法律相談記事のカテゴリー

男女問題
債務整理
労働問題
トラブル
ニュース
犯罪・刑事事件
企業法務 労働問題

【2024年4月改正】労働条件明示のルールが変わる!改正内容や注意点を解説

記事をご覧になった方は
こちらもご確認ください!

緊急の法律に関する
お悩みはこちら

いざって時のために
手のひらに弁護士を!

「2024年4月1日から労働条件の明示に関してルールが変わると聞いたけれど、具体的な改正内容や注意点を知りたい!」

従業員を雇い入れる際に必要な手続きの一つが労働条件の明示です。労働条件の明示義務は法律で定められた義務であり、的確に履行しなければなりません。

この労働条件明示のルールが2024年4月1日から改正され、明示しなければならない事項が新たに追加されます。

この記事では、2024年4月1日から施行される労働条件明示の新ルールや労働条件明示の基礎知識について解説しています。

この記事を読むことで、2024年4月からの労働条件明示の新ルールに適切に対応して正しく労働条件の明示を行うことができるようになります。

労働条件の明示義務とは

労働条件の明示義務とは、労働者を雇い入れる企業側が労働者に対して、労働契約の締結に際して賃金や労働時間など所定の労働条件を書面などで明示しなければならないという義務のことです(労働基準法15条1項)。

参考:
労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)|e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049

労働契約は書面でなく口頭でも有効に成立しますが、企業側が労働者に対して労働条件を明示していなければ後で労働条件をめぐってトラブルになるおそれがあります。このようなトラブルを防ぐために、一定の重要な労働条件については書面などによって明示しなければならないこととされているのです。

雇い主が労働基準法15条1項に違反して労働条件を明示しなかった場合には、30万円以下の罰金が科せられることがあります(労働基準法120条1号)。

また、明示された労働条件が事実と異なる場合には、労働者はただちに労働契約を解除することができます(労働基準法15条2項)。

このように、労働条件明示義務には刑事罰などのペナルティが規定されており、労働者を雇い入れる企業側はこのルールをしっかりと守らなければなりません。

2024年4月から労働条件明示のルールが改正された経緯と背景

労働条件明示のルールが改正された経緯と背景についてご説明します。

◆労働条件明示のルール改正に関する議論の経緯

2024年4月1日から労働条件明示義務の対象範囲が拡大され、必ず明示しなければならない事項が新たに追加されました。

この改正は、労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令(令和5年3月30日厚生労働省令第39号)により定められたものです。

参考:
令和5年3月30日厚生労働省令第39号|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001080102.pdf

この改正は、2022年度に厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)においてなされた議論および報告に基づいてなされました。

具体的には、2022年5月27日(第174回)、9月27日(第179回)、10月26日(第181回)の各分科会で労働条件明示に関する議論がなされています。

参考:
2022年5月27日 第174回労働政策審議会労働条件分科会 議事録
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26700.html

2022年9月27日 第179回労働政策審議会労働条件分科会 議事録
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29909.html

2022年10月26日 第181回労働政策審議会労働条件分科会 議事録
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30068.html

これらの議論を踏まえて、2022年12月27日、労働政策審議会労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」が公表され、この中で労働条件明示の新ルールを定めるべきことが報告されました。

参考:
今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001031112.pdf

この改正について募集されたパブリックコメントでは5件(内容に応じて整理された後の件数)の意見が寄せられました。

参考:
「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施
行規則の一部を改正する省令案(概要)」及び「労働基準法第三十八条の
四第一項の規定により同項第一号の業務に従事する労働者の適正な労働条
件の確保を図るための指針及び労働基準法施行規則第二十四条の二の二第
二項第六号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務の一部を改正する
告示案(概要)」に対する意見募集の結果について|厚生労働省
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000251093

◆労働条件明示のルール改正に関する議論の背景

このような労働条件明示のルールを改正しようという議論がなされるに至った背景には、次のようなものがあります。

1つ目の背景は、職務や勤務地などを限定した正社員制度などが広まりつつあるなか、多様化する働き方に対応して明示するべき労働条件をより適切なものにするという点にあります。

現代では同じ会社の正社員の中でも従業員ごとに職務や勤務地の限定内容が異なることが増えてきています。そのような中で、企業が十分に説明を尽くさず、そのために企業側・労働者側の双方の間で労働条件に関する認識の違いが生じてトラブルになることを防ぐ必要性が高まっていました。そこで、「就業場所・業務の変更の範囲」を明示するべき労働条件として追加することが望ましいと考えられました。

