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貞操権侵害とは?【された側、した側】具体例や相場、必要な証拠は?

【この記事の法律監修】  
中間 隼人弁護士(横浜弁護士会) 
なかま法律事務所

貞操権の侵害は、非常にデリケートな問題です。法律や社会通念も複雑に絡み合う問題であり、性的な合意がないまま相手の権利や意志を侵害する行為が問題となります。

貞操権を侵害された側の方は、相手が既婚者だと知った際、すぐに弁護士に相談しましょう。辛いと思いますが、既婚者と知った状態でそのまま関係を続けていると、相手のパートナーから逆に不貞の慰謝料請求をされてしまう場合があります。

また、貞操権を侵害し慰謝料請求をされてしまった場合には、弁護士に依頼をして減額などの措置をとってもらいましょう。

本記事では貞操権侵害について詳しく紹介します。慰謝料請求ができる具体例や相場も解説しますので、最後までご覧ください。

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1.貞操権侵害とは

貞操権侵害とは、個人の性的な自己決定権や貞操に対する権利を侵害する行為のことです。

1-1.貞操権侵害に関する法律

貞操権については、法律上では明確に規定されていません。ですが、不法行為に関する一般的な規定によって保護されています。貞操権は、民法709条の権利または法律上保護される利益の保護、および民法710条の人格的利益の保護から導かれる権利として認識されることが多いです。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
引用:e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)

貞操権侵害の関連法規は、個人の性的自己決定権やプライバシー、また名誉を守る目的を持っており、特に結婚を前提とした交際において重要視されます。法的背景を深く理解することで、状況に応じた適切な対応が可能になるでしょう。

1-2.貞操権侵害の社会文化的な影響

貞操権侵害は、法律だけでなく、社会文化的な影響も受けています。社会的な価値観や通念が、貞操を重んじる行動に影響を与えることがあるため、文化的背景を理解することも重要です。

例えば、ある国や地域では結婚前の性的関係が特に非難されることがある一方で、他の国や地域ではそれが許容される場合もあります。これらの文化的な違いは、貞操権に関する事件の見解や判決に少なからず影響を与えることがあります。

また、民法には具体的な明文規定はありませんが、貞操権は夫婦が互いに配偶者が他の人と性的関係を持たないよう求める意味も含んでいます。この権利は夫婦間において非常に重要です。

民法では、第752条で以下のように定められており、夫婦は同居し、互いに協力し扶助し合う義務があります。

(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
引用:e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)

貞操権は個人の尊厳を守るために重要な権利であり、社会的な認識の向上や法整備が求められる分野だと言えるでしょう。

1-3.貞操権侵害で慰謝料請求できる具体例

貞操権侵害が成立するケースを以下に紹介します。

・相手が既婚者であることを隠し、独身であると偽っていた場合
・結婚を前提に関係を持った場合
・相手との間に肉体関係があった場合
このような状況では、貞操権の侵害とみなされる可能性があります。

具体例としては、結婚を約束していたにもかかわらず、その約束が嘘であったことが判明し、結果的に性的関係を持つことになった場合です。このような場合、相手が故意に誤解を与え、貞操を侵害したとみなされることがあります。

結婚に希望を抱かせるような言動があった場合にも、慰謝料を請求できるケースがあります。

1-4.貞操権侵害で慰謝料請求できない具体例

次に、貞操権侵害が成立しないケースを紹介します。

  • 相手と肉体関係がなかった
  • 相手が既婚者であると知りながら交際を継続していた場合
  • 相手から結婚を持ちかけられていない場合
  • 貞操権侵害を証明するための証拠がない場合

このような状況では、貞操権の侵害が成立しない可能性があります。相手と肉体関係がなければ、貞操権侵害にあたる性的自由への侵害は成立しません。

また、いわゆるセックスフレンドとして、性行為自体に合意があったと判断される場合には、貞操権侵害で慰謝料請求することは難しいでしょう。相手が結婚を考えていないことを知っていた場合や、相手と会ったのが数回だけだった場合も、貞操権侵害で慰謝料請求できない可能性が高いです。

