懲役とは?執行猶予がつく場合や期間、減刑するためには?
【この記事の法律監修】
松本 理平弁護士(第一東京弁護士会)
青山北町法律事務所
日本では、自由を奪う刑罰として「懲役刑」が存在します。懲役は、罪を犯した者に反省を促し、社会復帰を目指すための制度です。
人生には予期せぬトラブルや困難がつきものです。時に重大な犯罪に手を染めてしまい、重い刑罰に直面する可能性もあります。そんなときは、弁護士に相談することで、専門的な法的アドバイスを受けられます。心の平穏を保ちながら、最良の結果を目指すことができるでしょう。
もしも弁護士に相談しないと、不利な結果や精神的な負担の増加など、多くのリスクを伴います。弁護士のサポートを受けることが、幸せな未来を築くための重要なステップとなるでしょう。
本記事では、懲役について詳しく解説します。社会復帰、弁護士への相談まで詳しく紹介しますので、最後までご覧ください。
1.懲役とは
懲役とは、犯罪を犯した個人に対して科される刑罰の一つであり、一定期間刑務所に収監されることを意味します。日本の刑法では、懲役刑は通常刑務所での拘禁と労働を含む刑罰で、犯罪の重大さに応じて刑期が決まります。
1-1.懲役刑と禁固刑の違い
懲役刑と禁固刑は、どちらも自由を拘束される刑罰ですが、懲役刑は労働が義務付けられています。禁固刑は、反省を促すことを目的としており、原則として労働は行いません。
禁錮について、刑法第13条で以下のように記されています。
(禁錮)
第十三条禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。
2 禁錮は、刑事施設に拘置する。
引用:e-Gov法令検索 刑法(明治四十年法律第四十五号)
拘留は、身体の自由を制限する刑罰の一つで、強制的な労働を伴わない点で禁錮刑と類似しています。ただし、拘留はその期間が短く、30日未満に限定されています。具体的には、1日以上30日未満であれば拘留が適用され、30日以上の場合には禁錮刑となります。
(拘留)
第十六条拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
引用:e-Gov法令検索 刑法(明治四十年法律第四十五号)
1-2.懲役刑と罰金刑の違い
罰金刑は、金銭を支払うことで罪を償う刑罰です。一方、懲役刑は、身体的な自由を奪い、刑務所内で一定期間過ごすことを余儀なくされます。罰金刑が科されるのは、比較的軽微な犯罪である場合が多く、自由を奪う懲役刑とはその性質が大きく異なります。
両者について実務上は、罰金刑より懲役刑の方が自由の制約の程度が強い重い刑と考えられています。
罰金刑について、刑法第15条で以下のように記されています。
(罰金)
第十五条罰金は、一万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、一万円未満に下げることができる。
引用:e-Gov法令検索 刑法(明治四十年法律第四十五号)
また、罪の重さによっては、懲役刑と罰金刑の併科もあり得ます。例えば、経済犯罪や飲酒運転による重大な事故などで、罰金と懲役が併せて科される場合が考えられます。
1-3.懲役刑の期間はどう決まるのか
懲役刑の期間は、犯した犯罪の性質、犯行の手口、再犯の可能性などを考慮して裁判所が決定します。法定の刑期範囲内で量刑が決まりますが、被害者との示談成立や反省の態度も重要な判断材料となります。
懲役について、刑法第12条で以下のように記されています。これは懲役の期間や具体的な刑務作業の内容を定めた法律条文です。
(懲役)
第十二条懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
引用:e-Gov法令検索 刑法(明治四十年法律第四十五号)
1-4.懲役刑と再犯率の関連性
法務省が公開している犯罪白書のデータを参考に、懲役刑と再犯率の関連性について解説します。
平成27年版犯罪白書の調査では、性犯罪を含む事件で懲役刑を受けた1,791人を対象に、裁判確定から5年間の再犯状況を分析しました。1,016人が実刑を受けた中で、再犯をした者の割合が調べられました。その結果、性犯罪前科者232人の再犯率が特に高く、再犯防止には懲役刑だけでは不十分であることが示されました。再犯には犯罪内容や被害者の属性も影響するため、個別の対策が必要だと言えるでしょう。
(参考:法務省 平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第1節)
1-5.懲役刑と不起訴処分の関係
不起訴処分とは、検察官が事件を裁判にかけないと判断することです。不起訴となれば裁判が開かれることもなく、懲役刑が科されることはありません。
2.懲役刑の社会的な影響とは
懲役刑は、受刑者本人だけでなく、家族や社会全体にも大きな影響を与えます。懲役刑の社会的な影響を紹介します。