2つ目の背景は、有期契約労働者の無期契約転換に対応する必要があるという点です。無期転換ルールは、後で詳しくご説明するとおり、有期労働契約を締結して5年を超えて働いてから更新した場合に、労働者からの申込みによって自動的に無期労働契約に転換されるルールのことです。

無期転換ルールは2013年4月1日の労働契約法改正により導入されたルールですが、2018年・2019年度合算で無期転換ルールによる無期転換申込権が生じた人のうち、無期転換申込権を行使した人は、27.8%にとどまる一方、行使せずに継続して雇用されている人は65.5%に上ります(参考資料8ページ)。

参考:
無期転換ルールに関する参考資料(本日の論点関連)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000959396.pdf

有期契約労働者が無期労働契約に転換することは、雇用契約関係が安定化するという点で労働者の保護につながり望ましいものです。一方で、行使できるはずの無期転換申込権が適切に行使されていないのであればその現状は望ましいものとはいえません。そこで、無期転換申込機会などについて労働契約更新の際に明示させることで、有期契約の労働者に無期転換申込権を適正に行使するきっかけを与えることが望ましいと考えられました。このような趣旨から、「無期転換申込機会」「無期転換後の労働条件」について新たに明示させることとしたのです。

2024年4月から改正される労働条件明示の4つの新ルール

2024年4月1日から追加された労働条件の明示事項は、次の4つです。

  • 就業場所・業務の変更の範囲

  • 更新上限の有無と内容

  • 無期転換申込機会

  • 無期転換後の労働条件

これらについてご説明します。

参考:
令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html

◆「就業場所・業務の変更の範囲」の明示

これまでは雇入れ直後の「就業場所」「業務の内容」を明示しなければなりませんでしたが、改正後は新たにこれらの「変更の範囲」も明示しなければなりません(労働基準法施行規則5条1項1号の3)。

参考:
労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)|e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000100023

「変更の範囲」とは、将来の転勤や配置転換などによって変わる可能性がある就業場所や業務の内容のことです。

「就業場所・業務の変更の範囲」の明示は、正社員だけでなくアルバイト・パートや契約社員なども含めた全ての労働者について行わなければなりません。

就業場所や業務の変更の範囲に限定がない場合には、「変更の範囲」として全ての就業場所や業務の内容を記載しなければなりません。

具体的に全ての就業場所や業務の内容を記載する方法のほか、「会社の定める就業場所」「会社の定める業務」と記載する方法、変更の範囲を別紙として一覧形式にまとめて記載する方法などがあります。

就業場所や業務の変更の範囲が一定の範囲内に限定されている場合には、そのどこまでが変更の範囲内なのかはっきり分かるように記載することが必要です。

就業場所や業務の変更が予定されていない場合には、「変更なし」などと記載して変更がないことを明らかにします。

◆「更新上限の有無と内容」の明示

有期契約の労働者に対しては、「更新上限の有無と内容」を明示しなければなりません(労働基準法施行規則5条1項1号の2)。

「更新上限」とは、有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限のことです。

有期契約の労働者とは、いわゆる正社員以外の労働者で、アルバイト・パートや契約社員などと呼ばれる従業員が該当します。

「更新上限の有無と内容」を明示するにあたっては、通算契約期間または更新回数の上限を明示するとともに現在が何回目・何年目の契約更新かをあわせて明示するなどの方法があります。

◆「無期転換申込機会」の明示

「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができること(無期転換申込機会)を明示しなければなりません(労働基準法施行規則5条5項、6項)。

「無期転換申込権」とは、有期契約が更新されて通算契約期間が5年を超えた場合、その有期雇用の労働者から無期契約に切り替えるよう申込みがあったときには、雇用主の意向にかかわらず必ず無期契約に切り替えなければならないというルール(無期転換ルール)における申込権のことです(労働契約法18条)。

参考:
労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)|e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128

労働者が無期転換申込権を行使しないで有期契約が更新される場合には、更新の都度、無期転換申込機会を明示しなければなりません。

◆「無期転換後の労働条件」の明示

無期転換申込機会の明示とあわせて、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに「無期転換後の労働条件」についても明示しなければなりません(労働基準法施行規則5条5項、6項)。

