会社(法人) が破産をすると?【経営者向け】相談のタイミングや個人債務について、適用される条件は?
【この記事の法律監修】
金 浩俊弁護士(第二東京弁護士会)
金法律事務所
会社(以下、法人)の経営が傾き、経営者が「再建できない」と確信したとき、破産(以下、法人破産)を選択することができます。法人破産の手続が終了するとすべてが清算され、経営者の懸念は解消されます。
「ハサン」という言葉にネガティブなイメージを持つ人は多いと思いますが、法人破産の目的は「債務者の財産の適正かつ公正な清算」と「債務者の経済生活の再生の機会の確保」にあります。
この記事では法人破産をあらゆる角度から解説していきます。この記事を読めば、法人破産がどのような法律行為であり、経営者に何をもたらし、どのように手続を進め、法人破産によって何が起きるのか、がわかります。
法人破産とは何か【基礎編1】
法人破産の根拠法である破産法の第1条は、破産の目的を次のように説明しています。なお法人の破産も個人の破産も破産法で規定しています。
破産法第1条(目的)
この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
法人破産の目的が、清算と再生であることがわかります。
それでは法人破産の基礎知識を確認していきましょう。
破産法の目的~財産にフォーカス
破産法第1条を箇条書きにすると、法人破産の目的がみやすくなります。
■破産法第1条を箇条書きにしたもの
破産法の目的は、
- 支払不能・債務超過にある法人の財産を適正・公正に清算すること
- 債権者・利害関係人の利害、債務者と債権者の権利関係を調整すること
- 債務者の経済生活の再生の機会を確保すること
にあります。
ここから法人破産の対象となるのは、支払不能・債務超過にある法人であることがわかります。なお支払不能とは、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいい(破産法2条11項)、債務超過とは、法人が持つ財産をもって債務を完済できない状態のことをいいます(破産法第16条)。
さらに破産法が財産にフォーカスしていることもわかります。破産とは、法人が保有するすべての財産を金銭に換えても借金(債務)の総額に届かない状態のことなので、法人が保有する財産を、債権者に対して、どのようにわけていくかが問題になるわけです。
法人破産をするには破産手続が必要
法人破産はどのように始めるのか。
法人破産は、裁判所に対して手続開始の申し立てを行うことで始まります。なお申し立ては法人(債務者)だけでなく債権者も可能です(破産法第18条)。
裁判所が破産手続の開始を決定すると破産管財人が選任され、破産管財人が法人の財産を金銭に換えて債権者に配当(分配)します。配当が終わると破産手続は終了します。
具体的な手続方法については、後段の「法人破産の流れ【基礎編2】」で紹介します。
法人は消滅し、法人の返済義務はなくなるが、経営者の個人保証は残る
破産手続が終了すると、つまり法人が破産すると、法人格が消滅して債務の返済義務がなくなります。つまり法人は存在しなくなり、法人は借金を返済しなくてよくなります。
ただし経営者については、例えば金融機関から借入をしたときに個人保証契約を締結していれば、法人が消滅したあとも返済義務が残ります。
法人破産後に経営者が、金融機関から個人保証に基づく返済を求められたとき、経営者自身も個人破産が必要になるケースが考えられます。場合によっては、個人破産を回避できないときは2つの破産手続を同時に行うことがあります。
法人破産は数ある倒産の形の一つ
法人破産と倒産は混同されがちですが大きな違いがあります。法人破産は、数ある倒産の形の一つです。
倒産とは、日常用語であって厳密な定義はありませんが、ここでは、法人が経営を継続できない状態のことと考えます。一方、法人破産は裁判所を介して法的に清算する手続を指します。
法人破産の流れ【基礎編2】
上記の基礎編1で法人破産の概要を理解できたと思います。本章では基礎編2として、具体的に法人破産がどのように進んでいくのかを解説します。
ステップ1:弁護士に相談する
法人破産の手続は経営者が単独で行うこともできますが、一般的には経営者が弁護士に相談することから始まります。経営者は弁護士と一緒に破産手続を進めていくことになります。
また弁護士は、破産手続だけでなく経営者の「明日」も一緒に考えていきます。詳しくは後段の「『弁護士を雇わずに法人破産しないほうがよい』といえる理由」の章で解説します。
ステップ2:裁判所に申し立てて決定される
