ひととき融資とは?【借りた側、貸した側】違法性やリスク、逮捕事例は?
【この記事の法律監修】
杉浦 正規弁護士(愛知県弁護士会)
西山・下出法律事務所法律事務所
SNSやネット掲示板を介して、ひととき融資と呼ばれる金銭の貸し借りが行われるケースがあります。
主に男性が女性にお金を貸し、その見返りに性交渉を要求することであり、犯罪に該当する可能性がある危険なものです。
この記事では、ひととき融資とは何か、ひととき融資は違法なのか、リスクや避ける方法、トラブルが発生した際の対処方法、ひととき融資が該当する可能性がある犯罪、裁判・事件の例などについて、借りたい女性と貸したい男性それぞれの立場から、詳しく解説しています。
この記事を読めば、ひととき融資のリスクを理解して、犯罪に巻き込まれたり、加担したりしないで済むでしょう。
なお、ひととき融資における男性と女性の立場は固定的ではありませんが、貸すのは男性であり、借りるのは女性であることが一般的です。
そのため、わかりやすさを優先し、当記事では男性は貸主・女性は借り手と立場を固定的に記載しています。
ひととき融資とは何か
ひととき融資とは、一般的には女性を借り手として、性交渉などを条件に金銭を貸し付ける、個人間融資のことです。
肉体関係をともなう「ひととき」を過ごした上で、お金を渡すことから、ひととき融資というネットスラングが生まれたと言われています。
SNSやネット掲示板において、借り手である女性と、貸し手である男性が出会い、双方の合意に応じて金額や返済条件などが決められます。
ひととき融資の実態
ひととき融資の実態とはどのようなものなのでしょうか。どのような男性が貸し手となっているのかと、どこでひととき融資が行われているのかについて解説します。
ひととき融資を行っている男性
ひととき融資を行っている男性は、一般人である場合と、一般人のふりをした闇金業者である場合があります。
性交渉を期待している一般男性は、SNSやネット掲示板に「お金を貸します」「相談に乗ります」と投稿して借り手である女性を探します。また、「お金を貸してください」という女性からの投稿に返信するケースもあります。
借り手である女性は、すでに多額の借金があり、金融機関から借りられない、ローンが組めないという事情を持った人が多いでしょう。
生活費が不足していたり、クレジットカードの支払いができなかったりして、他に相談できず、貸主である見知らぬ男性に頼ってしまう、シングルマザーや主婦や学生などが多いと言われています。
一方、貸主が実際には一般男性ではなく、闇金業者であるケースもあります。闇金業者からはお金を借りないようにしようと注意している女性であっても、一般男性からは借りてもいいと考えるかもしれません。
その心の隙を狙って、闇金業者が一般男性を装って、SNSなどに「お金を貸します」と投稿しているのです。
ひととき融資が行われる場所
ひととき融資が行われる場所は、XやLINEなどのSNSや、ネット上にある個人間融資の掲示板、2chや5chなどの掲示板などです。出会い系サイトで行われる場合もあります。
最初の募集は、オープンな場所で行われて、個別のやりとりに移ってからは、ダイレクトメッセージやLINEで行われるのが一般的です。
【借りたい女性】ひととき融資は違法なのか?