無期転換後の労働条件を明示する方法としては、無期転換後の労働条件について労働条件通知書を作成して明示する方法のほか、無期転換後の労働条件に変更がない部分は変更がないことを、変更がある部分は変更の内容を明示する方法などがあります。

2024年4月改正を踏まえて労働条件通知書に記載しなければならない事項

労働条件通知書に記載しなければならない事項は、「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」に分けられます。

労働条件通知書に記載しなければならない事項は、次のとおりです(労働基準法施行規則5条1項)。

参考:
採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_4.html

◆絶対的記載事項

「絶対的記載事項」とは、労働条件の内容にかかわらず常に明示しなければならない事項です。

絶対的記載事項には、次のものがあります。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 就業の場所および従事するべき業務とその変更の範囲に関する事項
  • 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
  • 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切および支払の時期、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項および解雇の事由

◆相対的記載事項

「相対的記載事項」とは、関連する制度やルールが設けられている場合には必ず明示しなければならない事項です。

相対的記載事項には、次のものがあります。

  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払の方法、退職手当の支払時期に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金、賞与およびこれらに準ずる賃金、最低賃金額に関する事項
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • 安全および衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰・制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

◆特定の労働者に対して明示しなければならない事項

特定の労働者に対しては必ず明示しなければならない事項があります。

まず、有期労働契約(アルバイト・パート、契約社員など)を締結する場合には、次の事項を明示しなければなりません。

  • 更新する場合の基準に関する事項(上限の定めがある場合にはその内容を含む)

また、有期労働契約であって契約期間内に無期転換申込権が発生する場合には、次の事項についても明示しなければなりません。

  • 無期転換申込みに関する事項および無期転換後の労働条件の内容

労働条件通知書に関してよくある質問

労働条件通知書に関してよくある質問についてご紹介します。

◆明示された労働条件と実際の労働条件が異なる場合の裁判例はある?

明示された労働条件と実際の労働条件が異なる場合には、個別の事情を考慮しつつ、単に書類上の記載などから形式的に判断するのではなく実質的に見て何が労働契約の内容になっていたのかが判断される傾向にあります。

労働基準法15条1項の労働条件明示義務に違反したことに関する裁判例として著名なものはあまりありませんが、似たものとして、求人票による労働契約期間の定めの明示に関する裁判例をご紹介します。

【裁判例】
大阪地方裁判所平成14年5月30日決定〔愛徳姉妹会事件〕

【事案】
原告である労働者は、被告法人に中途採用された者である。採用時の求人票には、雇用期間の欄に記載がなく、定年が60歳であること等の記載があった。一方、契約書には契約期間1年との記載があった。採用から1年後に被告法人が原告に対し雇用契約を終了すると告げたため、原告が労働者たる地位の確認等を求めて訴えを提起した。裁判所は、本件の諸事情を勘案すると、労働契約締結時に異なる合意をするなどの特段の事情がない限り、求人票の内容が雇用契約の内容となるとし、本件では期間の定めがない求人票を基に応募したのであり、契約書の記載にかかわらず期間の定めのない労働契約が成立したといえると判断した。

【解説】
この事件では、求人票の記載とその後の契約書の記載が異なっていたという事情の下で、求人票の記載を基にして期間の定めのない労働契約が成立していたと裁判所が認定したものです。個別の事情を考慮してそれぞれの事案に応じた判断がなされるということが前提ですが、労働基準法15条1項に基づいて労働条件の明示がなされた場合においても、それと食い違う取扱いがなされたときには、明示された労働条件が労働契約の内容となるものとして判断される可能性があるといえます。

参考:
採用内定に関する裁判例|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/11/dl/s1125-10j.pdf

◆労働条件通知書と雇用契約書の違いとは?

労働条件通知書は労働基準法等の法律の規定に従って労働条件を明示するために企業が労働者に対して交付する書面です。これに対して、雇用契約書は雇用契約を結ぶことについて企業と労働者とがお互いに合意したことの証明となる契約書です。

労働条件通知書は、法律で定められた事項については必ず作成して交付しなければなりません。これに対して、雇用契約書は必ず作成しなければならないものではなく、作成しなくてもかまいません。

もっとも、実際には雇用契約が成立した証として雇用契約書を作成することが一般的であり、雇用契約書を作成したうえで法定の事項を記載した労働条件通知書もあわせて交付することが多いです。

また、労働条件通知書の書式は特に定められていないので、雇用契約書と労働条件通知書を兼ねた書類を作成して交付する形で労働条件の明示を行ってもかまいません。

◆労働条件通知書と実際の労働条件が異なった場合はどうなる?