裁判所に対して破産手続の開始の申し立てを行います。裁判所は、法人に借金などを返済する資力がないと判断すると破産手続の開始を決定します。
決定が下されると破産手続が始まるわけですが、その方法は同時廃止型と管財型の2つがあるので、以下ではわけて紹介します。
なお破産手続開始決定が下ると、法人破産する法人は破産者と呼ばれるようになるので、ここでも以降は破産者と呼びます。
ステップ3-1:同時廃止型
破産者が、債権者に配当するお金などの財産(財産)を持っていない場合、同時廃止型によって破産手続が行われます。
同時廃止型は、破産手続開始決定と同時に決定され、破産手続は即座に終了します。破産手続はこれですべて終わります。しかし、法人破産の場合は財産状況や債権・債務関係が複雑な場合が多いため、法人破産において同時廃止で破産手続が終了するケースはあまりありません。
ステップ3-2:管財型
破産者が財産を有している場合や調査が必要な場合、管財型で破産手続が進みます。このとき、裁判所は破産管財人を選任します。破産管財人は弁護士でなくてもなれますが、大抵は弁護士が就任します。裁判所は通常、弁護士会の破産管財人候補者名簿のなかから破産管財人を選びます。
なお破産管財人になる弁護士は、破産者(経営者)が破産申立てを依頼する弁護士とは別人になります。
(管財型)ステップ4:破産管財人の仕事
破産管財人の役割は、破産者の財産を金銭に換えて債権者に配当することであり、そのために次のことをします。
- 破産管財人の仕事
- 破産者の財産状況を調査する
- 破産者の財産を売却して金銭に換価する
- 債権者の債権の有無や債権額を調査する
- お金を債権者に配当する
(管財型)ステップ5:終了
お金が配当されたら、裁判所は破産手続の終了を決定します。
管財型の破産手続はこれですべて終わります。
地方裁判所に提出する書類
法人破産の流れは以上になりますが、そのほかにも細かい注意事項がありますので紹介していきます。
破産手続の申し立ては、法人の所在地を管轄する地方裁判所に対して行います。そのとき必要になる書類は以下のとおりです。
- 申し立てをするときに提出する書類
- 破産申立書:破産手続を利用したい旨を書いたもの
- 債権者の一覧表
- 住民票
- 財産目録
- 収入状況がわかる書類
申立手数料は1,500円(収入印紙)ですが、そのほかに裁判所が定める手続費用や郵便切手が必要になります。なお法人破産に必要な費用の総額はあらためて後段で紹介します。
法人破産のより詳しい解説【応用編】
ここまでの説明はあくまで基礎になります。法的手続は上記の基礎編1と2で完結するのですが、実際の法人破産では、法的手続以外のことがハードルになることが多いでしょう。だからこそ経営者に弁護士のサポートが必要になるわけです。
この応用編では、法人破産を検討している経営者が疑問に思うことに回答する形で解説していきます。
法人破産を弁護士に相談するタイミングはいつがよいのか
経営者の頭に法人破産がよぎったらすぐに弁護士に相談したほうがよいでしょう。経営や経済に強い弁護士なら、法人破産の道も、法人破産しない道も模索してくれるはずです。そして法人破産が避けられない場合は、弁護士は経営者に、よりダメージが少ない策を提示します。
相談するタイミングが早いほど、より良い選択肢を提示できます。逆に切羽詰まった段階で相談してしまうと、弁護士といえども限られた選択肢しか提案できません。
法人破産にいくらかかるのか
お金に困って法人破産するわけですが、法人破産の手続きにも相応のお金がかかります。その総額は法人の規模が大きくなるほど高額になります。
裁判所に支払うお金には、手続に関するものと予納金の2つにわかれます。手続に関する費用は、申立手数料、官報公告費、予納郵券で計数万円です。
予納金は、破産管財人に支払う費用などに使うもので、負債額によって70万~1,000万円以上と幅があります。予納金を支払わないと裁判所は破産手続開始決定を出しません。
予納金が支払えない場合は、予納金が20万円に減額される少額管財制度を使うことになります。それも負担できない場合は同時廃止型になります。
経営者が弁護士を雇う場合は、その費用も必要で、100万円程度が目安になりますが、これも法人の規模などによって異なります。
従業員と取引先、債権者にいつ、どのように知らせたらよいのか
法人破産は、法人の従業員と取引先、債権者にとって大きな衝撃になります。なるべく従業員や取引先に迷惑がかからないタイミングを見計らって、お知らせすることになります。
法人破産すると従業員は解雇になるので、解雇日や給与、退職金、解雇予告手当について説明できるようにしておきます。
