債務整理の費用は?種類別の相場感、抑える方法は?
【この記事の法律監修】
加藤 孔明弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸カトウ法律事務所
債務整理は、借金問題に悩む方が経済的な再スタートを切るための手段の1つです。しかし、債務整理には弁護士費用をはじめとした様々な費用がかかるため、費用が心配で債務整理に踏み出せない方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、債務整理にかかる費用の内訳や相場、費用を抑える方法、費用が払えない場合の対策について詳しく解説します。費用の心配を払拭させ、弁護士に気軽に相談できるようになることが、借金問題を根本から解決させるための第一歩です。
債務整理とは?
債務整理とは、借金の返済が難しくなった場合に、法的な手続きを通じて借金を整理し、生活を立て直すための手続きを指します。具体的には、任意整理、個人再生、自己破産、特定調停という4つの手続きがあり、それぞれ異なる費用と効果が発生します。
債務整理する際は、個々の借金の状況や返済能力に応じて、最適な手続きを選択することが重要です。そこで、まずは各手続きの特徴について解説していきます。
任意整理
任意整理は、裁判所を介さずに債権者と直接交渉して借金の返済条件を見直す手続きです。
将来ずっとかかってくる利息の減額や返済期間の延長によって毎月の返済負担を軽減させます。裁判所を介す必要がないため、手続きが比較的簡単であることも特徴です。
ただし、任意整理にはデメリットも存在します。例えば、元本の減額は原則として認められないため、借金の総額が大幅に減ることは期待できません。また、信用情報機関に「任意整理を行った」記録が残り、一定期間新たな借り入れやクレジットカードの利用ができなくなる可能性があります。これらのデメリットを理解した上で、弁護士と相談しながら適切な手続きを選ぶことが重要です。
個人再生
個人再生は、裁判所からの認可をもらうことで借金を大幅に減額し、原則3年で残りの借金を返済することで、完済扱いにしてもらえる手続きです。
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)という特例を利用することで、住宅ローンを従来どおり支払いながら、その他の借金を整理できるという特徴があります。
自己破産
自己破産は、借金を全額免除してもらうための手続きです。
裁判所からの許可が必要になるため、返済不能である事実を客観的に証明しなければなりません。また、原則として20万円以上の価値がある財産を手放さなければならないなどリスクも大きいですが、免責が認められれば借金の返済義務がすべてなくなるのが特徴です。
特定調停
特定調停は、裁判所が債務者と債権者の間を仲介して、話し合いによって返済条件などを見直す手続きです。弁護士に依頼しなくても手続きを進めていけるため、費用が安価で済むという特徴があります。ただし、話し合いが難航し、手続きが失敗する可能性も高く、調停不成立となれば調停申し立て前と何も変わらないため注意が必要です。
債務整理にかかる費用
債務整理手続きにかかる費用には、「弁護士費用」と「裁判所への申立費用」があります。
弁護士費用とは?
一般的に弁護士費用と呼ばれる費用は、着手金・報酬金・実費・手数料などが含まれています。実費・手数料はいずれも数千円程度ですが、着手金・報酬金は依頼する法律事務所によって大きく異なるため、相場の知識はあらかじめ身につけておきましょう。
なお、昨今は生活困窮者の状況を鑑み、「着手金0円」とする法律事務所も増えてきています。ただし、その分だけ報酬金で調整されていますので、着手金0円だからといって必ずしも手続きが安く済むわけではないため注意が必要です。費用について確認する際は、「トータルでいくらかかる」のかを確認するようにしましょう。
債務整理に関する弁護士費用については、以下のサイトも参考にしてみてください。
費用が安い債務整理の借金相談ができるおすすめ事務所ランキング
裁判所への申立費用とは?