お金を借りたい女性にとって、ひととき融資は、基本的には違法ではありません。
ただし、当初から、借りたお金を返す意思がないのにもかかわらず、返済を約束して借りた場合には、詐欺罪に問われる可能性があります。これは、ひととき融資に限らず、「返す」と騙してお金を借りた場合に成立するものです。
【借りたい女性】ひととき融資のリスク
女性がひととき融資でお金を借りると、さまざまなリスクが発生してしまいます。リスクを理解して、ひととき融資に手を出さないように注意しなければなりません。
ひととき融資の主な5つのリスクについて解説します。
法外な利息・手数料を求められる
ひととき融資では、貸主が個人であっても闇金業者であっても、法外な利息を求められる場合があります。
例えば、借りたお金が10万円未満の場合、利息制限法では、上限金利は年20%までと定められています。
ところが、トイチ(10日で1割)、トサン(10日で3割)、トゴ(10日で5割)などの利息を課せられるケースがあります。トゴであれば、9万円借りた場合、10日後には4万5,000円の利息が付き、13万5,000円を返済しなければなりません。
このような高金利でお金を借りてしまうと、返済が難しくなってしまうでしょう。
また、利息とは別に、手数料を請求されることもあります。融資する前に、手数料や保証料という名目で、お金を振り込まされるのです。振り込んだ後に、貸主と連絡が取れなくなってしまうという詐欺の一種です。
性交渉を要求される
ひととき融資では、性交渉がさまざまな条件として利用されます。例えば、性交渉を条件にお金を貸したり、性交渉をすれば利息を免除すると言われたりします。また、返済できない場合には、性交渉することで返済期日を延ばしてもらう場合もあるでしょう。
全ての返済が終わるまで、肉体関係を続けさせられることが多いと言われています。
裸の画像・動画や個人情報をネットで公開される
お金を借りる際の条件として裸の画像を要求されたり、性交渉の際に動画や画像を撮影されたりする場合があります。
また、運転免許証の画像を送らされたり、氏名、住所、電話番号や勤務先などの個人情報の提供を求められることが一般的です。
完済できなかったり、性交渉を断ったりした場合には、裸の画像・動画や個人情報をネットで公開されたり、アダルトサイトに投稿されたりする可能性があります。
一度、ネット上に拡散されてしまった動画や画像を完全に削除することは難しいため、動画や画像を貸主に渡すことは危険です。
ストーカー被害を受ける
貸主が一般男性であるケースにおいて、借り手である女性がストーカー被害を受けることがあります。
住所や勤務先などの個人情報を伝えているため、連絡をしてきたり、訪ねてきたりして、交際を迫ってくる場合もあります。
お金を借りているために、借り手が警察への通報をためらっているうちに、ストーカー行為がエスカレートしてしまう危険性があります。
完済後にも、裸の画像・動画をネット上に公開することを脅しとして、関係を継続するように要求してくるかもしれません。
個人情報を闇金業者に流される
ひととき融資に手を出してしまうと、個人情報を闇金業者に流される可能性があります。
貸主が闇金業者であるケースだけではなく、闇金業者と関わりのある人だった場合にも、免許証画像などの個人情報を流されてしまうかもしれません。
借り手には、さらに不当な要求を突きつけられたり、脅迫を受けたりするリスクが発生してしまいます。
【借りたい女性】ひととき融資を避ける方法
女性が金銭的に困った場合にも、ひととき融資を避ける方法があることを理解しておきましょう。ひととき融資以外の手段と、困った際の相談先について紹介します。
ひととき融資以外の手段
金銭的に困った場合に、ひととき融資以外の手段として考えられるものを紹介します。
- クレジットカードのキャッシング
自分の持っているクレジットカードにキャッシング機能が付いている場合には、決められた枠内でお金を借りられます。ただし、すでに限度額一杯になっている場合には借りられません。 - 公的な融資制度
生活資金が不足して困った場合には、各地域の社会福祉協議会に相談して、無利息・低金利の公的な融資制度の利用を検討しましょう。
困った際の相談先
ひととき融資は、相手の男性が一般人なのか、組織と関わりがあるのか、恐喝などの可能性があるかなど自身では判断できない要素が多く、リスクが非常に高いため、行うべきではありません。
借金の返済などで困っている場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
一般的な借金問題は、債務整理で解決可能です。弁護士に相談の上、任意整理、個人再生、自己破産など、状況に応じた適切な手続きを進めましょう。
【借りたい女性】ひととき融資でトラブルが発生した際の対処方法
ひととき融資に手を出してしまった女性が、トラブルに巻き込まれてしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
性交渉をしない、返済しない、弁護士に相談するという3つの対処方法について解説します。
性交渉をしない
利息の代わりに性交渉を要求されたり、返済できないのならば性交渉を求められたりしたとしても、きっぱりと断る姿勢が重要です。
一度でも応じてしまうと、繰り返し求められることになってしまいます。
性交渉を条件にお金を借りていたとしても、違法行為に該当する可能性が高いため、性交渉に応じないようにしましょう。
返済しない
性交渉を条件とするひととき融資で借りたお金は、不法原因給付として、返済の義務はないとされる可能性が高いといえます。