取引先は、当該法人が消滅することで売上が減ったり、部品が納入されなくなったりするなどの打撃を受けることになるので、代替策を提示できることが理想です。
破産者が雇った弁護士がすべての債権者に受任通知を送ると、すべての債権者は破産者に対して借金の取り立てや督促ができなくなります。担保付きの債権者は、受任通知を受け取ったあとも担保権を行使することはできますが、それ以外の取り立ては禁止されます。
なお受任通知は、弁護士が破産手続の依頼を法的に正式に受けたことを知らせるものです。
債権者に対しては裁判所または破産管財人が通知しますが時間がかかる可能性があるので、債権者にも従業員や取引先に知らせるタイミングで知らせたほうがよいでしょう。破産管財人が債権者集会を開き、法人破産に至った経緯や配当について説明します。
債権者のうち融資を受けている金融機関には、法人が雇った弁護士が法人破産する旨の通知を送付します。これ以降は法人とその経営者は介さず、弁護士が金融機関と話し合います。
法人の資産と負債の算定はどのように行われるのか
破産管財人は法人(破産者)のすべての財産の管理処分権を有します。このような、破産手続が開始したときに破産者が有しているすべての資産のことを総称して破産財団といい、たとえば不動産、設備、自動車、在庫、売掛金などを含みます。
さらに、破産者が提出した財産目録に記載がない財産や債権者が発見できなかった財産を探すことも破産管財人に求められます。悪意ある破産者の場合、意図的に財産を隠匿することがあるので、決算書類、勘定科目内訳説明書、確定申告書、預貯金口座の入出金履歴を調べたり、関係者から情報を集めたりします。
法人破産と似ている特別清算とは
特別清算は、法人破産とは異なる、法人を清算する手続です。終了後に法人が消滅することは、法人破産も特別清算も同じです。
ただ特別清算の根拠法は破産法ではなく会社法になります。手続きは特別清算のほうが、法人破産より簡便ですが、債権者の3分の2以上の同意が必要です。破産手続は債権者の同意は不要です。
私的整理~話し合いで解消する
債権者が少なく負債額が少額なら、関係者が話し合って法人を倒産させる方法があります。これを私的整理といいます。私的整理には裁判所が関与しません。
ただ私的整理の場合でも経営者は弁護士に相談したほうがよいでしょう。なぜなら私的整理では、裁判所が関与しないので、のちのちトラブルになる危険があるからです。弁護士が私的整理に関与することで、トラブルの種を摘むことができます。
再建~破産させない方法
窮地に陥った法人に手を差し伸べる方法には再建や事業再生の道もあります。
経営危機でも再建の道がある
法人破産すると、つまり法人が消滅してしまうと、法人の収益力を当てにしていた経営者本人、従業員、取引先や債権者は債権の満足を得ることが難しくなります。そのため、もし法人破産を回避して、法人の経営を継続できる可能性があるのであれば再建を目指したほうがよいと判断することもあります。
私的整理とは対の概念として、法的に倒産することを法的整理といい、そのなかには債務者の経済的再建を目指す再建型倒産があります。倒産という言葉がついていますが、再建型倒産では事業の継続を図りながら再建を目指します。再建型倒産には会社更生、民事再生、および特定調停があり、これらの手続きを順に解説します。
法的整理(法的倒産) | 私的整理 | ||||
清算型倒産 | 再建型倒産 | ||||
法人破産 | 特別清算 | 会社更生 | 民事再生 | 特定調停 |
なお上記で説明した法人破産と特別清算は、法的倒産のうち清算型倒産になります。
会社更生とは
会社更生による再建とは、経営破綻や倒産に陥った法人が、会社更生法に基づいて裁判所の監督下で再建計画を立て、事業を継続する手続きです。会社更生では、裁判所が指名する管財人の管理下で再建を目指すので、法人の元の経営者は経営に関わることはできません。
従業員の雇用は維持されることが多く、取引先は再建計画に応じて取引を継続できる場合があります。
債権者は、債務の一部が削減されたり支払いが延期されたりすることがありますが、一部の債権は回収できるでしょう。
民事再生とは
民事再生による再建とは、破綻や倒産の危機にある法人が、民事再生法に基づいて自ら経営を続けながら再建計画を立て、事業の再生を図る手続きです。
従業員の雇用は維持されることが多く、取引先も取引を続けることが可能です。債権者は債務の減額や支払い条件の変更を受けることがありますが、一部の債権は回収できます。
民事再生は経営者が経営を続けながら再建できるところが、会社更生と異なります。
特定調停とは