裁判所への申立費用には、収入印紙代・郵券代・官報掲載料・管財人(個人再生委員)費用などが含まれています。収入印紙代と官報掲載料については全国共通ですが、郵券代と管財人(個人再生委員)費用は、裁判所によって若干異なるため注意が必要です。
各債務整理手続きにかかる費用の内訳と相場
以上を踏まえた上で、各債務整理手続きにかかる費用と内訳の相場についてご紹介します。
任意整理にかかる費用の内訳と相場
弁護士費用
- 着手金 債権者1社あたり2~5万円
※大手の法律事務所や全国展開している事務所では、5~15万円程度に設定されていることもあります。
- 報酬金(減額報酬) 減額された借金額の10~20%程度
※ただし、一部の事務所では着手金を高めに設定し、報酬金を0円としているケースもあるため、事前に料金体系を確認することが重要です。
裁判所への申立費用
- なし
※任意整理は、裁判所が関与する手続きではないため申立費用は発生しません。
個人再生にかかる費用の内訳と相場
弁護士費用
- 着手金 0~30万円
※住宅ローン特例の有無によって費用が変動することがあります。
- 報酬金 20~50万円
※こちらも住宅ローン特例を利用する場合は、報酬金が高く設定される場合があります。
裁判所への申立費用
- 収入印紙 1万円
- 郵券 数千円
※裁判所によって異なります。
- 官報掲載料 1万円前後
※具体的な金額は変更される場合があります。
- 個人再生委員費用 10~30万円
※裁判所によって異なる。再生委員が選任されない場合もあるため、必ずしも発生するわけではありません。
自己破産にかかる費用の内訳と相場
弁護士費用
- 着手金 0~30万円
- 報酬金 20~30万円
裁判所への申立費用
<同時廃止事件の場合>
- 収入印紙:1,500円
- 郵券:数千円
※裁判所によって異なります。
- 官報掲載料:11,859円
<管財事件の場合>
- 収入印紙:1,500円
- 郵券:数千円
※裁判所によって異なります。
- 官報掲載料:18,543円
- 管財人費用(予納金):10~30万円
※裁判所によって異なります。
特定調停にかかる費用の内訳と相場
弁護士費用
- なし
※特定調停は、基本的に弁護士に依頼せずに自分でもできる手続きのため弁護士費用は発生しません。
裁判所への申立費用
- 収入印紙 債権者1社につき500円
- 郵券 数百円程度
債務整理の費用が事務所によって異なる理由
債務整理にかかる費用は、依頼する弁護士事務所によって異なります。
なぜ同じ手続きなのに費用が異なるのだろうか、そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。債務整理の費用が事務所によって異なる理由は、事務所の規模や対応内容、経験・実績など、いくつかの要因によります。ここでは、主な理由について解説します。
弁護士の経験や実績
弁護士の経験や実績、事務所の規模によって、提供されるサービスの内容や質が異なることがあります。特に、複雑な案件や交渉が必要なケースでは、経験豊富な弁護士が対応することで、有利な条件を引き出せる可能性があります。費用が高めに設定される場合もありますが、料金設定だけでなく、弁護士の専門性や実績を確認して依頼することが大切です。
事務所の規模
法律事務所の規模によって、提供されるサービスや費用に違いが生じることがあります。大手の法律事務所は、専門分野ごとに豊富な経験を持つチームが存在し、複雑な案件に強いという特徴があります。
一方、個人事務所や地域密着型の事務所では、依頼者ごとの状況に合わせたきめ細かい対応が可能な場合があり、費用が比較的抑えられることもあります。どの事務所に依頼する場合でも、提供されるサービス内容や費用の詳細を事前に確認し、規模だけで判断せず、自分に合った事務所を選ぶことが重要です。
地域による差
弁護士費用は地域によっても異なります。都市部では、生活費や事務所維持費が高いため、弁護士費用が高めに設定されることが一般的です。一方、地方では比較的費用が抑えられる場合があります。
弁護士会の報酬基準が撤廃されたため
以前まで、弁護士が業務によって得られる報酬については、弁護士会による基準が定められていました。現在においても、「(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準」を採用している事務所は多くありますが、廃止されたのは2004年と古いため、時代に合わせた報酬を定めている事務所が増えてきたことも、費用が事務所によって異なる理由の1つです。
債務整理費用の支払い方法
債務整理を依頼する際は、費用の支払い方法についても確認しておくことが重要です。
弁護士事務所によっては、依頼者の状況に合わせて柔軟な支払い方法に対応してくれる場合もあります。ここでは、一般的な支払い方法について解説します。
一括払い
最も基本的な支払い方法は、弁護士費用を一括で支払う方法です。
手続きが開始する前に、全額を前払いするケースが多く、特に任意整理や自己破産のような比較的シンプルな手続きの場合は、この方法が採用されることが一般的です。
一括払いのメリット
