養育費を払わない方法はある?免除が認められる7パターンと請求方法
養育費は、親権がなくても支払わなければならない親の義務です。
離婚しても親子の関係は変わらず、未成年の子どもへの扶養義務は存続するため、養育費はきちんと決められた期日に支払わなければなりません。
しかし、養育費の支払い期間が長い場合には、その期間に様々な状況が変化します。不測の事態がおきてしまい、養育費を支払えなくなることも予想されます。
この記事では、なぜ養育費を払うのか、その法的義務、養育費を支払わないとどうなるのか、さらには、支払わなくてもよい方法があるのか、について解説します。
養育費を払わない方法は、原則ない
養育費は、子どもの監護や教育のために必要な費用です。養育費は、離婚後に親権のない、子どもと同居しない親に課せられる義務です。
養育費は、以下の理由から課せられています。
養育費の支払い義務とは?
養育費の支払義務は、民法で規定されている親の扶養義務に基づいたものです。扶養義務とは、自力で生活できない者に対して経済的援助を行わなければならない義務をいいます。
また、親は子どもに対し、同等の生活水準で暮らせるような環境を与える生活保持義務も課せられています。
養育費はいくら支払う義務がある?
養育費の金額については、法律上の規定があるわけではありません。基本的には、父母間で話し合い合意した金額が、養育費の額になります。
養育費の金額について父母間の合意を得られないような場合には、離婚調停や離婚裁判の場で決められます。この場合は、原則として裁判所の養育費算定表を基準にして金額が決められます。
養育費はいつまで支払う義務がある?
養育費を支払う期間は、基本的には子どもが成人するまでの期間とされています。
近年、民法が改正され成人年齢が18歳まで引き下げられましたが、養育費に関しては従来通りの20歳を基準にする、というのが法務省の見解です。
ただし、養育費は基本的に父母の合意により決められるので、大学卒業見込み年の3月までを養育期間とすると決められたのであれば、子どもが成人してもその期間の支払いが必要になります。
養育費を払わないとどうなるのか?
養育費を払わないと以下のペナルティが科せられる可能性があります。
刑事罰が科されるかもしれない
養育費を支払わないと刑事罰が科される可能性があります。
この刑事罰は、6か月以上の懲役または50万円以下の罰金ですので、有罪になれば刑務所に収監されたり、前科がついて会社を解雇されたりする可能性もあります。具体的な内容は以下のとおりです。
親権者は、まず養育費の取り決めについて定めた調停調書や判決、公正証書などの債務名義により、裁判所に債務者(元配偶者)に対する財産開示の手続きを申し立てます。
裁判所で財産開示の決定が下されると、債務者は期日までに財産目録を提出しなければいけません。
債務者がこの指示に従わずに、財産の開示をしなかったり虚偽の内容を開示すれば、民事執行法の陳述等拒絶の罪として上記の刑事罰が科されるようになります。
民事上のペナルティがある
養育費を支払わないことで、民事上の罰則はありませんがペナルティが発生します。
養育費の支払について取り決めた調停調書、確定判決、公正証書などの債務名義があれば、これにより裁判所に履行の確保の手続き、強制執行の手続きを行うことが可能になります。
強制執行の手続が申し立てられると、以下のように財産の差押をされる可能性があります。
財産の差し押さえが行われる
養育費を支払わないと、給料や預貯金、自動車、家具や家電、不動産などの財産を差押えられる可能性があります。
親権者が、債務名義により、裁判所に強制執行の申立を行えば、上記の財産が裁判所により差し押さえられることがあるので、十分に注意してください。
一度、給料の差押が決定されると、養育費の支払が完済するまで(20歳まで支払義務があるのであれば、子どもが20歳になる月まで)毎月、給料の一部が差し引かれることになります。
子供や相手との関係性が悪くなる
養育費の支払を行わないことで、子どもや親権者との関係性が悪くなることが予想されます。
そのため、親権者が子どもとの面会を拒絶するケースもありますが、基本的に親権者は養育費の不払いを理由に、子どもとの面会を拒絶することはできません。
養育費の支払は、離婚とは無関係に発生する親の子どもに対する義務です。子どもや親権者との関係性を悪化させないためにもきちんと支払うことが必要です。
遅延損害金が請求される
養育費は、民事上の金銭債務になります。
したがって、通常の借金と同じように、支払期限までに支払を行わなければ遅延損害金が発生することになります。
現在の遅延損害金の利率は3%、2020年3月31日よりも前に養育費が取り決められている場合には、遅延損害金は5%になります。
養育費の支払いが数回遅れたような場合にはたいした遅延損害金は発生しませんが、何年も支払を滞っていると遅延損害金だけでも相当な額になるので、注意してください。
このような場合でも養育費の支払いは必要?
