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誹謗中傷・開示請求とは?【被害者側、加害者側】具体的な言葉や事例、慰謝料はどれくらい?

【この記事の法律監修】  
稲生 貴子弁護士(大阪弁護士会) 
瀧井総合法律事務所

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1.そもそも誹謗中傷とは

慰謝料が請求できる「誹謗中傷」とはどのようなものなのでしょうか。

1-1.ネットでの誹謗中傷について

近年、誹謗中傷による事件が話題になることがとても多くなっています。日頃たくさんの人が利用しているSNSなどを中心として、匿名や偽名で投稿を行えるのをいいことに、言葉によって個人を攻撃する事案が発生し、社会的問題にもなっていますね。

5ちゃんねる・ホスラブ・爆サイ等の匿名掲示板や、ツイッター等のSNS・個人ブログ・YOUTUBE動画やそのコメント欄などでよくみられる誹謗中傷。著名人に対する悪口や批判から、一般人を対象にしたものまで幅広く、たくさんの投稿が日々行われていますが、その中でも「法的問題」と認められる誹謗中傷があります。

そもそも誹謗中傷とは具体的にどういったものを指すのでしょうか。もし、自分が誹謗中傷の対象となった場合に、匿名の相手に対して慰謝料を請求することはできるのでしょうか。軽い気持ちで投稿した文章が誹謗中傷として大事に発展した場合、どうしたらいいのでしょうか。

本記事では、私たちの身近な問題となった「誹謗中傷」について、どのような事案が法的問題となると判断されるのか、誹謗中傷の被害者になってしまったらどうすればいいのか、また、誹謗中傷の加害者といわれたらどのように対応すればいいのかということについて、詳しく解説していきます。

1-2.どこからが誹謗中傷なの?

「誹謗中傷」とは、「根拠のない悪口やデマを言いふらして他人の名誉を損なう行いのこと」をいいます。「誹謗中傷」は法律用語ではないので、「誹謗中傷」であるから即座に法的問題であり、慰謝料の請求が認められるわけではありません。

それでは、どのような言葉が法的問題となる「誹謗中傷」となるのでしょうか。

インターネットにおける誹謗中傷は、その内容によって大きく刑事上の問題となる場合と、民事上の問題となる場合にわけることができます。

インターネット上の誹謗中傷が刑事上の問題となるのは、書き込まれた文言が、「脅迫罪」(刑法222条)「名誉毀損

罪」(刑法230条)「侮辱罪」(刑法231条)等の、刑法で規定された犯罪に当たると判断される場合です。

例えば、とある不動産業者を対象として「詐欺不動産」、「対応が最悪の不動産屋。頭の悪い詐欺師みたいな人」などとインターネットサイトに掲載が行われたことがありました。この投稿は、刑事罰の対象となりました。

希望通りの対応を受けることができなかった顧客による口コミ投稿で、一時の怒りによるものだったかもしれません。ですが、業種によっては口コミが大きく事業に影響する場合もあり、単純な「インターネット上の悪口」では済まない場合があります。

1-3.誹謗中傷されたらどうすればよいの?

誹謗中傷された場合にとれる手段として、まず警察に相談することが考えられます。

警察では被害相談を行うだけでなく、「被害届」を出すことができます。被害届とは、犯罪によって被害を受けた事実を捜査機関に申告する届出で、犯罪捜査規範61条に規定されています。これは、警察という捜査機関に犯罪の存在を認識してもらうことで、捜査をはじめるきっかけとするものです。

ただし、被害届はあくまで被害者による犯罪事実の申告であるので、捜査をはじめるかどうかは警察の判断に左右されます。警察が悪質であり、迅速な捜査の開始が必要であると判断しなかった場合は、捜査の開始がされないかもしれません。

そこで、警察に確実に捜査をしてもらう手段として、「告訴」をすることが挙げられます。「告訴」とは、被害者等が、犯罪事実を捜査機関に申告し、犯人の処罰を求める手続きで、刑事訴訟法
230条によって規定されています。

「告訴」は口頭でも可能ですが、多くの場合「告訴状」を捜査機関、つまり検察官又は司法警察員に提出して行います。告訴状とは、簡単にいうと告訴をしたい旨が書いてある書面です。

「被害届」と異なり、「告訴」は、犯人の処罰までを要求する行為です。警察は、告訴を受理した場合は速やかに事件を検察官に送付しなければなりません。また、事件を送られた検察官には、起訴・不起訴の判断結果を被害者に告知する義務があります(刑事訴訟法260条)。不起訴処分の場合、被害者に求められたときには、理由も告知しなくてはなりません(刑事訴訟法261条)。

