自己破産の手続きは?条件や影響、判断方法とは?
【この記事の法律監修】
佐藤 光太弁護士(札幌弁護士会)
ステラ綜合法律事務所法律事務所
”自己破産”という言葉は、誰しも一度は耳にしたことがあるかと思います。
しかし、単に”自己破産”と言っても、具体的にどのような状況のときに、どうやってするものか想像できない人は多くありません。
「クレジットカードが作れなくなるんでしょ?」「借金作りすぎた人がなるやつ!」という印象を持つ方が多いでしょうか。
今回は、自己破産の手続きの一連の流れをお伝えし、自己破産するとどのような効果があるのか、詳しく解説します。
1.自己破産とは何か
「自己破産」とは、裁判所に申立をして、最終的に借金の返済を免除してもらう手続のことをいいます。利息制限法(※1)の定めを利用して債務を圧縮しても、残債務が多く残ってしまう状況であるなど、現実的にこれ以上の弁済が困難な場合に検討するものです。
自分の支払える以上のお金を借りたり、クレジットカードを利用したり、ということを続けている人が、支払わなければならない金額がふくれあがって、これ以上は首が回らない、という状況になると行います。
つまり、簡単にいうと、借りたお金を返せなくなった場合に、裁判所が任命した専門家(破産管財人)が破産した人(破産者)に代わって破産者の財産を管理し、その財産をお金に換え、債権者への支払いに充てる手続きです。ただし、財産の換価の必要がない場合など、破産管財人が就任しない場合もあります。
なお、負債の整理方法は、自己破産だけではありません。弁護士による”私的整理(任意整理)”、裁判所による”特定調停”、”民事再生手続”などの方法もあり、それぞれ特徴が異なることは、先にお伝えしておきます。
「私的整理」(任意整理)、特定調停は、債権者との話し合いによって、債務を一部免除してもらったり返済期限を延ばしてもらったりして、今後の返済計画を立て、これにしたがって返済をしていく手続です。裁判所を通さずに、債権者との交渉によって新しい返済計画を立てていく、双方の合意に基づくものですので、債権者に同意してもらう必要があります。
「特定調停」とは、裁判所での調停手続を利用するものです。債務を一部免除してもらったり返済期限を伸ばしてもらったりして、返済計画を立てます。こちらは、裁判所が、債務者と債権者の間を取り持ってくれますが、これも債権者との間で合意する必要があります。
「民事再生手続」は、破産手続と同じく、裁判所が関与する倒産処理手続です。継続的に収入が得られるという見込みがある場合には、債務の一部免除や返済時期の変更などを内容とする再生計画を立て、裁判所の認可が得られた場合にはその効果が生じます。この手続きを利用した場合は、債務者が持ち家を残すことも可能な場合がある点が破産と大きく違います。
※1利息制限法は、お金の貸し借りに伴う利息や遅延損害金などの上限を定める法律です。この法律で定められた上限を超える金利(お金の貸し借りの際に発生する利息の割合)を設定していると、利息制限法を超える部分については無効になり、その分の利息は払う必要はありません。また、支払いすぎた利息については返還請求をすることができます。個人、法人どちらも対象です。
2.どのような手続きで行うのか
前述のとおり、破産手続きは、裁判所に対して申し立てをして行うものです。どのような手続きをするのか、一連の流れや必要な書類などについて詳しくお話します。
(1)一連の流れ
破産手続は、まず、貸主(債権者)に支払ができない借主(債務者=破産者)が、裁判所に破産の申立てを行うことにより始まります。債権者が申し立てることもできますが、債務者が自分で破産を申立てるのが「自己破産」です。
申立ては、債務者の住所地を管轄する地方裁判所またはその支部に提出します。このときの住所地は、住民票上の住所地ではなく、債務者が実際に居住しているところです。
裁判所は、その債務者が債権者に対する債務を返済することができない状態になっているかどうかを審査します。
審査の結果、返済ができないという状態であると判断されると、破産手続きの開始を決定します。
債務者に、不動産などの清算する必要のある財産を持っていると認められる場合は、破産管財人※2が選ばれて(管財事案)、その財産を売却等を行いお金に換えて、債権者に公平に分配する手続き(配当)に移ります。ただし、お金に換える財産には、生活に最低限必要なお金や生活用品などはあたらず、債務者の手元に残ります。
債務者が破産手続開始後も不自由なく生活を継続できるように残される財産を「自由財産」といいます。具体的には、99万円までの現金、差し押さえが禁止されている財産、債務者が破産手続開始後に新たに得た財産などです。これ以外についても、裁判所が判断すれば、自由財産の範囲が拡張されます。