全額を一度に支払うため、以後の追加費用が発生せず、精神的な負担が軽減されます。また、弁護士との信頼関係が築きやすく、手続きがスムーズに進む傾向があります。
一括払いのデメリット
まとまった金額を準備しなければならないため、借金に困っている場合、一括で支払うのが難しいことがあります。一括払いは、債務整理とはあまり相性が良いとは言えません。
分割払い
借金を抱えている場合、一括で弁護士費用を支払うのが難しいことが多いため、多くの弁護士事務所では分割払に応じてくれるでしょう。分割払いでは、手続きの進行に応じて毎月一定額を支払うか、完了後に分割で支払いを続ける方式が一般的です。
分割払いのメリット
一度に大きな金額を準備する必要がないため、経済的な負担を軽減できます。また、手続きの進行に合わせて支払うため、費用が無駄になりにくい点もメリットです。
分割払いのデメリット
分割払いを選ぶと、支払いが長期にわたることがあります。また、分割払いの期間中に追加費用が発生するケースもあるため、契約時に条件をよく確認する必要があります。
成功報酬型の支払い方法
いくつかの弁護士事務所では、着手金を0円とし、成功報酬型の支払い方法を採用していることがあります。これは、手続きが成功した場合に限り、報酬を支払うことになります。
成功報酬型のメリット
手続きが成功しない限り費用が発生しないため、リスクを減らすことができます。また、成功した場合にのみ報酬を支払うため、先払いの不安をなくす安心感があります。
成功報酬型のデメリット
着手金0円のケースが多い反面、成功時の報酬額が通常より高額になることがあります。
成功報酬型の支払い方法を選択する場合は、トータルでいくらになるかをあらかじめ確認し、書面を交わしておくことが重要です。
債務整理の費用を抑えるための方法
ただでさえ返済が苦しい方にとって、債務整理の費用負担は大きな問題の1つです。
しかし、いくつかの方法を活用すれば、弁護士費用やその他のコストを抑えることができます。ここでは、費用を抑えるための具体的な方法を解説します。
法テラスを利用する
法テラス(日本司法支援センター)は、国が設立した司法援助機関です。
経済的に困難な状況にある方に対して、無料相談の実施や弁護士費用の立て替え制度を提供しています。法テラスを利用することで、初期費用を抑えながら債務整理の手続きを進めることが可能な他、法テラス基準は一般の弁護士事務所の相場よりも低く設定されています。一定の収入基準や資産基準を満たす必要がありますが、基準を満たせば債務整理の費用を抑えながら、弁護士費用を立て替えてもらえます。
その後、費用の支払いは月額5,000~10,000円程度で分割払いしていくことになります。手元の資金がほとんどない場合でも利用できるため、債務整理の費用を抑えたい方は法テラスの利用を検討してみましょう。
複数の弁護士事務所に見積もりを出してもらう
現在、多くの法律事務所で初回無料の法律相談を実施しているところが多くあります。
また、債務整理問題に限り、何回でも相談無料という事務所も増えてきました。
費用を安く抑えるためには、複数の弁護士事務所で法律相談を受け、おおまかな見積もりを出してもらうのも良い方法です。費用の見積もりを比較することで、安く請け負ってくれる法律事務所を探してみましょう。
ただし、無料法律相談の場合、30分~1時間程度になってしまうことから、個々の詳細までは確認できないケースがほとんどです。一旦出してもらった見積もりから、追加費用が発生する可能性が十分にあるため、無料法律相談を利用する際は、可能な限り詳細な資料を持参するのがおすすめです。
自分で可能な範囲は対応する
債務整理手続きは、基本的に弁護士に依頼してしまえば待っているだけで進んでいきます。
しかし、手続きの中には必要書類の取得など、自分でできる部分は自分で対応し、弁護士には必要な部分だけを依頼することで費用を抑えられる場合があります。
たとえば、弁護士であれば住民票や戸籍謄本の取得費用自体は変わりませんが、郵送費用などを節約できる場合があります。
ただし、自己判断で手続きに不備が生じた場合、余計に時間がかかってしまったり、手続きが失敗したりするリスクがあるため、弁護士と相談しながら可能な範囲を対応しましょう。
債務整理の費用が支払えない場合の対策
債務整理の費用が今すぐ支払えない場合は、分割払いを採用してもらいましょう。
分割払いであれば、1か月の負担を大幅に下げられるため、これまで返済にまわしていた資金の一部で十分に支払っていけるケースがほとんどです。
それでも直近の支払いが厳しいのであれば、収入が安定するまでの期間、債務整理の費用の支払いを猶予してもらうという方法もあります。弁護士によっては対応してくれない場合もありますが、どうしても支払えない場合は交渉してみるのが良いでしょう。
また、分割払いや支払い猶予でも厳しいという方は、生活そのものが危険な状態です。生活保護費の受給を検討するなど、弁護士に相談しながら必要な対策を取りましょう。
なお、生活保護費を受給中であっても法テラスの利用は可能です。
手続きがすべて終了した時点でも生活保護費を受給中であれば、法テラスに立て替えてもらっていた弁護士費用等の支払いが免除されるため、安心して手続きに臨んでください。