労働者は、労働条件通知書などで明示された労働条件が実際の労働条件と異なっていた場合には、即時に労働契約を解除することができます(労働基準法15条2項)。また、この場合において就業のために引越しをして住む場所を変えた労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合には、企業は帰郷のために必要な旅費を負担しなければなりません(労働基準法15条3項)。

このように、正しく労働条件を明示しなければ労働者がただちに労働契約を解除する(退職をする)ことができるので、企業側は労働条件を正確に明示しているか注意を払う必要があります。

◆労働条件通知書をアルバイト・パートに交付する場合の留意点とは?

アルバイト・パートとして働く従業員を雇い入れる場合であっても、労働条件通知書は交付しなければなりません。「正社員ではないから労働条件通知書は交付しなくてもいい」というのは間違いです。

アルバイト・パートなど、いわゆる正社員よりも所定労働時間が短い労働者は、法律上「パートタイム労働者」として扱われ、明示しなければならない労働条件の項目がいわゆる正社員など通常の労働者と異なります。

パートタイム労働者に対しては、通常の明示事項に加えて、次の事項についても書面等により明示しなければなりません。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • パートタイム・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

◆労働条件通知書を派遣社員に交付する場合の留意点とは?

派遣社員を雇い入れる場合であっても、労働条件通知書を交付しなければなりません。

もっとも、派遣社員と派遣先企業との間には雇用契約関係がなく、派遣社員と派遣元企業との間に雇用契約関係があるので、派遣元企業が労働条件通知書を交付することになります。

派遣社員に対する労働条件通知書には、通常の場合に必要な項目に加えて、次の事項も記載しなければなりません。

  • 派遣労働者本人の派遣料金額
  • 派遣労働者が所属する事務所における派遣料金の平均額

◆労働条件通知書に就業規則を記載する必要はある?

労働条件通知書と就業規則は異なる役割を持つ書類であり、労働条件通知書にはここまでにご説明した記載事項さえ記載されていればそれでかまいません。労働条件通知書に就業規則の内容を全て記載したり、労働条件通知書とあわせて就業規則の全文を交付したりする必要はありません。

もっとも、労働条件通知書に記載しなければならない事項は多岐にわたるとともに、就業規則の内容と重複するものも多くあります。そこで、就業規則を作成している会社では、就業規則を交付すると同時に労働条件通知書には就業規則の条文を記載するという方法で労働条件の明示を行う方法を取ることもできます。

◆労働条件明示義務に違反した場合に労働基準監督署に摘発される流れとは?

労働条件明示義務(労働基準法15条1項)に違反した場合には、30万円以下の罰金が科せられることがあります(労働基準法120条1号)。

労働条件明示義務に違反した事実が労働基準監督署に知られて調査が入るきっかけは、主に労働者からの相談・申告です。

労働基準監督署が労働者から相談や申告を受けたとしても、すぐに雇い主が逮捕されたり起訴されたりするわけではありません。次のような流れで摘発が進められることになります。

  • 調査
  • 是正勧告
  • 任意取調べ(または逮捕)
  • 検察官送致
  • 起訴

労働基準監督官による調査

労働基準監督署が労働者による相談などをきっかけに労働基準法違反の事実があるとの疑いを抱いた場合には、まずは実際にどのような違反の事実があるのか調査を行います。

労働基準監督官は、調査を遂行するために次のような権限を持っています(労働基準法101条1項)。

  • 事業場、寄宿舎などの建物に臨検すること(立入り調査などを行うこと)
  • 帳簿や書類の提出を求めること
  • 使用者(雇い主)や労働者に対して尋問を行うこと(事情を聴くこと)

このような労働基準監督官の権限行使に対して、次のようなことをして調査を妨げた場合には、30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法120条4号)。

  • 臨検を拒んだり妨げたりすること
  • 尋問に対して陳述をしないこと(事情を聴かれたのに答えないこと)
  • 尋問に対して虚偽の陳述をしたこと(事情を聴かれたのに嘘を答えること)
  • 帳簿書類の提出をしないこと
  • 虚偽の記載をした帳簿書類を提出したこと

是正勧告

労働基準監督官による調査の結果、雇い主が労働基準法に違反しているとの事実が認められたときには、労働基準監督官から雇い主に対して是正勧告がなされます。

是正勧告は、雇い主に対して任意に違法な状態を解消するように促すものであり、是正勧告に従わないことでただちに何らかのペナルティが下されるわけではありません。しかし、是正勧告に従わないということはすでに認められた労働基準法違反の状態を放置するということであり、刑事処分につながる可能性が高まります。