一方で、債務者が清算を必要とするような財産がない場合については、破産管財人は選ばれません。全く資産がないとされた人で、免責不許可事由(浪費など)がない人は、破産手続きの開始と同時に破産手続きを終了(廃止)が決定(同時廃止事案)されます(会社等の法人を除く)。同時廃止後は、免責が認められるかどうかだけが問題になります。
破産手続開始決定は、債務者が支払不能であることを宣言し破産手続を開始するというものにすぎません。それだけでは負債に関する法律上の責任(支払義務)を免除する効果がないことに注意が必要です。
債務者が個人である場合、その財産をお金に換えて、債権者への支払いを行っても返しきれなかった債務があるとします。この場合に、裁判所の許可があれば、債務者は、法律上支払義務を免れることができます。これを「免責」といいます。
免責には、上記の破産手続きの開始とは別に、裁判所の免責決定を受けなければなりません。破産手続開始の申立てをした場合(法人等を除く)には、同時に免責許可の申立てをしたものとみなされますので、別に免責許可の申立てをする必要はありません(ただし、免責許可の申立てをしない旨の意思表示をした場合を除く)。
免責の申立てがされると、裁判所はその債務者の免責を許可すべきか否か審理し、前者であれば免責許可決定が出されます。この免責許可決定が出ると、債務者は債権者に対して債務を返済しなくてもよいことになります。
他方、資産がある人(目安は生活費を控除後20万円以上)や、免責に問題がある人の場合には、少額管財手続となり、破産管財人が選任され、債権者集会を経て、免責手続に進みます。免責手続きに進んだ人のほとんどが免責決定を受けています。
注意が必要なのは、支払義務を免れる対象となる財産の範囲です.。破産手続きが始まる前の契約などから負った債務(破産手続きが始まる前に借りたお金を返す義務など)に限られます。そのため、破産手続開始後にした買い物の代金の支払義務は引き続き支払わなければなりません。
※2「破産管財人」
裁判所が破産手続の開始と同時に選任する弁護士で、破産者の財産を管理・処分する役割を担っています。破産管財人は、破産者と主要な破産債権者と利害関係のない弁護士の中から選任されます。これは、破産者の資産調査や免責調査をする立場であるため、中立公平である必要があるためです。
(2)必要な書類
弁護士に依頼しないで申立てをする場合は、自己の責任ですべての書類を準備しなければなりません。必要な書類などが揃わないと手続きが進みませんので、注意が必要です。
なお、故意に記入しなかったり、虚偽の内容を記入すると、免責が認められないのは当然、処罰される可能性があります(破産法265条「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金)ので、正直に記入しましょう。
参考:破産法(平成十六年法律第七十五号)265条
①~⑧の項目についてはすべての申立人が用意しなければいけない書類です。以降のものは、該当する人のみ用意してください。
①申立書
②陳述書
③債権者一覧表
④滞納公租公課(税金)一覧表
⑤財産目録
⑥債権者宛名ラベル原稿
⑦添付書類一覧表
⑧身分に関する資料
⑨職業や収入に関する資料(当てはまるもののみ)
⑩現在の住居に関する資料
⑪過去の破産手続開始決定等に関する書類
⑫資産に関する書類
⑬営業関係の資料(自営業の人)
⑭その他
申立書を提出した後で、結婚、離婚、転居、就職、転職、退職、本籍地変更した場合は、裁判所に必ず連絡をすることを忘れないようにしましょう。
(3)裁判所での手続き
①申立費用
破産手続開始の申立てに必要な費用は次のとおりです(添付書類取得に要する費用は除く。)。なお、郵便切手や予納金については、個別事案や裁判所により異なる運用がなされているため、事前に裁判所に確認したほうがよいでしょう。
収入印紙:1,500円(免責許可の申立てをしない場合には1,000円)
郵便切手: 管財事案 約6,000円(債権者数又は債務者数が20人を越える場合には追加が必要。)
同時廃止事案 約5,000円(債権者数による。)
予納金 管財事案 40万円以上(事案の内容による。)
同時廃止事案 約12,000円
破産法や、その他の関連する法律について知らない場合や、解釈を間違えていたために、十分な主張や証拠の提出ができなかった場合などには、裁判所は申立てを棄却することもあります。
注意が必要なのが、前述のとおり、破産手続開始の申立てが認められたからといって、必ずしも負債に関する法律上の支払義務を免除する免責許可決定がされるわけではないということです。
3.自己破産をする人ってどんな人?