弁護士に相談・依頼するメリット
債務整理における費用の心配さえ解決すれば、弁護士への相談・依頼を躊躇する理由はなくなります。とはいえ、弁護士に依頼しないで済むのであれば、さらに費用を抑えられると感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで以下では、債務整理を弁護士に依頼するメリット・デメリットについて解説します。
メリット1 最適な解決策を提案してもらえる
債務整理には任意整理、個人再生、自己破産、特定調停と4つの手続きがあります。
しかし、自身の状況に最適な手続きを選ぶためには、法律の専門知識が必要です。間違った手続きを選択してしまうと、借金問題が解決しないばかりか、さらに自身の状況を追い込む事態にもなりかねないのです。弁護士に相談することで、借金の額や返済状況、今後の収入見込みなどに基づき、最適な解決策を提案してもらうことができます。
メリット2 債権者との交渉を代行してくれる
債権者との交渉を有利に進めるには、専門知識や交渉力が求められます。
任意整理の場合、弁護士が代理として債権者と直接交渉し、利息のカットや返済期間の見直しを行ってくれるため、交渉が不利になる心配はほとんどありません。
しかし、個人で債権者と交渉を行うと、専門知識や交渉力が不足し、不利な条件を押し付けられる危険があります。債権者との交渉が難航した場合も、弁護士が間に立って対応してくれるため、債務者自身が交渉に悩むことなく手続きを進められるメリットがあります。
メリット3 取り立てや催促が停止される
弁護士に債務整理を依頼すると、債権者に対して「受任通知」が送付されます。
受任通知を受けた債権者は、債務者本人に対する取り立てや催促を一時的に停止しなければなりません。また、今後の連絡や交渉については、すべて弁護士が窓口になってくれるため、債権者からの連絡に悩まされない日々を手に入れることができます。借金に対する精神的な負担から解放され、手続きを落ち着いて進めていくことができます。
メリット4 裁判所の手続きがスムーズに進む
個人再生や自己破産は、裁判所を通じた手続きになるため、書類作成や裁判所書記官とのやり取りを避けることはできません。これらを個人で対応するとなると大変な負担ですが、弁護士に依頼することですべての手続きを代理してもらえるメリットがあります。
また、自己破産は手続きの中で裁判官や破産管財人との面接が実施される場合があります。この際も、弁護士であれば同席や発言が認められているため、答えにくい質問をされることがあっても、安心して面接に臨めるメリットがあります。
返済期間中のサポートについて
任意整理や個人再生は、支払い開始が手続き終了ではありません。実際には、3~5年間の返済を終えた後、本当の意味で手続きが終了することになります。
この期間中に何か問題が発生した場合、弁護士に依頼していれば、適切な対応を受けることができます。例えば、任意整理による返済が厳しくなってしまったのであれば、債権者との再交渉や、個人再生・自己破産への方針転換といったことが可能となります。
また、自身の状況を把握してくれている相手がいるというだけで、日々の不安を払拭することができるでしょう。
弁護士に相談・依頼するデメリット
一方で、弁護士に相談・依頼するデメリットについても知っておく必要があります。
とはいえ、基本的に弁護士に相談・依頼して状況が悪化するようなデメリットは基本的にありませんが、新たな借り入れやクレジットカードの利用が制限されるといったデメリットがあります。また、費用がかかる点も、依頼する際に考慮すべきポイントです。
デメリットは費用がかかることと信用情報への影響
主なデメリットは、費用がかかってしまうことと、債務整理を行うことで信用情報に登録される点です。信用情報機関に登録されることで、一定期間新たな借り入れやクレジットカードの利用が制限されるデメリットがあります。しかし、この信用情報の登録(いわゆるブラックリスト入り)は、5~10年程度で解除され、その後は通常の金融取引が可能になることがほとんどです。
弁護士費用は、債務整理の種類や依頼内容によって異なりますが、一般的に任意整理や個人再生、自己破産には数十万円の費用負担が必要です。事情次第では費用が高額になる場合もあるため、事前に見積もりを確認し、費用負担について検討しなければなりません。
しかし、債務整理にかかる費用は、分割払いや支払い猶予、法テラスの利用によって解決できる問題です。債務整理における弁護士への相談・依頼はデメリットよりもメリットのほうが大きいといっても過言ではありません。
まとめ
債務整理は、弁護士に依頼することで適切な手続きを選び、債権者との交渉をスムーズに進めることができますが、費用が発生してしまうため、事前に確認することが大切です。
どうしても費用が支払えない場合は、分割払いや支払い猶予、法テラスの利用することで、経済的な負担を軽減しながら手続きを進めることができます。
また、弁護士への相談は、まずはたった10分からでも始めることが可能です。相談までのハードルは想像以上に低いため、どうかご安心ください。まずは、現状を整理して弁護士に相談することで、借金問題を根本から解決するための糸口を見つけましょう。