任意取調べ(または逮捕)、検察官送致、起訴

労働基準監督官による是正勧告がなされたにもかかわらず、労働基準法に違反した状態が是正されない場合には、逮捕や起訴といった刑事手続がとられることがあります。

労働基準監督官は、労働基準法違反の罪について司法警察職員の職務を行うものとされています(労働基準法102条)。すなわち、労働基準監督官は労働基準法違反の罪については逮捕などの強制捜査の権限も有しています。

実際に逮捕がなされることはあまり多くありませんが、逮捕されなくても任意の取調べが行われ、検察官に事件が送致された結果、最終的に起訴されることもあり得ます。

起訴された場合には、略式手続がとられないかぎり、労働基準法に違反した雇い主が法廷に出廷して刑事裁判を受けることになります。

有罪の裁判と社会的なペナルティ

刑事裁判の結果として有罪の裁判を受けることになると、労働条件明示義務違反の場合には最大30万円の罰金刑が下されることとなります。

「30万円程度ならすぐ支払えるし、全然影響はない」と考える経営者の方もいるかもしれません。しかし、罰金刑はお金を払えばそれで済むというものではありません。

そもそも、労働基準法違反の罪で起訴されることはあまり多くなく、起訴までされたのであればそれだけ悪質な違反があったと認識されていることを意味します。

そのような悪質な違反について起訴されたり有罪の裁判を受けたりすると、その事実が企業名とともに報道されて広く社会に知れ渡ってしまうこともあります。また、昨今はSNSが発達しており、トラブルの当事者である労働者が自らSNSを通じて企業の違法行為を暴露・告発することもあり得ます。

報道やSNSを通じた告発では、どのような内容が流布されるかを企業側がコントロールすることは難しく、必要以上に悪い内容が流布されることも覚悟しなければなりません。

「この企業は労働基準法を遵守しない企業だ」と広く認識されてしまうことで、企業のブランドイメージが低下し、取引の打切りや売上の低下に直結したりするなど、社会的なペナルティを受けることにもつながります。

実際には罰金刑そのものよりもこのような社会的なペナルティのほうが重大であることも多いため、企業はできる限り起訴されないように済ませるべきです。企業としては、労働基準監督官による調査や是正勧告の段階でしっかりと違法状態を解消することが重要な対応になるといえます。

まとめ:2024年4月1日から明示しなければならない労働条件が増える

労働条件の明示は、法律で定められた義務であり、違反すると罰金が科せられたり労働者が即時に労働契約を解除できたりするなど、重いペナルティが課せられます。

また、労働条件をしっかりと明示することで、労働者が雇い入れられた後になって「思っていた労働条件と違う」などとトラブルになることを防ぐこともできます。

2024年4月1日からは、「就業場所・業務の変更の範囲」など新たに明示が義務付けられる労働条件の項目が増えます。

これまでの労働条件の明示事項だけでは足りないので、法改正にあわせて労働条件通知書の内容を見直してしっかりとルールどおりに労働条件の明示ができるようにしておきましょう。

労働条件の明示は大切である一方で難しいルールであるため、「具体的にどのように労働条件通知書を作成したらいいのか分からない」「現在使っている労働条件通知書が本当にこれでいいのか確認したい」などさまざまなお困りが生じることもあるでしょう。

労働条件の明示に関して、ご自身だけでは解決できないと感じたら、労務・労働トラブルを取り扱う弁護士に相談するのがおすすめです。

労務・労働トラブルを取り扱う弁護士であれば、労働条件の明示に関して的確にアドバイスをしてくれたり適切な内容の労働条件通知書を作成してくれたりします。

労働条件の明示に関して少しでも分からないことがあれば、労務・労働トラブルを取り扱う弁護士に相談するようにしましょう。

 

 

よく検索されるカテゴリー
検索
インターネット インタビュー セミナー トラブル ニュース フリーランス 不倫 交通事故 企業法務 企業法務 借金 債務整理 債権回収 債権回収 加害者 労働 労働問題 医療 婚約破棄 時事ニュース 浮気 消費者トラブル 犯罪・刑事事件 男女問題 税務 自己破産 親権 近隣トラブル 過払い金 遺産相続 離婚 養育費