特定調停とは、債務の返済ができなくなる恐れのある法人の事業再生を図るために、裁判所の調停委員が債務の利害関係の調整を行う手続です。調停委員が法人と債権者の双方から事情を聴いたり事実調査を行ったりしたうえで、当事者が話し合います。
調停委員には裁判官のように最終的な決定を下す権限はありませんが、特定調停によって合意が成立するとその内容が調書に記載され、確定した判決と同一の効力が生まれます。したがって法人は合意内容にしたがって弁済すればよく、それ以上の取立てを受けることはありません。
事業再生ADRと企業再生支援協議会について
そのほかの再建方法として事業再生ADR制度と企業再生支援協議会による支援があるので紹介します。
事業再生ADR制度は経済産業省が所管している仕組みで、経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者が関与することで、過大な債務を負った法人が法的整理手続によらずに、金融機関などの債権者の協力を得ながら事業再生を図ります。根拠法は産業競争力強化法です。
法人(債務者)が特定認証紛争解決事業者に事業再生ADR制度の利用を申請し、受理されると債権者会議が開かれ、債権者の全員が事業再生計画案に同意すると、再生に着手できます。事業再生ADR制度は私的整理の一種です。
企業再生支援協議会は経済産業省が所管する組織で、経営危機にある法人を支援します。同協議会は、各地域の商工会議所や金融機関、法律・会計の専門家などが参加し、企業再生に向けた情報提供や支援を行います。
事業再生ADR制度も企業再生支援協議会による支援も、従業員の雇用維持、取引先との取引の継続、債権者による一部債権の回収にプラスに働くでしょう。
M&A
M&A(合併・買収)は倒産や再建、事業再生とはジャンルが異なりますが、法人破産を回避するために使うこともできます。経営危機にある法人がほかの法人と合併したり買収されたりすることで財務的な問題を解決でき、事業が継続されるからです。
しかしM&Aにおいては、従業員の雇用維持、取引先との取引の継続、債権の回収については、買い手法人の意向が大きく影響します。そのため、売り手法人(経営危機にあった法人)の希望が必ずしも通るわけではなく、慎重な交渉と計画が必要になります。
まとめに代えて~「弁護士を雇わずに法人破産しないほうがよい」といえる理由
経営者の頭に法人破産がよぎったら、すぐに弁護士に相談したほうがよいでしょう。さらにいえば、弁護士を雇わずに法人破産をしないほうがよいでしょう、ということもできます。
その理由を紹介します。
弁護士はベストまたはベターな選択肢を提示する
法人の経営に行き詰まったとき、経営者が取りうる方法は複数あります。弁護士なら、法人破産を含め、あらゆる方法を選択肢として経営者に示すことができます。
経営者はそのなかからベストの策を選ぶことができます。状況によってはベストの選択肢がないこともありますが、それでも最低でもベターな選択肢を取ることはできます。
返済の督促が止まる
経営危機にある法人の運営で経営者を悩ませるのは、債権者からの返済の督促です。経営者が法人破産の手続に着手しようとしても、債権者から頻繁に連絡が入っては作業が進みません。
経営者が弁護士に依頼して、弁護士が債権者に受任通知を送付すれば返済の督促は止まります。また債権者とのコンタクトも弁護士に依頼することも可能です。
従業員や取引先、債権者に安心感が生まれる
法人破産をすることは、いずれ従業員、取引先、債権者に伝えなければなりません。そのときこの三者は少なからぬ影響を受けるわけですが、経営者の横に弁護士がいれば安心できます。なぜなら「弁護士がいれば、法に則って公正に破産手続を進めてくれるだろう」と思えるからです。
弁護士が従業員、取引先、債権者の動揺を抑えることができれば、経営者はスムーズに手続きを進めることができます。
経営者を守る
経営者は、法人破産の手続に入るとさまざまなストレスにさらされます。必要書類を集めるストレス、説明するストレス、責めに耐えるストレス、対人関係のストレス、財産の売却のストレスなど。
弁護士はこれらのストレスを減らす助けをしてくれます。それは経営者のメンタル・サポートになるでしょう。
「10分でも効果があります」まず相談を
経営者が法人破産で目指すことは、現状を少しでも良くすることです。それには複数の選択肢のなかからベストまたはベターな策を選ぶ必要があり、弁護士はそれを提供できます。
経営者はまず、今困っていることと、自分の希望を紙に書き出してみてください。そして弁護士に電話をかけて、その紙に書いてあることを読み上げてください。10分の相談でも効果が得られるはずです。法人破産において弁護士は、それくらい頼りになる存在です。