このように、被害届と異なり法的効果を有する手続きが「告訴」なのです。

告訴は多くの場合、告訴状と呼ばれる書面の提出によって行われます。告訴状の作成権限は特に規定されていないため、ご自身で作成することも可能です。

しかし、そもそも誹謗中傷の被害を受けたときに、刑事告訴をするべきであるかということ、また、どのような文言が刑法上違法となるかということは、非常に専門的な判断が求められます。

ちなみに、濫用的な告訴を防ぐために、虚偽告訴罪(刑法172条)という法律も規定されています。このことからも、告訴という手続きは重大な効果を持ち、慎重に行うべきものだということがわかります。

弁護士に依頼した場合は、告訴の適法性の判断にとどまらず、警察への被害相談の際の同席、告訴状の文案作成から告訴状提出への同行も可能です。

また、警察へ被害の相談をする際も、弁護士がいれば、事前に証拠保全のアドバイスをしたり、警察に被害状況を適切に伝えたり、迅速な捜査を促すこともできます。

誹謗中傷を受けた際、事態をそのままにするのではなく、告訴をはじめとした適切な対応を検討している場合は、まずは弁護士に相談することが適切といえます。

ここまでは、

刑事上の問題となる場合について説明してきました。

ここからは、

民事上の問題となる場合について説明します。

誹謗中傷被害を受けたとき、刑事手続きとは別に、民事上の損害賠償請求等をすることも考えられます(民法709条)。刑事上、民事上

手続きは、同時に行う場合もあります。

例えば、インターネットにおける誹謗中傷事案で損害賠償請求が認容された事例として、プロとして活動する女性雀士に対する「整形しすぎ」「整形雀士」との書き込みをした者が、名誉毀損により不法行為責任を負うとした裁判例があります。

ただし、損害賠償の請求や裁判手続きは、相手の住所地などの情報がなければ進めることができません。また損害賠償請求の相手方が対象となる投稿を行った人であることを、被害者が立証する必要もあります。インターネット上の誹謗中傷は、多くの場合匿名で行われているので、まずは顔の見えない相手の情報をいかにして得るかということがポイントとなります。

そのためにとれる手段として適切なのが、発信者情報開示請求、いわゆる「開示請求」と呼ばれる手続きです。

2.今話題の「開示請求」とは

「開示請求」とは、発信者情報開示請求のことを指します。問題となる文言が投稿された掲示板などの管理者からIPアドレスの開示を受けることで、投稿者が使用したプロバイダを特定し、プロバイダに対して投稿者に関する情報開示を求める手続きです(「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法第5条))。

つまり、「開示請求」とは、誹謗中傷をした投稿者ではなく、まずは投稿者の情報を持っているだろうとされる相手に対して行う手続きなのです。仮処分命令が出た場合は、裁判所による命令となるため、プロバイダ側は公開を拒否することが難しくなります。

そして、投稿者の情報が開示された後に初めて、投稿者本人に対して損害賠償請求を行うという流れになります。

このためには、まずは証拠を保全することが必要です。インターネット上の情報は日々更新されており、見つけたらその場で証拠を確保しなければ、投稿者の編集などにより証拠がなくなってしまう恐れが大きいからです。

裁判では、証拠に基づき判断されることから、証拠の保全が何よりも大切となります。

実際にはどのようなものが証拠となり、どのような情報と共に保存することができれば効果的であるかということは、事案によって異なってくると言わざるを得ません。

また発信者情報開示請求を行うにあたり、プロバイダに投稿者の情報が保存される期間は数か月と短期間であるため、速やかに手続きを行う必要があります。そのため発信者情報開示手続きを希望される方は、できるだけ早い段階で弁護士に相談するのがよいでしょう。

多くの事例に触れている弁護士であれば、現在受けている誹謗中傷の情報を整理し、証拠として残すサポートを行うことができるでしょう。

では実際に「開示請求」を行うときは、どうすれば良いのでしょうか。具体的な流れを説明します。

誹謗中傷が書き込まれたサイトについて、①サイトを管理しているプロバイダと、②書き込みを行った人がインターネットに接続するために経由したプロバイダ(アクセスプロバイダ)は異なります。そして投稿者の住所や氏名等の情報を保有しているのは②アクセスプロバイダであるものの、ウェブページからは②アクセスプロバイダが誰かは分かりません。そのため、まず、①サイトの管理を行っているプロバイダ等に、②アクセスプロバイダのIPアドレスを開示するよう求め、開示された後、②アクセスプロバイダに投稿者の情報について開示請求を行い、手続きが二段階に分かれます。まず、第1段階の手続では、誹謗中傷が掲載されたサイトの管理人やサーバー管理者