- 住民票、戸籍への影響
- 選挙権、公民権への影響
- 社会復帰への影響
- 外国籍の人が懲役刑を受けた場合の影響
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1.住民票・戸籍への影響
懲役刑を受けた事実は、住民票や戸籍に記載されません。ただし、長期の収監など、場合によっては、刑務所に入所するため、住民登録は抹消されることがあります。その場合、住所が収監される刑務所と同一のなるため、前科が第三者に発覚して就職などの生活面での支障が生じる可能性があります。
2-2.選挙権・公民権への影響
懲役刑を受けると、選挙権や公民権が一時的に停止されることがあります。選挙権や公民権は、刑期が終了した後に回復します。
公益選挙法の第11条では、以下のように定められています。
(選挙権及び被選挙権を有しない者)
第十一条 次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一 削除
二 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
引用:e-Gov法令検索 公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)
2-3.社会復帰への影響
懲役刑を受けることで、社会生活においてさまざまな困難に直面することがあります。周囲の人々の理解が必要ですが、前科の存在が障害となることがあります。
また、懲役刑を受けると、家族に精神的・経済的な負担がかかることが多いです。職場への影響も大きく、解雇されるケースや仕事を継続できないケースもあります。
2-4.外国籍の人が懲役刑を受けた場合の影響
外国籍の人が懲役刑を受けた場合、刑期終了後、強制退去となる可能性があります。日本での永住権や滞在許可が取り消され、再び日本に入国することが制限されるケースが考えられます。
令和4年には、入管法違反で1万3,000人の外国人に退去強制手続きが行われました。違反理由としては、不法残留が最も多く88.7%を占め、次に刑罰法令違反が5.1%、不法入国が1.7%でした。
(参考:法務省 令和5年版 犯罪白書 第4編/第9章/第1節/3)
3.執行猶予について
執行猶予とは、懲役刑や禁錮刑が確定したとしても、一定期間、刑の執行を猶予することです。初犯や軽犯罪の場合に認められることが多く、社会復帰のチャンスが与えられます。この期間中、罪を犯さなければ、刑罰を受けることなく社会生活を送ることができます。
執行猶予について、刑法第25条で以下のように記されています。
(刑の全部の執行猶予)
第二十五条次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
引用:e-Gov法令検索 刑法(明治四十年法律第四十五号)
4.前科について
前科とは、過去に刑罰を受けた事実を指します。前科があると、就職、住居の確保、信用取引などで不利になることがあります。また、社会的な偏見や差別を受ける可能性もあり、日常生活に支障が出ることがあるでしょう。
前科は報道などがされない場合には調べることは困難ではあります。ただし、転職の場合に前職への信用調査などが入りそこから転職先に懲役の事実が告げられることもあるので、職場へは懲役の事実はなるべく知らせないようにすることが社会復帰のためという面もあります。
5.社会復帰プログラムについて
刑務所内では、職業訓練や教育プログラムなど、社会復帰に向けたさまざまなプログラムが実施されています。社会復帰プログラムには、就職支援も含まれ、再犯防止と社会適応を目指します。
6.仮釈放について
仮釈放とは、刑期の一部を終えた後に、模範的な態度を示している場合に認められる制度です。通常、刑期の3分の1を経過した段階で仮釈放の審査が行われ、社会復帰が可能と判断された場合に釈放されます。
仮釈放には、服役態度が良好であること、再犯の可能性が低いことなど、いくつかの条件があります。仮釈放を受けたい受刑者は、仮釈放申請を行う必要があります。
また、万が一仮釈放中に再犯した場合には、仮釈放が取り消され、残りの刑期を刑務所で過ごすことになります。
7.懲役刑を避けるためには
では、懲役刑を避けるために、どのような方法があるのでしょうか。
- 弁護士に依頼する
- 被害者と示談交渉する
上記2つの対策方法を紹介します。
7-1.弁護士に依頼する
刑事事件に巻き込まれた場合、早期に弁護士に相談することが重要です。弁護士は、法律の専門家として適切な弁護方針を立て、刑を軽減するための交渉を行います。
弁護士は、証拠の収集や分析を行い、無罪を主張したり、執行猶予付きの判決を目指したりします。また、示談交渉などを通じて、被害者との合意形成を図ることもあります。