1-5.貞操権侵害の時効とは

貞操権の侵害による慰謝料請求には期間制限があるため、注意が必要です。民法724条では、以下のように定められています。

第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
引用:e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)

自身の貞操権が侵害された事実とその加害者を知った日から3年が経過すると、その慰謝料請求権は時効により消滅してしまいます。そのため、この期間内に慰謝料を請求しないと、請求する権利を失います。

また、貞操権の侵害が実際に起こった日から20年が過ぎると、被害者がその事実や加害者を知っているかどうかに関係なく、慰謝料請求権が時効により消滅します。事実が発生した時点から20年以内に請求を行う必要があります。

2.貞操権侵害の慰謝料の相場

貞操権侵害に対する慰謝料は、裁判では10万円から100万円程度が相場とされていますが、これはあくまでも目安です。被害者の状況や加害者の行為の悪質性など、個々のケースによって金額は大きく変わります。

ここでは、具体例を2つ見てきましょう。
平成23年12月13日判決が言い渡された事件では、被告が原告に対して支払うことになった慰謝料は75万円とされています。それに加えて、平成22年6月27日から完済まで年5%の利子がつけられることになっています。
(参考:最高裁判所 裁判例検索 平成22年(家ホ)第9号 認知等請求事件

最高裁にて昭和44年9月26日に判決が下された事件では、被控訴人は控訴人に対して60万円の慰謝料を支払うことになりました。また、この金額に対する昭和38年7月23日から支払済みまで年5分(5%)の割合による利息も合わせて支払うべきとされています。
(参考:最高裁判所 裁判例検索 昭和44年9月26日判決

3.貞操権侵害に関する判例

ここでは、貞操権侵害に関する裁判例をもう一つ紹介します。

この判決文は、原告AとBが被告に対して、Aの認知と、被告の不貞行為による慰謝料請求を行った事案です。原告Bは、被告が妻との婚姻関係が破綻しており離婚する意思があるという虚偽の言動によって肉体関係を持ち妊娠・出産に至ったと主張しました。

被告は、原告Bとの関係は出会い系サイト内の出来事であり、サイト内のやり取りは遊びのようなものだったと主張しました。しかし裁判所は、被告が原告Bに対し、虚偽の内容を含む結婚・離婚に関する話をしていたこと、避妊をせずに性交渉に応じさせていたことなどを認定し、原告Bの貞操権を侵害したと判断しました。

その結果、原告Aと被告の親子関係が認められ、被告は原告Bに慰謝料を支払うよう命じられました。被告の虚偽の言動が原告Bの貞操権を著しく侵害したことが認められ、慰謝料請求が認められる結果となりました。

判決文では、被告の主張の矛盾点や、原告Bの供述の信憑性についても詳細に検討されており、最終的には客観的な証拠に基づいた判断がなされています。
(参考:最高裁判所 裁判例検索 平成22年(家ホ)第9号 認知等請求事件

4.既婚者だと知りながら交際を続けた場合のリスク

出会った時は独身だと思っていても、交際中に相手が実は既婚者だったと判明するケースは少なくありません。もしも、その事実を知った後も関係を続けてしまうと、さまざまなリスクが伴うことを理解しておく必要があります。

不倫は社会的に許されない行為とされています。そのため、関係が公になると、会社を解雇されたり、社会的信用を失ってしまうかもしれません。

また、既婚者と知って関係を続けていたら、相手のパートナーから不貞慰謝料請求がきてしまう恐れがあります。「好きになってしまったものは仕方ない」と思う気持ちも理解できますが、既婚者との恋愛は、あなた自身だけでなく、周りの多くの人を不幸にする可能性を秘めていることを理解しましょう。

5.【被害者側】貞操権侵害をされたら

この章では、貞操権侵害をされた側の方向けに、対策方法を紹介します。貞操権侵害をされた側の方とは、つまり相手が独身だと思っていたのに既婚者だったという方、いわゆる被害者です。