に対して投稿者のIPアドレスを開示する旨の仮処分命令を出すように裁判所に申立てます。これも証拠の保全のための手続きです。これは、裁判所を通した手続きとなります。なお、一部サイトでは、弁護士等の専門家が専用の窓口からIPアドレスの開示請求を行うことで、訴訟手続き外で開示に応じるものもあります。とはいえ任意に開示に応じるサイトは多くはありません。そのため速やかに仮処分命令申立てを行うのがよいでしょう。

その後、無事仮処分命令が出てIPアドレスが開示されたら、投稿者が使用したプロバイダが判明します。そして、当該プロバイダを相手にして発信者情報開示請求訴訟を提起します。このとき、プロバイダに対して任意で情報を開示するよう交渉することもあります。

その後、裁判所が「プロバイダは発信者情報を開示する義務がある」と判断するか、もしくはプロバイダが任意に開示してくれれば、プロバイダから投稿者に関する情報を得ることができます。

ここでようやく、特定された誹謗中傷の投稿者に対して、民事上の損害賠償請求を行うことができます。

以上の通り、開示請求は、仮処分→IPアドレス特定→発信者情報開示請求訴訟という3つの段階で進んでいくのが基本の流れでした。

ただし、2022年10月1日に改正プロバイダ責任制限法が施行され、「発信者情報開示命令」ができるようになりました(プロバイダ責任制限法第8条)。

これにより、一度の裁判手続きで掲示板の管理者と投稿者が使用したプロバイダの双方に対する請求をまとめて行うことができます。またこの請求は「非訟事件」の手続であることから、通常の訴訟に比べて簡易な手続きで行われ、通常の訴訟に比べて進行のスピードも速い傾向にあり

、開示請求が従来にくらべて手軽にできるようになりました。新旧いずれの方法でも、開示請求は行えます。

以上のように、「開示請求」は、誹謗中傷を受けた際の「証拠の保全」と、複雑な「裁判手続き」を同時かつ、迅速に行わなければなりません。

また、先ほどお話しした通り、裁判所は証拠によって物事を判断するため、証拠を確保しておくためにできるだけ初期の段階からプロフェッショナルである弁護士のサポートがあると安心でしょう。

3.誹謗中傷の被害者

ここまでは、誹謗中傷を受けたあとの基本的な法的手続きの流れを説明してきました。

ですが、誹謗中傷の被害を受けている場合、まずは自身のできる範囲での対処を進めたいと考えるかもしれません。そこで、まずはどのように対処するのが良いかを説明していきます。

3-1.まずは誹謗中傷を止めたい!

インターネット上でいわれのない誹謗中傷を受けた場合、「一刻もはやく対象の文言を削除してほしい!」と思うのが自然でしょう。そうすると、まずはメールフォーム等から、当該掲示板などの管理者(管理企業や個人など)へと連絡を取り、該当文言の削除依頼を出すことなどが考えられます。

しかし、インターネットにおける匿名の誹謗中傷は、繰り返し執拗に行われることが多いです。仮に、その当該誹謗中傷が削除されたとしても、同じようなことが繰り返された場合、一件一件削除依頼を出すのは手間もストレスもかかります。サイトによっては、削除要請を行うと削除要請の内容そのものが掲載され、二次被害が生じる恐れもあります。また、削除されたことから自分のターゲットが誹謗中傷を把握している!ということが相手に伝わり、余計に投稿者を刺激する可能性があるなど、効果的とはいえません。誹謗中傷の対象となる文言そのものを削除することが効果的ではないケースもあります。また、そもそも管理者が一切対応してくれないサイトもあります。

さらに、誹謗中傷文言そのものは証拠になる可能性があります。効果的な形での証拠の保全を行う前に削除が進められてしまうと、その後の法的対応が適切にできなくなってしまう危険性もあります。なお、誹謗中傷の文言そのものを削除するのではなく、検索結果を削除することが効果的な場合もあります。

被害を受けた場合、一刻も早い解決を望むのは自然ではありますが、自分で対応する前に弁護士に相談すれば、弁護士の名前で任意交渉をしてくれたり、削除前に効果的な形での証拠保全を行えるようになります。

3-2.弁護士費用はいくらかかるの?