前提として、自己破産の申立ては、誰でもできます。借金の金額などによる条件はありません。しかし、先ほどお話したとおり、裁判所が破産手続開始決定を出して手続きを進めるためには、債務者が支払不能であることが必要です。
(1)自己破産をした方がいい人、状況は?
自己破産をした方がいい人は、借金をしすぎており、もはや支払いすることができない状況に陥った人(支払不能)です。
「支払不能」とは、債務者が借金を一般的および継続的に返済することができない状態をいいます。具体的には、今あるすべての借金を3年以内(36カ月)で返済できるかどうか、というのが目安となっています。
この計算は、毎月の収入から支出を差し引き、残りの金額×36カ月をすることにより導き出します。
(2)自己破産するための条件はあるの?
自己破産の申立てをするにあたっては、誰でも行うことができると申し上げましたが、破産に至る原因や、破産手続において不誠実な態度をとるなどの免責不許可事由があり、自己破産をしたとしても、借金の支払い義務が残るというケースもあります。
例えば、次のようなケースです。
① 破産手続や免責手続において虚偽の説明・陳述をした場合
② 浪費やギャンブルによって負債を増やした場合
③ クレジットで購入した商品をすぐに換金して負債を増やした場合
④ 財産を隠したり,価値を減少させるような行為をした場合
⑤ 支払能力について,債権者を欺いた場合
⑥ 過去7年以内に確定した免責許可決定を受けている場合
引用:裁判所「自己破産の申立てを考えている方へ」
4.自己破産をした人に対する効力
破産をすると、将来に悪影響があるというイメージがありますが、具体的にどのような影響があるのでしょうか。破産手続が開始すると、どのような効力があるのかについて説明します。
(1)自己破産するとどうなる?
破産手続きとは、債務者の財産を金銭に換えて債権者に公平に分配することを目的としています。これが開始されると、官報に氏名などが公告(掲載)され、一定の制限が発生します。これは、債権者が破産手続で権利を行使する機会を与えるためのものですので、免れません。
まず、影響のない点ですが、戸籍には載りませんので安心してください。基本的な権利である、選挙権、被選挙権も失いません。破産したことが裁判所から勤務先に通知されることは、勤務先が債権者である場合を除きありません。
ただし、租税等の請求権、債務者が悪意でした不法行為に基づく損害賠償請求権(人を傷つけようとしてその権利を侵害し、その相手方の損害を賠償する義務。例えば、人を騙した人が、その相手方の損害を賠償する義務)、故意や重大な過失により他人の生命身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(例えば、わざと人をケガさせた人に対し、その病院代や慰謝料などを支払う義務)、子どもの養育費、破産手続が始まる前に生じていた税金、罰金等には免責許可の効力が及びません(支払義務は免除されません。)。
また、債務者が知りながら債権者名簿(債権者一覧表)に記載しなかった請求権についても原則免責許可の効力が及びません。
①家族への影響(同居の有無で違いがあるのか?)