懲役刑を避ける、または減刑してもらうための弁護方法には、さまざまな戦略があります。有罪を認める場合、どの程度の罪状を認めるかが重要です。例えば、意図的な犯罪と過失による犯罪では刑罰が異なるため、意図の有無や犯行の意図を争うことができます。
精神的な障害や心理的な状態が影響している場合、精神鑑定を依頼することで、刑罰の軽減が認められることがあります。鑑定結果を基に、刑罰を軽減するよう主張するケースも考えられます。弁護士と協力して、具体的な状況に応じた戦略を立てることで、より良い結果を得られる可能性が高まるでしょう。
7-2.被害者と示談交渉する
被害者との示談が成立すれば、不起訴処分になったり、刑が軽くなったりする可能性があります。場合によっては、示談交渉によって懲役刑が回避できるケースもあります。ただし、示談が成立するか、示談によって刑が軽くなるかは、事件の状況や被害者の意向によって異なります。
一般的に、捜査機関は、加害者本人が被害者と示談交渉をしようとすることは、被害者に対する報復や脅迫による示談の可能性を危惧するため、弁護士を通じた示談交渉以外は認めないことも多々あります。そのため、いずれにせよ弁護士に示談交渉を依頼することになることが多いです。
8.刑務所内の様子について
刑務所は、犯罪を犯して有罪判決を受けた人々が刑期を過ごす場所であり、厳格な規則のもとで生活が営まれています。日本の刑務所は、受刑者の更生を目的とし、規則的で規律ある生活を通じて社会復帰を支援する役割を持っています。
刑務所内の生活は、受刑者にとって厳しい制限を伴うものですが、同時に受刑者の心身を健康に保つためのさまざまな配慮がなされています。
刑務所内での生活は、日々のスケジュールが細かく決められており、食事・作業・休憩・睡眠など、受刑者が個別に選択できる自由はほとんどありません。これは、規則的な生活を通じて受刑者に社会のルールを再確認させ、社会復帰後の生活に役立てるためです。
また、受刑者は刑務官や他の職員によって管理・指導を受け、特定の時間に割り当てられた労働や学習、社会復帰プログラムに従事することが義務付けられています。
実際に収監される刑務所は、犯罪の重さや種類によって異なり、軽微な犯罪を犯した者が重大犯罪を犯した者と同じ場所に収監されるようなことがないような配慮もされています。
8-1.刑務所内での労働内容
日本の刑務所では、受刑者が懲役刑の一環として労働に従事することが義務付けられています。この労働は、単に刑罰としての側面だけでなく、受刑者が社会に復帰するための訓練やスキル習得の機会を提供するものでもあります。
刑務所内での労働内容は、受刑者の年齢や体力、技術的なスキルに応じてさまざまな種類があります。
- 縫製作業
- 印刷作業
- 家具製作
など。
受刑者が労働を通じて社会の一員としての責任感を取り戻し、仕事に対する意識を高めることが期待されています。また、労働の成果によって得られる収益は、一部が受刑者の給与として還元され、残りは社会の福祉事業に使われることが多いです。
8-2.刑務所内で病気や怪我をした場合
刑務所内での生活では、医療ケアも重要な課題の一つです。受刑者が病気や怪我をした場合、刑務所内には医務室が設けられており、基本的な治療が行われます。受刑者の健康は刑務所の管理下にあり、病気や怪我を放置することは人道的にも問題があるため、刑務所内の医療体制は充実しています。
多くの刑務所には医師や看護師が常駐しており、受刑者が体調を崩した際にはすぐに診察を受けることができます。風邪や軽い外傷などの比較的軽度の症状であれば、刑務所内の医務室で対応可能です。医務室には、基本的な薬や治療設備が備えられており、受刑者が必要に応じて利用することができます。
受刑者の健康状態は日々チェックされており、定期的に健康診断が実施されます。特に高齢の受刑者や、持病を持つ受刑者に対しては、定期的に体調管理が行われています。
また、刑務所内の医務室では対応できない重篤な病気や怪我の場合、刑務所外の病院で治療を受けることも可能です。
8-3.刑務所内でのトラブルや暴力に対する対策
刑務所内では、受刑者同士のトラブルや暴力が発生することがあります。そのため、刑務所では以下のような対策が講じられています。
まず、受刑者はグループや班に分けられ、厳密に管理されます。監視カメラや監視員が常に受刑者の行動を監視し、異常行動やトラブルが発生した際には速やかに対応できる体制が整っています。
また、暴力行為を未然に防ぐために、受刑者の心理状態を把握するためのカウンセリングが行われることもあります。加えて、刑務所内では受刑者同士のコミュニケーションが限定されるよう配慮されており、集団での行動が制限される場合もあります。
9.懲役に関するよくある質問
最後に、懲役に関するよくある質問をまとめました。
9-1.初犯の場合、懲役刑は避けられるのか?