養育費の支払は親の子どもに対する義務ですが、子どもが小さい時に離婚した場合には支払期間も長くなり、その期間に様々な不測の事態が生じることも多々あります。
では、養育費を支払わなくてもよい場合はあるのでしょうか?
例外的に養育費の免除減額が認められる場合
基本的に、養育費の取り決めは撤回や変更が困難ですが、以下の場合には養育費の支払をしなくてよい場合もあります。
本人に支払い能力がないとされる場合
病気や事故、リストラや勤務先の会社が倒産により失業するなど、無収入状態が続いている場合には、支払能力がないために養育費の支払が免除される可能性があります。
養育費の支払は、親の扶養義務や生活保持義務より支払の義務が生じますが、本人の生活が保持できない場合にまで強制的に課せられるものではありません。
相手の収入が高い場合
養育費の金額は、まずは父母の合意により決められ、合意が得られない場合には裁判所の調停や裁判、審判により金額が決定します。
裁判所では、通常は養育費算定表により金額を決めますが、その際には支払う側と支払われる側の双方の収入のバランスを基準にします。
したがって、相手の収入のほうが著しく高い場合、養育費の支払が免除されることがあります。
未婚で子供を認知していない場合
養育費の支払は、先にも述べたように子どもの扶養義務から生じるものです。
したがって、未婚で出産し、父親が子どもを認知していない場合には、法的には親子関係を証明できないため、父親にも扶養義務がなく養育費の支払い義務も発生しません。
だからといって、養育費を逃れるために認知をしない、ということはおすすめしません。父親からは任意で認知することが可能です。また、父親が認知しない場合、母親から認知調停や強制認知といった法的手続きがあります。
子どもの将来のためにも、父親である以上は認知することをおすすめします。
相手の同意がある場合
養育費の支払は、父母の協議により自由に取り決めることができます。
したがって、相手方が養育費の支払をしないことに同意していれば、養育費は支払わなくてよいことになります。
例えば、離婚の際に財産分与を多く受け取っていた場合、慰謝料を多く受け取っていた場合などには、養育費の支払を免除することがあります。
ただしその場合でも、子どもが親に対して養育費の支払いを求めることは可能です。
相手が再婚して子供と養子縁組になった場合
離婚して相手が再婚し、その再婚相手と子どもが養子縁組をした場合には、再婚相手に子どもの扶養義務が生じることになるため、養育費の支払いが免除されることがあります。
子供が成人した場合
養育費の支払期間は、基本的には子どもが成人するまでとされているため、子どもが成人すれば支払義務はありません。
ただし、「大学を卒業するまで」「就職するまで」など父母の間で離婚時に養育費の支払期間について取り決めがあれば、その期間が終了するまで支払義務は継続します。
成人年齢の引き下げについても、養育費の支払いに関しては引き続き20歳まで支払うのが原則とされています。
子供が就職した場合
子どもが成人に達しなくても、就職して自活できるようになれば、養育費の支払は免除されます。
例えば、高校卒業後に就職して給料を稼げるようになったら、たとえ20歳前であっても養育費の支払義務は消滅すると考えられています。
養育費の具体的な免除減額方法
養育費を支払わなくてよい場合について紹介しましたが、養育費の免除や減額はそのまま何もしなくてよいというわけではありません。
ここでは、養育費を支払えなくなった場合に、実際に養育費を減額免除するための手続き方法について紹介します。
養育費減額の相場を調べる
まずは、養育費の減額免除が可能であるのかを知るために、養育費減額の相場を調べることが重要です。
養育費の額は、離婚時に裁判所の養育費算定表に基づいて決められますが、減額できる金額についてもこの養育費算定表が参考になります。