そのため、脅迫を受けたり、性交渉を要求されたとしても、返済する必要はありません。返済をせずに、貸主との関係を断ち切ることが必要です。
弁護士に相談する
ひととき融資でトラブルが発生した際には、警察に相談するのも1つの方法です。ただし、状況によっては積極的に動いてくれないこともあるでしょう。そのような場合には、弁護士に法的な支援をしてもらうことが効果的です。
弁護士は、依頼者の代理人として、違法な融資への返済の免除、脅迫や取り立ての停止に向けて交渉を行えます。
裸の画像・動画を相手が持っている場合には削除請求の手続きを進め、刑事告訴などの法的措置を進めることも可能です。
【貸したい男性】ひととき融資が該当する可能性がある犯罪
ひととき融資の借り手について述べてきましたが、ここでは、貸主の男性について解説します。
ひととき融資の貸主となった場合に該当する可能性がある、主な犯罪を紹介します。さまざまな罪に問われる可能性があるため、ひととき融資は行うべきでないことを理解しておきましょう。
貸金業法違反
貸金業法では、「貸金業」とは、「金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介で業として行うもの」と定義されています。
引用:貸金業法(昭和五十八年法律第三十二号)第2条
また、貸金業を営もうとする者は、内閣総理大臣や当該営業所または事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならないとされています。
参考:貸金業法(昭和五十八年法律第三十二号)第3条1項
さらに、「登録を受けない者は、貸金業を営んではならない」とされています。
引用:貸金業法(昭和五十八年法律第三十二号)第11条
ひととき融資は、SNSなどを通じて、不特定多数を相手にして、繰り返し行われた場合には、無登録の貸金業とみなされる可能性があります。
この場合は、貸金業法違反となり、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金、あるいはその両方が科せられます。
参考:貸金業法(昭和五十八年法律第三十二号)第47条2項
利息制限法・出資法違反
高い金利で個人間融資を行う場合には、利息制限法や出資法違反になる可能性があります。
利息制限法では、上限利率が以下のように定められています。
・元本の額が十万円未満の場合 年二割
・元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
・元本の額が百万円以上の場合 年一割五分
引用:利息制限法(昭和二十九年法律第百号)第1条1項、2項、3項
これらの上限利率を超える利息で融資を行った場合には、超過部分は無効になります。過払い利息は返還請求が可能です。
貸金業者であっても、個人間融資であっても、利息制限法の規制は同様に適用されます。
また出資法では、貸金業者が利息制限法の上限利率を超える利息で融資を行った場合や、年率109.5%を超える金利で個人融資を行った場合には、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、または両方が科せられます。
参考:出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(昭和二十九年法律第百九十五号)第5条
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪
ひととき融資を行った際に、相手の同意なしにわいせつ行為や性交等を行った場合には、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪に問われます。
参考:刑法(明治四十年法律第四十五号)第176条、177条
また、「相手が13歳未満の子どもである場合」や、「相手が13歳以上16歳未満の子どもで、行為をする者が5歳以上年長である場合」にわいせつ行為や性交等を行った場合にも、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪に問われます。
参考:刑法(明治四十年法律第四十五号)第176条3項、177条3項
不同意わいせつ罪に対しては、6月以上10年以下の拘禁刑が科されます。また、不同意性交等罪に対しては、5年以上の有期拘禁刑が科されます。
参考:刑法(明治四十年法律第四十五号)第176条、177条
脅迫罪・強要罪・恐喝罪
脅迫罪は以下の通り刑法で規定されています。
「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」
引用:刑法(明治四十年法律第四十五号)第222条1項
ひととき融資において、貸主が借り手に対して「裸の写真をネットで公開する」などと脅迫した場合には、この脅迫罪に該当し得ます。
また、強要罪は以下の通り刑法で規定されています。
「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。」
引用:刑法(明治四十年法律第四十五号)第223条1項
例えば、貸主が借り手に対して「裸の写真をネットで公開されたくなければ、性交渉を継続しろ」と要求する行為は、強要罪に該当し得ます。
さらに、恐喝罪は以下の通り刑法で規定されています。
「人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。」
引用:刑法(明治四十年法律第四十五号)第249条1項