初犯であっても、犯罪の内容によっては懲役刑を避けることができないケースもあります。しかし、比較的軽微な犯罪であったり、被害者との示談が成立していれば、執行猶予が付与され、懲役刑を免れることもあります。執行猶予とは、一定期間犯罪を犯さなければ懲役刑が実際に執行されない制度で、初犯の場合はこれが適用される可能性が高いです。
9-2.刑期を短縮する方法はあるのか?
刑期を短縮する方法としては、「仮釈放」があります。
また、裁判の段階で弁護人が情状酌量を主張し、刑期そのものを軽減することも可能です。 平成16年11月17日に裁判が行われた 強盗致傷被告事件では、裁判所は被告人の反省の態度や生育環境などの情状を酌量し、執行猶予が言い渡されました。
具体的には、被告人が犯行当時19歳の少年であったことや、劣悪な生育環境にもかかわらず前科がなく、犯行直後から事実関係を素直に認めて反省していることなどが考慮されています。また、被害者が被告人の行為を許し、公判の場で執行猶予を希望していることも情状として述べられています。
(参考:最高裁判所 裁判例検索 平成16(わ)3638 強盗致傷被告事件)
9-3.過去に懲役刑を受けた場合、再犯時の量刑はどうなるか?
再犯について、、同種の犯罪で再び有罪判決を受けた場合、裁判所は再犯のリスクを考慮し、厳しい刑罰を課す傾向があります。過去に懲役刑を受けた方の再犯時には、執行猶予が適用される可能性も低くなります。
9-4.保釈金を払っても懲役は避けられないのか?
保釈金を支払うことで、起訴後判決までの間、一時的に身体の自由を得ることは可能ですが、これは裁判の結果に影響を与えるものではありません。裁判の結果、有罪判決が下されれば、懲役刑が科されることがあります。
保釈はあくまで裁判中の一時的な措置であり、懲役刑そのものを回避するためには裁判で無罪や執行猶予を勝ち取る必要があります。
9-5.罪状認否で懲役刑に影響はあるか?
罪状認否は、被告人が自分の罪を認めるか否かを表明する場面です。罪を認めた場合、裁判所はその態度を評価し、情状酌量の対象となる可能性があります。その結果、懲役刑が軽減されたり、執行猶予が付与されたりする場合があります。
9-6.無罪を主張する場合の懲役回避の方法は?
無罪を主張して裁判を争った場合には、裁判所が証拠の状況に応じて判決を下しますが、罪を認めないこと自体が刑の重さに直接影響を与えるわけではありません。
無罪を主張する場合は、しっかりとした証拠や証言を基にした弁護が必要です。弁護士の助けを借りて、事実関係を明確にし、罪を犯していないことを証明することで懲役刑を回避することができます。無罪の主張を通すためには強力な法的サポートが不可欠です。
また、無罪を主張しつつ、被害者と示談すること自体も可能ではあります。ただし、被害者としては、無罪を主張していること自体に嫌悪感を抱くかたも多々いらっしゃるため、無罪弁事と示談交渉を両立させるためには弁護士によるサポートが必要なケースがほとんどです。
10.まとめ
この記事では、懲役刑の概要から、社会復帰、弁護士への相談までを詳しく解説しました。
「自分は大丈夫」そう思っていても、誰もが予期せぬ事態に巻き込まれる可能性があります。万が一、刑事事件に直面した時、的確な判断と行動が、その後の人生を大きく左右するでしょう。
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早期の相談が、安心して未来へ進むための第一歩となります。