基本的には、養育費を取り決めた時に比べて養育費支払者の収入が減ったなど、経済状況や生活状況に変化があった場合に、減額・免除が認められます。
インターネット上でも養育費計算ツールがあるので、参考までに利用してみるとよいでしょう。
内容証明郵便を送る
養育費の減額あるいは免除を相手方に請求する場合には、その内容を記載した内容証明郵便を相手方に郵送することをおすすめします。
内容証明郵便とは、差出人や相手方、書面の内容を郵便局が証明してくれる郵便です。内容証明郵便を送ることで相手方にプレッシャーを与えることもでき、また将来何かあったときに証拠にもなります。
ただし、内容や郵送方法に不備があると郵送できませんので注意してください。
当事者同士で話し合う
養育費の減額や免除には、何よりも相手方の合意が必要になるので、まずは当事者同士で話し合うことが重要になります。
減額や免除ですので、相手方がすんなりと合意してくれることは難しいでしょう。そのような場合には、弁護士を立てて交渉することをおすすめします。
話し合いがまとまった場合には、その内容を必ず書面にして公正証書にしておきましょう。将来もしもトラブルに発展したときに、公正証書は法的証拠とすることができます。
家庭裁判所に調停を申し立てる
当事者の話し合いで合意が得られない場合には、家庭裁判所に養育費減額請求調停の申立をします。
調停では、男女1名ずつの調停委員と裁判官が、別々に当事者双方の事情を聞いて、養育費の減額についての取り決めを行います。
調停で合意した内容は、調停調書に記載され、その後もしも支払がされない場合の債務名義となります。不払いの場合にはこの債務名義を元に強制執行の申立が行われることになるので十分に注意してください。
審判手続きで金額を決める
養育費減額請求調停で当事者双方の合意が得られない場合には、調停は不成立となり審判に移行することになります。
審判では裁判官が当事者双方の話を聞いて、予測できない事態の変更があったのか否か等を基準にして養育費の金額を決定することになります。
この審判に納得できない場合には、2週間以内に審判不服の申立を行うことができます。その後は高等裁判所で審判の再審理が行われることになります。
養育費を払えなくなったらどうすれば良い?
養育費が支払えなくなった場合には、できるだけ早い時期に対策をとることが重要です。
先に述べたように、養育費の支払を滞納していると、相手方から強制執行の申立をされたり、刑事罰などの思わぬペナルティを科せられることもあるからです。
養育費を払えなくなった場合の具体的な対応策は、以下の通りです。
養育費の減額をしてもらう
まずは、相手方に対して養育費の減額を希望すること、そしてその理由を真摯に説明して、合意を得られるように交渉することが何より重要です。
病気やリストラなど、不測の事態が生じてしまった場合にまで養育費の支払を続けることは、自分の生活まで脅かすことになりかねません。
誠意を持って、相手方に納得してもらうように努めることが大切です。
弁護士に相談する
養育費が支払えない場合には、できるだけ早い時期に弁護士に相談することをおすすめします。
養育費の未払い問題を弁護士に相談することで、その後の強制執行や刑事上のペナルティを科せられることを未然に防ぎ、法的な対応が可能となるからです。
まとめ
養育費の支払いは、子どもの成長に欠かすことのできない親の義務です。離婚しても、子どもとの親子関係は消滅するものではないため、原則として、支払義務も消滅することはありません。
しかし、養育費の長い支払期間の中で、不測の事態が発生し養育費の支払いが困難になった場合には、免除や減額が可能です。
離婚問題や養育費の減額免除の請求には、法的な専門知識を要する手続きが必要です。まずは、弁護士に相談してみることをおすすめします。