破産をしても家族には法的な影響はありません。同居している、していないに関係ありません。
②保証人への影響
債務者が免責許可決定を得ても、保証人にはその効力は及びません。
③金融機関からの借入れ、保証人、クレジットカード
銀行から新たに借り入れはできるのか、保証人になれるかどうか、カードは作れるのか、というような社会的な信用の問題は相手方の判断にゆだねられます。法律上の制限があるわけではなく、いわゆるブラックリスト次第、となります。
④職業
生命保険募集人・損保代理店・宅地建物取引主任者・警備員・風俗営業管理者・弁護士・税理士、後見人などになることが出来なくなります。免責許可決定が確定した場合は、この制約はなくなります(復権)。
⑤借金・給料・相続
債権者への支払に充てられるのは、破産手続が始まった時点で破産者が持っていた財産です。その後に破産者が取得した財産は債権者への支払には充てられません。
したがって、破産手続開始後に借りた借金については効力が及びませんので、新たに借りることができます。
破産手続き開始後に取得した給料や、債務者の親族が死亡して得た相続財産は、債権者への支払には充てられません。
⑥マイホーム、マイカー
マイホームは破産者の財産ですので、自己破産をすれば破産手続の中で換価処分されることになります。
自動車も同様ですが、ローンが残っている自動車は、通常、所有権留保になっているため、支払いを停止すれば返還をしなければならない場合もあります。新たに現金で安い中古車を購入することは可能です。
⑦その他
裁判所の許可なく転居や長期旅行ができなくなり(居住地から離れる自由)、破産管財人は、債務者宛の郵便物を破産管財人に転送させ、その郵便物を読むことができてしまいます。
ただ、居住地を離れるときに必要な許可は、親族の冠婚葬祭などで数日間遠方に行く場合などであり、許可がない限り一歩も自宅を離れてはいけないということではありません。
また、破産管財人に対し、財産状況などの説明義務が発生します。
5.弁護士に依頼する?
自己破産手続きは、債務者が一人で行うことができるものです。しかし、書類を過不足なく集めたり、裁判所や債権者とのやりとりはかなり時間と労力がかかるものです。そのストレスから解放されるために、弁護士を雇い、手続きをすべて委任することも一つの手です。
(1)メリット
2(3)でお伝えしたとおり、裁判所が申立てを棄却することもあります。
また、裁判所は、破産の手続に関する一般的な説明(手続案内)はしてくれますが、その人が破産手続開始の申立てをした方がよいか、どのようにしたら破産手続開始の申立てや免責が認められるかなどの相談(法律相談)には当然応じてくれませんので、具体的なご相談は弁護士にお願いすることがよいでしょう。
(2)デメリット
費用がかかる点です。
自己破産にかかる弁護士費用は30~50万円程度ですが、事務所によりますので、一度確認することがよいでしょう。
1回目の相談は無料であったり、区役所等で無料で相談できるイベントがあったりしますので、活用すると安心です。
6.まとめ
借金がふくらみ過ぎて、首がまわらなくなった、もはや自分では返しきれなくなった、ということは、家族や親しい友人でも相談しづらいものです。ほっておくと、どんどん状況は悪くなるばかり、ということもめずらしくありません。
そうなる前に、専門家に相談するなどして、状況を根本的に改善できれば、事態は好転します。借金を返しきれなくなった、と思ったらできるだけ早く信頼できる専門家に相談することが必要です。
専門家に相談する場合には、言いにくいことかも知れませんが、借金がふくらんだ原因や経緯など、正直に話しましょう。嘘をついてしまうと、適切なアドバイスができなかったり、不利な状況になったり、いいことはありません。
もちろん、裁判所や破産管財人などの問合せに対しても、正直に話すことは絶対です。財産を隠したり、一部の債権者に対してのみ支払いを行うと、不利益を受ける場合があります。
弁護士のアドバイスも参考にして、適切に対応し、ご自身とご家族の将来を守るお手伝いをいたします。