開始され加害者が逮捕されても、不起訴処分や起訴猶予となる場合もあります。
【加害者側】侮辱罪で訴えられたら
前述しましたように、侮辱罪の法定刑は「1年以下の懲役または禁錮、または30万円以下の罰金、または拘留、または科料」となっています。拘留の場合、1日以上30日未満の期間、刑事施設に拘置されます。科料の場合は、1000円以上1万円未満の金銭を支払うことになります。
取調べを受けることになったら、侮辱罪(または名誉毀損罪)で訴追される可能性があるため、弁護士に相談して慎重に対応したほうがいいでしょう。
侮辱罪で取調べの対象になったら
侮辱罪の疑いで取調べを受けることになったら、以下の点について迅速に対応しましょう。
1.罪を認めるかどうかを決める
刑事手続きへの対応は、罪を認めるか否かによって大きく異なります。まずは侮辱罪の成立要件を確認し、自身の行為が本当に侮辱罪に該当するのかを検討し、方針を決定しましょう。
2.罪を争う場合の反論の方向性を考える
侮辱罪の成立を争う場合は、捜査機関の主張に対して反論する必要があります。加害者側として考えられる反論には、以下のようなものがあります。
- 本人に向けて直接発言しただけで、公の場での発言ではない
- 被害者の社会的地位を下げるような言動ではない
- 正当な意見であり違法性はない
つまり、「決して侮辱罪に当たるような行為はしていない」ということを、説明する必要があるということです。弁護士とともに反論の内容を検討し、無罪か不起訴を勝ち取るための準備が必要です。
3.罪を認める場合は情状酌量を求める
明らかに侮辱罪に抵触する言動があった場合は、素直に認めて情状酌量を求める方が賢明です。侮辱罪は法定刑が軽いため、真摯な反省の姿勢を示せば、不起訴処分となる可能性が高くなります。被害者との示談や、反省文を作成・提出したりして、謝罪の意思を検察官に示すのが得策です。
なお、被害者との示談を行う際には、弁護士を代理人として交渉するといいでしょう。弁護士が仲介することによって、被害者の感情を害することなく、スムーズに示談が進められます。
4.慰謝料請求の示談交渉
被害者から慰謝料請求を受けた場合、まずは不法行為に該当する言動が実際に存在したかどうかを、慎重に検討することが重要です。不法行為があったと認めざるを得ない場合は、被害者と示談交渉を進めるほうが賢明です。
被害者から高額な示談金を提示されることもありますが、弁護士を代理人として交渉にあたれば、適正な金額で示談が成立します。訴訟に発展すると、時間的にも費用面でもかなりの負担がかかるため、可能な限り示談をまとめる努力をすることが望ましいでしょう。
【加害者側】刑事事件と民事事件の違い
侮辱罪に該当する場合、具体的にどのような罪に問われるのでしょうか。ここでは、侮辱罪の刑事責任について説明します。侮辱罪は刑法に規定された犯罪であり、成立すれば刑事罰が科されます。侮辱罪に対する刑事罰は「1年以下の懲役または禁錮、または30万円以下の罰金、または拘留、または科料」となります。
侮辱罪が成立し有罪判決を受けると「前科」がつくことになります。
前科がつくと、企業の就業規則によっては解雇される場合もあります。また、前科がつくと失効する資格があったり、新たに資格を取得できなくなることもあります。さらに、職を失ったり安定した職に就けなくなるなど、生活全般に狂いが生じるリスクも高まるでしょう。
前科がつくと、海外旅行を計画する際にも、特別な申告が必要になる場合があります。このように、前科がつくことによって、普通の社会生活が送れなくなる可能性があります。
【加害者側】示談を行う具体的な手順
侮辱罪の加害者になった場合に、なすべきことを解説します。まず必要なのは、早急に被害者と示談交渉を行うことです。以下に、被害者との示談交渉の流れを簡潔に説明します。
- 被害者に連絡を取る
示談交渉をするためには、被害者に連絡を取る必要がありますが、捜査機関は加害者に被害者の個人情報を直接提供しないため、弁護士を通じて連絡を行うことになります。
- 被害者と交渉を行う
被害者が示談に応じる場合、具体的な示談金額や条件について話し合い、合意を目指します。
- 示談書を作成する
交渉が成立したら、合意内容に基づいて示談書を作成します。この際、示談書には「加害者の処罰を望まない」という旨の記載を、含めるケースが多いです。
- 示談金の支払い
示談書を取り交わしたら、速やかに示談金を支払います。
- 示談書を提出する
示談書と示談金の支払いを証明する書類を、関連する機関に提出します。起訴前であれば警察や検察、起訴後は係属裁判所に提出します。
示談書の内容
示談書に記載すべき具体的な内容は、以下の通りです。
- 事件の詳細
示談が関連する事件を明確にするため、事件の内容を詳述します。具体的には、事件の発生日時や場所、加害者および被害者の氏名、被害の内容、損害額などを詳細に記載することが重要です。 - 示談の条件
示談金の金額や支払い方法など、賠償金の支払いに関する条件を明示します。また、接触禁止や謝罪文の送付など、金銭以外の条件がある場合も併せて記載することが大切です。
示談交渉が難航するケース
被害者と円滑に示談交渉を進めたくても、難航する場合もあります。以下のような場合は、示談交渉が難しくなります。
- 被害者の連絡先が不明
事件によっては、被害者が加害者に個人情報を開示することを避ける場合もあります。被害者の心情を考えると、それも当然かもしれません。弁護士を通じても被害者の情報が得られない場合、示談は難しくなるでしょう。
- 被害の深刻さ
被害者が死亡したり、被害額が大きい場合は、示談が難しくなることがあります。被害者の処罰感情が強いと、示談交渉が逆効果になることも考えられます。
加害者が被害者との示談で得られるもの
刑事事件の示談では、加害者が被害者に対して示談金を支払い、謝罪するのが一般的です。加害者が被害者との示談を成立させると、以下のような利点があります。
- 刑罰が軽減される可能性が高まる
示談は、加害者と被害者の間で私的に行われるものであり、国家による処罰とは別の問題です。示談が成立すると、被害者に対する民事上の損害賠償は解決しますが、加害者と国家との関係は依然として残ります。
そのため、示談が成立しても、検察官が「起訴が適当」と判断すれば、起訴される可能性はあります。しかし、示談が成立し被害者が厳罰を望まない意思表示をしたり、告訴を取り下げれば、刑が軽くなったり不起訴になることもあります。
- 被害者からの損害賠償請求のリスクがなくなる
被害者がいる刑事事件では、加害者は刑事責任だけでなく、被害者への損害賠償責任も負うことになります。しかし、示談をすることによって、民事上の損害賠償責任を果たすことにもなります。そのため、一度示談が成立すれば、被害者から新たに損害賠償請求を受けるリスクはなくなります。
まとめ
侮辱されたら、証拠集めをして相手を訴えましょう。ネットの誹謗中傷も、サイト運営者やプロバイダに情報を開示してもらうことによって、告訴が可能となりますが、そのためには弁護士に手続きを依頼した方が手続が円滑に進みます。侮辱罪で訴えられたら、すぐ示談交渉に入りましょう。その際も弁護士のサポートがあると、円滑に進められます。