例えば、貸主が借り手に対して「裸の写真をネットで公開されたくなければ、口止め料を払え」などと要求する行為は、恐喝罪に該当し得ます。
名誉毀損罪違反
名誉毀損罪は以下の通り刑法で規定されています。
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」
引用:刑法(明治四十年法律第四十五号)第230条1項
名誉毀損行為とは、社会的地位・評価を低める行為のことです。例えば、借り手が特定可能な状態で、貸主が「ひととき融資でお金を借りたのに返済せずに逃げた」などとSNSに投稿する行為は、名誉毀損罪に該当し得ます。
児童買春・児童ポルノ禁止法違反、青少年保護育成条例違反
ひととき融資の借り手が、18歳未満の未成年者であった場合には、児童の保護を目的とした法律違反になる可能性があります。
児童買春は、児童買春・児童ポルノ禁止法で禁止されています。
参考:児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第3条の2
罰則は以下のように規定されています。
「児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。」
引用:児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第4条
また、各都道府県には青少年保護育成条例が制定されており、未成年者との性的な行為やそれに類似する行為が禁止されていることが一般的です。そのため、条例違反になるケースもあります。
その他にも、ここでは詳細は割愛しますが、場合によっては売春防止法違反やリベンジポルノ防止法違反に問われる可能性もあります。
ひととき融資に関連する裁判・事件の例
ひととき融資に関連する裁判と、逮捕された事件の例を紹介します。
ひととき融資に関連する裁判
出資法違反・貸金業法・児童買春・児童ポルノ禁止法違反
2016年〜2019年に、大阪府千早赤阪村職員が、性的関係に応じるのを条件として、無登録で女性に現金を貸したり、法定利息の2〜8倍の利息を受け取ったりしました。さらに、18歳未満の少女に現金を渡してみだらな行為をしました。大阪地裁において、「経済的に苦しい女性の人格を無視して悪質だが反省している」などとして懲役2年6カ月執行猶予5年、罰金300万円を言い渡されました。
ひととき融資で逮捕された事件
- 貸金業法違反と出資法違反の疑いで逮捕
2020年、兵庫県西宮市の自営業の男性は、性行為を条件に、無登録で4人の女性に計30万円を貸し、法定利息以上の利息を受け取ったり、受け取る契約を交わした貸金業法違反と出資法違反の疑いで逮捕されました。男性は、担保として女性の裸の写真などを撮影していました。 - 貸金業法違反の疑いで逮捕
2021年、無職の男性が性行為を条件に、無登録で2人の女性に計160万円を貸した貸金業法違反の疑いで逮捕されました。男は女性に「婚約証明書」に署名をさせており、婚約者にお金を貸しただけだと容疑を否認していました。
ひととき融資に関するよくある質問
ひととき融資に関連してよくある質問についてご説明します。
ひととき融資で借りたお金は返す義務があるのか?
民法では、以下のように「不法原因給付」について定められています。
「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。」
引用:民法(明治二十九年法律第八十九号)第708条
ひととき融資は、この不法原因給付に該当し、返済の義務はないとされる可能性があります。
ひととき融資の借用書は法的に有効か?
ひととき融資については、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」と民法で定められているため、契約は無効となる可能性があります。
引用:民法(明治二十九年法律第八十九号)第90条
ひととき融資で貸したお金が返ってこない際に取り戻せるか?
ひととき融資で貸したお金は借用書があったとしても、法的には無効である可能性があります。そのため、貸したお金を取り戻そうとして法的手段を取った場合にも、反対に恐喝罪など、自分自身の犯罪が問われる可能性があります。
ひととき融資で貸したお金は、取り戻せると考えないほうがよいでしょう。
まとめ
- ひととき融資は犯罪に該当する可能性がある危険なもの。貸主にも借り手にもならないように注意すべき!
ひととき融資とは、一般的には女性を借り手として、性交渉などを条件に金銭を貸し付ける、個人間融資のことです。
SNSやネット掲示板において、借り手である女性と、貸し手である男性が出会い、双方の合意に応じて、金額や返済条件などが決められます。
闇金業者が一般男性を装って、SNSなどに「お金を貸します」と投稿しているケースもあります。
お金を借りたい女性にとって、ひととき融資は、基本的には違法ではありませんが、さまざまなリスクが発生するため手を出さないように注意が必要です。クレジットカードのキャッシングや、公的な融資制度を利用しましょう。ひとときと思って借りてみても、その後に待つトラブルは決してひとときで終わるとは限りません。
また、男性がひととき融資の貸主となった場合にはさまざまな罪に問われる可能性があるため、行うべきではありません。
万が一、トラブルに巻き込まれた場合には、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、依頼者の代理人として、違法な融資への返済の免除、脅迫や取り立ての停止に向けて交渉を行えます。
借金の返済などで困っている場合にも、債務整理などについて弁護士に相談することをおすすめします。