  • 弁護士に相談する
  • 証拠を集める
  • 内容証明を送る
  • 示談書を作成し慰謝料を請求する
  • 訴訟を起こす

それぞれ詳しく見ていきましょう。

5-1.弁護士に相談する

相手が独身だと思っていたのに既婚者だったことが判明したら、貞操権侵害やプライバシーの問題に詳しい弁護士に相談し、事実関係を整理します。弁護士のアドバイスを受けながら、以下のステップへと進みましょう。

5-2.証拠を集める

次に、貞操権の侵害に関する証拠を集めます。貞操権侵害があったことを証明する客観的な証拠がないと、慰謝料の請求が難しい可能性がありますので、証拠集めが重要です。

メッセージやメール、手紙など、相手とのやり取りを可能な限り保存します。デジタルデータについてはスクリーンショットを撮り、バックアップを取ることを忘れないようにしましょう。

また、日記やメモも役立ちます。起こった出来事、会った日時、場所、会話の内容などを日記やメモに記録します。詳細なタイムラインを作成すると後々役立つことがあるでしょう。

5-3.内容証明を送る

相手が交渉に応じる姿勢を見せている場合は、連絡を取り合い、交渉の日程を調整します。もしも、相手が交渉に応じず、和解に達しなかった場合は、内容証明郵便を利用します。

内容証明郵便を使用すると、慰謝料請求の通知がいつ発信されたかが、相手だけでなく、郵便局にも記録されます。さらに、配達証明を付けることで、郵便が相手に配達された日時を示す配達証明書が郵便局から送られ、郵便が相手に届いたことの証拠となります。

5-4.示談書を作成し慰謝料を請求する

示談が成立したら、示談書を作成します。以下は、示談書に記載する内容の一例です。

  • 双方の氏名、住所
  • 事実関係の確認
  • 支払い額と支払い期限
  • 今後の対応について
  • 示談後の一切の請求を行わない旨の条項

示談書には、合意内容を明確に記載し、双方署名・捺印します。その後、示談書に基づき、相手から慰謝料を受け取ります。合意されたスケジュールに従い、支払いが行われることを確認しましょう。

5-5.訴訟を起こす

弁護士による交渉でも相手が慰謝料を支払わない場合、訴訟を起こすしかありません。その際は、法律と裁判手続の専門家である弁護士のサポートを受けながら、訴訟準備を進めましょう。

6.【加害者側】貞操権侵害をしてしまったら

ここからは、貞操権侵害をしてしまった方、つまり、既婚者なのに独身だと偽ってしまった方向けに情報を解説します。

貞操権侵害で慰謝料請求をされてしまった場合、適切に対処することが重要です。まず、どのような行為が貞操権侵害とされているのか、具体的な内容や証拠を確認しましょう。そもそも貞操権侵害に該当するか、請求された慰謝料が妥当なものかの判断をする必要があります。

6-1.弁護士に相談する

弁護士に相談することで、あなたの行為が貞操権侵害なのかを専門知識を元に判断してくれます。万が一、慰謝料を請求された際の妥当な金額についても助言を受けられるでしょう。また、交渉や示談書作成まで対応してもらえるので、最善の解決策が見つかります。

6-2.示談書を作成し慰謝料を支払う

貞操権侵害をしてしまい、トラブルに発展してしまったら、示談によって解決することを検討します。示談は、双方が合意できる条件を見つけることを目標としています。

このようなケースはデリケートであるため、専門家のサポートを受けながら慎重に進めることが大切です。弁護士を通じて被害者との交渉を行い、合意に達することを目指しましょう。