弁護士に依頼するときの費用については、事案の複雑さや請求することのできる金額などによって異なってくるため、一概に判断することはできません。

弁護士予約サービス『カケコム』での法律相談料は10分2,000円、20分4,000円、30分6000円が相場で、相談時間も10~30分が最も多いです。

また、弁護士は事件を開始するときの対価として着手金を、事件が終了したときの成功報酬として報酬金を受け取るという料金体系をとっていることが多いです。

着手金及び報酬金は、請求金額の何パーセント、という算定を行うものもあれば、一定額の手数料で定めているものもあります。

ただし、分割支払いや完全成功報酬型を採用している弁護士もいますので、まずは相談してみるのがよいでしょう。

3-3.損害賠償を請求したら貰える金額は?

こちらの請求が認められれば、弁護士費用と損害賠償を得ることができます。裁判では、全面勝訴した場合は弁護士費用も全て回収できるでしょう。

3-4.損害賠償請求はいつまでにすればいいの?

インターネットの誹謗中傷にもとづく損害賠償請求は、不法行為に基づく損害賠償請求であるので、損害および加害者を知った時から3年、または誹謗中傷があったときから20年で時効により権利が消滅します(民法724条)

もっとも、発信者のログがプロバイダに保存されている期間はわずか数か月と短いことから、発信者情報開示請求を行う場合は、なるべく早めに弁護士にご相談下さい。

4.誹謗中傷の加害者

ここまで、誹謗中傷の被害を受けた場合について説明してきました。

最後に誹謗中傷を「してしまった」、加害者として開示請求をされた場合にとるべき行動についてお話していきます。

4-1.プロバイダから連絡が来た場合、どうすればいいの?

いままで解説してきた通り、開示請求が行われた場合、投稿者の情報はプロバイダが開示することになります。そのとき開示を求められたプロバイダから投稿者に対して開示に同意するかどうかの意見照会書が届く場合があります。

この意見照会書は、投稿者宛に送られてくるため、ご自身で回答することが可能です。大抵、投稿者の個人情報をプロバイダが開示することに同意するかどうかということを聞かれる内容になっています。

では、この意見照会書は急いで返送をするべきなのでしょうか。

4-2.ちょっと待って!そのまま訴訟となることも……

この同意書が届いたということは、既に投稿者が使用したプロバイダが特定されているということです。仮に、投稿者がプロバイダに対して開示に不同意であるとの意見を述べても、その時点で裁判所やプロバイダの判断で情報が開示されてしまう可能性が高いです。

特に裁判所がIPアドレスを開示する旨の命令を出した場合ですと、既に裁判所によって、投稿者がインターネット上に投稿した文言は違法性が高いと判断されているということになります。よって、その後は投稿者本人への民事訴訟等、法的な手続きが進行していく可能性が大きいのです。

そうすると、プロバイダからの意見照会書が届いた段階で、投稿者本人の判断によって回答書を提出しても、その後の手続きが不利に進んでいくことは避けられないでしょう。

4-3.弁護士に相談することで早期解決をめざすことができる

しかし、この段階で弁護士に相談すれば、民事訴訟を提起される前に示談交渉によって解決できる可能性もあります。

また、仮に訴訟になったとしても、慰謝料を減額する等の交渉や、相手とのやりとり、裁判所とのやりとりも全て任せることができます。

いずれにせよ、既に手続きが進んでいる状況では、その場の感情に任せた対応をとるのではなく、しっかりとその後の流れも見据えた対応をする必要があると言えるでしょう。一日も早く、弁護士に相談するのが良いと考えられます。

4-4.情報が開示された!家族や職場にばれることはあるの?

プロバイダの意見照会までは、なんとか周囲に隠すことができるかもしれません。しかし、その後は裁判所からの呼出状が届いたり、相手方との直接のやり取りが生じる可能性が高く、家族と同居をしている場合などでは、隠し続けることは困難でしょう。

原則として、職場に連絡がされることはありません。しかし、故意に引越しをするなどして住所を隠したり、賠償金を支払わずに対応を先送りにし続けた場合には、いずれは給料の差押えなどが発生する可能性もあります。そうなってしまいますと、職場側に何らかの事情が伝わり、誹謗中傷をした加害者であるという情報が拡散してしまう可能性もあります。あまり理想的な対応であるとは言えません。

5.まとめ

以上、本記事では、インターネット上で誹謗中傷された場合の被害者と加害者、それぞれのとるべき対応、開示請求の流れについて解説しました。

被害を受けた場合と、加害者になってしまった場合。いずれにせよ、いかに早期にプロフェッショナルである弁護士の介入ができるかどうかでその後の結果が大きく変わってしまうと言わざるを得ません。

インターネットにおける誹謗中傷案件は、法的な案件の中でもかなり専門性が高く、迅速な処理が求められる事案です。困ったらすぐに経験豊かな弁護士に相談してください。

 

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