示談が成立したら、示談書に記載された条件に基づいて、慰謝料等の支払いを行います。

7.貞操権侵害について弁護士へ依頼するメリット

では、貞操権侵害に関するトラブルが生じた際には、弁護士に依頼するべきなのでしょうか。結論を申しますと、弁護士への依頼を推奨します。

貞操権侵害に関して弁護士へ相談することは、さまざまなメリットがあります。

  • 法的知識に基づくアドバイス
  • 情報収集のサポート
  • 相手側とのスムーズな交渉
  • 精神的な負担の軽減

次章では、それぞれのメリットを詳しく解説します。

7-1.法的知識に基づくアドバイス

貞操権侵害は法的に複雑な問題であり、適用される法律や権利について理解することが難しい場合があります。弁護士は法律の専門家であり、最新の法的知識をもとに最適なアドバイスを提供することができます。

貞操権侵害をされた側もした側も、間違った対応をすると法的に不利な立場に立たされる恐れがありますが、弁護士の適切な指導のもとで進めることで、リスクを軽減し法的なトラブルを未然に防ぐことができます。

7-2.情報収集のサポート

貞操権侵害をされた側からの慰謝料請求や訴訟には、貞操権侵害の証拠が必要です。適切な証拠を収集し、それを有効に活用する知識と経験が求められます。弁護士は効果的な証拠収集や管理についてアドバイスをしてくれるので、裁判に備えることができます。

貞操権侵害に関する情報やデータが消失してしまう前に、専門の弁護士へ相談しましょう。

7-3.相手側とのスムーズな交渉

被害者や加害者が直接交渉することは、感情的なストレスやトラブルを引き起こす可能性があります。弁護士が間に入ることで、冷静で客観的な交渉が可能となり、トラブルを防ぐことができます。

精神的なショックを受けている場合に直接相手と連絡を取らずに済むことも、メリットの1つです。

7-4.精神的な負担の軽減

貞操権侵害による慰謝料請求の際、交渉が難航することもありますが、弁護士が交渉を代行してくれるため、自分で不快なやりとりを回避し、精神的負担を軽減できるでしょう。

恋愛や夫婦関係のトラブルは、心に大きな負担をかけるものです。一人で抱え込み、眠れない夜を過ごしている方もいるかもしれません。

そんな時、弁護士に相談し、慰謝料請求や相手方への対応を依頼することで、気持ちが楽になることがあります。法的専門家という味方が、あなたの代わりに問題解決に動いてくれるという安心感は、大きな支えになるでしょう。

8.弁護士に依頼する際にかかる費用

ここからは、弁護士に依頼する際にかかる具体的な費用を見ていきましょう。弁護士に依頼する際は、事前に料金体系をよく説明してもらい、納得した上で契約することが大切です。

今回は、相談料・着手金、示談書作成費用、印鑑証明費用について解説します。

8-1.相談料・着手金

初回相談料は、30分から1時間程度で5,000円から10,000円程度ということが多いです。一部の法律事務所では、初回の相談を無料で行っている所もあります。

着手金は、案件を依頼する際に支払う費用で、実施する業務の種類や内容に応じて変動します。案件の金額や難易度によって異なりますが、数万円から数十万円とされることが一般的です。

8-2.示談書作成費用

示談書作成に要する費用は、示談書の内容や事案の複雑さによって異なりますが、数万円程度が目安になることが多いです。一概にいくらとは言えません。具体的な費用については、依頼する前に見積もりを依頼すると良いでしょう。

9.まとめ

本記事では、貞操権侵害について詳しく説明し、それに関連する法律や慰謝料請求の事例について紹介しました。

貞操権は個人の尊厳を守るために大切な権利です。もし、貞操権が侵害された場合には、適切な対策を講じましょう。被害を受けたときや、逆に慰謝料請求を受ける立場になったときには、まず弁護士に相談し、状況を整理して対応することが大切です。

弁護士に依頼することで、精神的な負担を減らし、より良い解決策を見つける手助けをしてくれます。弁護士への相談は、あなたの生活をより豊かにするための大切なステップです。あなたの人生に新たな光をもたらす手助けとなるでしょう。ぜひ一度、専門家のサポートを受けてみることを考えてみてください。

この情報が、貞操権に関する問題を抱えている皆さんのお役に立てれば幸いです。

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